●Mercedes-Benz A-Class
「いかに格安でプレミアムブランドを所有するか」
今回はAクラスを中心に1シリーズ、昨年試乗したCT200hの感想も織り交ぜて
本来、軽自動車や大衆車が得意分野の私が背伸びして
プレミアムブランドのボトムエンドモデルについてレポートする。
ショールームにて
ヤナセのショールームへ。
出迎えてくれた営業マンと軽く挨拶を交わし店内へ。
展示車はA180ブルーエフィシエンシー スポーツ。
これは3種類ある中で真ん中の主力グレードである。
Aクラスのグレード構成はA180ブルーエフィシエンシー、
同スポーツ、A250シュポルトとなっている。
(以後、長いので並盛、大盛、特盛と表現する)
昨年、試乗したBクラスとの関連性を色濃く感じさせながらも、
そのエクステリアはぐっと低く、思い切り若々しい。
かつての燃料電池車のための意味不明な
サンドイッチパネルのAクラスが思い出せないほどの変貌を遂げている。
かつて勤務先の社有車が2代目のAクラスで、数回出張で使用したが
高速が少し得意なダメFitという印象であったので
MBにしてみれば「ようやくこれから」という感覚なのだろう。
細かく見ていくと、AクラスはLWHが4290×1780×1435と
1シリーズ(4335×1765×1440)やCT(4320×1765×1460)
と比較すると短く、幅広く、低い。
結果として
凝縮感があり、スポーティなプロポーションをしているといえる。
エクステリアは一目でベンツだとわかるが、
ライバル同様に鼻の長さを強調して
A3やゴルフ、さらにはMINIやDS3といった
CやBプレミアムとの格の違いを明確に打ち出している。
ヘッドライトは特盛はLEDの車幅灯つきのバイキセノンヘッドライト、
コンビランプもLEDがライン上に光る現代のトレンドをしっかり抑えている。
見た目に関して言えば、Aクラスは後発ゆえに
よく研究されており
ショールームアピールも抜群にいい。
一目でメルセデスとわかるフロントマスク、
CLSのような高めのベルトラインとアーチを描くDLO。
ああ、メルセデスなんだと庶民の私をびびらせるには十分な存在感がある。
中に座り込む。
ライバル同様にHPを下げてかつてのセダンのように低く座らせて
今までのHPの高い実用車との違いをはっきりと意識させるような造りだ。
AクラスのインパネはBクラスと共通の構成で表皮違い。
SLをモチーフにした丸型レジスターの周りを幾何学シボのソフトパッドで包んでいる。
CTはBMW風というかレクサス風の古典的な内装、
1シリーズは走りにお金を使いすぎたのか黒くて事務的な内装が少し寒々しい。
Aクラス
はそこそこ若々しく、素材もやわらかいものを選び高級感がある。
相変わらずポンと浮いたディスプレイはまったく調和していない点が気になるが、
シフトレバーを廃したすっきりしたセンターコンソールや
レッドステッチ入りの本革のドアトリムなどの加飾要素はさすがにセンスがいい。
シートはスポーツカーイメージのハイバックタイプで、後席も同じモチーフのデザイン。
広さとしてはCTや1シリーズとさほど変わりはない。
そもそもHPが低いのでヘッドクリアランスが不足することもなく、
実質的な空間としては不満は出ないだろう。
後席も同様で、見た目から想像するよりはしっかり座れるあたりがさすが。
ただし、広々感はない。
前席の
ハイバックシートがとんでもない圧迫感をもたらしており、
後席は少し薄暗いと感じるほどだ。
ライバルと比較すると、CTとは似たような閉塞感だが、
頭の納まりはCTに軍配が上がるし、窓が大きく光が入る1シリーズは
そもそも不利なFRであるにも関わらず意外なほどルーミー。
Aクラスはドライバーズカーとして前席と意匠を優先したのだろう。
アニメのPVを見て興味を抱き、フラーっと訪れたお客さんは
おそらくAクラスの圧倒的な商品性に驚くことだろう。
特に大盛はそういう見栄えに関する装備が一通りそろっているし、
若い(或いはヤングアットハートな)人が喜びそうな
スポーティな装備が魅力的だからだ。
ブレーキローターがドリルドタイプが着くというのは面白い。
AMGのアルミと相まってレーシーな足元を持っていてライバルには無い要素だ。
私はCTも1シリーズも乗ったが、
ショールームアピールはAクラスが一番だと感じた。
ただ、品質面でこの車を見ると
少しがっかりする印象がある。
バンパーと板金の合わせのクリアランスが均一ではないとか、
バックドアを開けた際のRrスポイラーの端末が汚い、とか
ドアサッシュモールが良く見ると意匠面なのに引けて
ハイライトがウニャウニャだったり、
一番ひどいのはドアベルトモールの前後の隙間をのぞくと
Frドア板金のアウターとインナーの接合部に穴が開いていて
モロに水が浸入する構造(数台確認したがどれも同じ)だったり、
国産車のクオリティと比べるとまだまだ一段落ちている。
そこまでディーラーで確認する神経質なお客さんが居るかどうかは疑問だが、
そういう部分に目が行き届くのは日本メーカーの、
あるいは私たち日本人の美点なのだと信じたい。
試乗コースにて
私が試乗したのは並盛のカーナビ、バリューパッケージつきのモデル。
ま、並盛にお新香と味噌汁がついたようなモデルと思えばいい。
赤いボデーカラーはかつての190Eを思い出す。
赤いメルセデスはカジュアルで好きだ。
最廉価のグレードなのだが、意外なほどがっかり感がない。
かつてのAクラスは素地色のモールとか樹脂フルホイールカバーなど
ちょっとがっかりする装備が目に付いたが、
今度のAクラスは
最下級を選んでもまったくがっかりしない。
プレミアムカーにとって、お客さんをがっかりさせずに
割高な車を買ってもらう努力は絶対に必要。
その意味でこの並盛の実力は高い。
ドアを開ければMercedes-Benzのロゴが光るスカッフプレートがお出迎えしてくれる。
シートを調整するが、
座面の高さと角度を同時に調整できる点が気に入った。
座面角度が調整できると太ももにシートの座面を正しく当てることが出来て
長距離移動時の疲労をぐっと減らしてくれるからだ。
これは個人的にライバルと比較して魅力的なアドバンテージだと感じた。
CTも1シリーズにも廉価グレードにはこの座面角度調整は付かない。
メルセデス特有の電子キーをひねり、エンジンをかける。
日本仕様は7速DCTしか設定が無いが、シフトレバーはステアリングコラム右側にある。
このレバーをちょこんと操作すれば前進/後進の切り替えができるのだ。
PKBは電子式となっていてスイッチ操作になるが、このあたりのインタフェースは慣れが必要。
オーナーなら1日あれば慣れるだろう。
じわじわコースを走ると、
いたってフツーな感触が持ち味なのだと理解した。
エンジンはBクラスと共通の1600cc直噴ターボ(122ps/20.4kgm)。
Bクラスでよく指摘されていた出足の悪さはスロットル特性の変更で克服。
グッと出る特性になり
名古屋の皆さんもこれで許してくれるだろう。
Aクラスの性格を考えると出足がグッと出たほうが喜ばれることと思うが、
ファミリーカーとしてのBクラスはあのままがいいと個人的には考える。
A180という車名からも分かるとおり、1600ccながら1800cc程度の実力を謳っている。
絶対的な加速感という意味では1800ccはギリギリかなぁと言う印象。
坂道を元気に走らせるにはそれなりのアクセル開度が必要で
スポーティな走りは期待しないほうがいい。
同等のエンジンながら、
1600cc級を名乗る1シリーズ(136ps/22.4kgm)の方が動力性能は高い。
決してAクラスが劣っているわけではなく1シリーズが良すぎるのだ。
1シリーズとしては116の上に120があるので、116の出力は抑えられているが
それでもA180よりもずいぶんとパワフルに感じさせる。
CTは通常走行なら悪くないが、負荷をかけるとCVT特有のフィーリングが好みではなかった。
もし、A180の動力性能に不満があるとなると
一気に2000cc直噴ターボ(211ps/35.7kgm)のA250シュポルトという特盛モデルになってしまう。
本国にはA200があるが、おそらくエコカー減税のことを考えて導入しなかったのだろう。
ちなみに同じ180を名乗るがCクラス用には1800ccターボが用意され、格の違いがあるようだ。
今やそれ抜きにしては語れない燃費はJC08モードで15.9km/L。
116と120は16.4km/L。CTハイブリッド化で最廉価グレードは30.4km/L、
その他グレードは26.6km/Lと他の追随を許さない。
燃費という意味ではアイドリングストップも備えており、
高速道路を淡々と走らせるシチュエーションなら
Aクラスと1シリーズはさほど変わらないものになると予想する。
DCTはクリープでもギクシャクすることなく
ズバッとシフトチェンジを終えてくれる。
特筆すべきは
パドルシフトが全車標準で選べることである。
素晴らしい走りを見せてくれる1シリーズだが、
8速のパドルシフトは最上級のM135iにしか付かない。
CTも最廉価グレードには付かない(Ver.C以上は6段擬似)。
これはAクラスの特異なコラムシフトのためで、
法律上必要な手動シフトダウンが難しいための仕方なし装備なのだが、
結果としてライバルに差をつけることとなった。
パドルシフトと比べて便利なのがブレーキのHOLD機構で、
信号待ちなどで停止した際に、ブレーキを強く踏み込めばホールドされる。
スロットルを踏み込めば自動で解除されて慣れると非常に便利だ。
特に、アイドルストップ機構が作動するようなシチュエーションで
ブレーキを離すと再始動する車が多い中、Aクラスならリラックスして
アイドルストップを楽しめる。
総じてAクラスは一般的な国産車と比べれば
ブレーキが良く効き、足回りは堅めの印象になる。
運転が楽しくなるように電子制御や
パフォーマンスダンパーで味付けを工夫したのがCTで、
頑固なまでにFRを守り通してBMW、
或いは本物の高級車の走りを味わうことができる1シリーズと
比べると、よく出来たFF車という印象になってしまう。
パッと見たところ似たようなキャラクターの3車だが乗り比べると面白い事に
各社の思想の違いが良く分かり非常に気持ちのいい試乗だった。
お勧めは並盛で間違いなし!
Aクラスのベストバイをカタログを睨みながら考えた。
結論は並盛ことA180ブルーエフィシエンシー(284万円)だ。
A180スポーツ(335.5万円)は確かに素晴らしい。
AMGのアルミやドリルドローター、本革シートやバイキセノンやらLEDコンビランプやら
レッドステッチのトリムやら装備面でグッと魅力的だ。
恐らくメーカー側が一番売りたいと思っているグレードはこれになるはずだ。
しかし51.5万円分の装備さは大きすぎる。
細かくカタログを読みきっていないが、並盛でスポーツに最大限近づけると、
バリューパック(20万円)
ディーラーオプションのスポーツペダルカバー(0.84万円)
用品のAMGの本革ステアリング(8.4万円)
ブレーキキット(Cクラスの用品価格から類推して8.4万円)
ライン装着のホイールのインチアップ(ナイトパッケージから類推して4万円)
(注)実情と乖離するので8.9万円/本の用品価格は無視した。
⇒計41.64万円(電卓を叩き間違えてなければ)
外装部品とスポーツサスペンション、シート表皮のグレードアップ、
ドアトリムの色違い、フロアマットで9.86万円ということになる。
スポーツサスペンションは後付できないし、並盛に対してこれだけの装備が必要というなら
最初から装着されているスポーツを購入するのが合理的に映る。
メーカーサイドからしてみれば色違いはさほど原価を押し上げないから、
実際は
大盛は相当儲かる仕様と推測する。
しかし、先にも指摘したように
A180の走りはさほどエキサイティングな方ではない。
世間のイメージ同様にダイナミックなBMW、エレガントなメルセデスという構図は
Aクラスと1シリーズとの比較でも成立していたことを思い出すと、
あんまりスポーティな装いのAクラスを選んでしまうとがっかりしてしまう。
やはりA250シュポルト並の動力性能を得て、
初めてあの外観を纏うことがふさわしいと私は考える。
だからこそ、変に肩肘張らずにスポーティかつカジュアルな
A180ブルーエフィシエンシー(284万円)がベストバリューモデルだと判断した。
また、カーナビは20万円だが、標準のディスプレイが有効活用できるので私は選びたい。
さらに上級モデルと同じバイキセノンやLEDのコンビランプを選ぶには
20万円のバリューパックを選ぶ必要がある。しかしこの
バリューパックが曲者だ。
ヘッドライトとリアコンビランプだけ変えてくれればいいのに、
駐車支援装置やリアカップホルダーやアームレストなどといった余計なアクセサリーが付く。
特に後席を重視しないこの手の車にはリアカップホルダーやアームレストは無くてもかまわない。
CTの場合、LEDヘッドライト+ヘッドランプウォッシャーが10万円のオプションなので
リアコンビも合わせて20万円というのは分からないでもないが、これが非常に悩みどころだ。
もう一点、セーフティパッケージ(17万円)というオプションがある。
いま旬のレーダークルーズコントロールやBSM(ブラインドスポットモニター)、
プレセーフ(衝突のリスク軽減デバイス)が付く。
いまどき、VWの最廉価車ですら標準で軽ですら5万円で付けられる
装備が17万円の抱き合わせというのが安全を是とするメルセデスらしくなく残念。
もし私が2013年に新車を買うなら選ぶと思うのでこれは装着を前提とする。
他にメタリックペイント(6.3万円)とフロアマット(2.7万円)と
ボディ+ホイールコート(5.2万円)を注文すると、
ざっくり諸費用込みで
371万円。
バリューパックを諦めれば
351万円。
エコカー減税対象車というのも非常に有利と言える。
総額でこれくらいなら共働きの夫婦の頑張りで十分射程圏内。
独身20代だと相当に生活を切り詰めないと難しいと思われる。
ちなみに、何にも付けない素の並盛は諸費用
299万円で買えてしまう。
これに市販品のマットを敷いておけば格安でメルセデスオーナーに。
どれくらい安いか支払い総額を比較すると、
一般的なミニバンである
エスティマXグレードとおんなじくらいの総支払額。
輸入車で比較すると、ゴルフのモデル末期特別仕様車マイスターエディションと
ほぼ並んだ。
1シリーズはスタート価格が308万円、
CTも最廉価は見栄えも良くない上に355万円なので
Aクラス並盛の方が圧倒的にお買い得と言えそう。
実際に売れるのはスポーツのナイトパッケージあたりだと思われるが、
それだと確実に400万円を超えてくる。
これこそが
メーカーの狙いなのだろうけど、
車両のキャラクターを考えて並で十分だと判断する。
ちなみに、BMW1シリーズは乗り味が非常に魅力的で、
ついついダイナミックな外観を選びたくなるのでMスポーツを選びたくなるが、
とんでもない価格になるのでなんだか諦めが付く(笑)
CTは圧倒的な品質の良さと燃費とトヨタらしからぬキビキビ感は魅力だが価格が高い。
1シリーズは比類なき走行性能は素晴らしいものの、
内装があまりにゲルマン的で寂しく価格も高い。
そう考えると最後発の
Aクラスは価格はVWゴルフと並ぶほど安い上に、
最廉価グレードを買ってもそこまでがっかりしない点がこの車の持ち味だと思う。