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2021年01月23日 イイね!

1996年式イプサムL-Selection"EX"仕様感想文

1996年式イプサムL-Selection"EX"仕様感想文●要旨
初代イプサムは小型セダンベースでウォークスルーが可能な3列7人乗りミニバン。3列目を畳めば広大なキャビンと荷室を持つ。走りはセダン的な世界観をイメージ。動力性能は十分だが操安、制動は許容ギリギリ。楽しいデザインと秀逸なパッケージングで4人家族の生活にマッチする実用性とバランス感覚こそが初代イプサムの優れた持ち味だ。

●トヨタ初のセダンベースミニバン
セダンをベースにしたステーションワゴンを発展させて、3列シートを備えたセダンライクなミニバンというジャンルの歴史は古い。わが国では1982年の日産プレーリー、1983年の三菱シャリオがパイオニアだ。当時のミニバンはあくまでもニッチ商品的な扱いであり、「そんなにセダンがいいならセダンに乗れよ」「6人以上乗るなら1BOXがあるじゃないか」という意見が多数を占めていた。

バブル崩壊後、日本人たちの暮らし方が大きく変わった。セダンが主だったファミリーカー市場の中にRV車が目立ち始めた。クロカンやステーションワゴン、8人フル乗車可能なミニバンが選択肢として増えていく中で、1994年のホンダオデッセイがセダンライクなミニバンとして会心のヒット作となった。

オデッセイについては別ブログで取り上げているが、当時のホンダが未経験のミニバンに挑戦する際に、手持ちの技術、要件内で騙し騙し成立させ、それが見事に当時のニーズにうまく合致した例だ。オデッセイ以降、他社がうらやむヒット作を次々に飛ばしていく。

トヨタには他社がヒット作を出すと、それを看過しない伝統がある。ヒット作のエッセンスを研究し、それを凌ぐモデルを開発して競合メーカーを駆逐するサイクルが出来上がっていた。(最近は競合に負けていても押し切る例も散見されるが・・・・)オデッセイに対抗しうる商品としてスクープ雑誌にその存在が報道され、「トヨタ版オデッセイ」と揶揄されながら1996年5月、イプサムが発売された。



事実上コロナプレミオをベースにした3列7人乗りを実現できる最小限単位のミニバンである。あるときはセダン、あるときはステーションワゴン、あるときはワンボックスワゴン。カタログでこのように訴求されているが、言いたい事はよく分かるし、特にセダンから乗り換えて違和感が無いように徹底した配慮が織り込まれている。

今回、数週間に亘りばりけろさんの1996年式イプサムLセレクションEX仕様(FF)をお借りした。ご親切にも毎年荷物が多い我が家の年末年始を心配して下さったからだ。

イプサムのボディサイズは
全長4530mm 全幅1695mm 全高1620mm 軸距2735mm。
コロナプレミオと比較すると、
全長-10mm 全幅±0mm 全高+210mm 軸距+155mmと
軸距と全高が拡大されて、全長全幅はベース相当という体格が与えられている。



最大のライバル、オデッセイと比較すれば
全長-220mm 全幅-75mm 全高-70mm 軸距-95mmと一クラス小さい。
当時は今以上に5ナンバーサイズへの要望が強く、3ナンバーサイズが許容できるかどうかでどちらに流れるかが明確だった。

当時のミニバンは商用車ベースの後輪駆動車にお化粧を施し、旧来の1BOX的価値観を引きずったモデルが多く、セダンを意識したといってもセミキャブ化でドラポジを改善したり、コンソール周辺をかさ上げしてセダン的な包まれ感を強調する手法に留まった。現代では常識となったFFのキャブワゴンの先駆けとなる初代ステップWGNはようやく発売されたばかりという時代であった。

セダンを保有しながら、上記ミニバンに移行しなかったファミリー層は、ミニバン化でスポイルされる諸性能が譲れなかったのではないか。例えば、走行性能や適度な包まれ感、スマートなスタイリングなどが挙げられるがイプサムはその全てが研究されていた。

1996年当時、我が家ではバネットセレナを愛用しており、イプサムは小さすぎる車だと考えていた。約25年後の2021年、イプサムと共に生活をしてみると、セダンやハッチバックよりも明らかにスペースに余裕がありミニバンの世界が味わえる。一方で、キャブワゴンと較べるとはるかにスタイリッシュで動力性能や操縦安定性は一線を画す。悪く言えばどっちつかずの中途半端な商品だが、当時のセダン乗り換え用の入門用ミニバンとしてはいい塩梅に調整されていると感じられた。

常に3列目を常用する使い方では2、3列目の足元スペースはギリギリで荷物も軽セダンレベルしか載らない。しかし、3列目を畳んでしまえば、高さを活かしてステーションワゴンを超える積載性とセルシオを超えるRr席の広さが手に入る。4人家族の普段使いなら十分以上のミニバン生活が楽しめた。

「走れ、家族の季節。」というキャッチコピーと大人気となったキャラクター「イプー」、そして明るいグリーンメタリックのイプサムが真っ青な青空の中に浮かぶ広告で親、子供のハートを狙い打ち。効果的に後発組のイプサムの認知度を上げていき、トヨタの目論見どおり街でよく見かけるクルマとなった。



中学の同級生の家にも、住んでいたマンションの駐車場にもイプサムがあったし、連休の高速道路では荷物を満載して走るイプサムをたくさん追い越したものだ。

●エクステリア-巧みなスポーティ感で鈍重さを払拭



初代イプサムのエクステリアは、メッキパーツの無い控えめな加飾にバブル崩壊後の質感低下を感じさせつつもRVブームにうまく乗ったポップな意匠に救われてトータルでスポーティで楽しさが感じられる。



フロントマスクは丸目4灯風のスモーク処理が施されたヘッドライトとボディ同色のグリルがさり気なくスポーティな雰囲気を醸し出している。攻撃的な眼差しやメッキ、大開口(実際は穴埋めだらけだが)で相手を威圧しない上品なフロントマスクだ。



サイドビューはDピラーを後傾させた特徴的な8ライト?ウィンドゥが目を引く。Aピラーが現代の目で見ると後方にあり三角窓を持っていない。これは単純にコロナプレミオと共通したエンコパの影響だが鼻筋がしっかり通っており、当時としてはクラッシャブルゾーンを強調して安心感のアピールにも一役買っている。イプサムはバンパー、フェンダー下、ドア下のサッコプレートを銀色に塗ることで擬似的にツートンカラーを実現している。つまりホワイトボディは単色塗装のため、コスト的に有利なのである。またバンパーは全色共通なので生産時に色替も不要で大変賢い方法を採用していた。この効果でアッパーボディーが薄く見え、全高1620mmと大柄でありながらセダンライクに見せる演出に一役買っている。擬似ツートン以外にも、ロッカーをブラックアウトしたり、錯視効果を使って低くスマートに見せるテクニックを用いている。



クオーター部分は特にイプサムらしい個性がある。ベースとなったコロナプレミオと較べればホイールベースが長くキャビンが大きい。当初、3列シートのミニバンとしては常識的だった3列平等なエクステリアで開発が進んできた。すべて本に残された当時のクレイモデルでは「いかにもありがち」なデザイン案が掲載されていたが、極めて事務的なデザインでケレン味が無く、質実剛健さは感じてもミニバンを持つ楽しさを訴求できるものにはなっておらず、個人的には最終案がベストだと今でも確信している。



ポイントは3列目の開放感を少々スポイルするかもしれないが、思い切って勢いのあるライン(ピラー?)を引いたことだ。ミニバン特有のRrオーバーハングが重たく見える弱点を克服している。こんなウィンドゥグラフィックでは斜め後の後方視界が悪いのでは?と疑いたくなるが、実際に確認した結果、ピラーがちょうど良い位置にあるため視界の妨げにならないとはっきり断言できる。



ホイールサイズは14インチと当時の同クラスのミニバンとしては標準的だが、特にRrホイールハウスはチェーンを巻かないこともありホイールアーチが小さい。イプサムの場合クオーターにレリーフを入れたり、Dピラーを後傾させてRrを軽く見せている。この処理により、イプサムは14インチを履き、全高が1620mmもありながらも、ちっともミニバンらしい重さを感じさせない。



Rrビューはバックドアにも回り込んだ横長のRrコンビランプが競合車との最大の違いだ。ミニバンというよりステーションワゴンのようなボリュームに感じるのはRrローディングハイトが高いからである。バックドア見切りが競合に対して上にあるため、ボディを薄く見せることが出来るのだ。現代でもレクサスRXが同様の錯視効果を活用している。

イプサムの最大の魅力はエクステリアであると私は思う。ミニバン的ないかにも人が乗れそうというものではなく、セダン的な軽快さをもち、ディテールは若々しい。

●インテリア-価格破壊時代真っ盛りのカチカチインパネ

イプサムの内装はセダンを相当意識しつつも、ミニバンの必須機能だったウォークスルーを実現するコラムシフトとT字を描くI/Pが新時代を意識させつつ、落ち着いたムーンミストの内装色など90年代トヨタらしいテイストでまとめられている。ウォークスルーこそが当時のミニバンの定義の一つだったので、コラムシフトの採用と合わせて当時のミニバンのアイコンの一つであった。



運転席に座る際、ヒールヒップ段差360mm、地面から660mmという絶妙な高さのシートポジションは乗降時にセダンよりも腰の負担が無く、キャブオーナーミニバンの様にステップに足をかけてよじ登る事も無い。すっとお尻を置けば着座できてしまう心地よいものだ。シートはクッションがソフトでサイドサポートも見た目ほど堅くないので包み込むように身体にフィットした。

視界に映る樹脂丸出しのカチカチインパネは当時も驚かれたことだろう。中心価格帯が200万円を超えるのに、これは質感不足の指摘を受けかねないのだが当時のRV車は商用車をルーツに持つ車も少なく無いため、なし崩し的に許容されてきた。

インパネはT字をテーマにした軽快感のある意匠だ。助手席側は広々感を、センタークラスターは高さを活かした余裕ある配置(ナビがまだ小さい)を行い運転席側はコロナプレミオ流用の電気式スピードメーターが置かれている。ステアリングはカムリ系と共通意匠でウレタンのみの設定だ。ウォークスルーの採用もトピックだが、その分センターコンソールがない事分をインパネトレーで補っている。

当時らしくシート生地にはモケットが奢られている。現代では上級モデルでもすっかり無くなってしまったが、触感が良い。このモケット生地がドアトリムのショルダー部にまで拡大されていて現代車のカチカチドアトリムに慣れた私には一転して高級感を感じさせた。その柄もステンドグラスのような分割パターンに濃淡の異なる青色が染められてあたかも金属組織を顕微鏡で覗いたかのようだ。

試乗車は用品フロアマットが装着されているが何とCMキャラクターのイプーを前面に押し出しており、借りたときは思わず純正?と聞いてしまったほどだ。このような貴重なフロアマットを靴で踏むなんて畏れ多いと感じた。あたかも1996年の踏み絵である。





●走行性能―見事なセダンとミニバンの融合

家族の季節を走れ、と言われた気がしたので、家族を載せてツーリングに出かけることとする。年末年始なので降雪が心配されたが、BS社製スタッドレスが装着されてバッチリ冬支度対応済である。



絶妙な高さに位置する運転席に座りドラポジを調整するのだが、コロナクラスの車格を考えると常識ともいえる運転席のハイトアジャスターと チルトステアリングが全車未装備であった。RAV4にはチルトステアリングが備わるが、イプサムはコラムシフトとの関係ゆえか固定式である。(後期型からチルトステアリング装備)

シート座面からステアリング下端のスペースを確保するためかステアリングコラムはセダンと比べて明らかに立ち気味である。これは高めのヒップポイントとセダン系のエンコパに引きずられて、ステアリング角度で辻褄を合わせざるを得なかったのではないかと考えられる。私の体格ではドラポジがぴったり合うのだが、身長175cm以上の方はステアリングとメーターが被ってしまう懸念もある。



それでも当時のフルキャブオーバー式1BOXのドラポジと比べると、ステアリング角度が寝ており、手足を前に投げ出し、低く座れるためキャビンの適度な包まれ感も手伝って明らかに従来型ミニバンとは異なる。一方でセダンから乗り換えても違和感を感じさせずに、セダンより150mm高い視点によるアップライトな運転姿勢や大きなガラスによる解放感、セダン感覚のミニバンというコンセプトには嘘はない。とにかく660mmのヒップポイントは絶妙な位置関係で運転開始後には慣れて心地よさだけが楽しめるはずだ。

135ps/6000rpm、18.5kgm/4000rpmの3S-FEが目を覚ます。1986年にデビューし、当時としては画期的なペントルーフ型燃焼室をもった高効率16バルブDOHCエンジンを大衆化したパイオニアとして重要なエンジンである。



登場から10年を経てセダン系に加え、RAV4やライトエースノアなどにも搭載され、イプサム登場時には少々使い古された感もあるが、商用車系ではない乗用車系のパワーユニットが選ばれている点もセダン派生のミニバンらしい選択だった。

腕力がいるコラムシフトを手前に引きながらDレンジを選択。PKBは運転席横のFRフロアからレバーが生えていた。足踏み式やステッキ式の方がウォークスルーには適しているが、コンベンショナルなレバー式を採用することも、セダンらしさの主張といえばそう受け取れる。小型車枠に収める制約があるため、パーキングレバーに足が当たってしまい、意図せずパーキングブレーキが解除されてしまうリスクに対応して2操作式解除機構を採用。つまりボタンを押しただけでなく明確にレバーが引き上げられないとパーキングブレーキが解除できないように配慮されている。

走り出しはスムースで市街地走行でもリラックスできる。4人乗車と荷物を載せた状態だと俊敏とも言えないが、周囲の流れを十分リードできる出足の良さを誇る。当時らしいルーズなトルコンを駆使して2000rpm付近にタコメーターの針を保ちながら加速をすると、あっという間に60km/hに達する。郊外の国道で多用する65km/h以上で4速(O/D)ロックアップ状態となるが、それ以下で走ることの多い都市部や市街地走行では4速のままルーズに走らせるのが当時のお作法だ。



動力性能は余裕があるが、ブレーキには注文を付けたい。サーボがよく効いた軽いペダルタッチだが奥まで踏み込まないと減速Gが立ち上がらない。エア噛みの可能性も考えたが、昔両親が乗っていたライトエースノアでも同じように強めに制動をかける必要があり、当時のセッティングがそうなっていたのだろう。



また、交差点を右左折する際に、ステアリングのフィーリングにフワフワした感触を感じた。何となく舵角が多めで普段より多く回さないと角が曲がれない気がする。資料を確認したが、ロックtoロックの回転数はコロナプレミオとほぼ同一でギア比が特別スローなわけではない。ただニュートラル付近の切り始め領域でリニア感が不足しており、操舵初期に反応が返ってこないので過度にステアリングを早く、たくさん切ってしまうのだ。エイヤと切ると反応がワンテンポ遅れて動き出す。我慢してジワーっとゆっくり操作すればイプサムはキチンと反応を見せてくれるのだが、ロングホイールベースの影響とチューニングの問題と考えられ、イプサムとしては異例なほどセダン感覚とは異なるものだった。あと少し反応が良いほうが市街地運転での扱い易さに貢献するはずだ。競合と違い、小型車サイズで操作力が小さいステアリングやブレーキは女性ドライバーを特に意識しているように感じる。

●ワインディング路はちょっと苦手か?
私がいつも持ち込むワインディング路でもイプサムは十分な動力性能を発揮する。登降坂制御がうまく作動しなかったが、O/DスイッチをOFFにしておけば大衆セダンを凌ぐ動力性能を発揮してくれる。3S-FEは穏やかな特性であり、2500rpm~3000rpmも回しておけば十分なトルクが発揮されるからルーズなトルコンでも加速のレスポンスがよくドライバビリティが良い。一方で、スタッドレスタイヤであることを差し引いても前述の通りコーナリングでのステアリング操作が多く、忙しくと操舵を繰り返すため、イプサムはセダン感覚でありながら、見た目ほどスポーティな性格はほとんどない。走りなれたワインディングなのでコーナーを意識して予めじわっと予備的にステアリングを操舵してかまえるのでラインがずれることは無い。

イプサムの為に新開発されたRrトーションビーム式サスペンションは原理的にはコーナリング時の横力であたかも4WSの逆位相の様に動いてしまい、ドライバーの意図よりも曲がりすぎてしまう悪癖が課題となっていたが、イプサムの場合、むしろそのような危険を感じさせずに安定方向に徹底している点はワインディングでのキビキビ感不足よりも大切なことだと私は考える。



例えば、コースが分からない初めて走るようなワインディングでこれ以上ペースを上げてしまうと、家族からのクレームが来てしまうだろう。セダンとの比較なら、ワインディングは苦手と書かざるを得ないが、キャブオーバー型1BOX(エスティマは別格として)と比べれば遥かにセダンライクに走れる。イプサムはあくまでも家族とドライブを楽しむ領域内でセッティングされているのだ。

●サマータイヤ装着車に追加試乗
別日にオーナー氏の計らいでもう一台、サマータイヤを履いたイプサムを運転させていただいた。(3名乗車積載なし)年式とグレードは同じだがボディカラーが異なる。最大の違いは走行距離が4万km台でグッドイヤーの純正サイズ(195/65R14)のサマータイヤを履いている事だ。



走り出してすぐサマータイヤらしくタイヤからゴーという音が入ってきた。静かさはスタッドレスが優れる。確認のためワインディング路を走らせたが、印象が大きく好転した。切りはじめから印象が異なり、操舵に対してマイルドだが確実にステアリングインフォメーションがある。右へ左へステアリングを切っても鼻先が追従するのはありがたい。ブレーキフィールも踏み始めで一定の反動を返すので、安心感が段違いだ。これがイプサム本来のセッティングなのだろう。

●高速道路では水を得た魚
高速道路を走らせた。ETCゲートから本線に合流する際、特にキックダウンに頼らなくても2000rpm+αの回転数を保ったままジェントルに合流が可能だ。

タコメーターは80km/hで2000rpm弱、100km/hで2400rpm、120km/hで2800rpm強を指示。私の実家で愛用していたライトエースノアと同じギア比の設定であった。当時のセダン系では100km/hで2000rpmを切るモデルもあり、車重を意識して少々ローギアードだがそれでも大衆セダン系に準じた設定は満足できる。2000ccの排気量と低い車高(空気抵抗が小さい)を生かして十分な巡航速度を維持できるが、6%の登坂路ではO/Dのロックアップ状態100km/hを維持するのが精一杯。少し踏み込むとロックアップを外して対応する。



ステアリングフィールはワインディングでは鈍重に感じても、高速コーナリングでは鈍感さがどっしりとした安心感に変わるのが面白い。ちなみに市街地で弱いと感じたブレーキそのものは変わらないが一般的な走行での減速はアクセルオフで十分速度が落ちるのでブレーキの非力さは逆に気にならなかった。



高速道路では実にゆったりした気持ちでドライブを楽しむことができる。イプサムをはじめとするセダン系ミニバンのミソはロングホイールベースであり、操作に対して緩慢な舵の利きもいい方向に作用しては高速道路では横風に進路を乱されにくい矢のような直進性を持っている。だから、高速道路で状況が良いと
ついつい追越車線をかっ飛んでしまいたくなるが、ブレーキがプアなので自制心が必要になる。

●長期連休中の高速道路が最も輝けるステージ

イプサムが最も輝ける場所は帰省・レジャーシーンにおける高速道路の長距離運転だと実感できた。明らかに背の高いミニバンやホイールベースが短く見晴らしの悪いセダンよりも有利になる。乗り味に強い癖がないので、疲労が少なくゆったりと運転でき、数時間の長距離ドライブを行っても運転者、同乗者を含めても長距離運転後の余暇活動に体力が温存できる。

通勤の為一人でイプサムを運転したが、軽くなった分動力性能に余裕が出るため、信号ダッシュや高速走行でも決してミニバンを感じさせない。加えて、過去にお借りした初代ステップWGNの際に感じた「空気の塊を運んでいる感じ」が相当軽減されていることにも気づいた。これも車高の低さとトノカバーの好影響が出ていると考えている。家族で乗っているときより一人の方がイプサムのセダンらしさをより味わえる。

イプサムの走行性能を総括すれば、セダンの良さを残しているが、それよりもロングホイールベースがもたらす穏健な特性が楽しめた。市街地走行ではサイズ的に持て余さず、ワインディングでも危険な挙動はない。高速道路では最もイプサムの魅力を際立たせた。運転を趣味とする人はつまらないと言う人もいるかも知れない。(かく言う私も運転中とても眠くなったが)しかし運転の車ではなく、家族と移動をするための道具として考えれば、とても目的に合った好ましい走行性能を持っていると言える。

●ロングホイールベースが実現するソフトな乗り心地

すでに触れたようにイプサムはセダンと比べるとロングホイールベースである。これは居住性以上に乗り心地に好影響を与えている。うねりが出たり、補修でパッチワークのようになった舗装悪路も目線が動かされず、今となっては小径かつ軽量な14インチホイールが動いてショックを乗員に伝えずに通過できる。

ただし、調子に乗って高い速度で段差に突っ込んだり、コーナリング中に段差に遭遇するとガツンと底付きしてしまうので注意が必要だ。これはサマータイヤ仕様も同じだったのでセダン流用のサスのストロークが車重とバネレートに対して不足しているのかもしれない。(RAV4の美点をここで実感)急がず、普通に走っている限り乗り心地はピカイチのソフトさだが、特にピッチング(前後方向)の揺れが少なくふんわりした乗り心地は高級セダンのようだ。



形式はFrにマクファーソン式ストラット、Rrにトーションビーム式が採用されており、前後ともにコイルサスの乗り心地が楽しめる。構造的には強度を保つため車体側の取付ブッシュを固くせざるを得ないRrトーションビーム式サスペンションだが、その構造的な悪さを一切感じさせないのはさすだ。

このリアサスは1997年のプリウスから名前が付いた「イータビーム」と同構造である。つまりクロスビーム(横方向の梁)が車軸と取り付け軸の間に位置して上から見るとη(すなわりH)に見えるトーションビーム式サスペンションである。リンク類が廃止できる低コストな構造かつスペース効率が高く、燃料タンクの配置性、荷室やキャビンの拡大に貢献している。5ナンバーの車幅でありながら3列目の2名乗車を実現したのはこのサスペンションのお陰である。現代では常識ともなったRrサス形式をトヨタで最初に採用したのがイプサムなのである。

乗り心地に大きく影響する静粛性もファミリーカーらしく高水準だ。3S-FEは必ずしも静かなエンジンではないのだが、低速トルクが厚いためそこまで回転数を上げる必要がない。ダッシュアウターサイレンサーもフードインシュレーターも無いが、3000rpm以下であればエンジンからの音は意外なほど気にならない。旧時代のATなので走行時に常用する回転数が高く、こもる感じも特に無かった。高速道路では風切り音も聞こえてくるが試乗車はドアバイザーも未装着で風切り音的には好都合であった。

●ミニバンの世界が楽しめる居住性
イプサムの居住性と積載性は重要な性能である。特にセダンライクと言えども居住性に関してはミニバンの持つ世界観を気軽かつ明確に楽しめるようになっている。

1列目は既に述べた通り絶妙な着座ポイントにより大変乗降性が良く、座った後もアップライトな姿勢が取れる。コンパクトカーだと、後席で足をバタ付かせる子供の足が運転席のシートバックに当たったり、後向き装着のCRSによって助手席のリクライニング角度が規制されて寛げないケースがある。



イプサムなら2列目が遥か後方に位置するため、まず1列目は快適である。サンルーフ付きの為、ヘッドクリアランスは拳1つ分。サンバイザーが取り付くヘッダーとの隙が狭いが、セダン並みの感覚を維持している。

2列目はミニバンの玉座とも言えるポジションだ。イプサムはその2列目シートが345mmもロングスライドする。3列目使用時、乗降時は前にスライドするが、その状態でもカローラ級の膝前スペースを確保。



フロアの高さは前席より明らかにか上げされていることが、丁度Rrドアを開けて乗降する時にロッカーとフロアがフラットに連続していることからも分かる。上の子(3歳)がかなり乗降し易そうに見えた。



3列目を常用しない使用状況だと2列目はロングスライドを使って後方へ置いたほうがチャイルドシートに座る子供の乗せ降ろしもし易く、ちょっとした手荷物も足元スペースに投げ込めて便利である。

ロングスライド機構を操作する場合、一度FM(フロントモースト)から285mmの地点でストップする機能がある。3列目に座る乗員の足を挟まない為のトヨタらしい細やかな配慮といえよう。



3列目未使用時に通常のスライドレバーに加え、シート座面中央のレバー操作でセルシオ並みのレッグスペースが手に入る。また、シートベルトにチャイルドシート固定機構が備わるので楽々二人分のCRSを取付可能だから2列目を最後端位置にスライドしてそこに子供を乗せておくのが最も便利に使えるシチュエーションである。後席用の電動スライドムーンルーフを開けてあげれば大喜びだ。



一方で大人が座るときは注意が必要だ。標準的な位置で座った場合、フロアが高くなってる割にヒップポイントの上昇分が小さくて、太ももが浮いてしまい、セダンよりも体育座りの様になる。



本当はもっとヒップポイントを上げたいが、そうすると、「シアターフロア」を売りにするために3列目は更にヒップポイントを上げざるを得ず、イプサムの優れたエクステリアデザインが損なわれてしまうから、こうする他ないのであろう。試乗車のLセレクションEX仕様車に標準装備のツインムーンルーフの為に天井高が下がって50mm損をしているのが少々残念に思う部分だが、現状でも拳1個分をキチンと確保している。



シートスライドを例の285mm地点で止めると、レッグスペースが十分広い上に、足を引いた際にもFrフロアとCTRフロアを繋ぐ段差(燃料タンクがあるので段差が不可避)よりも前にあるので足引き性が良好だ。シート座面も現行の軽ハイトワゴンや類似の普通車の様に過剰に長過ぎないので気持ちよく座れて、この点を評価したい。セルシオ並とアピールされる345mmスライドの場合は段差が踵に接触する位置関係なので自分が座るなら285mm位置の方が良い。

ただ、残念なことに、この位置でシートベルトを着用した場合、肩ベルトが乗員の方から離れてしまう。首にかかることは無いが、万が一の際に拘束が遅れてしまうため、安全性の面で肩ベルトが浮くことは好ましくない。



シートベルトアンカーは首にかからない範囲でなるべく上に配置したいが、イプサムの場合、Cピラーに角度が付いているから上部へ行くほどアンカーが前へ寄ってしまう。その為下にに置こうとすると、体格が良い人が座った際に不都合がある。イプサムの場合、ロングスライドの存在がベルトとの関係を難しくしている。(アンカー位置に対してヒップポイントの関係が後方にありすぎる)後席シートベルトが軽く見られていた過去とは違い、現代のわが国では直接シートベルトを着用する大人が座る場合は、快適性が許す範囲でシートスライドを前にしておくことを推奨したい。ちなみに現代でロングスライドする車種の場合は、シート付けリトラクタを採用して対応している。

3列目だが、イプサム以降のミニバンに触れてきた者としてはどうせお飾りに過ぎない出来栄えのシートだと考えていた。ところがイプサムはよい方向で想像を裏切ってくれた。畳む為の粗末なシートかと思いきや、座面も背もたれも立派な分厚さを有しており、寸法的にもギリギリ実用に耐えうるサイズになっている。



2列目シート位置は285mmの位置にしていても、短足の私の脚は十分収まった。ールヒップ段差も2列目レベル以上には確保できていて意外と脚が納まるのだ。更にヘッドクリアランスも2列目並に拳1個分を確保していて3列目を割り切るといいながら割り切りすぎていない真面目さを感じた。



裏を返せば、どこまで割り切れば良いのか判断できずに悩みながら寸法を決めたいう感じなのだろう。妻の運転で3列目に座ったが、ちゃんとシアターフロアのお陰で見晴らしも良く、意匠の為に2分割されたクオーターウインドゥもさほど閉塞感を生まずに、ちゃんとフル7シーターの使い心地だ。確かにライトエースノアのようなフルキャブ型ミニバンとは決定的に劣るが、セプターの様に後ろ向きの3rdシートと較べれば、快適性に天と地の差がある。

惜しいのは3列目へのアクセスだ。シートベルト固定機構を用いてチャイルドシートを取り付けた場合、シートスライドが動かせないので3列目へのアクセスは靴を脱いでアクロバティックに行う必要がある。チャイルドシートが着いていなければ問題ない。

●セダン+αの荷物は余裕で飲み込む

イプサムの積載性に関する評価は3列目を使うかどうかで大きく異なる。3列シートを使用する場合は写真で示したように軽セダンレベルの実力しか無い。



ベビーカーを積み込むことも躊躇してしまう程だ。このことから、イプサムでは3列目を使用した一泊旅行は手荷物が載らないので困難であろうと想像されるが、ベビーカーを乗せなければ日帰りドライブ(隣県レベル)位は十分対応可能だ。



ミニバンとして一クラス上のライトエースノアの場合、3列フルに使用しても3列目下にボストンバッグを飲み込むスペースもあり、必要なら3列目のシートスライドでラゲージのスペースアップも可能なため、3列目を使用しても積載性が確保されてる。

イプサムが本領を発揮するのは3列目を格納したシチュエーションである。普段の買い物でも、連休時の帰省でもミニバンやステーションワゴンの様に荷物を積み込むことが出来る。我が家もベービーカーを積み、着替えを積み、おもちゃを乗せ、赤ちゃん用のバウンサーなどを積んでも全部飲み込んでくれた。ハッチバックやセダンユーザーから見れば3列目を畳んだイプサムの積載性は驚異的に移るだろう。



セダンベースのステーションワゴンも類似の積載性はあるのだが、居住性はベースとなったセダン並みの実力に留まる。ロングホイールベースが実現する後席の居住性とステーションワゴン譲りの積載性が両立している点はイプサムの方が上手だ。

●燃費―2000rpm以上回すと悪化
借用中、家族全員と荷物を乗せてA/C使用率100%、市街地メインで9.1km/L、
A/C使用率50%で長距離移動を含んで10.96km/L。旅行・帰省ドライブを意識して荷物満載の高速定常走行で12.53km/L。FF車のカタログ値(10・15モード)が11.6km/Lなので、達成率が78%~108%と高水準である。60L入る燃料タンクを持っており、長距離の航続距離は満足できる。

走らせ方としては、発進・加速の機会が増えると一気に燃費が悪化する。3S-FEは中高速域で燃費が悪く、加速時にアクセルを踏み込んで3000rpm辺りまで使うと燃費は悪化傾向だった。かつて実家で使用していたライトエースノア(同E/G)も同様の傾向で平地だと10km/Lを越えることもあるものの坂道が多い奈良だと6km/L~7km/Lはザラだった。

●価格―競合を意識しつつ意外に素直なグレード設定
イプサムのバリエーションは最廉価のEセレクション(192万円)、標準車(205万円)、上級のLセレクション(222万円)の3グレードがある。そこにセットオプションとして標準車のSセレクション仕様(213万円)、LセレクションのEX仕様(235万円)が加わって実質5グレード構成だ。尚、4WDは24万円高となっている。

イプサムは基本装備が充実しており、最廉価のEセレクションでも14吋フルホイールカバー、ABS、電動リモコンミラー、タコメーター、時間調節式間欠ワイパー、CRS固定機構付きシートベルト、ジャカード織物のシート(洒落た生地)、後席の各種スライド格納機構、デュアルエアバッグ、マニュアルA/Cが備わる。他グレードでは装備されるRrクーラーがないため、3列目の乗車機会がある場合は選択肢から外れるのだが、イプサムを5人乗りのワゴンと見なす方なら十分な装備が付いている。

一方で7人乗りのミニバンとして考えると標準車以上を選択したくなる。タイヤのサイズアップ(185/70R14→195/65R14)、ブロンズガラス、電格ミラー、ワイヤレスドアロック(2.4万円相当)、モケットシート、Rrクーラー付きオートA/C、AM/FMカセットステレオ4SP(5.3万円相当)が追加される。価格差13万円だが、空調系のグレードアップやオーディオが備わることを考えると納得できる。MOPで14吋アルミ+ツインムーンルーフのセットオプション(15.5万円)、ボイスナビ(29.8万円)の追加が可能となる。




ドレスアップ要素を加えたのがSセレクション仕様がある。14吋アルミ(5万円相当)、ルーフレール(2万円相当)などRVらしい外装や運転支援機能としてクリソナ(6.2万円相当)が備わる一方でカセットステレオが省かれてラジオレス4SP(▲5.3万円相当)となる。外観重視は上級相当で後はデッキを後付すれば十分実用に耐える仕様設定だ。価格は8万円アップでMOPでツインムーンルーフ(10.5万円)、ボイスナビ(35.1万円)の設定がある。

上級仕様のLセレクションは標準車の17万円高である。標準車に対して追加される装備はルーフレール(3万円相当)、プライバシーガラス、クリソナ(6.2万円相当)、トノカバー(1.4万円相当)、AM/FMラジオ付きCDカセットデッキ6SP(カセット+4.6万円相当)、シート生地デザイン変更となる。価格が推定できる装備を差し引くと残りは1.8万円だ。

Lセレクションに対して13万円高のLセレクションEX仕様はシンプルに14吋アルミ(5万円相当)+ツインムーンルーフ(10.5万円相当)、寒冷地仕様(0.5円)が追加されるが、16万円相当の装備が追加されるから3万円程割安な価格設定だ。

こうして考えるとイプサムのグレード構成と差額は素直で納得感があり上級誘導はEX仕様以外は強くない。標準仕様をベースに欲しい装備で選べば良い。もし自分が買うなら、標準車のSセレクション仕様(213万円)にフォグランプとトノカバー、用品のCDデッキでも着けて、ハーフミラータイプのフィルムを窓に貼るだろう。ドレスアップでルーフレールスポイラーを追加したい。ムーンルーフは子供受けは抜群なのだが、2列目以降のヘッドクリアランスを確保するため、敢えて非装着することで50mmほど寸法を稼ぎたい。シート地の違いは触感の相違が無いため許容できる。2列目に座布団を敷いてヒップポイントを上げ、フルシートカバーで包んでやれば完璧だ。(ボディカラーはグリーンメタリックオパールのほぼCM仕様)

最大の競合車オデッセイの価格は最廉価のBグレード(179.5万円)はA/Cも付かない客寄せパンダだったが、実質的な標準グレードS(205.5万円)、上級のL(245.5万円)である。イプサムの標準車(205万円)とLセレEX(235万円)という設定はオデッセイをかなり意識して研究した結果だろう。イプサム標準車はオデッセイSとの比較でデュアルエアバッグとABS、キーレスエントリーが標準装備され、電格ミラーやオートエアコンが備わる点でお買い得感を演出している。イプサムLセレEXとオデッセイLの比較だと車両本体価格10.5万円安いが、デュアルエアバッグとABS、電動サンルーフやクリソナが装備されてさらにお買い得感が強まる。

●イプサムのその後―セダン型ミニバンの終焉
たくさんのセダンユーザーたちがイプサムに代替していったが、それでも販売面でスマッシュヒットを放つオデッセイを凌駕できなかった。ディーゼル車の追加、運転席バーチカルアジャスタの追加、シートスライド量の拡大など出来る改良を行ったが、更にトヨタはイプサムの初期反応をフィードバックした兄弟車ガイアを早くも1998年に発売した。



イプサムよりも全長(Rrオーバーハング)と全高を拡大し、3列目使用時の快適性とイプサムの課題だった3列目一体可倒式シートを分割し、積載性を改善。イプサムでは選べないキャプテンシート(オデッセイの売り)が選べるようにして見事にイプサムの不満点を解消していた。残念ながらガイアは少々保守的なスタイリングに映り、私から見れば初代イプサムの優れたスタイリングを強調する効果の方が大きかった。

また、イプサム自体も2代目になると別のトヨタの悪い癖が発現してしまう。イプサムはピクニックとして欧州にも輸出されていたが、この欧州仕向けとオデッセイに引きずられる形で2代目が開発されてしまった。欧州での大型化要求と競合のボディサイズがイプサムを大型化させたのである。結果、お馴染みの大型化と高価格化(こちらは控えめだが)を果たした。ミニバン・トゥモローなるキャッチコピーを掲げオデッセイと並ぶ排気量2.4LのE/Gを積み、ゆとりある3ナンバーサイズへ拡大された。確かに初代の不満点が解消されていいクルマになったと私も同意しつつ、これじゃあイプサムでは無いよな・・・と首を傾げざるを得ないミニバンになった。扱い易く丁度良いバランスの5ナンバーであることがイプサムとオデッセイの最大の違いだったのだが、結局最後までオデッセイの事が頭から離れなかったのだろう。

その間、ホンダは5ナンバー枠に収まるコデッセイことストリームをヒットさせ、これに対抗する為に小型枠のキャラクターを引き継いだのは、車名より先に♪UTADA HIKARUの文字がCMで流されたWISHだった。(初代イプサムがみんなのドリームズ・カーだが、WISHはザ・ピープルズ・カー)初代イプサムとWISHを比較すると、内装の質感と3列目の明確な割り切りが行われたが、メインエンジンが1.8Lに縮小されても走りは低下せず、3列目を畳んで使うミニバン風5人乗りステーションワゴンを実現させた。



残念だが初代イプサムなら日帰り旅行が可能だった3列目シートの実用性は最寄駅前レベルにカイゼンされてしまった。初代イプサムは基本的に畳んで使うものの、あくまでも「畳めるシート」だったが、WISHは「座れるデッキボード」に過ぎない。無論、販売価格が下がってユーザーにも割切りが還元されているが、初代イプサムが擁していた絶妙なバランス感覚は、本格化・高級化の2代目と簡素化のWISHに分裂してしまった。イプサムが担った小型車枠に入る本丸のセダンライクなミニバンが消滅したことは残念だ。セダンユーザーを吸引する為のイプサムがセダンを吸引しつくして使命を全うしたからなのだろうか。



初代イプサムから始まったセダンライクなミニバンの系譜は、イプサム本体が2代目でモデル廃止。WISHはモデルチェンジしたものの、アイシス、マークXジオ、プリウスαに至るまで座れない3列目の車ばかりになってしまった。プリウスαも21年3月末でモデル廃止になってしまい、セダンライクなミニバンの命脈が初代イプサムから約25年で尽きようとしているのは残念な限りだ。



無限にコストをかけて全方位の性能を成立させるのは不可能だ。個性を際立たせるために何かを奢りたい時は投資にメリハリをつけて、何かを割切るしかない。ミニバンの3列目と言うのは2000年代以降、どうせ使わないからと簡素化されがちな部位になった。使わない3列目だから、割り切って荷室を拡大しよう、原価を下げようと段々とカイゼンを積み重ねて、使えないシートが出来上がった。イプサムよりライトな層を狙ったWISHが簡易的なシートとしたことは一定の理解が出来るが、後続のセダンライクミニバン群までもが使えない3列目を継承したことは不幸であった。

座れないけど、届出上はシートである為、シートベルトを装備し、シートベルト取付のために車体に補強が必要になる無駄を伴う。やはりいくら使わないとは言え、例えば両親を3列目に乗せる場面もあるだろうから、ミニバンである以上、初代イプサム相当の実用性は残すべきというのが私の意見だ。そういいたくなるくらい、初代イプサムのバランス感覚は良い所を突いていた。

ホンダとの販売競争では、制約の中で「こうするしかなかった」オデッセイに対し、イプサムには適度なベース車があり、イプサムにぴったりなRrサスの先行開発もあった。多少の不成立箇所はあれども、トヨタらしく周到に準備されてきたと感じられる。イプサムは実用的にミニバンライフが楽しめる最小単位として5+2に割り切ったと言いつつ、それなりに座れる3列目、夏場の空調に配慮したRrクーラーなどその気になれば7人乗れるキャビン、5人なら十分以上の積載性を実現したパッケージングを5枠で実現し、見ているだけで楽しくなるポップな意匠で包んだ点が見事だった。



大切な愛車を我が家の年末年始の為に貸して下さり、サマータイヤ仕様にも乗せてくださったばりけろさんに感謝。
Posted at 2021/01/23 01:11:47 | コメント(1) | トラックバック(0) | 感想文_トヨタ・レクサス | クルマ
2020年07月29日 イイね!

1993年式カムリプロミネントG感想文追補版

1993年式カムリプロミネントG感想文追補版●独身最後に借りた車に再会
スギレンさんのカムリプロミネントは2015年に長期レンタルしバブルセダンの持つ大人の余裕を楽しませていただいた。私が独人時代最後にお借りした車を再びお借りする機会を得たので、再び感想版追補版を書かせて頂く運びとなった。

あれから5年も経過し、この個体はクランクプーリーのトラブルで廃車の危機を迎えていたが、スギレンさんのコネクションとこだわりで危機を脱したばかりだ。


カムリプロミネントG感想文はコチラ


●マルチシリンダーエンジンが一層レアに
2015年のトヨタではV6エンジンを積んでいたのは
GS、IS、RC、RXのレクサス勢に加え、
クラウン(2.5L、3.5L、3.5HV)
マークX(2.5L、3.5L)
アルファード/ヴェルファイア(3.5L)
エスティマ(3.5L)
上記9車種であった。

2020年7月現在のラインナップでは
LS、LC、GS(廃止予定)、IS、RC、RX、
クラウン(3.5HVのみ)
アルファード/ヴェルファイア(3.5L)
9車種との車種数では変わらない。

V8からダウンサイジングされた2車種が増えたが、トヨタブランドでも最上級E/Gとしてラインナップされ、V6が200万円台で買えた2015年から、たった五年で500万円以上の車種でないとマルチシリンダーが楽しめない時代になった。これも4気筒ダウンサイジングエンジンの進化が進んだ結果だろう。

そんな現代におけるカムリプロミネントはV6_2.5Lエンジンを積んだだけで十分個性を放っている。



思えばトヨタ博物館で展示されているステータスを競った車たちは12気筒やら16気筒やら摩擦損失の塊みたいな贅沢なエンジンを持っていたが、今はフラッグシップモデルでもV6になってしまった。自動車を取り巻くメカニズムは単純化と簡素化の歴史とも言える。

●家族3人で岐阜城を目指す
以前お借りしたときは一人で試乗させていただいたので、二回目の今回は妻子を伴って試乗に出かける事にする。

ファミリーカーと言えばミニバン、ステーションワゴンが転じてスライドドア付きのハイトワゴンやSUVこそがファミリーカーで、スタイリッシュ派のセダン、といった様な錯覚を抱きかねないのだが、そもそも50年前のファミリーカーの本丸はセダンであり、スタイリッシュ派のためにはハードトップやクーペがあった。



チャイルドシートも難なく取り付けられ、3歳の我が子を搭載。助手席には第二子がお腹に居る臨月の妻が座った。デミオではシートスライドやリクライニング位置に制約が見られるが、カムリプロミネントでは余裕の室内長のお陰で広々している。

この「広々」というのは現代人が車に使う「広々」ではなく、決して窮屈ではない。車室内でだらしなくゴロゴロできる広さがあるという意味の「広々」では決してないのである。



つまり、リビングでごろごろ寝転がって一家団欒、というのではなくキチンと座るのだが、頭や手足が不自然な位置で拘束されないという乗用車らしい広々であることに注意が必要だ。つまり、シートベルトを着用しそれなりに正しい姿勢であればカムリプロミネントで不満が出るような狭さではないということだ。



これならもう一台チャイルドシートを載せても問題ないし、長いオーバーハングの恩恵でラゲージルームは十分容量が確保されているから(おやつや飲み物、着替えが満載で)武器になりそうな重いリュックサックもベビーカーも余裕を持って積み込める。

自身がバネットセレナやライトエースノアで少年時代を過ごしたので、ミニバンやSUVに慣れきっていたが、セダンでも十分家族を乗せる包容力がある事に改めて気づかされた。これも全長4670mmという長い全長ゆえに出来たことなのだろう。

妻子を乗せた状態で現代としては低めのパッケージングで私は適切なドラポジをとることが出来た。



イグニッションキーを回すと4VZ-FE型フォーカムE/Gが目を覚ます。デリカシーの無いノイズやバイブレーションは皆無、シフトレバーをDに入れ、PKB解除レバーを引くとガコンと音がした。静々と自宅付近の住宅地をゆっくりと走らせた。



自宅付近に90度コーナーがいくつかあるが、目一杯ステアリングを切って4WSの逆相操舵による小回り性(5.0m)を堪能しながらいつもの農道を目指す。5年前に試乗したときは敢えてタイトなワインディングを走りに行ったが、今回は家族を伴ってのドライブの為、軽く操縦性を確かめた程度だ。結論、やはりフロントヘビーなV6ゆえにコーナーが楽しくなるような車ではない。その代わり、制限速度+α程度の速度域では快適な乗り心地と心地よいV6サウンドが楽しめる。

高速道路に合流した。ETCゲートからランプ路を経て加速車線へ。深くアクセルを踏み込んで本線に合流する際、V6のクオーンというサウンドが明らかに4気筒と異なるスムースさを伴って耳に入りプレステージ感が伝わってくる。マルチシリンダーエンジンのスムースなフィーリングは現代のEV走行で感じる先進感に通じるものがあるかもしれない。

高速道路では100km/hで2500rpmと少し高めの回転域を使用するが、そもそも心地よいE/Gの音色のため私は気にならない。5年前同様に風切り音の大きさは気になったが、私達家族が普段乗っているRAV4やデミオと較べれば十二分に静粛であり、妻が「やっぱり高級車だね」と感心していた。

都市高速や国道を経由して名神一宮ICから東海北陸道の岐阜各務原ICを走行し、木曽川を渡って久々に県外へ出ることとなった。交通量は少なめでクルーズコントロールでのんびりバブルセダンのドライブを楽しんでいた。後方から「岐阜34」の年式の近い欧州車が追い越し車線を伸びやかに追い越していった。



何となく我がカムリプロミネントもその欧州車に追随して追越し車線に躍り出てみた。TEMSをSPORTに設定し堅めのセッティングに切り替えた。普段はソフトな乗り味が似合うのだが、このときばかりは引き締まったサスによるスタビリティの恩恵を受けながら速めの速度域のバブルセダンを楽しんだ。4WSとTEMSの相乗効果で風が強い高速道路でも十分以上の走りを楽しむことが出来る。

5年前にタイトなワインディングに持ち込んだ際はフロントヘビーな基本レイアウトがネガティブ側に振れたが、ハイウェイ走行では荷重が駆動輪への安定したトラクションとなって家族を乗せたドライブで快適性に繋がっていることが分かった。

高速道路を降りて岐阜市内を走らせる。意外と交通量が多かったが余裕ある動力性能を活かして岐阜城にたどり着いた。城下町の風情あふれる路地を走らせても取り回しに苦労することも無く黙々と目的地へ連れて行ってくれた。



岐阜城ではロープウェーのお世話になって随分とショートカットしたものの、その後も臨月の妻にはかなりハードな上り坂を歩かせてしまいながら岐阜城の展望台からが美しい景色を楽しんだ。



帰りに岐阜県のショッピングモールで買い物をササッと済まし、夜の名古屋高速を快適にクルージングしながら帰宅した。途中、追越し車線で断末魔の音を立て、エンコパから白煙を噴いてスローダウンしたKeiが前を塞いで車線変更を余儀なくされるシーンがあったが4WSのカムリプロミネントはレーンチェンジでも余裕を残して危険を遠ざけることが出来た。



名古屋高速の都心環状線をムーンルーフから名古屋の摩天楼を楽しみながらのオトナなドライブを楽しんだ。特に立体感のある美しいデジパネの液晶文字も良い演出になっている。余裕のある動力性能でゆったりと走り、充実した装備品を堪能しながら移動を楽しむ、これこそがバブルセダンの使い方であると結論付けたが、それは5年経ち、私の生活が変わった後でもそれは変わらなかった。

●追補版まとめ
前回のスギレン企画から5年、私の生活も変わり車を見る着目点も変わった(気がする)。今まで気にしていなかった部分が気になり、気になっていた部分に肝要になったり。

前回のパーソナルユース主体の使い方とは違い、家族を乗せて走った事で、カムリプロミネントのおもてなし性能の高さが一層際立った。

家族を気遣える快適性、流れの速い高速道路でも家族に速度を感じさせない安定感など5年前に気付き切れなかった魅力を知ることが出来て大変良い経験になった。車の真価とは乗ってみないと分からない。使ってみることで真価が発揮され、使い方の違いでも見えてくる真価が異なることを再認識した。



セダンはかつてのファミリーカーの雛形として君臨したが現代ではSUVやMPVほどの広大な包容力が無い分、スポーティさを身上とするワンパターンなキャラ設定が横行している。元々セダンは、経済性重視のモデルから、高級車、GTカーやスタイリッシュなHTまで様々なキャラクターがあり、多種多様な選択肢があった。

ここ10年~20年でグッとSUV人気が進展し、スライドドア付きのハイト系ワゴンがファミリーカーとしてもてはやされる時代になった。一方でいま自動車メーカーで働き盛りの30代~40代の人たちは確実にRVブーム以降の入社である。セダンを知らない人たちがセダンの企画担当になってしまったのか定かではないがセダンは車高が低くてスポーティ。全長が長くてスマートだからエモーショナルなスタイルを。少数派の乗り物だからスペシャルティ的な個性を、と勘違いに勘違いを重ね、モデルチェンジのたびにエモーショナル方面、スポーティ方面を過剰に意識した車作りが行われた。結果、現在の各社のセダンのラインナップは端正でゆったり楽しめるセダンという本来のホームポジションがすっかり抜け落ちている。



適度な囲まれ感で肩肘張らずに快適な移動ができる現代版のカムリプロミネントのような品のいいセダンが一台くらい市場に存在しないとセダン離れは加速していくばかりではないだろうか。

当時も傍流の高級車であり、世間の評価のそれほど高くなかった30年近く前のセダンだが、現代では得がたい感覚の贅沢さを私に教えてくれた。



スギレンさんに感謝。

●2021年追補版
共同所有のプログレにスギレンさんが乗られているときに我が家で預からせていただいているのだが、ご厚意で普段のレジャーや買い物でも活用させていただいている。2021年、2020年から引き続きコロナ禍によって閉塞感漂う重苦しい雰囲気のなかで、私はカムリプロミネントを運転して気づいたことがあった。

コロナ禍の中、出社もままならず私はほとんど在宅勤務で一日を終えることが多くなった。朝起きて慌ただしく子供を保育園に送る。9時から在宅勤務を開始し、夕方離業して保育園に迎えに行く。そして食事・風呂の世話をするなど育児時間を取ったら、再び在宅勤務に戻り22時に仕事を終える。このルーティンの中で外の空気を吸うことが本当に少なくなった。一時期、家から出るのは保育園の送迎だけになってしまった。

ちょっと外の空気が吸いたくなり、プロミネントを連れ出して自宅付近をサラッとドライブした。車の中だからマスクはしない。対向車も来ないような深夜の田舎道を窓全開でゆっくり走らせる。真っ暗な畑の一本道に止まったカムリプロミネントが一台。頭上にはすぐ満天の星空が広がっている。ハードトップゆえにヘッドクリアランスも決して余裕がなく、現在主流のSUVと比べればむしろタイトな部類に属するだろう。しかしムーンルーフを開ければすぐ頭上に澄んだ空気の夜空が広がっているのはなんという解放感だろうか。



そしてある休日、カムリプロミネントに子供らを乗せて自宅から20分程度離れた近所の公園へ連れて行った。緊急事態宣言ゆえに県外への移動ができないので長距離ドライブは叶わず、近所の公園を往復するような休日を何回も繰り返していた。

子供が遊び疲れて帰るときにふと夕焼けが見たくなり、海岸を目指してカムリプロミネントを走らせた。後席で疲れて眠る子供を気遣いながらそーっと有料道路をひた走る。日没までに着くために比較的急いだが、それと悟られない走りはカムリプロミネントが得意とするところ。突き上げるようなショックを感じさせず夕焼けが美しいポイントに無事到着した。



お気に入りの夕焼けが見えるポイントにカムリプロミネントを止めた。窓を全開にしてムーンルーフを開けると青空から夕焼けの複雑なグラデーションの中にエネルギッシュに沈みゆく太陽が広がる。夕日を浴びたカムリプロミネントはいつにも増して輝いていた。朝の光に照らされているより、どこか夕焼けが方が似合う面白いボディカラーだ。



私にとってハードトップセダンとはデザインを優先するためにタイトな室内空間でも良しとしたボディタイプだと理解していた。しかし、窓・ムーンルーフ越しに広がる景色は私を開放的な気持ちにしてくれた。つまりハードトップセダンは物理的にはタイトだとしても、精神的な解放感を与えてくれるのである。写真では開放感の一部しか伝わらないのが残念だが、この瞬間のハードトップセダンが「広くて開放感がある」事は事実なのである。今までにない閉塞感が漂う時代の空気の中で、すでにオワコンと化したハードトップセダンに強烈な開放感を見出したのは今更ながら面白いではないか。

再びスギレンさんに感謝。
2020年07月23日 イイね!

2020年式ハリアー感想文

2020年式ハリアー感想文





●要旨

2020年6月にハリアーがモデルチェンジして5世代目となった。
一流ホテルのエントランスも似合うRV車として生まれたハリアーは
プレミアムSUVというフロンティアを
世界の自動車メーカーに先んじて開拓した
とても重要なモデルだ。



2013年に発売された先代は
日本専用としたことで性能と内外装に
適度なメリハリをつけた事で息の長いヒット作となり、
トヨペット店の拡販にも貢献するだけでなく、
モテ車として30代までの若年層からの人気も高く
トヨタが苦手とする層の吸引にも貢献した。



新型は先代同様にRAV4とP/Fを共用する兄弟車だが、
全長140mm長く、全高が25mm低いため、
高級セダンのような優雅なプロポーションで差別化を図っている。

内外装はキープコンセプトだが、
ハリアーファンをがっかりさせるような
不用意なデザインをしていない点は好感が持てた。
モテ車としての先進装備も抜かりない。
助手席の彼女のお肌を気遣うナノイーX、
都会のナイトドライブで効果を発揮しそうな調光パノラマルーフ、
渋滞中の彼女を退屈させない
12.3インチの大型ディスプレイオーディオなど
上級車を食うような高級感の演出はさすがの一言。

走行性能は2.0ガソリンでは先代同様に
期待しなければ失望はしない程度には走る。
ただし、E/Gが発するノイズ、こもり音に
ステアリング振動はがっかりしてしまう。
2.5HVは市街地走行時のモーター走行であれば
上質感に引き込まれるが、一度E/G始動してしまうと
NVレベルの悪さは落差が激しく、こちらも後一歩満足に及ばない。
価格を考えると、NV性能は手当てが必要だろう。

ハリアーの世界観を考慮し、
人に勧めるなら2.0ガソリンのZ。
税込み393万円と2LのSUVとしては高価だが、
この手の車にはある程度の見栄も必要。

●キープコンセプトでTNGA化を果たす

1997年のデビュー以来、ハリアー/RXは
常にプレミアムSUVのパイオニアであった。
ライオンのキャラクターがハリアーで
高級ホテルのエントランスに乗り付けるCMは
ハリアーの目指したコンセプトがよく表現されていた。

2代目末期の240Gが当時の若者を中心に
「モテ車」としてもてはやされ、
一度はRXに主役を譲って生産終了となるもの、
海外向けRAV4と共通のP/Fをうまく使い
日本専用の3代目がデビュー。
ボディサイズをいたずらに大きくせず、
廉価な2.0ガソリン車と低燃費とパワーを両立した2.5HVの
二本立てで若年層と中高年層をダブルで吸引し、
コンスタントに2000台以上を販売する人気モデルとなった。

3代目ハリアー前編

3代目ハリアー後編


新型も先代同様に、内外装に全力投球し、
動的性能はそれなり、と選択と集中を徹底している。

開発コンセプトは「Graceful Life 優雅でより豊かな人生」だという。
機能や便利さのみを追求するのではなく
感性に訴え人生を高めてくれる存在、と定義されている。

各種寸法や織り込まれたメカニズムを見れば
新型ハリアーがRAV4とP/Fを共通化していることは明らかだ。

新型ハリアー
全長4740mm×全幅1855mm×全高1660mm、ホイールベース2690mm

RAV4
全長4600mm×全幅1855mm×全高1685mm、ホイールベース2690mm

先代ハリアー
全長4725mm×全幅1835mm×全高1690mm、ホイールベース2660mm

NX
全長4640mm×全幅1845mm×全高1645mm、ホイールベース2660mm

CX-5
全長4545mm×全幅1840mm×全高1690mm、ホイールベース2700mm

CX-8
全長4900mm×全幅1840mm×全高1730mm、ホイールベース2930mm

カムリ
全長4885mm×全幅1840mm×全高1445mm、ホイールベース2825mm


各車を比較するとハリアーは、トヨタ内の同セグメントのSUVより
低く長く、ワイドであり、CX-5とCX-8の間という位置づけになる。



今回、RAV4同様にP/Fが上級移行され、
カムリ系では昔から採用されていた井形サブフレームや
高速燃焼を実現したダイナミックフォースエンジン、
ダイレクトCVTなどTNGAでお馴染みになった技術用語が並ぶ。

RAV4ベースゆえ、2.0LガソリンエンジンにCVTの組合せと、
2.5LガソリンエンジンのHVの組合せそれぞれにFF/4WDが選択可能。
SUVゆえ4WDの設定はあれどもクロカン色を強めたRAV4の様に
3種類の4WDが選べる!という訳ではなく
現代としては普通のスタンバイ式4WDとE-FOURとなる。

サスペンションも共通のFrストラット/Rrマルチリンクという
RAV4の共通フォーマットで形成されている。
P/FはRAV4と全く共通でありながら、
目に見えるほとんどの部分はハリアー専用設計であり、
私も外観で共通部品を見つけることは容易くない。

商品としてのハリアーはRAV4よりも
スタート価格が税込35万円(265万円→299万円)
と一クラス上の車格を与えられているが、
その差額はボディサイズの違い(全長+225mm)と
内外装の差別化、静粛性向上に充てられたのだと思われる。

広報資料に拠れば静粛性向上を狙って
100km/h走行時のロードノイズが
従来型より4dB下がり、会話明瞭度は6.5%向上したという
同じTNGAのRAV4よりも4%向上しており、
セグメントの違いもしっかり考えられている。
既にRAV4に乗っている人には、DIYでハリアー用部品を
流用する人も現れるかもしれない。

オフロードイメージを前面に出したRAV4と較べると
同じP/Fであることが信じがたいほど違う意匠をしており
コンセプト・価格帯の違う兄弟車を作れる点は
国内シェアNo.1のトヨタの強みであろう。

先代のデビュー直後は日本専用モデルだったが、
後期型からRHDの国へ輸出も開始され、新型では北米で
ヴェンザとして販売されることが発表されている。
日本仕様の相違点はフェンダーの
AWDエンブレム、
HYBRIDエンブレム(日本仕様はエンブレム廃止された)、
フォグランプ廃止は写真から分かるが、
北米でヴェンザの人気が出ると、また次のモデルチェンジで
北米の台数の大きさに負けて日本の使い勝手が無視される事態に
繋がるのではないかと心配している。

●エクステリア


既に好評を得ているモデルの全面改良となれば
自ずとキープコンセプトとなるのが通例で
新型ハリアーも先代からのハリアー像を
極力壊さぬように配慮されている。
造形テーマは「大らかな逞しさ」とのこと。



切れ長のLEDヘッドライト、
アクリル製の擬似ラジエーターグリル(通風孔なし)、
オーバーハングを短く見せるほうれい線など、
誰が見てもハリアーと感じるフロントマスクは私も一目見てホッとした。
1035mmにも及ぶフロントオーバーハングは先代同様に
コーナー部を削って斜めから見た際の軽快感とバランスが取ることで、
斜め後ろから見た際にタイヤが踏ん張って見える。
一点注文を着けるならフォグの位置が内側にありすぎて、
若干車幅が狭く見えてしまっている点は残念だが、
フォグの位置を外に出すとコーナー部の削り量が減って
平面的なRAV4に近づいてしまう難しいところだ。

サイドビューもハリアーらしいDLO(グリーンハウス)が継承されたが、
サルーンのようなというよりもクーペスタイルに近い。
ルーフラインとは別にドアフレーム上端のラインが
クーペスタイルを一層強調している。
SUVとして求められる後席の乗降性は私の体格なら問題ないが、
身長が高い人にとっては少々頭を屈める必要があるかも知れない。
新型を見てしまうと先代が野暮ったく見えてしまうのは面白いものだ。

FrフェンダーからRrドアにかけては
比較的ゆったりと流れるような面構成だが、
Rrドア途中からRrエンドにかけては断面が複雑に変化し、
あたかも流れの速い渓流のような躍動感がある。
一台の車の中で安心感担当のFrと
ワクワク感を持ったRrが同居する感覚は面白い。
(Frまでイメチェンしてエモーショナル顔にされると
 見ていて疲れるし、Rrも安心感があるとつまらない)

サイドでは窓枠とドアハンドルにメッキが使われているが、
先代にあったメッキのプロテクションモールは廃止された。

その代わり、ドア下にクラッディングモールが着き、
サイドシルが泥で汚れにくい下見切りドアになった点は実用面で朗報だ。
確かにメッキのサイドプロテクションモールは無くなったが、
下端を黒い素地色のモールで覆うことで2代目ハリアーの様に
ボデーを低く薄く見せる錯視効果を使っている。



参考までに私が黒モールを極力薄く改変した画像を作ってみた。
画像の荒さはさておき、黒素地のモールが全て
ボディ同色になるとキャビンが分厚く見え、不恰好だ。
ベルトライン下が分厚すぎてアンバランスに見える車は
過去にも存在していたが、ハリアーの様に適度な厚みの
黒素地色モールを設定すると余分な部分をブラックアウトさせる効果がある。
かつての普通の車達も(私のカローラもRAV4も)ロッカーを
ブラックアウトしてフランジ部分を見せないように配慮していたのと同じだ。

ホイールは上級グレードのZ系に225/55R19の大径タイヤが採用された。
先代の上級グレード用サイズ18インチは225/60R18と組み合わせられて
は中間グレードのG系に採用され、
ベーシックグレードのSでは225/65R17となり旧エレガンスと同サイズとなる。

先代は235mmを履いていたのでタイヤ幅は先代よりグレードダウンだが、
これは車幅を1855mmに収め、タイヤ切れ角を死守して最小回転半径を
5.5m~5.7mに収める為の工夫であり個人的にはこの判断を支持したい。

また、フューエルリッドも面白い構造をしている。
一般的なリッドはデザイン面のアウターと、
剛性確保とヒンジ取り付けのためのインナーがいて、
ヒンジと繋がっている。

最近のモデルはアウターとインナーはスポット溶接で
留める例が多く、専用の小さなスポットガンで打点が処理される。
新型ハリアーはここをカシメで留めている点が新しい。



コストが安いだけではなく、溶接用のフランジが不要になり
軽く作れ、アウター側のプレス成型が簡単になるため
アウターの難しい意匠の再現もしやすくなる。
従来技術(私の初代RAV4)では全周ヘミングしてシーラーを打つ
手間のかかる方法しかなかったのだがコストと意匠の両立解を模索している。

リアビューは新型ハリアーの見せ場の一つだ。
Rrコンビランプをテール/ストップランプと
バックアップランプ/ターンシグナルに機能を分離し、
前者を超薄型にして後者をバンパー下に追い出すことで
他に類を見ない個性的なRrビューとなっている。



左右が繋がって見える意匠で、エンブレムが居るものの横一文字に光る。
確かに先代ハリアーの後期型は光らないが赤いモールが付けられており、
思えばこれが次期型への予告編だったのか。

このRrコンビランプと合わせてハイマウントストップランプも
最上級グレードに限り車幅一杯のワイドなものが装備されて
しっかりグレードマネージメントされている。

個人的に注目したのはバックドア下端部である。
張り出し形状が大きく、プレス成型的に難しかったのではないだろうか。
バンパーとの面一感を出す為の張り出しなのだが、
従来技術でこのような意匠を実現する為には段差を埋めるために
樹脂ガーニッシュをクリップ留めでバックドアに取り付けるだろう。
(ex.初代ステップワゴン後期)
安易に部品を追加する事無くこの意匠を実現できている点は注目に値する。



RAV4はアルミバックドアだが、ハリアーは鉄製のバックドアで、
軽量化には不利だが成形性にはまだまだ鉄に分があるということなのだろう。
セグメントを考えると樹脂バックドアという案もあるだろうが、
ヒケが目立つモデルもあることから鉄を選択した判断は正しい。
意匠的にメリットが多いが、
デメリットはバンパー意匠とバックドア板金がツライチなので
後突時に直接ダメージがバックドアにかかる点だろう。

TNGAデビュー時の「エモーショナル顔」は個性的だったが
見る人を驚かせる事はできても上品さは感じさせなかった。
新型ハリアーはある程度上品さを感じさせてくれる進化をしているし、
キープコンセプトといえども先代からの進化も明確に感じられる。

●インテリア

ハリアーにとっては内装も気を抜けない。
内外装はハリアーの生命線でありRAV4との違いなのだ。
先代の内装はNXやクラウン、
アルファードを食うような豪華さを誇っていたが、
新型の内装もまずまずの出来栄えだ。



新型の内装はセンターコンソールを乗馬用の鞍に見立てて
インテリアの前後を貫くよう触感のよい材料で作られている。
このコンソールは余計な収納トレイやスイッチを置かずに
意匠を見せたいのだろう。
シートヒーターなどのスイッチも目立たない場所に配置され、
隙あらばカップホルダーさえも隠したかったのではないだろうか。
(だからと言ってクラ*ンのアレは採用しなくて正解)

センタークラスターは上級グレードと中級グレードに
OPTで静電スイッチが付く。
先代では全グレードに設定があったが新型では差別化されている。
(使用性は物理的なスイッチに分が有るが、ハリアーらしさという意味で
 私は静電スイッチの存在価値が有ると思った)
静電スイッチとセットで12.3インチディスプレイに備わるSDナビと
JBLプレミアムサウンドシステムだ。
上級に標準、中級にオプション価格が
約37万円というリッチなセットオプションとなる。

標準設定の8インチディスプレイオーディオ(CDデッキなし)も
決して不便なものではないが少々パネルに余白感が出てしまい
「安いのを買った」という辱めを受けてしまう仕様設定は
「最上級を買え」という無言のプレッシャーを感じてしまう。
経済的に余裕の無い若者が無理をして買う中間的グレードを買っても
それなりにサマになるのがハリアーの目指す姿では無いか。
ディスプレイオーディオを取り外して
社外の適度なナビが付けば良いのだが。

助手席に座る彼女のため、助手席前のインパネも立体感のある
思わず触れてみたくなるステッチ、パイピングオーナメントなど
パッセンジャーへのアピールも抜かりないのがハリアーらしい。



室内イルミネーション、スカッププレートの光るロゴ、
挙句の果てに助手席側のエアコン吹き出し口からは
髪や肌に優しいナノイーXが放出される演出に至っては
もはや馬鹿馬鹿しく感じてくるがハリアーは
それを真面目に追求しているのだ。

新型ハリアーで新たに採用されている注目装備が「調光パノラマルーフ」と
「前後録画機能付きデジタルインナーミラー」である。



先代ハリアーでは浮島ポップアップムーンルーフがOPT設定されていたが、
新型ではスイッチ一つで外の景色が見えたりレースのカーテンを閉めたように
見えなくなるがぼんやり光りを採り入れる調光パノラマルーフが新採用された。
液晶を使って透明度を調整するのだが、開閉機能がなくなってしまったのに
約20万円というMOP価格は勇気が必要な金額だ。
ところが営業マン曰く、Zを選ばれる方は大抵選択するとの事で
如何に新型ハリアーの顧客がムードを大切にしているかが窺い知れる。
確かに夜景がきれいな都市部をこのパノラマルーフから
眺めればさぞかしロマンチックだろう。

もう一点、前後録画機能付きデジタルインナーミラーは目から鱗の新装備だ。
最近、デジタルインナーミラーを備える車が増えてきているが、
前を映す機能とSDカードで録画する機能を付ければドラレコの代わりが務まる。
あおり運転やそれが原因となった不幸な事件事故の影響で
今新車を買うならドラレコをつける人が多いだろう。
(私も妻のデミオにはドラレコを着けた)

一方で配線がごちゃごちゃしていたり、
バックドアガラスにカメラが貼られたり、
助手席前に大きなカメラが鎮座していたり
お世辞にもスマートとは言い難い状態に一石を投じる
ハリアーらしい提案だと感じている。
デジタルインナーミラーとしての画質は日進月歩で
改善が進んでいることは実際に使ってみて分かったが、
まだ私は光学ミラーを使いたいと感じた。

この他、個人的には前席に座ってみて、
RAV4で致命的に使いにくかったドアトリムの取っ手が
掴み易い一般的な場所に変更されていて
これだけでもRAV4ではなくハリアーを価値があると思ったほか、
後席ではシートベルトの肩ベルトがピラーではなく、
シートサイドから出るようになり後席でも
キチンとシートベルトが締められるような設計に変わったことも
大いにアピールすべき改良点だ。



もっともTNGAだからステアリングセンターがずれていたり、
後席の足元が狭いなどRAV4の欠点も
引き継がれている点はしつこく指摘したいが。

ラゲージにも目を向けたが、RAV4と較べると
ローディングハイトが高くデッキの横幅も然程広くない。
ラゲージ容量よりも意匠を優先したということは理解できる。



上級グレードにはフィニッシュプレートやデッキサイドのトリムに
ちょっとした加飾がつくが、先代の金属製のレールや
持ち手が廃止され少々寂しい。
ラゲージ容積は先代よりも減ってVDA法で409L。
先代は456Lだったので減少していることは事実で
ゴルフバッグ搭載個数が4個から3個に減少したそうである。
私が見た感じでは我が家が積み込みそうな
一般的な荷物は十分積めてラゲージ下の収納も実用的なので
普段の買い物では意外と使い勝手は問題無いかと思う。
(ただ、デッキボード裏の吸音材は
 機能的には良いのだろうがとても不細工だ)



旅行時に嵩張るボストンバッグを載せるくらいなら問題な無く、
海外旅行用のスーツケースは下手すると勢い余って
バンパーにぶつけそうな嫌な予感はする。

インテリア全体のムードを決定付ける内装色は
最廉価グレード以外に3種類の選択肢がある。
標準内装色のブラックも伝統的な高級感があるが、
特に内装色がブラウンだとセンターコンソールの鞍が
一層協調されるので私は積極的にブラウン内装を選びたい。

もう一色内装色にグレーがあるが、
これはどことなくアメリカっぽい雰囲気になる。
これはピラーガーニッシュも色が変わり、雰囲気が明るくなる。
ホワイトウッド調の加飾パネルも定番外しの選択肢として面白いが、
この色を選ぶセンスのある人は、セレクトショップの奥の方にある
難しい服をサラっと選べる力を持った人だろう。

●2.0ガソリンG試乗




中間グレードのG(本体価格341万円)に試乗した。
CMやカタログでメインを飾るZと較べると
外観では18インチアルミホイールを履く他、
Rrハイマウントストップランプが
通常タイプになるという違いがあり、
内装では8インチディスプレイオーディオと
静電スイッチが付かないという違いがある。

試乗前に三歳児を後席にチャイルドシートに乗せたが、
SUVゆえに抱っこで載せるのは腰には優しいと感じた。
またISO-FIXのフックが探し易い点も実に
トヨタらしい美点としてありがたかった。



ちょっと独特な位置に配置されたプッシュボタンを操作すると
エンジンが始動しアイドリングで「おっ静かだ」と感じた。
RAV4に対して様々なNVアイテムを追加した効果がアイドリングで感じられた。

ただし、ディーラーから出て加速をした瞬間、がっかりしてしまった。
思った以上にE/G回転が上がって加速していくので、
その存在感が気になってしまうのだ。

171ps/6600rpmというスペックを考えても高回転域を好む特性であり、
ちょっと加速しようとアクセルを踏むと2000rpm付近までグイッと回転が上がり
その時の音がハリアーとしてはちょっと気になった。
高回転を好むとしてもこれがV6なら心地よいサウンドとして
高回転を許容できる可能性もあるが、
このE/GはRAV4と同じく音量が大きく音質も良くないのである。

確かに先代ハリアーのガソリン車は更に
「走らない」E/Gだったがその分嫌な騒音を出さない。
近所の下道を静々と走らせている限りある程度静粛な車であったが
新型は普通に走っていても音が目立つ車になってしまい極めて残念だ。
確かにアクセルを踏み込んだときの力強さは向上したと思うのだが、
それを得る為に新型ハリアーが失ったものはあまりに大きい。

交通量の少ない市街地を軽く走っただけだが、
乗り心地としては角のあるショックを感じさせない点は
トヨタらしいと感じるも、E/G由来のステアリング振動や
こもり音など普段軽自動車に乗る彼女を助手席に乗せたときに
「さすがハリアーって静かなんだね」と言わしめ、
オーナーも「頑張ってよかった」と満足させるには
もう一歩も二歩も足りない状態なのが歯がゆい。

2.0は廉価仕様だからという割切り方もあるかも知れないが、
341万円の乗用車として考えた時に乗り味には疑問符が涌く。
もはや、若者が頑張って貯金して
手が届くような価格でもない気がするが、
ローンを組んで金利を払って頑張っても
このNV性能だと私だったら心が折れそうになる。

例えば大排気量のセダンに乗っていたような余裕のある人が
もう遠出しないからとハリアーを購入するケースも有るだろうが、
絶対的な力が無いことは許容できてもこのNVでは市場適合性が無い。

●2.5HV Z試乗



別の店舗でハリアーらしさを最大限感じさせる
HVのZ(本体価格452万円)に試乗した。
先ほどのGと較べるとやはり19インチホイールの印象が良い。
例えばカラーヘッドアップディスプレイやカラードリアスポイラー、
ラゲージルームのちょっとした加飾や他グレードとの差別化が
所有欲を高めている点はさすがトヨタと言える。
内装も標準の合皮のコンビシートだったが、
座ってしまえば私が気に入らないファブリックの熱溶着代が
隠れてまぁいいかと思えた。



この試乗車には調光パノラマルーフが着いていたが、
これには妻から「すごーい」という歓声が上がった。
やはりかっこつけて乗る為の車なので
ハリアーを買うならZという思いが固まり始めた。

試乗するとHV車特有のEV走行時のスムースさにいつも驚かされる。
店舗を出て緩い上り坂の直線道路を加速させると
4人乗車なのにモーターだけでもしっかり加速する点に感心した。
120ps/20.6kgmという強力なモーターは
1.7tの車体をそれなりに引っ張ってくれる。

HVのパワーメーターがECOのEV領域を越えるとE/Gが始動する。
2.5L、178psのE/Gのパワーとモーターのパワーが混ざり合って
システム最高出力は218psという余裕ある性能を発揮する。
先代のような緩慢な加速と暴力的な加速の間を
行ったり来たりするような味付けではなく
全域で力強さが感じられる点は
価格が高いなりの差を感じさせてくれる。

だが、しかしながら、残念ながらここでも
聞こえてくるE/G音はザラザラと耳障りでがっかりしてしまった。
何でこんなにうるさいのかよ?
と大泉逸郎さんに聞いてみたくなるほどだ。
ステアリングを握る手にもE/Gの鼓動が伝わって来る事が分かる。
(EV走行中にその振動か感じない)

思い返せばダイナミックフォースエンジンの車にたくさん試乗してきた。
RAV4、UX、ヤリス、今回のハリアー。
トヨタの新型E/G群はどれも似たような音質で好ましくないが
ニュースリリースでこのE/G達はどれも高速燃焼というキーワードで
世界最高の熱効率を達成していると記されていた。
短時間で燃焼させれば大きな圧力変動が生じて騒音を発するし、
軽量化の為にE/Gブロックを軽量化すれば音の原因にもなる。
本来はE/G騒音の低減、或いは音質にもこだわるべきだと思うが、
世界最高水準の熱効率という
明確な数値目標が先行してしまったように感じられる。

E/Gがどうしても騒がしいなら予算を車体側につけて
騒音を緩和する施策を検討しなくてはならないはずなのに
あまりその痕跡を感じない点が自動車メーカーの施策として気になる。
一旦気にし始めると「うるさい車だな」という印象が拭い去れないが、
試乗後、後席の妻からも
「E/Gかかったらうるさいね、すぐ分かる」と指摘されるほどだった。
これまでのHV車は一生懸命E/G始動時のショックを
如何にシームレスに繋げるかを追求してきたし、
E/Gもしっかり黒子に徹してきた経緯を考えると、
今回のダイナミックフォースE/Gは自身が発する騒音について
もう少し配慮して然るべきだろう。

試乗して2.0Lよりも2.5HVの方が静粛性が上がり
価格差分のヒエラルキーを感じるが、
絶対評価で言えばどちらも騒がしい。
開発した人は試作車に乗ってみて誰もうるさいと感じなかったのか。

先代までのハリアーは一般道なら高級感のある乗り味も楽しめたが、
新型は元気で騒がしいE/Gが大きなノイズを出すことで
ハリアーにとって必要な高級感を確実にスポイルしている。

このNV性能以外の動力性は申し分なかったし、
乗り心地も19インチを履いている割には上々であった。
そういう意味でNVの悪さにがっかりだ。

●バリエーション展開


先代までのバリエーション展開とは異なり、
新型ハリアーは300万円を切るベーシックなS(299万円)、
中間的なG系(341万円)、ハリアーらしい世界観を保持した
Z系(393万円)の3グレード構成だ。(価格は全て2.0L_FF)

HVは+59万円、4WDは+22万円(ガソリン)、
+20万円(E-FOUR)、と分かり易い。
また、GとZにはレザーPKGの設定がありこちらは30万円。

最も価格が高い仕様はZレザーPKGのHV E-FOURの504万円だ。
最廉価と205万円も開きがある車は現代では珍しい。

HVは+59万円だが、税制優遇で
15万円ほど諸費用が安くなるので実質的に+44万円だ。
E/Gの排気量が500cc、出力が47ps違うので妥当な価格差と考える。

先代ハリアーではGRANDという279万円の最廉価グレードがあった。
2代目240Gの価格帯を意識して、クロスシートに16インチ鉄ホイール
など廉価グレード感あふれる稀少グレードだったが、
マイナーチェンジで廃止されて
ELEGANCEが最廉価となり295万円がスタート価格に変わった。
新型Sのスタート価格299万円なので実質価格据え置きだ。

新型の最廉価グレードSの装備をチェックすると、
左右独立温度コントロールフルオートエアコン、本革巻きステアリング、
全ドアAUTOパワーウィンドゥ、LEDヘッドランプ(AHB)、
17インチアルミホール、サイドターンライト付電格リモコンドアミラー、
8インチディスプレイオーディオ、EPB、スマートキーが備わる。
機能としてはこれで十分なので、このグレードで良い!と
即時判断できる方が一番賢くハリアーに乗ることが出来る。



RAV4のX(約261万円)と較べれば本革ステアリングや
インテリジェントクリソナ、
バックガイドモニターが備わる分仕様的には上位にあるが、
ハリアーとの差額38万円の中でも装備差額の一部しか
説明がつかず、他はハリアー代ということになる。
新型ではSとそれ以外の差別化がなかなか酷いので、
実質的に中間的なGとZの比較でグレード選びが始まる。

例えば+42万円のG(341万円)では内外装がグッとランクアップされる。
Sの装備に加え、デジタルインナーミラー(8.8万円)、
電動チルテレ、合皮コンビシート、
D席パワーシート、Frメッキスカッフプレート、
室内イルミ、スーパーUVカットガラス(1.5万円)、
パワーバックドア(6万円)、
プロジェクターLEDヘッドライト(AHB)、LEDフォグランプ(5万円)、
雨滴感知ワイパー、メーター内液晶サイズアップ、バンパーメッキモール追加、
18インチホイール(差額4.4万円)、マフラーカッター楕円化(Sは真円)、
フェンダーライナー吸音化(Fr)など一気に追加装備が増えるのが特徴だ。
価格が分かるものだけでも25.7万円分の装備が追加される。
内装色のバリエーションも増えて選ぶ楽しみも増え、
ハリアーらしい世界観を楽しむには少なくともG以上がお勧めだ。



最上級は+52万円でZ(393万円)となる。
カラーヘッドアップディスプレイ(4.4万円)、
ドアスカッフプレート(3万円)、19インチアルミホイール(差額4.4万円)、
カラードリアスポイラー(4万円)、LEDハイマウントストップランプ(ロング)、
ドアミラー足元照明、ハンズフリーパワーバックドア(差額1.6万円)
12.3インチディスプレイ+SDナビ+JBLサウンドシステム+ETC2.0(37万円)、
RCTB+BSM(6.8万円)、ラゲージ加飾が追加される。
価格が分かっている装備品で61.2万円分の装備が追加されるため、
予算が許せばハリアーが持つ世界観を100%楽しめることは間違いない。
加えてZに限りパノラミックビューモニターと
調光パノラマルーフのOPT設定があり、高級車ハリアーの世界が楽しめる。



●オススメグレードは2.0_Z

この中で仮に友達に勧めるオススメグレードを考えた時、
まずSはドロップする。特別仕様車のベースとして考えると有望だが
車格を考えると素っ気無さ過ぎるのでG以上を薦めたい。

GかZかを決定付ける要素は
内外装の差別化、或いは37万円のカーナビに魅力を感じるかどうかだ。
旧ハリアーのOPT価格は約41万円であった為、
ETC込みであることも考慮すれば多少割安になった部分だが、
エントリーナビで十分、ETCも普通ので十分という方なら
約10万円で済むため、ここで大いに差が出る。

私の価値観だとGにエントリーナビで十分、
と言いたくなるのだがハリアーという性格上、
「ええカッコしたい」「見栄を張りたい」
などという煩悩にある程度支配されるべきでZがベターと判断。
カタログを眺めていても異例といえるほどZ以外のグレードが掲載されていない。
GとSはカタログのグレード紹介のページで初めて全貌を知る事になる。
よっぽどZを売りたいのだろう。

友達に勧める前提で見積もりを作成していただいた。
ハリアー2.0Z プレシャスブラックパール
車両本体:393万円

プレシャスブラックパール(5.5万円)
パノラミックビューモニター(6万円)
寒冷地仕様(1.8万円)
調光パノラマ(19.8万円)
おくだけ充電(1.3万円)
内装色ブラウン(0円)
合計:34.4万円

ハリアーといえば黒でしょ!という定番色を選択。
黒は手入れが難しいが、自己復元機能を持たせた黒は興味深い。
個人的にはちょっと外したスレートグレーが気に入っている。
パノラミックビューモニターは大柄な車には必要。
寒冷地は追加装備が機能的。
調光パノラマは完全にモテ目的で
誰かを乗せてドヤる用だ。
おくだけ充電をわざわざ追加したのは、
伊達車の内装に散らかる充電ケーブルが美しくないからだ。

自分が家族と乗るならスレートグレーの
パノラミックビュー+寒冷地+内装色変更で
合計7.8万円で十分楽しめそうだ。

付属品は
ロイヤルタイプフロアマット(2.9万円)
トノカバー(2.5万円)
ドアハンドルプロテクションフィルム(1.4万円)
ナンバーフレーム(0.7万円)
ETC手数料(0.4万円)
ボディコート(7.7万円)
合計:15.6万円
最上級でドラレコもETCもナビも
標準なら敢えて追加するものがない。

諸費用は約33万円(延長保証+メンテナンスパック含)

支払い合計は476万円となった。
2LのSUVがこれほどまでの価格になるというのは相当な驚きだ。

2.5HVは確かに動的性能がグッと向上するが、
価格に見合った静粛性があるとは言いがたく、
高速道路の使用頻度が多いとか渋滞が多いなど
HVの魅力が感じられる使い方の方にだけ薦めたい。

一応、2.5HVのGでも見積もっていただいたが、本体400万円、
MOP:14.3万円(1500W+RCTB+BSMなど)、
付属品27万円(エントリーナビ、トノカバーなど)、
諸費用14万円(重量税+自動車税環境割が免除)。
合計支払額が455万円となった。

私は見積もる勇気がなかったが、
HVのZレザーパッケージ(車両本体482万円)で
支払い総額548万円という見積もりを知人がPDFで送ってくれた。

手元にある古本「1994年の国産車購入ガイド」に拠れば
ランドクルーザー80ワゴンVXリミテッド(本体396.9万円)の
購入支払い例で約450万円、
4500ccの堂々たる本格オフローダーが買えたし、
セダンなら、セルシオA仕様(本体481万円)も
総額543万円の支払い例が出ていた。
スペシャルティ路線ならソアラ4.0GT-L(440.1万円)など
オーバー4000cc級の車選びが出来た。



ここでサラリーマンの給与水準を比較すると
1994 (平6):486万円 /2019 (令1):441万円
という状況なので、新型ハリアーの価格は1994年に
販売されていた乗用車よりも確実に高いと言える。
勿論、安全・環境対策にコストを使っている事は百も承知だが、
改めて車両価格で比較すれば近年の車の価格が
給与水準の比較からでも高い事が良く分かる。

●まとめ


新型ハリアーはトヨタが苦手とする若年層から
一定の支持が得られている稀有なモデルの一つだ。
若年層が廉価グレードを頑張って購入し、
そこにSUVシフトを感じた所得に余裕のある中高年層が
上級グレードを買い求める構図で、
私は現代のマークIIなどと表現したりしてきた。

新型ハリアーは内外装に全力投球しただけあって
ショールームで眺め、運転席に座ってみるだけで
「これはいいな」と酔わせる要素を持っている。

一方で運転してみると、市街地走行ですら気になる
E/Gノイズやこもり音やステアリング振動にがっかりした。
先代の場合、市街地走行レベルなら乗り心地が良く静かな車だったが、
高速走行では力不足を感じるシーンもあっただけに、
走らせた印象は先代よりも悪い印象を持った。

ハリアーの世界観を考えると
コスパがいいのは2.0ガソリンのZだが、
それでも税込み393万円で私がとった見積もりでは
総額476万円と立派な高級車の価格帯だ。

2代目ハリアーが若者によく売れたのは
廉価な240Gでも当時のレベルで十分「高見え」したからだ。
総額300万円で240Gに社外ナビを付けて乗り出せた。
果たして新型ハリアーはお買い得な車だろうか。
うんと背伸びしてローンを払う価値のある上質な乗り味だろうか。

先代のチーフエンジニアは「60km/hまでの領域で開発しろ」と
厳命したとすべて本で読んだような記憶があるが、
確かに先代ハリアーはその割りきりが明快で、ある領域では十分満足できた。
個人的にはハリアーには今の販売価格を3万円上げてでもNV対策をすべきだ。



現状、4万5千台という強烈な受注実績を上げた。
車も見ずに、試乗もせずに先代以上の売れ行きであることは
歴代ハリアーの信用も貢献しているだろうが、
新型がとても魅力的だという事に他ならないだろう。

今後、徐々に納車された初期型オーナーから
NVに対する不満が出るのかどうか気になるところだ。

もし星をつけるとしたら現状で★2つだ。
NVが改善されて★3つとしたい。
2020年04月07日 イイね!

2020年式トヨタヤリス感想文

2020年式トヨタヤリス感想文●20年を経て名前が変わった
2020年2月。
トヨタから新型ヤリスが発売された。
欧州・日本を主戦場にBセグメントの基幹車種
として力を入れて開発されたオーラをひしひしと感じる。

1999年1月、トヨタはそれまでのスターレットに代わる
新世代コンパクトとしてヴィッツ(輸出名ヤリス)を発売。
全長3600mmの短い全長に2370mmのロングホイールベースに加え、
当時としては背が高い1500mmという全高のおかげで
広々としたキャビンが与えられた。
ルノートゥインゴをお手本にしたと考えられる
センターメーターやRrはスライド機構、
ダブルフォールディング機構を備えた。



組み合わされるメカニズムも新世代のプラットフォームにより
アスファルトシートを廃して面剛性でNV向上を果たした
曲面フロアパネルやオールアルミ4気筒1.0L VVT-iエンジンに
電子制御4速AT、Rrイータビームサスペンションを採用するなど
80年代を引きずったスターレットと完全に決別した
2000年代のメカニズムをギリシャ人デザイナーの
キュートな意匠で包み、トヨタの明るいヒット作となった。
特に自動車用ボディカラーとしてキャディラック以来?
のピンクに挑戦した「ペールローズメタリックオパール」は
ピンクでありながら見る角度によっては青みがかって見えヒットした。
今でも中高年の女性が駆るピンクのヴィッツを見かける。
初代ヴィッツのキャッチコピーは「21世紀MyCar」。
欧州市場も見据えたパーソナルカーをトヨタが再定義したと言えるほど
偉大な車種だと考えており、現に私も中古車で初代ヴィッツを楽しんだ一人だ。
経済的なBセグでありながら装備は充実し見やすいセンターメーター、
ヒップポイントの高さで見晴らしの良い運転姿勢で運転が楽だったし、
Rrシートに人を乗せても収まるし、最低限のサイズだった荷室は
Rrシートスライドやダブルフィールディングで拡張できた。
まだまだ若手サラリーマンだった私は高速1000円を活用してヴィッツで
埼玉の祖父母を訪ねたり、仲間と仙台に牛タンを日帰りで食べに行ったり、
高速道路を一周して中国道で「わに定食」を食べに行ったり、
スノーボードに行ったり、
或いは郡上踊りに参加したりとアクティブに楽しませてもらった。
初代ヴィッツは私のとって大切な記憶の中にある
欧風パーソナルカーだった。



簡単に初代を振り返ったが、デビュー当初からヴィッツは
あくまでも小さいことを大切にして
前席優先のパーソナルユースを主体に考えており、
80年代的な2BOXエントリーカーブームが作った枠組みから、
日本市場の中心車種としてのBセグに進化する橋渡しをした
重要なモデルだと私は考える。


●新型ヤリス

2020年2月。従来のヴィッツからヤリスに名称が統一されて4代目となった。
この20年間で初代の革新度合いから徐々にトヨタのBセグに個性が薄れ、
大きな個性を持たないことが特徴になっていた。
すなわち、フィットやノートほど居住性を売りにしない。
デミオほどパーソナル感、高級感を追わない、
パッソほど女性・高齢者向けにぜず、
マーチ・ミラージュほど低価格にもしない。
営業車グレードから女性向け、シニア向け、
若者向けスポーツグレードまで幅広くラインナップして
お客さんを取りこぼさぬよう、面で戦う車になった。
同じ方向性にスイフトが居るが、あれもこれもと欲張る中で、
徐々にヴィッツのプレゼンスは低下し続け、
同じトヨタの中でも燃費に特化したアクアの後塵を拝していた。

そこに新世代のTNGAを取り入れた4代目ヤリスが登場した。
新しいP/Fはカウル部の溶接ガン逃げ穴の廃止や閉じ断面の活用、
シートのフロア直付けなど他のTNGAと共通する部分もあるが、
廉価であることが求めれられるBセグとして
Rrサスにトーションビーム式が採用された。
4WDにはダブルウィッシュボーンの準備があるので、
旧い話だが9代目カローラのP/Fを思い出させる。
3代目ヴィッツのP/Fは2代目の焼き直しだったので
久々に新世代のP/Fが与えられている。



3940mm×1695mm×1490mm、WB2550mmのサイズは
初代と較べると大きくなったが、
フェリー料金が割安な4m切りで5枠の車幅に収めている。
海外仕様では3ナンバーサイズになると言われており、
ヤリスはヤリスなりに日本市場にも配慮している。

搭載されるエンジンはシンプルに3種類。
先代から継続の1KR型3気筒1.0Lエンジンと
新開発のM15A型3気筒1.5Lエンジンのノーマル車と
HV車の2種類の味付けが存在する。
型式からも分かるようにRAV4やUXに搭載されるM20A型から
1気筒減らしたモジュラーエンジンであり、ボアストも共通である。
全グレード3気筒となった事でサイドメンバーの形状に自由度が生まれ、
先代のように小回り性能を悪化させずに大径タイヤを履いている。

中でも新開発1.5Lエンジンはノーマル車にバランスシャフトを採用。
当方がバランスシャフト付のシャレードやジャスティに試乗した経験上
ブルブル振動が酷い直3エンジンの処方箋として
バランスシャフトこそが必須だと感じていたのでようやく来たか!
と期待している。



ちなみにHVも同じくM15A型なのだが
バランスシャフトが省かれてパワーが若干落とされている。
モーターとの合わせ技で使用するE/Gは
ドライバビリティや気持ちよさよりも効率の良さが最大限求められる。
E/G単体で頑張るシーンは高速走行くらいであり
そうであれば出力は小さくても構わないと言うことだ。

対面したヤリスは旧型よりも車全体が凝縮されたようなイメージで、
ぼんやりとピントがズレてきたキャラクターに終止符を打ち、
最小単位のドライバーズカーにしっかり照準を合わせ直したらしい。



カタログの表紙を飾るヤリスはとれたてトマトの如く
元気一杯な赤と黒い屋根のツートン。
パラボラLEDヘッドライトにアルミホイールが備わっている。
顔つきは先代のイメージを継承し、
目を吊り上げ大きく口を開けた怒り顔ルックだ。

サイドはいたずらに立派に見せようとせず、ドアとクオータのレリーフで
ロングノーズ/ショートデッキ感を演出。
ロッカー部分が上級モデル並の樹脂モールになっている点に進化を感じる。
空力性能や飛び石による傷付き性に大して有効な装備なのでメリットがある、
Rrドアが小さめなのは日本カローラ同様に前席優先コンセプトだかだろう。
先代のヴィッツ時代からすでに前席優先のコンセプトであったが、
今回になりそれが加速した。

ハッチバック車の見せ場はバックドア回りであるが、
ヤリスは非常にうまく行っている。
クオーターに入り込んだRrコンビネーションランプに繋がるイメージで
バックドアに付いたライセンスガーニッシュ。
実はこのライセンスガーニッシュは光らないのだが、
Rrコンビランプとの面のつながりによりいかにも光りそうにしてある。
MAG-Xではバッチリ光るような予想イラストだったので
関係者は「ザマーミロ」とほくそ笑んでいたことだろう。
光りそうなくせに光らないことはダサいという人も居るかもしれない。
私は意匠の専門家ではないがライセンスガーニッシュの造形のお陰で
小ぶりなRrコンビランプがアンバランスにならず、
Rrビューに安定感を加えてヤリスならでは表情を与えられたのはお見事だ。

エクステリアの印象をまとめると、顔つき以外はヤリスらしいと
好意的に受け止めているが顔つきが好みとは違った。
怒り顔なのにとバンパー奥に見える銀のナットが悪い意味で目立つ。
まるで歯に青海苔が着いた人のように見えるし、
バンパーサイドの大きな土地は
フォグランプが付かないと全然引き締まらない。
マツダ2がフォグを廃止してので大慌てで
外したのかなと勘ぐってしまうほどだ。
初代ヴィッツのハムスターのような
可愛いらしいFrマスクの方が私の好みだ。

インテリアは新機構が盛り込まれるも全体的に質感が不足気味である。
マツダを大いに意識した感のあるステアリングの前には
X系グレードでアナログメーター(タコ付き)、
G+Z系では液晶メーターが備わる。
中央にはカローラでおなじみのディスプレイオーディオを配置し、
その下にレジスター、空調操作パネルが並ぶ。
他車で実施されているようなステッチや高触感素材を用いていないが、
決してチープではないがトレンドを牽引するほど前衛的でもないのは
個人的にはかつてのトヨタらしく好感を持った。



しかしながら、Frドアトリムの素材はいただけなかった。
基本的には硬質樹脂製だが、従来ならソフトパッドや
クロスが貼られているような部分に
不織布を接着した天井素材のような材質(例えると天井のような)
が使われているが接触後の表皮の耐毛羽立ち磨耗性や
ゲリラ豪雨時の乗降時に水濡れ性が心配になってしまう材料だった。
仮に上記性能が満足していても高級感は感じられないし、
普通の材料の方が良かった。

そんな中、好意的に感じたのもドアトリムだ。
トリムに配置されたインサイドハンドルの操作性とPWスイッチと
取っ手の位置関係が秀逸だ。
カローラスポーツやRAV4はスイッチの操作性が悪かったり、
ドアを閉める際の操作力が重いなどの使い勝手の悪さが気になっていたが、
ヤリスでは前後方向に短いドアが良かったのか上手に配置して
その性能も犠牲になっていない点に工夫を感じた。

シートは色々と新しい?技術が投入されている。
ヴィッツ以来のパッケージングが変わってヒップポイントを低くした
デメリットを補填する意味合いで「運転席イージーリターン機能」と
「ターンチルトシート」を一部グレードに設定した。

例えば、降車時にシートを後方にスライドして降りた後で
乗車する場合、シート位置の微調整を行わなくてはならないが、
イージーリターン機能の場合、
専用レバーを引けばシートが後方に大きくスライドする。
再乗車する場合は専用レバーを引けばもともとの前後位置に復帰する為、
シート調整の手間が省けると言うのがウリで、
LS500hのようにE/Gを切ると
パワーシートが乗降に適した位置に動いてくれる機能の
一部を手動化したような装備だ。
私も使用してみたが、自分自身に乗降時にシートを引く習慣がないので
あまりメリットは感じなかった。
妻と共用しているデミオの場合、慎重さゆえに私が
乗り込む前に毎回シートを後にずらすが、
イージーリーターン機構を使っても乗り込んだ後シートスライドで元に戻すと
妻用のシート位置になるために窮屈で結局再調整するだろうから
私には活躍の場がイメージしにくい。

その点、シートが回転しながらチルトしてくれる「ターンチルトシート」は
福祉車両でおなじみの機構を簡素化したものなので利便性は折り紙つきだ。
ただし、毎回自分でターンチルト可能位置まで
目印を見ながらスライド位置を合わせ、
レバー操作で回転させるとは到底思えない。
私はいつも和服を着るわけでもないし、タイトなスカートを履くこともないが、
女性が自分で運転する時に真価を発揮するかもしれない。
ちょっと気になるのはこの機能、運転席が8.8万円、助手席が9万円、
両方セットは17.6万円というびっくりオプション価格なのだ。
この高価格の秘密は恐らく一脚20kgという質量増加が大きく寄与している。
つまりシートの様に大変強度が必要な部品故に
可動部の強度・剛性が必要なのだろう。
そしてそれとは引き換えにハイトアジャスターも装備されなくなる。
一時のミニバンで指摘された「畳む為のシート」ではなく、
ヤリスのそれは「乗降する為のシート」になってしまっている。
少々技に溺れたのかなと言うのがシートに関する感想だ。



ヤリスのシートはシルエットが二種類あり、
最もベーシックなのがヘッドレスト一体のハイバックシートだ。
先代から設定があったが、デザインを一新しながらも継続されたのは
部品点数を減らしてコストを下げるだけでなく、
後述のグレードアップをさせるための落差の演出も兼ねている。
二つ目のシートはZに標準装備でGにオプション設定されるローバックシートだ。
ヘッドレスト分離式不思議と高級感がある。
このシートはGに5万円のセットオプションで選択可能となる。

前席優先のパッケージングだけあって運転席に座っている限り
至って普通のコンパクトカーの運転席だ。
低めに座らせるが決して尖った部分は無い。
初代ヴィッツのようにヒップポイントが高いとか
センターメーターというびっくりするような特徴は無い。
一方後席は、完全に意図的に無視された部分で明確に狭い。
延長されたホイールベースはドラポジ適正化
(低く座らせて手足を投げ出すこと)
に使われており後席は割り切られているのだが、
私が座ってみた感じでは決して適当に作られているわけではなく、
しっかり身体が収まるように作られている。
頭はしっかり納まるし、太ももを支えてくれるので姿勢も決まる。
ただし、チャイルドシートを取り付けた際にドアの開度や
開口のサイズが小さくチャイルドシートが通過できるギリギリだった。
後席の割り切り度はデミオ(マツダ2)でも
高いと感じていたが、ヤリスは最高レベルだ。
一応子供と出かけられるが、推奨はしない。
同じトヨタブランドでもパッソの方が乗せ降ろしは楽かもしれないし、
スイングドア系ではライズがさらに上を行く。
他の選択肢があるわけだからヤリスは明確に前席を優先したはずだ。
妻からは「狭い、これは狭すぎる」と言われたが、
狭いと評判のデミオ基準で考えても
あからさまに狭いのが後席の特徴と言えるだろう。

●各バリエーションに試乗


1.0L G
近距離メインの使い方に適した乗り味。
アクセルを踏むと走り出す、マジで。ちょっと 感動。
市街地の流れに乗るには少しアクセル開度が大きくならざるを得ないが、
E/G音が騒がしくなる他は市街地なら十分だろう。
従来からのヴィッツのキャラクターと変わらず。
軽自動車と較べて決定的な優位点が見つけにくい
近所へのお買い物ニーズではGの装備でも若干の過剰感があるが、
従来のヴィッツと共通のE/Gだからこそモデルチェンジ分の進化が
一番感じられるのが1.0Lかも知れない。

1.5L X
個人的に一番注目していたのは1.5Lエンジンだった。
BMWのように直列3気筒を採用し、
どんな乗り味なのか楽しみにしていた。
E/G始動ですぐ分かる雑味のある音に驚いた。
バランスシャフトが着いているのに明確なアイドル振動を感じる。
(N→Dで明らかに変わる)
走らせると、排気干渉がなく
低速トルクが豊かな3気筒E/Gの特性を活かし、
比較的ハイギアを選びたがる変速特性だ。
グイグイ脈動を感じさせながら加速する元気な性格は良い。
見やすいアナログメーターのタコメータが2000rpm以下を
指しながらも十分な加速が可能なのはE/Gがしっかりトルクを
出しているからなのだとすぐにわかった。
私が運転してきた従来のヴィッツでは感じなかった感覚だ。
友達の初代ヴィッツのRS(スーパーECT)はよく運転した。
専用マフラーによる太い排気音と力強い加速が楽しめたが、
これと較べると、荒々しいまでの力強さは美点だが、
E/Gから発せられるノイズは何でこんなにうるさいのか
信じられないほどうるさいし、
その脈動は実用車として不適当なほどだ。
バランスシャフトが着いているのに何だか洗練されておらず
今までヴィッツとは明らかに異質だった。
(不要?時に停止するバランスシャフトが関係しているのかもしれない)

安っぽいという表現とも合わなず「荒々しさ」という表現がぴったりくる。
TNGAの効果で軽さと乗り心地のよさを確かに味わえるが
E/G由来の荒々しい乗り味は洗練とは程遠いものであった。
ステアリングを伝わる振動は客観的にはフィットや
妻のデミオとも変わらないレベルなのかもしれないが
E/G音から来る悪い印象が全てのNV体験をスポイルしている。
新しい熱効率40%の凄いE/Gは相当無理をしているのかもしれない。

私は軽自動車を除いても
複数の直列3気筒E/Gを積んだ車両を運転してきたが、
これほどまでに荒々しい存在感を見せた車は初めてだ。
二代目シャレードやジャスティを引っ張り出すのは
時代が違いすぎるというなら、
現行マーチもミラージュもスイフトRSも、旧208もTクロスも
これほどまでネガティブな印象をもたらさなかったのだが。

従来のヴィッツに積まれた直列4気筒1.3Lは良くも悪くも普通のE/Gだった。
絶対的な加速やアクセルに対するツキはヤリスの方が優れているが、
全体的な静粛性はヴィッツの方に軍配を上げる人が現れてもおかしくは無い。
私は何回も先代の1.3Lのヴィッツを運転したが
こんなにうるさいと思ったことは無かった。

ヤリスは日本市場で純トヨタとしてのボトムエンドを担うわけだから
もう少し直4から乗り換えてもネガティブな感想を
抱かせない直3であって欲しかった。
現状は期待はずれ。今後の熟成に期待。

1.5L HV_X
新しいE/Gに新しいHVなのでもっとも先進的なドライブが楽しめそうな
ユニットがこの1.5HVである。E/Gは91ps、モーターは80PSを発揮。
システム最高出力は116psとなり、
従来の100psのヴィッツHVよりも優れた出力を誇る。
実際に運転してみると、近頃のトヨタ車同様に
モーターで走れる距離が明らかに伸びていて、
かつモーターだけで加速できる加速度も上がっているので、
市街地を大人しく試乗しただけだとモーターだけで走り続けられてしまう。
上り坂を登った際に中盤までモーターだけで登ろうとしたのには技術の進歩を感じた。



一方、E/Gがかかる際は比較的高回転でE/Gが回るので
振動よりも騒音が気になった。
E/G動力を使用するようなシーンでは
やはり普通のガソリン車で感じた騒がしさだけでなく、
E/G始動や停止時の振動を感じることもあった。
(特に始動停止の瞬間や停車中に発電の為にE/Gが回るシーンで顕著)
調べたところ、HV車用のE/Gはバランスシャフトを廃止しているそうで、
その理由は「バランスシャフトが必要になる領域は使わない」との事で
EV領域拡大の影で直列三気筒にとって大切な部品が省かれてしまった。
この不快感は最近ではセレナeパワーで感じたものに似ている。
EV走行の気持ちよさと3気筒エンジンの不快感の二面性がある

1.5L  Z(MT)
短時間だがMT車にも試乗することが出来た。
ヤリスのMTは純然たるMTであり、
カローラスポーツで味わったiMTでは無い。

最初に踏んだクラッチペダルの操作感にフリクション?を感じた。
RAV4やカローラほど重くないのだが、クラッチを切る操作に対して
スッとペダルが奥に入っていかない摩擦感が独特であった。
ペダル操作力自体は直前まで運転していたデミオの方が軽く感じた。
違和感が致命的では無いので、あくまでも指摘ではなく感想レベルだ。

シフト操作性位置、節度感もOKレベルだ。
カローラスポーツでは落胆したが、ヤリスは肘が引っかかるとか
位置が高すぎるなどと言うことは無くベテランドライバーや
MTを愛するドライバーにも受け入れられそうだ。
各段に入っているときの遊びもカローラスポーツよりマシに感じられた。
デミオのフィーリングは気に入っているが、これを基準にすると悪いが、
私のRAV4やカローラと較べれば多少マシでカローラスポーツよりはだいぶマシだ。



先代ヴィッツのGRに乗った際、その気にさせるシャシーに対して
E/Gが残念と厳しい評価を下したが、新型ヤリスはそこよりは一歩進化を感じた。
低速トルクが豊かなので速めに変速するズボラ運転も受け付けてくれる一方、
レッドゾーンまでドラマチックに回るかといわれると少々苦しそうに感じた。
E/Gの方向性としては4A-GEではなく5A-FEのような特性(NVは別)だ。
高回転域の感動はGRヤリスのターボエンジンが担うのだろう。

ヴィッツGRは足回りがガチガチだったが、
ヤリスZはあくまでも実用然とした味付けで普通なのが良い。
自分が昔乗っていた初代ヴィッツのUユーロスポーツを髣髴とさせる
柔らかめの足を持つドライバーズカーというキャラクターが与えられて好感を持った。
普通のMT車が減りつつある中でトヨタからも普通のMTを出し、
予算に応じて3グレードの中から選べることも好意的に受け止めている。
(仕様に関しては不満あり)

また、PKBが手動式故にACCが全車速では無い点に
否定的な論調があるがMTであればそもそも全車速では無いので
デメリットも一つ消すことができる。

CVT車の試乗で幻滅したE/G音自体は変化は無いが、
CVTでは不満だったブルブル感はMTであれば何とか許容できたし、
自分でギアを選択して操ることができるだけで★を1個サービスできる。

ただし、過去に試乗した先代のプジョー208の1.2LのMT車は
3気筒を感じさせない走りが出来ていたと記憶している。
それと較べてしまうとちょっと情けない。
あくまでもE/Gの改良が求められる。
これくらいのシャシーならカローラスポーツの
1.2T×6速MTの組合せでも快活に走れそうなのに設定が無いのが残念。


●ヤリスをお買い得に買うには忍耐力が必要
ヤリスのグレード構成は明快だ。
ベーシックなX、中間のG、最上級のZの3種類。
それぞれに1.5LガソリンとそのHVが選べる。
1.0LエンジンはXとGに設定があり、
特に法人需要を狙って
1.0LのみX_Bパッケージが用意される。

販売のメインとなる
FF_CVT車の税込価格をまとめた

1.0X_B_PKG:139.5万円
1.0X:145.5万円
1.0G:161.3万円

1.5X:159.8万円
1.5G:175.6万円
1.5Z:187.1万円
(6MT車は-5.5万円)

1.5X_HV:199.8万円
1.5G_HV:213.0万円
1.5Z_HV:229.5万円


エントリーグレードのX_B_PKGは
トヨタセーフティセンス(以下TSS)が
非装着であること以外はXと変わらない。
つまり価格差の6万円がTSS代金となる。
最廉価といえどもでも装飾的な装備は備わらないが、
ワイヤレスドアロック、マニュアルA/Cや
7インチディスプレイオーディオ、タコメーターや
コンライト、リアワイパー、自動格納電動ドアミラー、
ホイールキャップが備わる為内容的に
Bセグメントの実用車として困るほどの事は無い。
税抜価格126.8万円という絶対値は
初代ヴィッツの1.0Fの92.8万円や
併売中のヴィッツ1.0Fの122.7万円と比較すれば
自動車価格の上昇は否めないが、
3代目ヴィッツ1.0Fで4.4万円のOPT装備だった
サイドエアバッグとカーテンエアバッグが
ついに標準化されたことは評価できる。

TSS付きのXでは豊富なメーカーオプション設定があるが、
インテリジェントクリアランスソナー(ICS:2.9万円)や
ブラインドスポットモニター(BSM:10万円)などの安全装備の他
バックモニター(1.7万円)やスマートキー(3.5万円)の様な
機能装備に加えて既に上で触れた
ターンチルトシートのOPT設定(8.8万円/9万円/17.6万円)が加わる。

中級のGはデジタルメーター、スマートキー、
スーパーUVカットガラス、Rrスパッツ、
内装オーナメントのピアノブラック化、
ディスプレイオーディオの8インチ化、6スピーカー化に加え、
オートエアコン(HVはXもオート)などが
追加されて15.8万円の追加料金だ。

Gはメーカーオプションの品目にドレスアップ要素が加わり、
例えば15インチアルミホイール(5.9万円)、
3灯フルLEDヘッドライト(8.3万円)、
コンフォートシートセット(5.2万円)、
2トーンカラー(5.5万円/7.7万円)などだ。

1.5Lのみ設定の上級グレードZは
ホイールが15インチにサイズアップされ、
前後バンパーの素地色部分が黒艶塗装に変わる。
ベルトラインモールもサテンメッキとなり、
Rrスポイラーも専用の大型タイプとなるので
見た目でしっかり差別化されている。
時間調整式ワイパー、本革ステアリング+シフトノブ、
専用ローバックシート(イージーリターン付き)、
ソフトパッドのI/Pオーナメント、ナノイー等々の+α装備が加わり、
1.5Gに11.5万円の差額で手に入るのだが、
ヘッドライト以外の装備が3.2万円で得られるなら、
一定のお買い得感がある。

ZはGではオプション扱いのLEDヘッドライトや
ローバックシートが最初から備わる。
Zではさらに16インチアルミホイール(8.3万円)、
カラーヘッドアップディスプレイ(4.4万円)、
合成皮革シート(1.1万円)などの装備を追加することが出来る。
個人的にはせっかく最上級グレードなのだから
15インチアルミホイールくらいは最上級選択の
ご褒美として標準化して欲しかった。

E/Gによる装備差に着目すると、

1.0Lは市街地ユースに特化した性格ゆえ、
レーダークルコンが備わらず
レーントレーシングアシストではなく、
アラート(警報と逸脱抑制機能)になってしまうが
走りを考えると十分許容できる。

1.5HVはトヨタチームメイト(駐車支援装置)のOP設定(7.7万円)
がある他、オートエアコンが全車に標準装備される。

HVと言えども数あるE/Gラインナップのひとつという扱いであり、
カタログで訴求する装備の差も少なくなった。
(恐らく、EV走行があるため、NV対策はHVの方が良いはずだ)

ディーラーで試乗後、見積もりを取った。
ホワイトパールのガソリン車のZ(CVT)は
車両本体価格192万円、
メーカーオプションとして16インチアルミ、
カラーヘッドアップディスプレイ、
パノラミックビューモニター+BSM+RCTB+ICSを追加すると、
合計28.4万円になる。
そこにETC、ボディコート、フロアマットとTコネクトナビを追加すると
用品合計20.4万円となった。
メンテナンスパック(4.6万円)を含んだ諸費用は24.2万円。

支払い総額は265.6万円となった。
1.5L直3のハッチバックがこの価格なのは恐れ入った。

次に、ほとんど同内容のHV_Zで見積もりを取ったが、
こちらも290万を少し切る程度の総額となり、
これほどまで金額が跳ねてしまうのかと驚いた。

販売の中心的なグレードは中間のGだろう。
本体価格が175.6万円とZよりも11.5万円分身近になる。
MOPを選ばずに上記の用品と諸費用をそのまま足せば
175.6万円+44.6万円=220.2万円となり、
値引き+ぼろい下取りがあれば総額200万以下で買えそうな金額になる。

ただし、2020年の新型車としてみれば
ハロゲンヘッドライトやハイバックシートなど仕様的に寂しさが漂う。
確かにカーテンシールドエアバッグやディスプレイオーディオが標準化されたとは言え、
税込価格175.6万円というのは自分が所有するとしても気になる。

カタログ表紙や見開きでセンターを飾る赤いヤリスHV_Gは
素の状態で213.0万円であるが、
LEDヘッドライトと15インチアルミ、2トーンルーフ、
内装色トープ、コンフォートシート、
BSM+RCTB+ICSが着いているので32.3万円のOP料金が追加されて
車両価格245.3万円というとんでもない金額になる。



「見た目も内装も、機能も充実させたい、安全装備も忘れずにね!」
という風にあれもこれもとMOPを全て選んでしまうと大変な事になるのがヤリスだ。

下記の通りGのMOPを整理した。

 ■外装向上系
 15インチアルミ(5.9万円)
 2トーン(5.5万円/7.7万円)

 ■内装充実系
 コンフォートシートセット(5.2万円)
 ターンチルトシート(8.8万円/9万円/17.6万円)

 ■安全向上系
 LEDヘッドライト(8.3万円)
 ICS(2.9万円)
 BSM+RCTB+ICS(10万円)

 ■運転支援系
 バックモニター(1.7万円)
 パノラミックビューモニター(5.0万円)


賢くヤリスGを買うにはそれなりの判断力と忍耐力が求められる。
「基本何もいらないけどハイバックシートだけは嫌だ」
「安全装備だけは充実させたい。あとはどうでも良い」
「昼間しか乗らないからLEDヘッドライトは不要」
「TSSの標準装備分だけでも十分。」
などと抑制的に自分が最低限欲しい内容に留めておかないと
煩悩に支配された瞬間カタログ仕様の素晴らしいけど高いヤリスが待っている。

しかしメーカー側はそれを確実に期待しているだろう。
CMやポスター、カタログには特盛仕様をメインに打ち出しておいて
その仕様を買おうとすると
カタログに記載があるGの価格で買えないのである。。

例えば年老いた親にヤリスを薦めるとする。
高齢者だから安全向上系と運転支援系装備は外せないなら、
175.6万円+10万円+5.0万円=190.6万円となる。
ここでやめるのが正解で、コンフォートシートセット(5.2万円)や
LEDヘッドライト(8.3万円)を追加してしまう、
本体価格がみるみる上がってとお買い得度がどんどん下がる。
「少し予算を足せばZに手が届きますよ。
 実は残価設定ローンという新しい買い方がございます。
 上級グレードの方が残価的にも有利でして・・・」
と彼らの術中にまんまとハマってしまうのだ。



ヤリスは「あれは欲しいけど、それは要らない」
という顧客の選択肢をキチンと確保している点は素晴らしい。
ただ、オプションの選択肢がたくさん用意されているが、
その対価は決してお買い得ではない点に
彼らが言うところの100年に一度の変革の為の資金確保が透けて見える。

目下、自動車市場は右肩下がりに販売台数が減っている。
人口そのものが減少傾向で、若年層の人数が少ない。
その若年層は手取り金額の減少によって
自動車などの高額消費を敬遠している。
一方、長らく自動車産業を支えてきたアクティブシニアは
心身の衰えを痛感せざるを得ない度重なる悲惨な事故を背景に
免許返納が増えていく。

今まで以上に資金が必要なのに販売台数が増えない。
こうなると、販売価格を引き上げる他手段が無い。
しかしヤリスのようなBセグメントは
価格にシビアな顧客がまだまだ居る。
そこで標準仕様を厳選して価格の上昇を抑え、
実際に現代的な装備水準で購入する為には追加で徴収し、
トータルで収益を確保する戦術が取られているものと想像する。

ヤリスは内容的に力が入っていることは確かである。
室内空間の狭さはヤリスの狙いだし、
他の選択肢を用意しているのでOKとしよう。
しかし、新開発3気筒E/Gはノイズがうるさすぎて3気筒の評判を
落としかねないと私は危機感を持った。
音の粒が大きい、まるでタピオカミルクティーを飲んでいる時のように
ドスドスと音の粒が私を襲う。

加えて価格設定も、積み上げていくと
明らかに割高でお買い得だなと感じられない。
トヨタの中では300万円以下で買えるのだから
十分安いと考えているかも知れないが、
その金銭感覚が世間の感覚と大きくずれていると
そろそろ気づかねばならないだろう。

確かに今後のあらゆる自動車の価格は、
研究開発費を稼ぐためにこれからも上がり続けるだろう。
私たち消費者は賢くヤリスを買うためには
私たちも浮き足立って商談をせず、
今まで以上にじっくりと検討ならなければならない。



ヤリスは、シングルかカップルで使用するユーザーなら
大きな不満が無くコンパクトさや走りの力強さが楽しめるだろう。
輸入車も気になるようなコダワリ層だと、
HVでフル装備の価格とトントンなので比較対象になるだろうが、
トヨタ流の耐久性に期待できるものの、
所有する満足感は与えてくれないだろう。

一方でヤリスに向いていないのは、ユーティリティを求めるユーザーと
車に対してこれと言った明確な要望の無い「潰しが聞く車」を
探しているユーザーだ。もう少し他の選択肢を検討したほうが良さそうだ。
Posted at 2020/04/07 23:47:11 | コメント(1) | トラックバック(0) | 感想文_トヨタ・レクサス | クルマ
2019年12月12日 イイね!

2019年式トヨタカローラ/ツーリング感想文

2019年式トヨタカローラ/ツーリング感想文




●要旨
FMCされて12代目となる新型カローラは
TNGAを纏ってついに3ナンバー化が果たされた。
グローバルモデルと似たイメージを継承しながら、
ショートホイールベースのカローラスポーツを基に
セダン化/ワゴン化
したような成り立ちである。
基本的な印象はカローラスポーツと変わらないが、
セダン、ワゴンとしては後席のスペースが
あまりにも犠牲にされている点は気になる。
E/Gは1.8L-HVと1.8Lが選べ、
プリウス譲りの1.8L-HVは良い完成度を維持。
一方で減税されたとはいえども税制面で不利な上、
アイドルストップも備わらない1.8Lは世間の評判は芳しくないものの、
試乗すると実用トルクが十分でCVTも特定のモードに限れば
かなり自然に走ることが出来てコスパ高く満足できた。
全体的にコンパクトなサイズ感もオールマイティー感も無く
中途半端なキャラクターはメーカーの迷いを感じる。
上級グレードばかりが目立ち
お買い得感に乏しいものの、
現状のお勧めグレードは1.8LのSグレード。

●TNGAの波は日本のカローラにも
先代までのカローラは海外で売られていた仕様と
国内で売られていたアクシオ/フィールダーとの間で
P/Fが異なっていたが、TNGA化を機に一気に共通化された。



ただし、グローバル仕様のカローラは
ホイールベースが2700mm
であるのに対して
国内向けは2640mmとカローラスポーツと共通の
ショートホイールベース仕様が選ばれた。
4輪独立懸架の脚、低いエンジンフード、
構造用接着剤の大幅採用による
ボディ減衰性能の向上に至るまで
トヨタが考える新しい車体技術が投入されたのだが、
一方で小型車枠に収まることが出来ず、
日本仕様のカローラとしては
初めての普通車(3ナンバー)となった。

別のブログでも触れたが、
かつて車幅1.7m未満のカペラが
車幅1.7m以上のクロノスにFMCされたとき、
国内市場からは総スカンを食らったという故事がある。

かつて車幅1.7m未満のシルビアが・・・
かつて車幅1.7m未満のアコードが・・・
かつて車幅1.7m未満のイプサムが・・・

ある程度の高価格帯の車は3ナンバー化と馴染んだが、
カローラのようなCセグメントは保有台数が多く、
かつ長年カローラを乗り継いできた固定ファンも居る。
Cセグと言えども輸出比率の高いインプレッサや
ファミリア(=アクセラ)、ランサーは
さらりと3ナンバー化を果たしたものの、
日本を代表する5ナンバーセダンであるカローラは
5ナンバーの呪縛から逃れられないまま
だった。

私も絶対に3ナンバー車が運転できない訳ではないけれど、
5ナンバーの車幅の狭さのお陰でリラックスして運転できる、
物怖じせず路地に入っていける、駐車場でドアを大きく開けられる、
山道で自由なライン取りで走れると言ったメリットを享受してきた。

先代では5ナンバー枠に収める為に
ヴィッツ系のP/Fを改造してカローラを成立させていたが、
ついにカローラを3ナンバー化させるに当たって、
1990年の6代目カローラが打ち立てた年間販売記録を打ち破った
3代目プリウスの車体サイズが参考にされた。
すなわち、車幅は3代目プリウスと同値の1745mmとした。



顧客の多くが高齢者であった3代目プリウスの車幅なら
2019年の日本市場でも許容できる
という判断に至った。
縮小傾向が続くセダン、或いはカローラの市場パイゆえに
プリウスから多少移動があれば良いという考えも合っただろう。
グローバル仕様のカローラは1780mmであるから、35mm車幅が縮小された。

元々カローラにはグローバルで戦うスケールメリットを生かして
日本でハイレベルな商品を提供する
という戦略があった。
上記の通り車幅やホイールベースが異なるため、
完全に共通スペックと言うわけには行かなかったが
久々に海外との関連性を感じられるカローラに近づいた。



カローラのフロントフェイスデザインは、
中国向けセダンで表現するなら
若々しくスポーティな「レビン顔」と「カローラ顔」なる
欧州仕様と共通のオーソドックスかつ高級感がある顔もあったのだが、
日本ではカローラスポーツとのファミリー展開や
非SUVのセダン/ステーションワゴンをスポーティなイメージで
販売したかった模様で前者が選択された。
昔なら欧州顔をカローラ、レビン顔をスプリンターとして売ったかもしれない。

ものの本によると、グローバル仕様と日本仕様では
部分的な共通点はあれど殆どが日本専用形状だと言う。
しかし比較してみると、そうとは分からぬほど同じイメージを保っている。
同一の寸法の車を見違えるように変えることは
ままあることなのだが、違う寸法の車を
同じイメージに似せて作ることは珍しい
ケースだろう。



かくして新型カローラはTNGAが採用されたC-P/Fを用いて
種々の性能がレベルアップされ、グローバルカローラと同じ技術が
投入されることとなった。

●3ナンバーとカローラは馴染まない?
カローラの実車と対面した時に二つの感想が同時に涌いた。

感想1「大きい、これがカローラ?」
感想2「現代のCセグだし、当然これ位のサイズだよな」

既にCセグメントの競合車はとっくに3ナンバー化を果たしている中、
カローラのボディサイズは別に騒ぎ立てる程大きくは無い
・・・にも関わらず「カローラが3ナンバーになった」と考えると
「けしからん、実にけしからん」と強く思う感覚もあるのだ。



じゃあ、カローラ以外のCセグの競合車は3ナンバーでも良いのに
どうしてカローラはダメなの?という私の問いに私自身が答えられない。
「カローラは当然5ナンバー」が普通で
「カローラなのに3ナンバー」だと過剰に映ったということか。

これは私の人生の大部分のシーンで
カローラが必ず5ナンバーだった
からではないだろうか?
きっとカローラはK型エンジンが搭載されるのが普通と思っている人からは
1983年にセダン系でK型が廃止された事が馴染まないだろうし、
カローラはFRが普通と思っている人にとっては
1987年にシリーズ全てがFF化されたときは
「こんなのカローラじゃない」と思ったかも知れない。
くどいがカローラに1.3Lがあることが当たり前だと思っている人からすれば
2006年のカローラ・アクシオこそ許しがたい存在なのかもしれない。

さて、一旦カローラと言う制約を取り除いて
冷静に2019年時点の市場環境、競合車の動向を見ながら
Cセグメントのセダンを作るとどうなりますか?
と考えるとやはり車幅が1.7mを超えるはずだ!?
・・・と自らの硬い頭にゆっくりじっくり説明した。

「もうこんなのはカローラじゃない。
カローラと名付けるのがけしからん!」
という意見も実際に目にしたけれど、
私はむしろ「それでもカローラを残したい」
というトヨタの気概
を感じて好印象だった。
花かんむりマークを残した点も良いではないか。

仕方なかった、という作り手の主張を咀嚼し、
ようやくカローラの3ナンバー化を理解した。
10年前のカローラは上にプレミオ、下にベルタが居り、
ポジショニングに苦慮していたが、
2019年は既にプレミオを下克上し、
カムリと較べて小さく、プレ/アリと
残されたアクシオより大きければ許されるポジションになった。

カローラセダンのボディサイズは4495mm×1745mm×1435mmである。
カローラツーリングのボディサイズもセダンと同じである。

競合のインプレッサG4、シビック、マツダ3は
4640mm×1775mm×1455mm、4650mm×1800mm×1415mm、
4660mm×1795mm×1445mm
であり、
カローラは競合よりも短く、車幅も狭い。

また、海外仕様は4630mm×1790mm×1435mm
海外に重きを置いたライバルに伍した寸法が与えられている。



2000年頃のセダンの横並びを調べると
カローラ1.5Gが4365mm×1965mm×1470mm
インプレッサは4415mm×1695mm×1425mm
シビックは4435mm×1695mm×1440mm、
ファミリアは4315mm×1695mm×1410mmだった。

改めて調べてみたが、大衆車たるこのセグメントは
この約20年で本当に大きくなってしまった。

それならばとトヨタ、スバル、ホンダ、マツダを平均して
10年後の平均的なCセグメントを推定すると
4851mm×1866mm×1438mmだと試算された。

いっそEセグメントと言って差し支えないレベルだが
その頃は自動運転になり、サイズは気にならなくなるかも知れない。

●3ナンバーという響きから連想する程の包容力は無い
世界的な事情があって3ナンバーになったのだという
呪文を唱えながらFr席に座るとカローラスポーツ同様の
まぁ納得できるパッケージング、
内装クオリティ(ドアトリムは嫌いだが)である。
つまり、狭いと言うほど狭くないが、
重い(これはトリムのせい)ドアを
閉めればクラス並みの室内空間が広がっていた。




シートに座った体の中心位置とステアリングのズレも小さく
プリウスと共通の空調コントロールパネルや
ソフトなインパネもグローバルカローラと共通だが、
センターの空調吹き出し口にシャットダイヤルが
装備されていない点はガッチリ原価低減されている。
(カローラスポーツには設定あり)

手で触れる部分は触れると柔らかく高級感がある。
現代の車らしく大きなディスプレイが鎮座しているが、
これもオーディオを最上段に!
というカローラの法則どおりの配置なので驚かない。

次に後席のドアを開けた。
ボディサイズの割りに乗降性が悪い事に気づく。
明らかにドアの前後長が短いからだ。
乗り込むとホイールベースを共有する
カローラスポーツ譲りのタイトな室内空間が待っていた。



ヘッドクリアランスもギリギリOKだし、横方向も余裕がある。
背もたれの角度も適切と言えるのだが、
ちょっとホイールハウス近くが硬質樹脂の為、
身体が当たると、安っぽく感じてしまう。
(乗り降りで邪魔らしく展示車は線傷がついていた)



脚の収まりが悪い。TNGAが持つ共通の欠点だが
例えばホイールベースがある程度長ければ
足の左右方向のズレをレッグルームで吸収するのだが、
TNGAファミリーの中でホイールベースが短めのカローラは不利だ。
着座位置が低いセダン系はレッグルームが必要になり
C-HRの様なSUVよりも脚の収まりの悪さが気になる。

ところで、この着座感は何かに似ている、
と感づいた私はおもむろに手元にあった
6代目カローラのカタログに記載された室内寸法と
新型カローラ(12代目)と比較した。



6代目 :1785mm×1360mm×1150mm
12代目:1830mm×1510mm×1160mm

差分は+45mm、+150mm、10mmという結果になり、
幅以外は6代目カローラと変わらない居住空間といえる。
測定方法の不備は承知の上だが、感覚的にも一致した為、
今回の比較はある程度確からしいと感じている。
(脚の収まりは6代目が優れる)

ところでボディサイズは
6代目 :4195mm×1655mm×1365mm (W/B 2430mm)
12代目:4495mm×1745mm×1435mm (W/B 2640mm)
であり、差分は+300mm、+90mm、+70mm、(+210mm)

室内スペース向上分に対し外形サイズの拡大幅が大きい。
これは年々厳しくなる衝突安全対策で車体は大柄になっても
居住性の改良は思うように行かない
ことも示している。

私はカローラが3ナンバーになる事を一旦納得したが、
6代目カローラ相当の室内スペースを考えると
ちょっと狭いかなと感じてしまった。
私が好きな6代目カローラの後席は決して広くないが、
それでも旧市街地の狭い路地に果敢に挑める
機動性(ボディサイズ)というメリットもあるため納得できた。

国際サイズに進化した12代目たる新型は
こんなに大きいのにこの広さ?という疑問が拭い去れない。
限られた寸法をどう使うかが開発者の腕の見せ所だとして
新型カローラはかなり前席優先に寸法を割り付けている。



海外仕様はホイールベース2700mm仕様がある。
同じホイールベースのプリウスに乗ってみれば後席の
足元スペースはそこまで狭いとは感じないはずだ。
日本でセダンを買うユーザー層は前席しか使わないという
定量的なデータを持っているのか定かでは無いが
明確に後席を割り切ったように思う。
例えば海外仕様には後席用エアコン吹出し口があるが、
日本仕様には設定が無いことからも想像がつく。

ついついセダンと言えば大人4人が落ち着いて乗れる
自動車の基本的なボディスタイルだと考えてしまいがちだが、
実用車はハッチバックが、ファミリーカーはSUV・ミニバンが主流となった今、
セダンは「この形が好きな人のための特別な車」扱いを受けている。
つまり往年のスペシャルティクーペやハードトップの様な
傍流的扱いを受け始めていると言えないだろうか。
カローラセダンはかつて「2+α」を謳った
往年のセレスのようなキャラクターだと思った方が合点が行く。



セダンはボディ剛性が高くスポーティに走れるから
スポーツ性を訴求・・・とかキャビンとラゲッジが
隔てられているからNV性能が良く高級感を訴求してラグジュアリーに・・・
などと間口を狭める極端なポジショニングを採りすぎず、
カローラはバランスの取れたセダンであることが求められていたと思う。
カローラはいいキャラクターを持っているのだが、
かつてのような「つぶしが効く」実力を持っていない点がもどかしい。

セダンの見せ所の一つが独立したトランクルームである。
カローラセダンは後述するツーリングよりも広大な429Lを誇る。



デッキ面もフラットで奇を衒わないラゲッジスペースなのだが
セダンなのにトランクリッドが短く、
バックウィンドゥガラスが後方へ食い込んでいる為
ラゲッジ奥にあるスペースへのアクセスがしにくく、
身体を大きく屈めて覗き込むような姿勢を求められ、
もしかするとスーパーリッドの出番だったのかも知れない。
(今度はヘッドクリアランスにしわ寄せが行く)
あんまり鰻の寝床みたいなトランクの車種ばかりになると、
使いやすさが悪化してセダン離れが加速するだろうし、
いずれベルトコンベアで奥の荷物を
開口部手前まで運んでくれる機構がつく時代が来るやも知れない。

●お侍さんに肝までぶった斬られたショートワゴン?



次にステーションワゴンのツーリングを確認した。
ステーションワゴンとセダンは同じ全長であり、
積載性優先というよりサイズ優先である。

従ってセダン同様に後席の広さが割り切られる。
遊び道具を積み込んで仲間とワイワイ出かけるための
ステーションワゴンなのに本当にこれで良いのかと少々心配になる。

後席どころか荷室もお世辞にも広いなんて言えない。
少なくとも「さすがステーションワゴン!」
というレベルに達していないのではないか。



ゴルフヴァリアントの様にホイールハウス後部が深く落ち込んだ荷室なので
デッキボードに置いた荷物がその窪みに落っこちそうな気になる。



そもそものデッキ高さも高く、さらにデッキ面が傾斜しており、
天井も下がってきているので「これは積めそうだ!」
というワクワク感に乏しい

展示車のHVのデッキボードの下にあった部品を外すと、
HV専用の電気系部品がフロアパンに鎮座していた。



こいつのせいでデッキ面が下がらないのは勿体無い。
かつてのカロゴンや初代フィールダーの方が広く感じたと
感じる人は少なく無いはずだ。



試乗車に我が家がデミオに搭載している荷物を積んで確認してみた。
ベビーカーを乗せてみたが、デミオと較べれば奥行き方向が大きいので
ここにボストンバッグくらいは積めそうだなという印象だが、
お土産を積んだら荷室がパンパンになりそうだ。
これはラゲージネットが無いので高さ方向に荷物が詰めない為で、
より一層荷室のデッキ高さが目立つ結果になった。

もちろん、我が家の旅行用の荷物くらいは入りそうだが、
これはステーションワゴンというよりショートワゴンだ。
VWゴルフヴァリアントをライバル視した
欧州カローラツーリングスポーツを
外国人風のお侍さんが刀でぶった斬った
のかも知れない?



ファミリアSワゴンは正統派ステーションワゴン全盛の時代に
あえて逆張りをしたモデルであったが、
カローラツーリングはライバル不在で送り出す
正統派ステーションワゴンであって欲しかった。

肝心の荷室容量はVDA法で392L、Rrシートを畳んで802L
旧型のフィールダーはそれぞれ407L872Lと負けている。
ゴルフヴァリアントはボディサイズが異なるとは言え
605L1620Lとかなりの差がついている。
(というかセダンが429L・・・)

トヨタには現在、カローラツーリングの他に
プロサクとフィールダーしかステーションワゴンが無い。
現在はカルディナもアベンシスもグラシアも
ブリットもクラウンエステートも無いのである。
仮に積載性最優先ではなくとも、
もう少しキチンと座れるステーションワゴンが欲しい、
という希望は無いものねだりなのだろうか。

先ほど例に挙げたファミリアSワゴンの場合、
荷室が短いがRrシートスライドがあったので
普段は居住性重視にしておいて、
いざというときはスペースアップする事も出来た。
かつて愛用していた初代ヴィッツにもRrシートスライドが設定され
フル乗車の時や旅行の際は大活躍していた。

カローラツーリングは「ワゴン」形状をしているだけで
ローディングハイトを下げて積み下ろし易くもないし、
デッキは搭載都合で斜面のまま。



荷室高さを稼ぐ二段デッキボード(1.8のみ)は
スペースアップするとデッキ面がガタガタ・・・などなど
旧型、旧々型、旧々々型が愚直にやってきたことを
いとも簡単に捨て去っている。
100年に1度の変革期かもしれないが、
商品としてせめて併売されるフィールダーを超える
積載性能は持たせるべきではなかったか。




ワガママな話だが、写真に挙げた様に
海外仕様のレベルなら納得できそうだったのに残念だ。



色んな事情で3ナンバーの世界に
足を踏み入れざるを得なかったのは理解するが、
荷室スペースが5ナンバーを下回る事は納得できなかった。
カローラツーリングはセダン以上にボディサイズに縛られて
どっちつかずのユーティリティ性能
に留まっている。
変に期待を煽るステーションワゴンと呼ばず、
いっそ、LBとでも名乗ってくれた方が納得が行くことだろう。

●ツーリング試乗 Bセグとの違いを見せ付ける走り
家族で訪れた販売店でツーリングのHV_Sに試乗した。



まずHVのツーリングにチャイルドシートを取り付けたが、
ほぼ直角までドアが開く現行RAV4と違い、
開口がBセグメントのデミオとさほど変わらず狭い。
ただし、ドアが短く狭いところでも
ドアが開けられる
点はRAV4よりも有利。

運転席でドラポジを調整して試乗を開始した。
カローラスポーツでも触れたとおり、
従来のHVと較べると「モーターで走ってる感」
しっかり演出されており、力強さすら感じる。
強い加速をするとE/Gが始動するが、
アクセルオフで再びE/Gが切れてEV走行が可能。
TNGA世代で進化したなぁと素直に感心した。



普段乗り心地が堅めのデミオに乗っているので
特にカローラツーリングの乗り心地がソフトに感じて好印象だった。
荒れた道路もうねった道路の段差もしっかり吸収してくれた点は
Cセグメントの面目躍如と言えるだろう。
後席は広さは感じないけれど揺れが少なくて良いと妻も言っていた。
先代のフィールダーにもまとまった時間試乗した経験から
比較しても、乗り味に関する進化の度合いを強く感じた。
(短時間だけHVのW×Bにも試乗したが
 17インチホイールでも同様に乗り心地はソフトだった)

●セダン試乗 ベーシックエンジンがお買い得
13年間カローラユーザーを続けている私にとって、
カローラとしては久々の1.8Lに興味津々であった。
カローラスポーツの8NR-FTS型1.2L直噴ターボの
余裕のなさにがっかりだった私は
素直にNAの排気量が大きいエンジンを
カローラに載せるべき
だと言い続けてきたからだ。
2.0Lがあれば言うこと無しだが、
今回は2ZR-FAE型1.8Lをベーシックエンジンとして載せてきた。

1980年にTE70で初めて1.8Lが短期間のみ搭載され、
その後、ディーゼルエンジン用に1.8Lの1C型エンジンを搭載。
2000年のZZE120でカムリ代替ユーザー吸引のため久々に1.8Lが搭載された。
海外でも長らく余裕のある1.8Lが普通に搭載されてきたが、
1.3Lや1.5Lがラインナップされる中の特別な上級エンジンではなく、
ベーシックエンジンとして1.8Lエンジンが搭載されることは異例である。



ベーシックエンジンと言えども、
ポンピングロス低減の為バルブマチックが採用されており、
最高出力140ps/6200rpm、17.3kgm/3900rpmを発揮する。

試乗車である1.8LのセダンSに乗り込んだ。
前に乗ったツーリングと較べると
内装の華やかさが一段落ちる。



W×Bの加飾に次ぐ加飾が引き算されるのは良しとして
「上級ファブリック」というシート生地はいただけない。
カタログのCGでは全く風合いが分からないが、
カローラ用シートとして考えると
感触が頼りなくあまりお金がかかっていない印象だ。
(自分の初代RAV4のシートに似た触感で)
肩口の縫製もヨレヨレで、立体感で魅せるのなら
しっかり作りこまないとダメだろう。



それでも上級グレードらしく本革巻きステアリングや
16インチアルミホイールも備わっている。
OPTだが、最上級グレードと共通の
7インチTFT液晶メーターも選択できる。

今回は自分のカローラを整備に出している待ち時間に試乗したため、
営業マンの同乗無しで好きなコースを好きなだけ走らせてもらった。

3ナンバー化して一番気になるのは取り回しである。
狭い路地が多い地域へカローラを走らせた。



先代プリウスの車幅を参考にしたとの事で、
確かに写真のような狭い路地でも特に苦労も無く走ることが出来た
車幅が1780mmのカローラスポーツでも同じ道を走ったが、
こちらでも走れないことは無く、あまり違いがあるとは思えなかった。
(でも5ナンバーもRAV4なら確実にもっとスイスイ走れるのだが)

次に5ナンバーサイズが主流だった時代に造られた
狭い駐車場(世の中によくあるサイズ感)にカローラを駐車した。



昨今は両側が3ナンバー車になることは日常茶飯事である。
おもむろに駐車してドアを開けてみたが、
途中、ドアチェックの1段目で写真のような状況だった。



ギリギリ降りられるかなという状況では
明らかに車幅の絶対値が問題になるので
カローラスポーツよりも当然有利であった。
決定的に何かが変わるかと言われると変わらないが、
例えばある日5ナンバー車や
軽自動車に乗ると急に気づかされるはずだ。

新しい駐車場なら問題ないと思うので、
気にならない人は気にならないはずだが、
私は職場の駐車場が狭いので少々気になる。
(自分のカローラGTとRAV4でも相当印象が違う)

駐車場周辺の道路は路面がかなり荒れているのだが、
カローラはツーリング同様にソフトに凹凸をいなしてくれ、
ちょっと良い車に乗っているなという感覚が味わえる。
P/Fの違い、設計年次の違いがここに現れている。

次に自動車専用道路を走らせた。
合流路から一気に加速。
普通の試乗では走れない追い越し車線へ躍り出た。
2ZR-FAE型エンジンの回転数が上がると
あまり魅力的とは言えない音質のE/G音がキャビンに進入するが、
絶対的な加速は必要十分でNAエンジンらしく気持ちいい
あ、これだ!と思った。



ただ、惜しいのはスーパーCVT-iの変速パターンが良くない
アクセル操作と同時にロー側に変速してE/G回転を上げてから加速、
アクセルを緩めると一気にハイ側に変速して回転数が乱降下する。
その方が燃費や加速タイムは良いのかもしれないが、
まるで軽自動車のようなせわしなさだ。
もはやカローラは主流派のファミリーカーではなく、
セダン好きのためのセダンにするのなら、
せめて辻褄の合ったドライブが楽しめるべきだろう。
そんな時はCVTのスポーツボタンを押すと、
あの嫌らしい変速マナーが一変する。
ある程度の回転数を維持してくれるので
レスポンスが向上し、アクセルオフ時も回転数が維持される。

ステアリングに備わるLTA(レーントレーシングアシスト)を試した。
50km/h以上、幅3m以上の車線を認識して
ステアリング操作をサポートする装備だ。
カメラで先行車や車線を認識し、EPSのモーターを動かして車を操縦する。
半信半疑で試すものの、ちゃんとラインをトレースしてステアリング操作をする。
「これが自動運転か!」とちょっとした感動を与えてくれた。
あくまでも補助装置なので手放し運転も出来ないし、
先行車がふらつくと、そのふらつきに追従してしまうため
やはり頼りきりに出来るシステムではない。
それでも手動運転車ばかり乗り継いでいる私にはとても新鮮な経験だった。



一区間ほど走った自動車専用道路から降りた。
市街地走行でもスポーツモードに設定したCVTは
私にとっては相当走り易くなり、
本来はこっちをノーマルにすべきだったとさえ感じた。

シャシー性能(特に乗り心地)は
新世代P/Fらしく走りの質感が高まった
動力性能はHVも合格点だが、素の1.8LがCVTを
スポーツモードに設定した場合に限りギクシャクしない
普通の運転ができることも嬉しい収穫だった。

●コネクテッドはトーンダウン
昨年カローラスポーツがデビューした際は
コネクテッドを盛んにアピールしていた。
DCMが搭載され、ナビに話しかけてオペレーターサービスが受けられる、
セキュリティと連動できるなどの機能の他、
車両情報がメーカーに送信されてメンテナンス情報が共有できる機能があった。
ただし、ユーザーが機能を使えるのは最初の3年間のみ。
以降は年間12000+税がかかるし、純正ナビの購入が必須であった。
貴重なユーザーの使用状況が入手できるメーカー程は
ユーザー側に何の得の無いシステムであった。



新型カローラでは、端末たる
ディスプレイオーディオ(7インチ)を標準装備とした。
これはAM/FMチューナー、Bluetooth、USB入力、
バックガイドモニター(最廉価以外)が着くと言う
なにやら初代アクシオ臭いシロモノなのだが、
ちゃんとディスプレイオーディオに直接ナビ機能が追加できるので
今までカーナビを購入した金額より安価だ。
上記機能を使うにはTコネクトの契約が必要だが、
カローラスポーツデビュー時とは異なり5年間無料、
6年目以降は年間で3300円+税
と相当安くなった。

一方、初代アクシオではCDが聞けたのに
新型ではCDが聞けなくなってしまったのは私にとっては辛い。
長年ディーラーの収入源だったカーナビゲーションのOPT価格を
安価にしてしまうというのはディーラーにとっては
大きな出来事であろうと想像する。
初代アクシオのようにマイナーチェンジでレスオプションが
追加されるようになるかも知れない。

●お勧めグレードは1.8Sだが・・・
新型カローラのグレード体系はセダンが以下の通り。
(価格は税込み、順番にFF1.8L/FF_HV/4WD_HV)
G-X (193.6万円/240.3万円/260.1万円)
S  (213.9万円/257.4万円/277.2万円)
W×B (231.5万円/275万円/294.8万円)

最上級W×Bのみカローラスポーツと共通の
1.2L-T×6速iMTの組合せが240.9万円で選択可能。

横道に逸れるが、
1.2L-Tではなく1.8LのMTがあればよかったのにと思う。
カローラスポーツではMTとCVTの価格差が税込み4.5万円であるから、
仮にW×Bの1.2L-TにCVT仕様があれば245.4万円となる。
1.8Lと1.2Tの価格は13.9万円と小さくは無い価格差がある。
カローラのMTも1.8L全車に設定した方が魅力があったと私は思う。
(例えばW×Bは217.6万円、Sは200万円)

さて、最廉価のG-Xは税抜き価格で176万円。
1.8Lセダンとしては価格設定が割安だ。



かつてのDXやLXというグレードよりは装備が充実しており、
4輪ディスクブレーキやマルチリフレクターLEDヘッドライト、
ファブリックシート、タコメーター、ステアリングスイッチ、
ソフトインパネ、TSSやエアバッグ(7つ!)オートエアコンなど、
一昔前なら上級グレードに備わるべき装備が備わっている。
(室内側ドアフレームのブラックアウトまで行われている!)



この一つ上のSグレードになると下記の通り内外装が充実する。



15インチ鉄ホイールが16インチアルミホイールにドレスアップ。
グリル加飾が追加、オート格納式ドアミラー、シート変更、
メーターに加飾塗装追加、本革巻きステアリング、
レジスターノブに加飾塗装追加、本革巻きシフトノブ、EPB、
ソフト感触ドアトリムインサイドハンドル加飾塗装、
バックガイドモニター追加。

最上級のW×Bはスポーティな内外装となり、
17インチアルミホイール、カローラスポーツG"Z"と共通の
プロジェクター式LEDヘッドライト、LEDフォグライト、
グリル加飾、Rrスポイラー、合皮スポーティシート、
7インチTFTマルチインフォメーションディスプレイつきメーター、
トリム類の加飾追加、カローラスポーツ共通の
ドアトリム加飾(P.L.が手に当たって痛いアレ)が備わる。



G-Xは価格的に頑張ったと思うが
ホイールカバーのやる気の無い意匠からも分かるように
収益に貢献しないからあんまり売れて欲しくない、、、、
そんなオーラが伝わってくる廉価グレードだ。
グレード名も「旧アクシオのGとXっぽい」的な言い訳染みた名称だ。

残るSはかつてのフィールダーSにも似た
「ちょっとスポーティ風な上級です」という印象。
現代のCセグとしては欲しい一定の装備が揃うので
いい意味で中間的なグレードである。

最上級のW×Bは先代でもイメージリーダーであり
今回もそれを引き継いだのだが、
1.8Lで231.5万円は明らかに高め、
HVに至っては275万円だが、この価格をどう考えるか
カタログで中心的に紹介されているグレードなので
ついW×Bを選びそうになるが、価格表を見て驚く方も居るだろう。

競合のシビックは端から売る気が無い。
インプレッサは1.6Lがカローラより少々安く2.0Lが少々高い。
マツダ3は2.0L最廉価グレードでも装備水準が高くもっと高い。
その意味ではW×Bでも安いでしょ、と言いたげなのだが
そもそもカローラというのはイメージリーダーで華を与えつつ、
実を量販グレードでしっかり採るべきだし、
もはやライバルとの競合などあまり意味が無い。

輸出先の需要をメインにした競合車より安いなどという比較ではなく、
専用のボディを持ち、日本市場を向いたカローラとして
量販グレードをお買い得に見せるかという部分が肝要だ。
かつてのカローラもマニアックなGTと
高級ムード満点のSE-Limitedで夢を見せながら、
お買い得なXE-Saloonでガッチリ台数を確保するという戦法で、
上級グレードもしっかり利益確保に貢献でき、
量販グレードはお買い得な装備厳選と価格設定によって
売って損せず、買わせて損させずのいいバランスを保ってきた。



Sより17.6万円高いW×Bは
「スポーティな内外装」を訴求するグレードであり、
機能面の充実は後遮音ガラスやRrシート分割可倒、
Rrセンターアームレスト、オプティトロンメーター(7.7万円)の他は
ホイールインチアップ(7.8万円相当)や専用外装のドレスアップ代だ。
OPTを積んでいけばお徳という演出は理解できるのだが、
本来装備と価格のバランスが良かったSが霞んで見えてしまうという
好ましくない影響も与えている。

W×Bをあまり前面に押し出さず、
コンフォート系のSにもう少し華を与える
ようにしてSの寂しさを緩和した方が良かったのでは無いか。
(せめてロアグリルにはメッキ仕様にし、
 シート生地を日本人好みのモケットシートに変更し、
 W×B用の17インチアルミのシルバー塗装品を設定したり、
 フォグくらいは標準化して欲しかった。)

あるいは廉価グレードをG-Xなど往生際が悪い名称にせず、
価格訴求のX、お買い得装備を厳選したGに
分けるべき
だったのではないだろうか。
X-Gから電動格納ミラー、シーケンシャルシフトマチック、
オートエアコン、レーダークルーズコントロール、Rrパワーウィンドゥ、
Rrスピーカーを冷徹に省いた廉価仕様でも用意しておけば
市街地メインで高速を走らない、
後席に人を乗せない前席優先のセダンなら
税込みでも180万円台に設定でき、
ギリギリファーストカーになり得たのではないか。

一方、X-Gに15インチアルミのOPT設定とシルバー加飾メーター、
Frロアグリルのシルバー塗装、合皮ドアトリムショルダー
を追加しつつ、ちょっと昔の相場観だが、1000cc=100万円ちょうどの
税込み200万円をギリギリ切るくらいのGがあれば
カローラをお買い得に見せられたのでは?と思う。

現状では、もしX-Gに満足できなければ、
装備水準はグッとよくなるが、
価格も20万円高いSになってしまうから、
心理的に「高い」を感じそうだ。
しかもSは内装(特にシート地)や外観が相当地味で
W×Bと較べてかなり見劣りしてしまう。
かといって最上級のW×Bはさらに17万円強も高くなる。

新型は、目標の販売台数も少ないので
お買い得キャラは併売されるアクシオEXに任せて
台数を追わずにW×Bで高収益を狙う作戦なのだろうか。

ツーリングも基本的に同じようなグレード展開である
(価格は税込み、順番にFF1.8L/FF_HV/4WD_HV)
G-X (201.3万円/248.1万円/267.9万円)
S  (221.7万円/265.1万円/284.9万円)
W×B (236.5万円/279.9万円/299.8万円)
また、セダン同様MT車も245.9万円でラインナップされている。
(訪問した販売店では
 MTを乗り継いでいる顧客向けに2台販売したとの事)

価格表を見た感じだとパッと見た感じでもかつての
若者達が仲間と遊びに行く為に買う
基本性能が充実したカローラのワゴン
という価格帯では無くなってしまった。

●見積もりシミュレーション
販売店で見積もりを薦められたので、作成をお願いした。

ボディタイプは少しでも汎用性が高いツーリングを、
グレードは現状で最もバランスの取れているSを選んだ。
どうせMTはあのエンジンしか選べないので
旧式だが好印象だった1.8Lを選択。
車両本体価格は税抜き201.5万円、税込み221.65万円である。
さすがに消費税10%の重みを感じてしまう。



ボディカラーは派手すぎず地味過ぎない新色の
セレスタイトグレーメタリックを選択した。
(新型カローラはセレスのように
 タイトな室内空間
、などと皮肉を言いたいわけではない)

MOPは下記の通り選択。
スペアタイヤ:まだ欲しい
ルーフレール:お洒落
Frフォグ:デミオは標準
Rrフォグ:濃霧や豪雨で安心
BSM+RCTA:デミオは標準
シートヒーター+STGヒーター:デミオに前者が標準
寒冷地仕様:デアイサーが欲しい

合計約18.4万円

DOPは下記の通り。
ETC2.0:割り込み交通情報が便利
フロアマット(デラックス):基本
トノカバー:目隠しは欲しい
ナンバーフレーム(ベーシック):基本
ドラレコ:令和時代の基本
エントリーナビキット:Tコネクトに興味は無い

合計約19.3万円

これにリサイクル料0.97万円、
メンテナンスパック、オイル会員10.4万円、
税金やナンバー代などの諸費用15.6万円を合計して

総額286.3万円と相成った。

自動車税制の見直しで1800cc車の自動車税が
今までの39500円から36000円に少し安くなった他、
10万円以上したカーナビゲーションが安くなったと思うが、
そもそも基本的な価格は決して割安感を感じられなかった。

あくまで我が家の視点からカローラツーリングを見ると、
デミオと総額は似たり寄ったりだが、
エンジン(燃費性能)は平凡であるにも関わらず、
さすがCセグ!と思えるユーティリティが感じられず、
買い換えるモチベーションは上がらないと判断された。

●まとめ
長年苦しんできたカローラの海外仕様と
日本仕様の性格分裂問題は12世代目でも解決しなかった。

全ては全長4495mm、全幅1745mmというサイズ命で決められており、
海外仕様のカローラのデザインテイストを継承しつつ、
海外仕様のショートホイールベースのP/Fを流用。
ユーティリティは前席を海外仕様と同等に守って
しわ寄せは重要度が低い後席スペースで吸収
、そんな成り立ちだ。

完成したカローラが納得の出来栄えかと問われると、
私は納得していない。

理由は簡単でボディサイズが大きくなったのに、
居住性、積載性が悪くなった
からだ。
どうしてもTNGAにしたかったからと言われても
ユーザーの大半が車オタクでも無いのに
走りが!カッコいいデザインが!と言われても
ピンと来ないのではないか?

まず、生活に合った便利な車を、
スケールメリットで良い部品を使って
安く作って賢く企画設計するのが
VWのMQBでありトヨタのTNGAではなかったか。

P/Fはグローバルカローラと共通化できたので、
走りやインパネなどの内装は進化が見られた。
しかし日本仕様固有の箇所は海外仕様と似て非なる専用設計。
日本仕様って、まさか販売台数が見込めないから、
金型代金を回収する為に部品の原価が上がってしまい、
お買い得な商品にまとめ切れなかったんじゃないか?
・・・と邪推してしまいそうな出来栄えだ。
ステーションワゴンはRrオーバーハングを延長すれば
もう少し荷室が広げられたが、
恐らくセダンと共通のRrフロアを使う制約上、
全長も同値に揃ってしまったのではないか。

日本専用の金型を新造するという莫大なお金をかけて
日本仕様のカローラを作った理由は、
国際サイズが日本に馴染まないという判断があったからだ。
それくらいカローラはボディサイズを大切にしている。
この真面目さは素晴らしいことだと思う。
しかし、私はそれに縛られすぎたと言いたいのだ。

繰り返すが、それほどまでに小さく作ろうと苦労した結果、
前席は国際サイズだが、後席と荷室はウサギ小屋になってしまった。
「カローラが本来持つ大人4人が快適に、
そして安心して長距離を移動できるミニマムサイズのクルマ」
というカローラの憲法に照らし合わせれば違憲状態ではないか。

2019年、12代目から3ナンバーに足を踏み入れ、
もし数年後に13代目があれば
海外仕様と完全に統合されるのではないか。
その未来のための準備として
海外仕様のカローラを兄弟車として日本市場に加えてはどうだろうか。
(イギリスやトルコから輸入でOKだ)
日本仕様と顔つきが異なる欧州仕様のサルーン然としたカローラセダンと、
その顔を移植したカローラツーリングスポーツを導入してみて欲しい。



帯に短し襷に長しを地で行く12代目カローラを前にすると
国際サイズのCセグの方がいっそ納得できる人も居るはずだ。
少なくとも私は海外仕様のしっかり荷室が使えて
後席に家族を乗せられるワゴンが欲しいと思う。

セダンだって何でもかんでも「セダンはスポーティ」と凝り固まらず、
カムリのサイズ感を敬遠する人向けに落ち着いたセダンが出せれば
食指が動く方も居るのではないだろうか。
私のようなファン向けに北米向けXSE(2000ccの6速MT)が
限定でも入ってくれば大いにテンションが上がるのだが・・・。



強引にまとめると、12代目カローラ/カローラツーリングからは
メーカー自身の苦悩が滲み出ていた。
TNGAで動的な質感がジャンプアップした事実は認めつつも、
二兎を追いきれず中途半端な商品になってしまった感がある。
今はデビュー直後なので販売目標を満たすと思われるが、
それが落ち着いてきた時に苦しむかも知れない。

基本的な枠組みは変えられなくとも、せっかく力のある
1.8Lエンジンが選択できたり、TNGAによって基本性能が
底上げされてきたのでお買い得な中級グレードを磨くことで
ユーザーに訴えかけ、カローラを支えてきたユーザーの立場に立った
今後の立て直しに期待
したい。

参考)他のカローラの感想文

AE100
AE110
NZE120
NZE141
NZE161G
NRE210(1.2T)
NRE210(6MT)
ZWE211(HV)

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「@つーさむきゃびん さん すごい代車ですね。新車の時に一回試乗させてもらったことがありましたが、今からめっちゃ狭い昔の街並み走ってみたいですねー。」
何シテル?   05/12 13:42
ノイマイヤーと申します。 車に乗せると機嫌が良いと言われる赤ちゃんでした。 親と買い物に行く度にゲーセンでSEGAのアウトランをやらせろと駄々をこねる幼...
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