
この記事は、
MTの価値:補足(1):エンジンの味と賞味方法について書いています。
タッチさんの、「エンジンの味」について、記事が有りましたので、ちょっとエンジン性能曲線を食堂のラーメンの見本に見立てて、その味を予想して見ようと言う、試みです。
昔はどんなカタログも、細かく数字の読めるエンジンの性能曲線を乗せていたし、各速度段での登坂曲線まで乗せてさえ有りました。が、今はオートマが主流になった頃から、非常に大雑把なグラフになり、ひどいもんではもはやグラフ無し。モード燃費だけが載っていたりします。それだけ興味が無い、みてもわからん、と言うことでしょう。ピークパワーだけなら数字で十分ですもんねw。
さて、性能曲線ではそのエンジンが発揮できる全負荷状態をなぞって行ったものですから、ほとんどの場面で通常発揮する事の無いカーブです。また、時間軸の評価が無いので、レスポンスはわかりません。特に過渡応答の表情は実際に乗ってみなければわかりません。
そういうものではありますが、エンジンをいじってパワーを絞りだすと色んな事が見えてきます。
「パワー」とは時間軸がありますから、単位時間当たりにたくさん爆発させれば良いわけで、高回転化が一番です。ホンダがマン島レースを席巻した「精密時計の様な」と評された高回転型エンジン。ではどうやって高回転化したかと言えば多気筒化とショートストロークそしてマルチバルブ化。気筒当たりの上下動のイナーシャが小さくなり、爆発脈動が小さく連続化してトルク変動が小さくなり、吸排気抵抗を減らせる4バルブ化。自然吸気(以下NA)では高回転になれば、吸気慣性と排気慣性の影響を使って1.2倍程度(本が出てこないので、うろ覚えw)まで自然過給出来ます。そうやってハイパワー化するので、どうしても特定の回転エリアにおいしいスポットが出来ます、さらにそこを生かすためにカムタイミングとリフトを変えます。するとさらに山を高く作れます。
ガソリンエンジンはどれだけ沢山の混合気を吸いこむか、がハイパワーの条件ですから、上記のように吸気効率を上げるわけですが、その全てのネタを1点に集中してハイパワーのピーキーにするか、幅広く散らして使いやすいワイドバンドエンジンにするか、と言うコンセプトがまず有って、その上で低フリクション化や、低慣性化、燃焼効率を上げると言った洗練化は技量の問題ですね。
加えて、気筒数、V型、H型、と言った振動特性、ボアストローク比による燃焼時間の違い。そう言った事がさまざまに組み合わさって、エンジンの個性が出来上がって行きます。
私がエンジン諸元で見るポイントは
①ボア×ストローク
②バルブ挟み角
③ピストンヘッドと燃焼室
これらはエンジンの機械的な構造ではなく「燃焼」という化学の世界であり、綺麗に燃えるか、、というお祈りの世界(笑)であり、ここは個人的な趣味の領域です。
次に、機構、機械的に美しいか。
④クランクシャフトとベアリングキャップ
⑤ピストン+コンロッド
⑥シリンダーブロックのトップデッキの造形
⑦バルブ駆動回り
以上は、メカニカルな工夫をどれだけ追求したか、設計者のセンスをおっさんがグダグダケチを付けるおいしいところです(笑)。
なので、生まれは①②③で決まり、育ちは④⑤⑥⑦で決まる、と言う感じでしょうか。そしてその生まれが浮かび上がるのが性能曲線だと私は感じています。
自分の乗った好きなエンジンの①②③を調べて比較して見ると、性格の違いがうまくグルーピング出来るかも知れませんよ。ちょっと個人的な感想ですが、ボア×ストロークで見えるのは燃焼速度です。ふつうはピストン速度の限界を抑えるために高回転型ならショートストローク、という論調でしたが、それはメカ屋さんに任せて、爆発した燃焼ガスの膨張速度≒冷却速度は、ショートストロークほど圧力上昇は急激で、下がるのも急激です(同じピストン速度で見た場合)。実際は同じ回転数だと、ショートストロークの方がゆっくり上下しますから逆ですが、限界回転数は同じピストン速度になりますからね。(わかりにくかったので記述修正しました)
同じ排気量では、受圧面積の大きいビックボアは高い圧力を受けますが、クランクのモーメントアームが短いのでトルクは出ません。逆にロングストロークは受圧面積が少なく圧力が小さくともアームは長いので、トルクが出しやすくなります。クランク角度あたりの膨張速度はどちらも変わらないのですが、現実にはロングストロークの方が、気持ち良いトルク感を伴って、回るエンジンが多い感じで、特にロングストロークのスポーツエンジンは気持ち良いのが多い気がします。一方、ショートストロークはその逆で、ドカンと来るけどその領域が狭い感じがします。カムの組み合わせで一概に言えませんが、好みのトルクの出方よりパワーの出し方にこだわったエンジンという気がします。
次に燃焼室の形です。これはバルブ挟み角とピストンヘッド、シリンダーヘッドとで形成されるわけで、この燃焼室の形がとても大事です。今は希薄燃焼が基本ですから、タンブルや、スワールと言った過流をうまく立てて、燃焼の均一化に腐心しています。けれどもエネルギーはただではないので、過流が強いと言うことは、吸気抵抗や排気抵抗にもなるわけで、可変バルブ機構のおかげで、パワーバンドは広がりましたが、本質的に安定した燃焼パターンが持続する領域(過敏か、鈍感か)を見てしまいます。うまく過流が出来ると、おいしいとこが出来るわけで、個人的には球形燃焼室で、燃焼が丸く広がるタイプが良いと思っています。ただ、高回転型で上が大事なエンジンではヘッド側の燃焼室はバルブで埋まっており、ペントルーフにタンブル流が主流派です。根拠は有りませんが、この手のエンジンはちょっとトルクがやせ気味な感じを持っています。
そういうことも考えながら、昨今のエンジンの綺麗なCG透視図や、カットモデルを見るのが何より好きですねぇ。でもって、そういう個性を読み解きながら、性能曲線を見て行きます。
この図は、主なエンジン性能曲線のパターン別イメージです。何かの引用ではなく、私の勝手なフリーハンド品です。(^_^ゞ
この図に書いた4つのパターンは、市販エンジンでよく見るグループの代表格を書いたつもりです。
それぞれの○○なエンジン、という看板と、着目点を組み合わせると、何事か見えてきませんか?。
まず、左上の図ですが、トルクピークとパワーピークが大きくずれているエンジン。このエンジンは低回転域で豊かなトルクが出るので、普通はこのトルクを使ってあまり回さずとも、十分な力が使えます。一方高速道路や山岳路のアップダウンでは、回してパワーを出して走っていて、上りになって、回転が落ちると逆にトルクは増える特性ですから、シフトダウンしなくても粘って底力を出します。従ってトラックや商用車など、働く車に必要な性格です。
2つめは右上のグラフ、こちらは先ほどと正反対のトルクピークとパワーピークが近い特性です。下はトルクもパワーも相対的に先のエンジンより低いので、より上を使いたくなります。またトルクの伸びとパワーの伸びが長くシンクロしているので、力強くのびやかにピークパワーまで引っ張りたくなります。上に行くほどモリモリ力を感じる特性ですね。ところがピークパワー回転域で強い上りなど負荷が高まり回転が落ち、狭いバンドを外すと、トルクも回転落ちに合わせて落ちるので、一気に腰砕けになります。シフトダウンしないと失速してしまいます。けれどもスポーツ走行の場面では、トルクを伴ったパワーの上りつめる上昇感、メリハリあるピーク域、シフトダウンを促す明確なパワーバンドの存在、、とアドレナリンを掻き立てるエンジンの素質有りです。これにはさらにメカ的洗練が必要で、それと合わさって名機になりますねw。
次に左下の有りがちなエンジン。バイクに良くみられる特性ですが、下と上に2つの山があるおかげで、普段は下を中心にして、峠で高揚した時は上の山で、、という理屈とは別に、中回転域に谷を作ることで、その後のいわゆるカムに乗ったとか、バンドに入った力強い2面性が強調され、「面白い」エンジンと言われます。これはカムやマフラーでいわゆる味付けで有る場合が多いようです。なぜなら昔はピーク重視で絞り出していたのであちこち谷間が出来ても仕方ない、、だったのですが今はコンピュータ制御のインジェクション、可変バルタイで、谷は消せます。なので、今時のこのタイプは味付けと言うことでしょう。
最後の右下は、最初と同じである意味仕事用です。作る側では一番難しいエンジンですが、乗り手は面白みのない無表情エンジンに思える事でしょう。けれども上の仕事領域で、最も面積を安定して稼いでいます。緩やかなパワーカーブなので、一本調子で、どこがおいしいのか、明確な境界がありません。けれども実際のバトルでは、体感速度は無いけれど、ミスをカバーし、速度を乗せることに一番たけたエンジンです。
みなさん御自分の車はどのパターンに近いでしょうか?。カタログでも見つけてどのパターンか見て、御自分の体感とこの評価は合っているでしょうか?。
そう言ったわけで、ナルホドナー、、と思われたらば、次回は現実の代表的なエンジンカーブをいくつかみて見ましょう。(上のテキトーな想像グラフを作ったあとで、持ち合わせの本やカタログ見てたら、なんと、まんまやないかいというカーブが拾えたので、そんなに外れていないと思いますよ(笑)。
つづく
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チューニング独り言 | クルマ
Posted at
2013/02/21 23:13:13