長々、お付き合いどうもでした。
言いたかったのは初代水冷のメカの話だったのですが、調べるうちに一部の構造的問題というより、経営的な設計方針レベルでの大転換が有ったのだな、、と言うことがわかり、その点も言いたかったし、メカは疑惑のポイントが全て線でつながっていて、「そういうことか~」と腑に落ちてもらえると良いかな、と言うことで5連続にもなってしまいました。(リクエストのインタミを今回入れたのでまた少し長くなりました(;^_^A)
5.信頼性と補修性
昔、930の2.7Lの空冷を組んだ時、組み方がマニュアルでも複数異なる方法がありました。
空冷エンジンでは1気筒づつシリンダとヘッドを独立して締めて組んだ後、片バンク3気筒分が一体のカムホルダーをこれに締結する方法と、もう一つはカムホルダーに3気筒ヘッドを先に組んで置き、3シリンダー分をヘッドとして一度に挟み込む組み立て方法があるようで、恐らくポルシェ工場での量産時には、後者の方法で組んでおり、レースなどより精密な場合は前者のやり方だと私は思っています。私が自分で組むとき、色々締結歪の伝達経路を検討した結果、やはりピストンとシリンダを綺麗に動かすにはヘッドとシリンダーが真円維持で均等に挟まれていることが大事だろう、とこれを優先し、各気筒毎に仮組し、一体型のカムカバーを組み付けてこれとも軽く仮組し、その状態でヘッドボルトを一旦1/2程度締めて、カムホルダのボルトがどれぐらい歪むのか、手回しで確認して、結構あることが分りました。
<1気筒1ヘッドが片バンク3個付いた状態>ネットの拾い物
<一体型のカムホルダーを載せた状態>ネットの拾い物
そこで、ヘッドボルトを順に緩めてカムホルダーをこれまた順に1/3程締めてから、もう一度ヘッドボルトを1/2程仮締めし、しまりの感触を確認してからヘッドをそのまま2回に分けて本締め完了させ、カムホルダを中央の2番(5番)から外へ向けて締めていました。(空冷はクランクシャフトをケースで絞めた時に手で回すと結構渋いものがあるそうで、それはシリンダーまで組んだ時に軽くなる場合と変わらない場合があって、変わらない場合はクランクシャフトに曲がりが出ている恐れあり、と言う気がします。
私の場合は、どちらも軽くムラなく回ったので良しとしました。
カレラなどの初代水冷構造は、左右でクランクシャフトをクランクブロックASSyとも言うべき構造のものを、左右バンクの水冷シリンダー(外観上はこれがクランクケースに見える)をシリンダーヘッドから長いボルトで挟み込む構造です。俯瞰してみればMezger同様にシリンダーをクランク側とヘッドでサンドイッチ構造なのですが、実際は全く力の伝達が違います。
ヘッドに引き上げられる物体が初代水冷はクランクブロックであり、これは縦割りのクランクジャーナルを締め上げた長いクランクブロックを2個のノックピンで3連シリンダー(ケース)に位置決めされます。
GT-1ケースの場合、ヘッドが引き上げるのは同じく水冷シリンダーを挟んだクランクケースですが、シリンダーはクランクケースの各ボアにしっくりハマってセンタリングされます。つまりピストンの運動に対しての保持剛性は物理的に一体のクランクジャーナルと一体化されています。前者はクランクケースのシリンダースリーブはクランクジャーナルを独立させたクランクブロックとボルトでケースに繋がり、そのケースとは一体のオープンデッキとして繋がって居るのです。(ざっくり目検の距離にして、GT-1はほぼゼロ。初代水冷は、ストローク分の70mmぐらいは伝達経路が離れているでしょう。
繰り返しになりますが、初代水冷のシリンダーはいわゆるオープンデッキ構造で、ヘッド側半分は水冷、クランク側半分はオイルと部屋が分かれ、その中間膜とでもいう部分で「シリンダ」は浮いている。実際ヘッドボルトでシリンダーを挟んでも、そのボルト締結力はシリンダーバレルの外側のケースを締めるだけで、バレルそのものは上は押されるけど下は遊んでいます。
これは、熱膨張や応力歪の面からは真円保持に有利と思われるものの、爆発圧及びその反力たるピストンのスラスト力を受けて首振り振動する力を制振、減衰する力は弱かろう、と思われます。
空冷や、GT-1の様にシリンダースリーブ下端をクランクケースで支えておらず、ピストンが上死点、下死点でスラスト反転するところ(上下方向)で誰もスリーブを支えていないんです。
初代空冷のクランクシャフトは下に減速し、カムシャフトが1/2回転となるようにインターメディエイトギアを介してシリンダ頭部のカムシャフトまで掛ける2段掛けが、空冷と初期の水冷ターボの特徴(初代水冷はタイミングチェーン)。また初代水冷はツインカム化したため、一旦エキゾースト側カムシャフトを駆動し、吸気側カムはその排気側からチエーンでつなぐ2重構造化。これでバリオカムを形成、後期では吸排気連続掛けに変更。それが991からの新世代はオイルポンプ駆動を兼ねていたインタミギアをやめて、直接クランク駆動としたうえで、ダイレクトにカムシャフトに巻くためにクランクギヤスプロケットを限界まで小径化し、2倍の径のカムスプロケットにこれを吸排気兼用で巻く構造としています(もちろん左右バンクがあるので、左右で2重のスプロケ構造ではありますが)。
このため、限界まで攻めたとはいえ、2本のカムピッチが広くGT1ターボ系のヘッドよりバルブはさみ角は広いように思えます。「ポルシェらしい」設計ですが、本当の評価はもう少し先にならないと見えてこないかも。
<カイエンターボのV8>
Mezgerの構造に類似した逆の構成。インタミをギアで上に上げてからカムチェーンで左右バンクに。クローズドデッキでちゃんと等ピッチのヘッドボルト。
ところで、今回の分析は全くエンジンおたくの目線であって、こと「911」と言う車の商品価値に対して
「ドライバーが操るRRポルシェ」と言う楽しみからすれば、全く意味のないものだとも思います。 メーカの品質を保証された市販車は、そのノーマルの範囲で大事に乗れば、全く問題なく(ほとんどは)性能発揮してくれるだろう。そういう意味では大事にされたお安く変える中古の個体を見つけて乗るのも、有りだと思うので、そこはお間違えなきよう。
996は目利きできれば、お得な911と思います。
ただし、買う時は目利きが大事で、暖気前の初爆から暖気中の排ガスに青いオイル煙が出ないか、ピストンスラップ音がでないか、クーラントまたはオイルの両方に濁りや白濁が無いか、6気筒の粒がそろっているか、など着目するといいかと思います。ワンオーナで前歴確かだとなお安心ですね。
以下は私なりの気づいた注意点を列記しておきます。
注意点としてはノッキング耐性が低いので
①インジェクターのクリーン化(ノズルクリーナなどでのメンテ)
(但し、直噴ではないのでそこまでダイレクトに効くわけではない)
②点火時期のズレ防止。クランクパルサーの故障やズレは即修理。
③ドライサンプでないので、スカベンジ後の圧送側ポンプに吸われるまでにいかほど消泡出来るのか不安。オイルは消泡性能のいいヤツが望ましいでしょう。
④レッドゾーンは守りましょう。
⑤カムチェーンテンショナーは空冷時代から鬼門だった箇所ですが、油圧式変更後は安定しているようですが、この初代水冷はクランクケースの前後で左右逆に引っ張りますから当然この餃子の皮のクランクケースを前後で逆方向に引っ張ります。最中合わせの薄皮ケースでベアリグが前後で逆のラジアル荷重を受けるわけで、クランクケースのねじれは・・・。エンジン全長分のモーメントですからねー。
<インタミ構造のにわか分析>
現物見て無いから何ともですが、初期のものはこのインタミベアリングの負荷見積もりが、上で述べたように両端で片持ち(絶えず軸が倒れるように)荷重が掛かってる軸なので、静的な見立てではラジアルベアリングでいいけれど、現実は両端ともアンギュラ型でないと駄目でしょう。そのタイプだったとすると、容量がそもそも不足(想定外の合成力)で特にフライホイール側のインタミ用ドライブチェーンの掛る側は負荷が高いのに、アウタ―側をインタミシャフトに組んだ外輪回転型で(軸芯側が固定なのに固定側が組立側でガタを持つ)。回転がクランクの半分だと4000回転MAXぐらいだからイイと考えたんかな?)、インナー側を3点ボルト締めのシール付きインローで固定(つまり設計上はラジアル荷重はインローが受けてボルトは抜け止めと考えた。ところが固定軸が長く、インタミシャフトも長く、M8ボルトにはどう見ても接続点で曲げ荷重が掛かる。D/Lで見てもこのインローでは倒れはは防げない)。
<インタミシャフト駆動側(フライホイール側)のベアリング>
写真のように固定端からベアリングまでの片持ち距離が長いうえに、このインローの隙間と幅を見ると陽動し、オイルシールは有ってもオイル漏れしそうです。ブラケットとインローが一寸しかかからないシャフト入れてM8で締める。
そうすると、このM8ボルトの首下はクランクシャフトからのドライブテンションで常に斜めに曲がった状態で強弱トルク変動で絶えず振れてインタミシャフトを支えているので早晩、疲労破壊で折れるでしょう。そうだとすると対策はベアリングのアキシャル荷重を受けれるタイプかつ厚みのあるものにしてモーメント減らしてインローでの倒れ防止。ボルトのサイズアップで疲労限以下に応力減らす等でしょう。
そう言う構造なので、このテンショナーのダンピング力は重要ですから、古いヤツはインタミベアリングの対策品交換と同時に新品交換が吉でしょう。
⑥長期エンジン掛けてない時の始動を考えると、エステル系など残存油膜の強いのが良いでしょうね、ピストンの首振り時の傷付き防止
⑦エンジンは原則ノーマルで乗りましょう。コンピュータいじって特に燃調と点火時期をパワーアップ側に攻めるのはトラブルの元かと。
こういった点に注意すれば、何でもおせっかい前の空冷的な911時代の乗り味を楽しめる996や997の前期NAタイプは、中古車として魅力的な面はあります。
911はどの時代も、新しくなると何らかの技術が付加され進化しますが、それが必ずしもドライビングプレジャーの増加を担保するものでは無く、失われてゆくものも有るのです
なので、どれも長所に着目し、これを引き出して楽しむことができます。
あくまで動画作者の個人的見解ですが、面白かったので上げときますw。今回の初代水冷エンジンを観察した後だと、正に「多分、こうだったんじゃないか劇場」の様に思えました(;^_^A
時間の無い方は9:40秒あたりから見るといいです。こう思っていた人がデビュー当時もいたんでしょうなぁ。
6.おわりに
今回、水冷に移行したポルシェFLAT6を勉強してみて、改めて根幹の設計センスは、時代と関係ないなと。スタートが構造的内燃機関の完成期となった第2次大戦時の航空機エンジン。この時ほぼ完成したと思う。で、その工学的思想を引き継いでいる系譜にMezgerエンジンは有るなぁ、と思った次第。
長く乗り倒す耐久性を考えるなら996/997世代はターボのみかな。991以降は、大丈夫なんでしょう、ただし車がだいぶGTになってしまってますが。
水冷Mezgerエンジンは、壊れても生き返るレース用途の構造になっているのは魅力。しかしお金のかかった作りなので、OHなどするとどれもパーツが高いだろうな、と思います。普通に乗るだけなら宝の持ち腐れかも知れません。でもそれが魅力なのは確か。
しかしネットで見つけたGT2のパーツ価格だと
クランクシャフト:約150万
コンロッド:1本35万(チタンかな?)
シリンダーヘッド(片バンク):約80万
シリンダー(片バンク)50万
わかりますね(;^_^A、そうみると中古の996GT2安いかも(;^_^A
内燃機関の歴史を飾るようなマニアックなエンジンとして、壊れたら最後はエンジン取り出して、オブジェとして自室に飾って晩年のコーヒーのお供にするのもいいかも、、と妄想するのであった(;^_^A。DIYでいじるならやはり空冷が一番シンプルでいいですね。今後も多くのファンが居るので価格は上がり続けるのかな。
一方、水冷の方はDIYも大変ですし、991後期からは標準でもツインターボが付いてきますから、維持・保守のコストは大きいです。古くなってパーツ交換するのも半導体がいっぱいでどこまで供給確保されるのか?。
そういう意味でも、水冷エンジンは、新しいものを買って楽しむのが王道で、DIYや歴史遺産として楽しむのは、GT1ケースの997前期ターボとGT3まで、、と言う気がします。
現行の991後期(素の911でもツインターボ化)からは、とても理にかなった構造(生産技術が追いついたことでのコストダウン)が実現出来ていると思います。そのため、3Lに縮小しているのは、純粋なターボとのヒエラルキーを脅かすことになるため、小さくしたのだろうと思いますね。なので潜在力は非常に高いと思う反面、整備性維持コストは、きついかと。こちらについては、まだ新しすぎて、情報も少ないので、また面白いことが見つかったら、取り上げるかもしれません。
今回、指摘したようなポイントはメーカのエンジン屋なら誰もが気づいているでしょうし、自動車評論家の中でも、メカに造詣が深い人は知っているでしょう?。しかし見たことも聞いたことも無いのは、業界のアレと言うことなんでしょうか?。福〇〇〇郎氏も、そこまで踏み込むとアウトなのかなぁ。
しかし、ひとつ良い方に考えると、それは「言わぬが花」だと言うことかもしれません。この業界の狭まりゆく趣味車の世界で、また楽しい車を作るために必要な苦い経験、投資?ということで、みんなは次を期待したのかもしれません、「次のために作ったステップ」だと飲み込んで。
もう7年前になりましたが、今回の分析と同じようなモノづくり思考過程を上げたエントリーをリンクしておきますので、少々まとまりに欠ける長文ですが良かったら振り返って頂けると、今回の水冷初代エンジンを理解するにあたって、助けになるかも(;^_^A
<モノづくりに寄せた心の旅路>