オイル選びの指標となる①粘度指数(VI)と、②高温高せん断粘度(HTHS)の意味を述べましたが、この番外編では自分がいじったエンジンでのオイルがらみの与太話についてw。
1)油圧の意味
油圧計が付いた車が無くなって久しいですがチューンドに乗るなら必須だと思っています。
それは油圧を知るためではあるのですが、オイルの状態を知ることが間接的に出来るからです。
そもそもエンジンにおける油圧の意味は、
①潤滑箇所に必要なオイルを送る。
②冷却に必要な油量を循環させる。
と言う基本設計に合わせたオイルポンプが装備され、吐出されるオイルを適正に調整する機構として
③オイルプレッシャコントロール弁がオイルシールやメタルクラランスを守りつつ、低温でも異常高圧で破損しないように圧力上限を規制する。
④オイルクーラが破損しないように、油圧を規制するクーラ保護リリーフ弁。
などが有ります。これによって、摺動面を流体潤滑状態に保ち、焼付かせないでエンジンを回すことです。
2)高回転化に当たって
最近エコ化のためにエンジン回転とは別に電動で補機を回す方向にありますが、オイルポンプに関しては、故障=エンジン破損、というためかクランクシャフトから取り出すメカ式がほとんどです。冷間始動や、1週間乗らずにオイルが下がった状態からの始動を考えると、本当は先にオイルポンプが回ってオイルラインが通った後、エンジンが回る、、というシーケンスが理想なんですけどね。
(たまにしか乗らないバイク用には油圧計からアキュムレータ的にオイルを蓄圧しておき、始動時に先に与圧を掛ける、、なんて便利パーツが出ているようです。
プレオイリング に関してはこんな奴です。
リンクミス修正しました)
エンジンチューンして高回転域を拡大すると、動弁系がまず対策対象ですが、ロータリーの場合はそれが無く、シールやメタルの潤滑が心配なぐらいです。13Bのブリッジボートは8000回転、サイドポートでは7000回転を使うにあたって、知識も無いので油圧を高めにしておきたいという思いから、トロコイドポンプのリリーフ弁をシムで調整し、当初リリーフ圧を上げていました。これはベアリングなどへの油膜圧確保と言うより、油冷エンジンなロータリーの場合はロータの冷却増強という意味合いでした。(基本ポンプ回転数と油圧の積で吐出量が決まるので。ですが、それはポンプ出口の話であって、実際のエンジンに回る分はリリーフ弁の構造上、逃げたオイルの残り分になっています。従って実質リリーフ状態になると、極端に言えば供給油量は頭打ちです。(リリーフ域では柔らかいと供給油量は多く、固いと少なくエンジンには送り込まれます)
なのでリリーフ圧を上げるとリリーフ開始回転数は上がり、オイルがヘタって来るとさらに上昇して供給油量も増えます。しかし逆にフリクションやポンプ負荷で馬力は喰われます。なので本筋はオイルクーラで油温を下げ、油圧は逆にリリーフ圧を下げて、最も高い油温状態時の、最高速上限回転数マイナス1000回転でやっとリリーフする圧力ぐらいに設定するのが、最もパワーが出せるという理屈で最後は逆に下げてました。通常エンジンは3kg~5kg/cm2もあれば、間に合うように作られています(昔は)。実際にマージンとしてメーカではリリーフは高めにしてるはずなので、4千回転も超えれば後はリリーフしっ放しでむしろオイル劣化の弊害にもなります。オイル粘度が下がって来るとリリーフし始める回転数がかなり上がって行きます。なので、走った後デリケートにアイドルでどれぐらい油圧が立っているか見て、オイル交換をしていました。今時のエンジンは省エネ重視で精密なので、適正油温では油圧リリーフまでは上がらない設定ではないかと思いますがどーでしょう?)
本来80~100℃当たりで本領発揮のエンジンオイルに対して、冷間時はめちゃオイル硬いですよね。しかし高温、高回転時の潤滑が心配で50といった硬いオイルを使います。すると安いオイルは15w-50と冷間時が固いのでエンジンの回りが重いです。で高価な5w-50とかを入れる。すると軽く回って良い感じ。でも最高速など負荷を数回掛けるともう、アイドルで油圧が下がってくる。多分30ぐらいまでヘタるんでしょうね。なので案外安い10w-40などがへたりにくくて財布にやさしかったですね。そう言うわけで、ワイドバンドの高いオイルは回りが軽くて高回転も安心だけどタレが早い、バンドの狭い安いオイルは無理しなければへたりも少なく経済的、、なんて感じでした。
ここで、低温側が問題になるんですが、15w-40なんてオイルだと冬の冷間始動は結構長らく油圧計は上限張り付きです。ですがロータリーでは何も問題ありませんでした。
ところが空冷ポルシェ!。こいつは空冷エンジンなので、あちこちのメタルクリアランスがデカいのか、油冷と言われるがごとく、ターボで無くても各ピストンにクーリングジェットが有ってオイル量を食います。つまり、低温時と高回転時で回る油量が極端に違うと言う特徴が有ります。ちなみに油圧は冬の低温始動時、オートチョークのせいで瞬間4千回転ぐらいまで回転が跳ね上がり、リリーフ全開でも油圧計は上に張り付いてオイルポンプの負荷が心配な感じ。リリーフするとは言え、吐出量が通常の水冷エンジンとはけた違いなのでw。高温でタレるからと言って硬いオイルは本当にエンジンの回りが重いですし。
次にアイドルが落ち着くと油温上昇とともに油圧は下がって3kgを下回るぐらいになったら走りだしてたかなぁ。そして夏場の渋滞で油温がぎりぎりまで上がる状態で走れない渋滞なんぞは命取りです。アイドル状態だと柔らかいオイルでは油圧計がちょびっとしか上がらないので肝が冷えるw、、なのでアイドルで冷やすのは水冷の話で油圧がメチャ低くなる空冷は木陰でエンジン切るより無いでしょう。こんな時に100%化学合成の0-30wなんてオイルでは空冷は死ぬるwww。やっぱ10-40wは最低限だろうな、なんてことが正確な油圧計があるとわかったりします(前回示したガルフの911用は15-50wはなるほどですし、HTHS5.4はすごいですね)。今では油圧はワーニングランプしか付かない車ばかりですが、エンジンチューニングする観点からはレスポンスのいい油圧計はエンジンだけでなく、オイルの状態を知るためにも必須だと思います。
ドライサンプのポルシェではオイルポンプとスカベンジポンプ(吸出し)の2つが同軸で配置され、そのトロコイドの厚みを変えて、吐出量をエンジンに合わせて有ります。ポンプ側よりスカベンジ側はどれも大きく、ターボモデルは両方が同じぐらいだったと思います。私がOHした2.7Lはおそらく排ガス規制でサーマルリアクタの付いた最悪バージョンだったせいか、ターボと同じ大型のものが付いていましたが、エキパイからファンまでモデファイされていたので、ポンプもオリジナルではなかったかもしれません。13Lのオイルをガンガン回してますからねぇw。でも総油量が多いせいで自然劣化は少なく、油温を上げなければオイル交換時期はメーカ指定まで引っ張って使ってました(ビンボーだからね)。
油冷エンジンでは高回転で高温時の消費量の多い時に間に合う大量のオイルを送る設定のポンプですから、冷間時のエンジンに対しては硬いオイルはリリーフ弁で大量にオイルを逃がしています。けれどそのためにいわば駄々漏れ状態で肝心の狭いクリアランスの潤滑回路の隅々に十分な油量は送れない可能性が有ります。また熱バランスも始動時に空冷は極端に偏在してエンジンが歪みます。なので低温粘度が重要ですし、負荷を掛けない暖気が必要です。
暖気と粘度さえ間違わなければ、空冷エンジンでも快調に回ります。ただHTHS粘度は高い方が安心です。その点は空冷エンジンは水冷よりシビアだと思います。
>その劣化因子としては第1に 「回転数より油温が響く」
と言うことの意味は経験上は以上のように、粘度が失われる→油膜が薄くなる→フィールが悪い、音がうるさい→劣化したと気が付く。その使用期間の長さを寿命と考えると、原則油温を上げると劣化は進む。ちょっと失念したけど「120℃と130℃では寿命(性状の保持)は半減する」とか、100℃以上に上げなければ、ポリマーの劣化はほとんどない。。てなとこでしょうか。
以上、与太話でしたがまとめると
①大事な高温粘度(○○w-□□の後半の数字)は基本メーカ純正の値を基準とする。
②前半の○○は低温始動性の指標ではあるけど、間を開けて乗る人や高回転まで良く使う人は
なるべく低い0とかの方がお金が有るならおすすめ。そうでなければ□□を合わせた上で、
余り欲張ってワイドバンドにしない方が経済的。毎日ちゃんと暖気して乗る人なら10とかでも
良いと思うけどね(10w-40は結構ヘタレにくくて回りが静かで好きだった)。
③高いポリマーの入ったワイドバンドなオイルは高温状態(サーキット走行)とかすると案外寿命は短い(これは保険を使い切ったと思えば高いわけではない)。でも普通に乗る人が入れてもどこにもありがたみは出てこないw。
④エコで0w-20とかのシャバシャバ系を使いたい人は、必ずメーカ指定で20を認めていること(ターボとか、ツインカムとかはダメなはずだから)。あと長時間アイドルとか、油温が高温になるような走りはしないこと。する場合は0w-30とかHTHS粘度の高いやつを入れてね。
てなところでしょうか、オイル選びの参考になれば幸いです。
おしまい