
(つづき)
圧力釜の構造になっていない初代水冷エンジンですが、シリンダヘッド(蓋)とシリンダー(お釜)の関係で言えば、華奢な蓋と締め付けボルトに加えて、お釜もオープンデッキでへなへなです。オープンデッキは一番熱を浴びる燃焼室のシリンダ上端部に水路を持ってこれるので、ヒートスポットに強くノックしにくいと言われます。しかし問題はそれ以前です。
4.シリンダーは3個の浮いた底抜けコップ
②シリンダーバレルの剛性が全く期待できないシリンダーブロック構造
通常シリンダーとクランクケースを一体型とする場合、シリンダーの剛性アップが期待できるのに、この型ではクランクケースと見えるものがそうではなく、シリンダ一体型オイルケースと言う感じのクランクブロックを包むだけの「皮」にしかなっておらず、主題に上げた「有り得ない」の正体、つまりシリンダーヘッドボルトとボアの関係が、でたらめとなった理由は恐らくこのクランクブロックをシリンダに締結して一体化するための締結位置にあって、(クランクブロックの構造上、正方形にそのタップが配置できなかった)シリンダーヘッド側と締結する為の「原則」は「無視した?」のでしょう。
<クランクブロックのヘッドボルト位置>
※これを見るとわかるように、シリンダーブロックの根元より深いクランクブロック位置までタップを移動させると対向バンク側のコンロッド大端部の回転軌跡に干渉するので、最適位置が成立しなかったと思われる
しかもピストンのサイドスラストに耐えるシリンダーのリブが(上下に無い)
普通、水路を邪魔しないように、、とは言いながらトップは繋いで剛性確保するものです。
<スバルやその他>
<初代水冷の煙突型シリンダー>
ご覧の様にぐるりと何も支え無し。写真はネットの拾い物なので、破損部分は気にせずに(;^_^A
つまり、水とオイルを分けるシリンダーの約中央付近のアルミの床?にシリンダーは浮いている状態で、オイル室側はクランクブロックに圧着されているわけではなく、浮いているのです。つまりヘッドボルトでクランクブロックを締めてゆくとシリンダのヘッド端に掛った締結力はシリンダ上端を押して、それは水とオイルを分けた中央の床?で受けるのです(-_-;)。
上下オープンなシリンダは燃焼室側を不当ピッチの剛性の低いヘッドで押され、下に沈むでしょ。しかしシリンダケースの外枠はヘッドとクランクブロックを挟むわけでつっかえ棒になっています。その上で、クランクシャフトがショートストロークの水平対向=スラストの掛かるピストンを剛結できていないシリンダが支えるわけです。
水平対向に限らず、高過給、ハイパワーエンジンはクローズドデッキが定番ですが、生産性からオープンになるものでは、リブ入れて補強してあります。
これではピストンの首振り共振や、シリンダーのボア端面がガスケットに不当圧で押されているだけの固定方式なのですから、油膜切れは致命傷。
<Mezgerタイプ996/997前期ターボのヘッドボルトピッチとシリンダーバレル端の位置>
次の世代エンジンまでの橋渡しに使われたGT-1クランクと呼ばれるMezgerの水冷は極めて凝った構造で、狭いボアピッチの間にウエットライナ―のスリーブを通して薄い水路を成立させています。シリンダーの上部と下部にOリングを配して水密していることから、スチールライナだと思うのですがわかりません。(初代水冷のシリンダはアルミブロックにシリンダー内面のみの溶射か、複合メッキ性と思われ傷が入れば、全体交換ですが現実にはボーリングしてドライライナ―を冷やし嵌めで補修するすべが有るようです)、
<ハヤブサの4気筒シリンダー>
CBRは今のトリプルRになってクローズドデッキになってますね
名機ハヤブサのエンジンは、今年3代目の新型が登場しましたが、1999年デビュー以来ずーっと同じ構造でクランクケース+シリンダ+シリンダーヘッドの分離構造です。私の見立ては、これは水冷故にスクエアなシリンダーブロックを基準剛体として、クランクとヘッドでサンドイッチとする締結構造でMezgerタイプと同じ思想です。
なので、ポルシェは最初からこれは「ターボには使えん!」とわかってて開発したのか?、あるいはテストして色々やったが、耐久性が出せなかった?。ま、GT-1クランクをターボには使っていたことから、最初からわかっていた線が濃厚です。
しかしこれではレースに使えないと言うことで、NAとターボの共用化(市販ではNAが存続しない未来も見据えて)あまりにもGT-1クランクエンジンは手間暇、コストが掛かって大変だったものをきっちり見直したのが997後期のPDKと組み合わされるMA-型のエンジンとなるのでしょう(ボクスター/ケイマンだと981型から)これは見るからにポルシェのエンジンぽいです。
この初代水冷の狙いを総括しておきたいと思います。
これまで、性能追及の目線で批判してきましたが、当該エンジンの設計リーダの目線で逆解説してみたいと思います。
①特異なクランクブロック構造
②クランクケース一体型シリンダ
③剛性の低いシリンダーヘッド
という点を解説しましたが、恐らく
実際は以下の順番だったと思います。
新たなポルシェのラインナップ構想から、ボクスター/ケイマンそしてカイエン/パナメーラと911からいわば上下に幅を広げる事業構想があり、このポルシェ入門ラインをカバーする新エンジンを開発する。この際、911のブランドを使う意味からも水平対向6気筒とする。
では、どうやって水冷フラット6を安価に作るか、しかも生産数量が多いので量産性が求められる。このエンジンは911のNAに広く使うが、レース用は別建てとする。従って性能追及は必要ない。
この方針から出てきたのが金型鋳造によるシリンダーブロックの上下ダイキャスト製法。同じくシリンダーヘッドもダイキャスト化。これを成立させるために、シリンダーとクランクジャーナルを分離する必要があり、シリンダーブロックを簡単な構造にしたのです。
その為、シリンダーはオープンデッキのリブ無し構造(抜けない構造は不可)。
そして、このために作ったクランクブロック構造では、シリンダーヘッドボルトを均等配置できなかったし、シリンダーからも遠くなった。しかし、最新CAEシミュレーションでこれでも成立することが分かった。ただし筒内爆発圧は〇×まで。ピストンの首振りスラストから回転数は〇×まで、、、というように。
(あくまで個人的な推定です。
マツダの複雑なSKYはこんな中子パズルで作ります。)
と言うわけで
>恐れ多くもポルシェのエンジンデザイナーとここを突いた議論すると、私は生きては帰れんなぁ、・・・
と書きましたが、実際は「君、何青臭いこと言ってるんだい(笑)、オタクに付き合っていたら、会社は大きくならないんだよw。どうせ誰もがサーキット走るわけじゃない、六本木で送迎に使うだけだろ?。ダイカストでたい焼きの様に、量産できるんだぜ。それこそが開発命題じゃないか。ガハハハッ、、」とゲルマンが笑ったかどうか知りませんが、ま、そんな感じ?(;^_^A。
冒頭述べた
>
「スタートラインが180度逆だった、」の意味は、
①開発命題は、レース性能ありき、ではなく「安価な大量生産」
②高い耐ノック性、高出力対応の「燃焼室」ではなく、ダイカスト金型で作れるクランクケース構造だったわけです。
その狙い通り、過去に上げたシリーズの
「911のポルシェからポルシェの911」のようになりました。
見事な会社発展の成功だったと言えるでしょう。
しかしレース用のGT2やGT3が別物となると、また市場で色々起きると、「ポルシェブランドに傷がついた?」のも事実ではなかろうか?。その問題も身に染みたはずです。
そして、直噴化やライトサイジングターボ化はCo2排出量や、燃費規制、排ガスで避けては通れない技術となって、伸び代ゼロの設計はやり直し。それが水冷第2世代のエンジンに見て取れます。結局水冷第2世代は、Mezgerのいいとこどりでもあり、(スバルと一緒じゃんは、言うとまた喧嘩(;^_^A)
はキチンとポルシェらしい設計だと思います。
次回で終わりにします、長すぎて飽きますね(;^_^A。結局最後の巻だけでいいかもしれん、、と思いだしました。
(5に続く)
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Posted at
2021/07/07 18:23:29