
前回のコメント欄で、
「キャンバースラストが分からない」
「内向力が分からない」
というコメントを頂いたので、それを踏まえて解説してゆきたいと思います。
バイクに限定した枠で言うと、キャンバースラストとは、
「タイヤを傾けると、傾けた方に曲がる力」と言い換えれます。
前回のブリジストンさんから引用したグラフは、バイク的にはリアタイヤの状況を説明していると思うのですが、タイヤにバンク角(キャンバー角)を与えると縦軸のGが発生しますが、つまり、タイヤを外側に持ってゆく力=Gが発生しているということは、タイヤはその反対の力を発揮しているということに成ります。
その力の正体が「キャンバースラスト」なのですが、普通の人は「キャンバースラストとはなんぞや?。」となると思います。
とはいえ、これはバイクの基本原理でもあり、うまいヘタ、速い遅いを分ける核心にもなるので、ヘタな説明になりますが、ちょっとお付き合い頂きます。
バイクのタイヤは傾けて使えるようにトレッド面はラウンドしています。そこでまずタイヤの2つの状態を考えましょう。
垂直に立ったバイクのタイヤが有ります。
これを真直ぐに押して転がしてみます。垂直に転がるこの状態を:Aとします。
次に、同じタイヤを真直ぐに立てて、そのまま手を離します。恐らくその場で左右どちらかに倒れますね。この片方に傾いて倒れる状態を:Zとします。
これが、バイクにおけるあらゆるタイヤの動きの全て。この2つのAからZまでの間の動きがバイクの慣性力を使った「キャンバースラストで曲がる」原理のすべてであると言えます。そしてこれに、ブレーキやアクセルと言った縦方向(回転進行方向)の前後力は、このキャンバースラストを操る手段の一つでもあります。つまり車で言うハンドル操作に該当すると言っているわけです)
解説:
Aはタイヤの回転方向に運動エネルギーを受けたので、タイヤと言う質量体は路面の摩擦によって回転しながら前に進みます。垂直に重心と接地点が合致する条件では、左右どちらにも傾きゼロで転がり始めると、タイヤはまっすぐに直進します。ところが現実世界では路面の状態か、タイヤの真円度か、何らかの力で左右どちらかに傾いた場合、タイヤの重心点はタイヤのトレッド面の中心を外れ、傾いた方に重心がズレて、タイヤは倒れようとします。しかし直進する慣性エネルギーが有るため回転しながら旋回し始めます。この旋回半径は、タイヤが倒れようとする転倒成分と、曲がることで発生した遠心力と釣り合い、倒れずに有る傾きを持ったまま、「最小の転がり抵抗で(サイドスリップゼロで)旋回しながら転がり続けます」
しかし、路面との転がり抵抗や空気抵抗で徐々に速度が落ちて、倒れる力が大きくなります。ゆえに倒れる角度が増えて行き、その分旋回半径はさらに小さくなり、遠心力は増えますから釣り合います、、そして倒れずに段々速度が落ちるにしたがって、旋回半径を小さくしながら、バンク角(キャンバー角)も増やしながら、転がってゆきます。
この、タイヤをバンクさせたことで生じた旋回する力を「キャンバースラスト力」とここでは使います。
次に、Zの状態はどうか?。タイヤは垂直から少しでも左右どちらかに傾くと、タイヤの重心が接地点から「例えば、右に」移ることで地面に落下(転倒)しますがこの時、接地点の摩擦力でタイヤは右側に「接地点を軸に」倒れます。これは直進運動(タイヤの回転)運動成分がゼロなので、重力になんらあがなう力は発生しないので、ただ倒れるのみです。
このことも重要で、タイヤにキャンバー角を与えただけでは、キャンバースラストは生まれず、あくまでも前進回転の速度成分と合わさって、はじめてキャンバースラストが生まれます。
私が使う言葉で「内向力=キャンバースラスト+サイドフォース(コーナリングフォース)」ですから、バイクを曲げる力の大体7~8割を担うキャンバースラストをまずご理解いただけたでしょうか?。。
この、バイクを傾けて、重力によって倒れる(転倒しそうな)傾いたタイヤが内向してゆく旋回力を操るのがバイクの醍醐味です。だったら、「旋回速度とバンク角で内向力は決まる」となるのは半分正解で、まだ残りがあります。それがライダーの技と言うヤツです。
ここに車とは違う「バイク独特の重要な力の働く成分」が有るわけで、これをいかに引き出すか、、がいかにバンク角を増やさずにキャンバースラストを引きだすか、、という技に繋がるのですがそれはひとまず置いといて・・・。別枠で書く?かも。
次に、もう一つ言葉の定義をしますが、「セルフステア」という言葉。これも解釈が人の数ほどあって、どれも前提をつけ足せば同じかと思うのですが、世の中的には狭義のセルフステアは、
①「バイクを傾けることで、前輪が旋回軌跡に向けて舵角を付けて曲がることから「バイクをバンクさせることで前輪がステアするジオメトリーのこと」
②バイクを傾けることで、フロントタイヤがリアタイヤの旋回に追従して舵角を生む動作のこと」
というように、大体はバイク側が構造的に舵角を付ける動きを指摘する目線と、ライダーがバイクをバンクさせることで、間接的にフロントタイヤが舵角を付ける動きを引き出す、というライダー側主体の目線とで捉え方とで異なる様の思います。
私は②の方の目線で使っていて、さらに通常はバイクのセッティングでアライメントが決まったら、セルフステアも一定の動きに決まってしまう。だからライディングあれこれでは、「セルフステアを使わない」という言葉も目にしますが、現実にはセルフステアを「引き出すテクニックと、抑え込むテクニックという +と- の操作もまた、セルフステアの範疇と考えてます。だから、同じバイクでもライダーの差が出る秘密のポイントだと思います。
例外は、セルフステアを全く使わずに乗ることすなわち、速度成分がゼロのZの状態を使うトライアルの競技は、バイクがバランスを取れず、ライダーが身体とハンドルを使ってバランスを取る状態なので除外しますが、それ以外はセルフステアの手のひらで走っていると考えます。
話の流れが見えていますでしょうか?。
①バイクの曲がる原理、力を知る。
②内向力の成分を知る。
③セルフステアの理屈を知る。
④ライダーがバイクを曲げる手段を知る。
⑤曲げる力を増やすと減らすを制御できるようにする。
⑥正しい走行ラインを考える。
⑦バイクを正しい走行ラインに乗せる。
⑧セルフステアを使って、走行ラインを走る
というように、頭と体が理解できれば(説明できれば)いいなと考えています。
では②以下に進む為、実際のバイクの動きで見て見ましょう。
下の写真は、バイクが旋回した時の、前後輪の軌跡を示したものです。
(30年ぐらい前の私のラジコンですが(;^_^A)
右上は私のGSXR750#4/5モデルですが、どのようなバイクでもフロントフォークは後傾しており、タイヤ接地点とステアリング軸角の地面との交点間の距離をトレール量として諸元表にも記されています。
ステアリング軸角(キャスター角)を持っているため、後輪と違って前輪の接地点は直進時には車軸の真下にあるものの、バンクさせるとステアリングの軸に沿った力で地面に押し付けられているため、前進速度を持つ動的状態では、このトレール成分によって、常にタイヤの回転抵抗分が、接地点に掛かるがそれより前にステアリング回転軸心が来るため、タイヤは常にトレールの交差軸と接地点を進行方向で一致させようという力(一致した時その力はゼロ)が働くので、ステアリング軸の回転自由度を持ちながらも、一定の方向に舵角を保つ成分が働く構造になっている。
では、次にそのタイヤ接地点を見て見ましょう。
<上の図のバンクした旋回中盤の前輪を拡大した模式図>
<バンク中の旋回時の前後タイヤの接地点>
まず、皆さんの意外と意識に無いのが、バイクは傾けるとタイヤ直径が小さくなっている、という事実です。これは接地点がラウンドしたタイヤの外側に移行してゆくので、その分直径が小さくなったのと同じ効果を持ちます。
①前後輪ともに減速効果が生じる(ブレーキ状態が起きる)
直進状態も、定常円状態もタイヤは等加速度運動をしてるが、その過渡状態のバンク角が増え続けている間は、タイヤの回転は車速が同じ速度でも上昇し続けている。
※定常円までのバンク角を素早く倒し込めるほど、この効果を使える。のんびり倒しこんで行くと、ほとんど生じない。
次に図の前後タイヤの軌跡を見るとわかるように、前輪は後輪より必ず外側を回ります。
バイクの旋回円を(トライアル車)極限まで詰めてゆくとリアタイヤを軸に前輪が90度近く切れて回る。またバンク始めると同時にリアタイヤは曲がり始めるがフロントは遅れて切れてゆきます。これは別途解説。
②フロントタイヤは、リアタイヤより旋回速度が速い。(外側を回る)
※キャンバースラストはリアから始まる(フロントは遅れる。なぜならステアリング軸の回転自由度が有り、起き上がろうとする力が発生するのは舵角が決まってからになるから)。セルフステアを制御する大事な要素。
そして、フロントからスリップダウンする原理ともいえますが(;^_^A、 皆さんがフロントのグリップ力にやたら気を遣うメカニズムでもあるかな、フロントタイヤ特有のジオメトリ。
③フロントタイヤは、メーカの味付けで(ジオメトリで)サイドフォース成分が重要
※バンク角とセルフステア舵角の折合いは、ラジアルタイヤの出現で大きく変わり、フロントタイヤは積極的にリアタイヤの旋回半径より切れようとする味付けで、サイドフォース成分がリアのバンク角より浅いところで、大きく出る。
この3つのポイントを示しているのですが、図では、バンクしている傾いた前輪を、旋回円上を真上からみたイメージで書いています(;^_^A
旋回円の軸心からラジアル方向に遠心力と転倒力(キャンバースラスト)が釣り合っている状況です。上で説明した①のように、タイヤ接地点が旋回円の内側の外周に移行します。
その過程で前輪には舵角が付きます。そのためステアリング軸角のせいで前タイヤは、内側外周方向だけでなく、ステアリング軸角の延長した対地接点に向けて前方にも移動します。そして定常円の状態に入ったら、ステアリング舵角は一定に固定されて、バイクの重量配分に合致した遠心力に、あがなって起き上がろうとする力を分け合います(キャンバースラスト成分)。
ここで、①で示したバンクに伴ってタイヤ半径の変化による減速成分が働きますが、②の通り、フロントの方がリアより強く働きます。そして、直進から定常円までを時間軸でフロントの挙動に当てはめて、ここでは簡単に触れます。あとで詳しく解説するかも(;^_^A
)
<セルフステア制御をしない初心者ライダーの場合>
右カーブでバイクを倒し始めると、
①車体は右に傾き、リアが旋回を始める。
②フロントは一瞬左に切れて車体が傾くのを助ける。
③車体が定常円に到達するバンク角にまだ到達しない間にフロントタイヤは舵角を付けて行く。初期は減速成分のモーメントで舵角は強めに。
④定常円に近づくとバンク角はほぼ固まり一定になるので、フロントタイヤには切れ込む成分が減って、舵角は浅くなる。
このフロントタイヤの動きを追うと、タイヤの接地面に側力が掛かるのは、倒し始めの最初の左に舵が切れる時と、そこからリアの旋回円に追従が追いつくまでの間には、転倒モーメント力と遠心力の「内側と外側」に向かう力とは別に、前後方向の減速する力と、舵角が増えて行く過渡でのサイドフォースが生じることが分かる。つまり旋回円の接線方向に向かう力にあがなう「縦の力」が生じている。
この縦の力はブレーキでライダーが制御することが出来るため、直進からのターンイン時にブレーキングで前輪荷重を高めて、旋回を始めるとキャスター角は起きて前輪を内側に向かせようとする反力は大きくなる。加えてタイヤの抵抗とタイヤのステアリング軸回転中心からの接地点がオフセットしたモーメント力を制御することで、舵角の強弱を制御できる。しかしこの力はサイドフォース(縦の力)と言う所がみそで、その前輪の舵角を付ける力を強めて旋回しているわけなので、フロントが起き上がろうとする力は、サイドスラストと釣り合う力より大きい(よりバンクしている)わけで、これがチョンと滑る(マンホールとか)と、皆さんおなじみの前から内側にコテッと倒れるわけです。
もちろん、キャンバースラストも実際にはタイヤを横に滑らす力も受けているのですが、バンク角が25度ぐらいまでは車体を起こす力の下向き成分が大きく、45度で下向きと横向きが大体釣り合います。バイクのロール軸より高い位置に合成重心があるSSなどのバイクは、ロール軸を中心にバイクの慣性質量はロールするので、バンクしたフロントタイヤは地面に押し付けられる成分が得られます。
<動的なロール軸>
これが車と決定的に違うところで、車もタイヤ接地面より上に重心が有るのでロール軸を中心に車はロールしますが、外側タイヤを押し付けると同時に内輪を持ち上げる力が働き、
最終的にタイヤのグリップが出せる水平方向抗力(最大サイドフォース)を超えてドリフトします。バイクはラジアルタイヤの進化で公道でも40度ぐらいまではタイヤのグリップを高めながら旋回力を引き出せるからです。(※ただし、遠心力と釣り合わせながらリアタイヤを路面に押し付けることが出来れば、、、ですが)
今回は、バイクの操り方のヒントを述べたつもりです。
①セルフステアの主成分は、リアのキャンバースラストを軸に曲がる組み立てをすることで、バイクの横方向のグリップを有効に引き出すこと。
②フロントタイヤには舵角が付くことで、サイドフォース成分が大きくなること。
また、バンク角が30度を超えるあたりから、遠心力がタイヤを押し付ける成分が減って代わりに横方向に押す成分が増えて行くこと(キャンバースラストが遠心力と比例しなくなる)。
③セルフステアを操るということは、バイクのジオメトリを使って「バンクさせる」という代用操作を使って、前後タイヤに旋回力を生ませること。その際に、フロントタイヤのグリップをブレーキやハンドルへの入力でどう使うか、またリアタイヤへのアクセルワークで縦の力を操ることで、リアタイヤの内向力と、フロントタイヤの抵抗力を使って、セルフステアに影響を与えることが出来るということ。セルフステアは受動的なメカニズムだけど、ライダーに広範な引き出す手段が隠されているということ。
今回も長くなってしまいましたが、まだまだ細かい特性上の話はありますが、私が20代に自分で実験して理解した「フロントとリアの滑り方が違うこと」の疑問と探求で、駐車場での8の字の練習の中で、リアの通る所とフロントの通る軌跡が異なることから、それぞれに10cmぐらいの幅の砂を撒いて、旋回中にそこを通る時のスリップ挙動を調べると、リアはアクセルワークさえ変動させなければ、ほとんど滑らず、フロントは必ず滑るけれど、ある乗り方をすると滑らせずに通ることがわかり、旋回動作でタイヤがどの方向に負荷を受けているのかを考えて乗るようになりました。
次回もセルフステアを少し続けて、このようなバイクの特性を踏まえたライン取りについて、考えてみたいと思います。