次は神奈川県の愛川町、相模原市に点在する三増峠の戦いの古戦場を巡ります。
昨年の大河ドラマ風林火山では登場しませんでしたが、武田信玄の駿河攻めの後、甲駿相の三国同盟は崩れ、北条と武田は敵対することになります。
永禄12（1569）年10月、武田信玄は、小田原城の北条氏康・氏政を攻めましたが、落城させることはできず、甲斐に引き揚げることにしました。
信玄は帰り道に三増峠を選びましたが、北条氏康、氏政は、北条氏照、氏邦、綱成らを始めとする2万の将兵で三増峠で迎え撃つことにしました。武田軍の近づくのを見た北条軍は、半原の台地上に移り体制を整えようとしました。
信玄は、その間に三増峠の麓桶尻の高地に自分から進み出て、その左右に有力な将兵を手配りし、家来の小幡信定を津久井の長竹へ行かせて、津久井城にいる北条方の動きを押さえ、また山県昌景の一隊を韮尾根に置いて、いつでも参戦できるようにしました。
北条方は、それに方々から攻めかけたのでたちまち激戦となりました。そのとき、山県の一隊は志田峠を越え、北条軍の後ろから挟み討ちをかけたので、北条軍は総崩れになりました。
この合戦中、武田方の大将浅利信種は、北条軍の鉄砲に撃たれて戦死しました。
北条氏康、氏政の親子は、助けの兵を連れて荻野まで駆けつけてきたが、すでに味方が負けてしまったことを知り、空しく帰っていきました。
信玄は、勝ち戦となるや、すぐに兵をまとめ、反畑（現在の相模湖町）まで引き揚げ、勝利を祝うとともに、敵味方の戦死者の霊をなぐさめる式を行い、甲府へ引きあげたといわれています。
ただし、「後方から北条方が武田方を追撃する戦い」であったという異説もあるようです。
現在は
三増合戦場の碑が建っています。また、ここから東へ130メートル程の桑畑の中、「塚場」と呼ばれる地点で、人骨及び六道銭が発見されたため、三増合戦場碑の傍らに墓が建てられています。
志田峠は、志田山塊の峰上を三分した西端にかかる峠です。
愛川町田代から志田沢に沿ってのぼり、津久井町韮尾根にぬける道で、かつては切通し越え、志田峠越えといわれていました。
ここは永禄12（1569）年の北条・武田両軍の三増峠の戦いの古戦場で、武田方の山県昌景の率いる遊軍が、この道を韮尾根から下志田へひそかにかけ下り、北条方の背後に出て武田方勝利の因をつくった由緒の地と伝えられています。
江戸中期以降は、厚木・津久井を結ぶ道として、志田山塊東端の三増峠越をしのぐ大街道となりました。
尚、志田山の地名の起こりは、この山が芝山であったことによるといわれています。
三増峠の戦いの武田信玄本陣旗立松のあるゴルフ場・東名厚木カントリー倶楽部の入口付近に説明看板がありました。
旗立て松は永禄12（1569）年10月6日、武田信玄と北条軍との三増峠の戦いで信玄が大将旗を立てた跡です。
北から西へ連なる三増の山並みを越えて、甲州に通ずる道には、三増、中、志田の三峠がありますが、そのうちで最も高く険しいのが中峠でした。信玄は、相模の原を一望するこの高台を中心にして鶴翼の陣を張り、追撃する北条軍に備えました。中峠近くのこの松に旗を翻し、自らは麓の桶尻に本陣を置き、合戦の指揮をとりました。
松は、小学生が5,6人で取り囲むほどの太さでしたが、大正12（1923）年の失火により枯れて今は無く、昭和3（1928）年9月に建てられた記念碑と旗立て松二世に、昔を偲ぶのみです。
旗立松はゴルフ場の東名厚木カントリー倶楽部の中にあります。案内の矢印があちこちにでていて迷うことはありません。ゴルフ場の駐車場に車を止めて、すこし急な傾斜の山を登っていきます。頂上近くに説明看板があり、さらに登っていくと旗立松です。ここは古戦場方面の眺望が良いです。
三増合戦場の碑の西側に不動明王を祀る小高い所があり、
首塚といいます。宝永3（1706）年建立の供養塔があります。このあたりは、永禄12（1569）年の三増合戦のおり、志田沢沿いに下ってきた武田方の山県昌景の遊軍が北条軍の虚をつき背後から討って出て、それまで敗色の濃かった武田方を一挙に勝利に導くきっかけをつくったところといわれています。この戦いの後、戦死者の首を葬ったといわれるのが首塚です。
なお、三増合戦での戦死者は北条方3269人、武田方900人と伝えられています。
「県道を隔てた森の中には胴を葬ったという胴塚がある」と説明看板には書かれていましたが、胴塚については見つけることができませんでした。
東名厚木カントリー倶楽部の北東側に
浅利明神、浅利墓所があります。浅利右馬助信種は武田方の侍大将です。
永禄12（1569）年10月の三増合戦の時、信種は武田軍の左翼にあって奮戦していましたが、小田原方北条綱成配下の放った銃弾を受け、この丘の下で戦死しました。
信種の戦死後は、軍監として陣中にあった曽根内匠昌世が浅利隊の指揮を引き継ぎ、指揮官を失った浅利隊をまとめて奮戦しました。
信玄は信種の死を悼み、墓をつくって篤く供養しました。
その後、寛政元（1789）年、村人が墓のわきを掘ったところ小さな骨壷が出てきました。人々はこれを信種の遺骨として、墓地の北にまつり直し、浅利明神として尊崇しました。
それ以来、除疾、除災等の験あらたかな神とし、祈願成就の際、木太刀を奉納する習わしが今に伝わっているそうです。
津久井湖の近くには
津久井城があります。築城は、鎌倉時代三浦半島一帯に勢力を誇っていた三浦氏の一族、津久井氏（築井氏）によると伝えられています。
戦国時代、津久井城は北条氏の支城となりました。津久井地域は甲斐国境に近く、領国経営上重視されており、津久井城（城主内藤氏）は有力支城のひとつとして重要な役割を果たしていました。現在残っている遺構は16世紀に北条氏が整備したものです。
天正18（1590）年、豊臣秀吉の小田原攻めの際、北条方の関東の諸城も前後して落城しました。津久井城は徳川勢の本多忠勝、平岩親吉ら12,000人の軍勢に攻められ、6月25日に開城しました。現在は県立津久井湖城山公園として整備されていて、遺構もよく保存されています。
津久井湖畔を更に西側に向かいます。
寸沢嵐首洗池です。三増峠の戦いに勝利した武田軍の本隊は、三ヶ木から落合坂を下り沼本の渡しより、他の一隊は三ヶ木新宿からみずく坂（七曲坂）を下り道志川を渡り、この地に入った。この2筋の信玄道を通ってきた武田軍は合流しこの地において戦勝の儀を執り行いました。
「新編相模風土記」によると、武田信玄はこの地「反畑（現在の相模原市相模湖町寸沢嵐（すあらし））」にて討ち取った首級の首実験を行ったそうです。
その数実に3269であり、ここにて勝鬨を上げたそうです。その討ち取った首を、この池で洗ったといわれるので「首洗池」と言い伝えられています。
また、武田軍は反畑において首実験を行った後浅間の森に埋葬して塚を築き、浅間神社を建てたといわれています。
これでこの日の史跡めぐりは終了です。八王子市内のホテルに宿泊し、翌日に備えました。
