今月の最終日となりましたが、今月は
重力波の初検出という歴史的快挙を
目の当たりにしました。
実は、つい最近にも宇宙に関する重要な観測結果が発表されました。
タイトル画像は、その観測と直接に関係はないのですが、私が初めて撮った
系外銀河の写真です。これに写っている天体については後述します。
Nature誌(あの世間をお騒がせした似非科学者で広く知れ渡った論文雑誌)の2月25日号に
"The host galaxy of a fast radio burst"と言うタイトルの論文が掲載されました。
著者には数名の日本人が含まれている国際共同プロジェクトの成果です。
このブログで触れようと思ったきっかけは、車などの情サイトの「レスポンス」に記事が載っているのを目にしたことです。
謎の天体・高速電波バーストの発生源は50億光年の彼方…すばる望遠鏡で解明
何を観測したかは上の記事に簡単な説明があります。その最後の方で、『宇宙論上の「ミッシングバリオン問題」も解決した。』
という一文があります。
本日は、この宇宙論の問題について私の分かる範囲で解説したいと思います。
アインシュタインの一般相対論以降(正確にはそれを宇宙に適用した1925年のフリードマンの仕事以降)、宇宙に含まれる
エネルギーの種類と量を決めることが長年の問題でした。ここでは、質量もエネルギーの一種であると考えます。
これもアインシュタインのE=mc^2と言う式を使ってエネルギーに換算します。
エネルギーには3つの形態があり、星や生物を作っている原子の元になる「物質」、電磁波や質量が無視できるほど小さい
ニュートリノからなる「放射」、そして理論的には存在しても良いがその正体が不明の「ダークエネルギー」と分類されます。
「物質」は運動エネルギーに対して質量エネルギーが圧倒的に大きいもので、現在の宇宙では陽子・中性子、ダークマターが
主成分です。電子も陽子と同数あると考えられますが、質量が陽子の1800分の1なので、寄与は忘れて構いません。
陽子や中性子は、素粒子物理の業界では「バリオン」(baryon)と呼ばれる一族のメンバーで、加速器の中では陽子などより
ずっと重いバリオンも一瞬だけ作られますが、現存するのは陽子と中性子ですので、ここでいうバリオンは陽子と中性子の
ことだと思ってください。
ダークマターは、電気的に中性で質量を持ち安定な(少なくとも寿命が宇宙年齢以上の)粒子です。
成功を収めた「素粒子の標準理論」に電気的に中性で質量を持つ粒子はZ粒子(1983年にCERNで発見)とヒッグス粒子だけ
ですが、これらはすぐに軽い粒子に崩壊します。
ですからダークマターとなる粒子は、私たちが知らない未発見の粒子であると考えられています。(ニュートリノも質量を持ち
ますが、軽すぎてダークマターと成り得ません。)
古くから銀河の観測から、光っている星以外の質量の存在は知られていました。
例えば、天の川銀河の外周部の星の速度を調べると、光っている質量だけでは説明できないほど大きいことがわかりました。
回転速度が大きいと銀河に引き止めておく重力が必要ですが、それが光っている星だけでは不十分だったのです。
また、下の写真のような銀河団を観測した時に、質量と明るさの比が通常の恒星より桁違いに大きいこともわかっていました。
この写真に見られるM98-M100の銀河は、かみのけ座に属し、太陽系から約6000万光年離れています。他にも幾つか銀河が写っています。この時は焦点距離480mmの望遠鏡を使いました。
宇宙に存在するバリオン的物質の総量は、宇宙論的観測から知られています。リチウム以下の軽い元素の存在比と元素合成の理論から導かれる値と、今世紀になって宇宙背景放射の観測から得られた値が同じ数値を示しています。
元素合成は宇宙が始まって3分くらいの時に起こり、宇宙背景放射は1万年の時にプラズマから解放された電磁波です。この2つの全く違った現象が同じ値を導くので科学者はその値が正しいと考えています。
このバリオン的物質が宇宙の全エネルギーに占める割合は約5%です。それ以外は、ダークマターとダークエネルギーです。
このたった5%足らずのバリオンですが、観測されている星などから推測される質量は、さらにその10分の1程度しかありませんでした。
この足りない部分を、褐色矮星やブラックホールなどの見えない天体に帰する考え方もありますが、それでも足りないらしいということで「ミッシング・バリオン問題」と呼ばれています。
今回の観測は、50億光年の彼方からやってくる光の性質を詳細に調べることで、銀河間の空間(intergalactic medium)に電離したバリオン的物質(原子核)が存在し、その質量がちょうどバリオン的物質の90%あることを突き止めました。
見えない星と言えども、星の形成過程を経て作られるので、銀河とその近傍に局在していると考えられますが、今回の観測は銀河間に電離したイオンとして存在することを示しました。
宇宙は依然として謎だらけですが、近年の観測技術やシミュレーションやデータ処理をする計算機の発展により、少しずつ解明されています。その時代に生きていて、成果に触れることができるだけでも良かったと思います。
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Posted at
2016/02/29 20:26:12