今月の初めにした作業についてのお話です。
車ネタや星撮りネタではありませんが、忘備録代わりにブログとして残して
おこうと思います。
現在メインで使っている赤道儀は2016年の夏に個人輸入で購入したものです。
当時は車に機材を積んでの出動ばかりでしたので、積載重量が大きく、
本体は軽く、精度の高いものを探して、国内に代理店は無いがサポートの
しっかりしているメーカーのものを選択しました。
去年の梅雨時に、
最初のオーバーホールをしたのですが、その際もギヤボックス
の外し方やグリースの選択など、メーカーの担当者からメールとファイルで
丁寧に教えてもらいました。
その時以来、調子は良かったのですが、最近ちょっとした異常を見つけました。
長時間の追尾撮影をするときは、オートガイドといって撮影用と別のガイド
カメラで星の動きを見張って、ズレると赤道儀に補正信号を送ります。
私が使う最長焦点距離は今は2000mmで、それをフルサイズ、6200万画素のカメラで使うと、一画素あたりの視野角は
0.39"(1"角=1度の3600分の1)で、ガイドエラーはこれと同程度以下を目標にします。
ただ、空気の揺らぎが大きいときは星像が揺らぐので中々この目標を達成できません。望遠鏡の焦点距離に
反比例して視野角は狭くなるので、そういうときは短めの望遠鏡で撮影します。
ガイドソフト(PHD2)が星像のプロフィールやガイドエラーを表示するので、それを参考に機材や対象を
選びます。今月の初めにM33銀河を焦点距離1500mmで撮った時、シーイングは良くなくてガイドエラーが
大きめだったのですが、赤経方向(地球の自転軸と同じ方向)のエラーが赤緯方向の3〜4倍と異常な数値でした。
翌日に赤経周りのガタを調べるために、ウェイトシャフトの端に左右に力を加えても、ガタは一切ありません。
ここで赤道儀の動力伝達(トランスミッション)について書いておきます。
メーカーにより違いはありますが、基本的にはモーターの回転を適当に減速しつつ、赤経軸を地球の自転速度で回転させます。
赤経軸のギヤボックスのカバーを開けて、ギヤを1つ外した状態です。
下の図のように、一番右にある小ギヤがモーターのシャフトに取り付けられていて、白いプラスチックのギヤ、
手前の大きなギヤ、一番左のギヤへと動力が伝わります。
下の写真はギヤボックスを取り外したところ。らせん状のギヤがついたシャフトがウォームシャフトで、左側にモーター
からのギヤが並んでいて、上記の最後のギヤはこのシャフトの左端に固定されています。
ギヤボックスが赤道儀本体に取り付けられているときは、その内部のスプリングによって、ウォームシャフトのギヤが
下の写真のウォームホイールに適度な力で圧着されるようになっています。
このウォームホイールは外径60mmのシャフトに固定されていて、シャフトは大きなベアリングを介して
CNC削り出しの赤道儀本体に取り付けられています。
このように構造は単純ですが、求められる回転精度が非常に高いので、僅かなガタでも撮影に影響します。
今回は赤経・赤緯両側のギヤボックスを取り外し、それぞれの2つの金属製のギヤの回転部分を手で回して、
回転の滑らかさを比較して、今回の異常の原因を突き止めました。
ギヤが噛み合っている状態では気づきにくいのですが、一番手前のギヤを外してウォームシャフトを回すと、
赤経側だけがザラつく感じがします。「これだ!」と思いましたが、ベアリングがギヤボックスに隠れているので、
ウォームシャフトのギヤも外して、シャフトを取り出して確認しました。
シャフトの両側には2つのベアリングが付いているのですが、赤経側だけが赤褐色の汁にまみれています。
オイルではなく水のようで錆びが浮いたようです。出動していた際に、何度かひどい夜露に濡らしたり、霜が降りたりして、
鏡筒に隠れにくい赤経側で内部に水分が入ったのか、気温の急激な変化による結露かで、ベアリングに水分が侵入した
のが原因かと思います。
ベアリングを交換するために、まずは外しますが、プーラーは自転車やバイクのホイール用のもの(下図左)しか
持たないので、Amazonで800円ほどの右のものを発注。
取り外したベアリングの外径、穴径、厚みを測って、メーカーにベアリングの仕様を確認のメールを出しました。
時差があるのですが返事は翌日に。このメーカーの赤道儀のネジは全てインチネジで、ベアリングもインチ規格だと
入手が面倒かと思ったのですが、上の写真のように外径は26mm、穴径は10mmだったので大丈夫だろうとの
期待通りの「6000 ZZ C3」との回答。タイトル画像はその新品のパッケージです。
6000は大きさの規格で、ZZは金属の両側非接触カバー、C3は隙間の規格です。
担当者の話では、最近は金属製のカバーがついたZZベアリングを選んでいるとか。
発注前に色々と調べていると、「K5」と型番に付くものがあり、どうやらグリスが違うようで、K5の方がエステル系の
グリスで対応する温度範囲が広く良質だとか。値段は変わらなかったので、K5を発注し、2日後に到着。
1個260円程度で送料無料。4個注文しておきました。
取り付け前に古いベアリングを清掃し、新品とガタを比べてみると、古い方はラジアルとアキシャル(軸)の
どちらの方向もガタが大きいのですが、特にアキシャル方向のガタがかなり大きくなっていました。
ベアリングのインナーレース(内側の金属枠)でシャフトを受けて、アウターレースはギヤボックスに固定されます。
ギヤボックスには、ギヤがあるのと反対側にベアリングのアウターを抑えるボルトがあります。「ボルト」と言っても、中央に
シャフトを逃がすための穴が空いていてリング状なので、ナットのようです。
どの方向にもガタが無く、滑らかに動くようにベアリングを抑える圧をピンスパナで調整します。
調整後はガタは無く非常に滑らかにギヤが回ります。手で触って分かるくらいのガタがあったので、精度も悪くなる訳です。
赤緯側は今の所問題無いので交換しませんでしたが、次のメンテの時にでも交換しようと思います。
さて、ベアリング交換前後の赤道儀のパフォーマンスを比較するためにガイドソフト(PHD2)が残したログを
グラフにしてみます。
まずは前回の星撮りブログで紹介したM33の撮影中(焦点距離1500mm)のガイドグラフです。
青い線がガイド星の赤経方向の動き、赤い線が赤緯方向の動きを表します。
縦軸の最大値が8"で、赤経方向の平均エラーが2.06"、赤緯方向は0.61"です。
これだけ両方向の差が大きいと星像が全画面で伸びてしまいます。
グレーの網掛け部分は、ditherといって望遠鏡の方向を少しだけずらす動作です。これにより、撮影した画像の
輝点ノイズの位置がズレて合成する際に平均化されて薄くなります。
次にベアリング交換後でNGC891を撮った時(焦点距離2000mm)のもの。
縦軸のスケールは上の図の半分の4"で、平均(RMS)ガイドエラーは赤経方向は0.28"、赤緯方向は0.29"です。
シーイングが良好でなくて途中でガイド星を何度かロストしていますが、ほぼ目標の追尾精度を達成できています。
ベアリングの交換は自転車やバイクで経験がある人だったら同程度の難易度です。
精度を出すために調整はシビアですが、自転車のハブやペダルのカップ&コーン式の玉押し調整に比べると簡単です。
どちらもガタが無いように締めることと、滑らかに動くように緩めることの間のベストを探る作業です。
最初は、それまでに使ってきた中華製赤道儀と比べると高い買い物かと思いましたが、基本性能は格段上で、メンテすることで
その新品の時の精度を保って長期間使えるので、結果的には良い買い物だったと思います。
世界中で20年以上使っているユーザーがいるのも納得です。
今後も定期的にメンテして、満足できる天体写真を撮れるようにしたいと思います。