
前の星撮りブログでは、2晩連続で風が強く標高の低い所に移動し、雲のため
撮れたのは1晩目だけであると報告し、その時に撮った天の川などの画像を
紹介しました。
その1日目の夜に撮った写真の画像処理が終わりましたので、紹介いたします。
その夜は、ようやく実戦で使えるようになった反射鏡(GSO20RC鏡筒)を購入
した時から撮りたいと思っていた対象を撮ることが目的でした。
後述しますが、かなり暗い天体なので、できれば霞の影響の少ない標高の
高い所で撮りたかったのですが、長い露光時間を稼ぐため、雲の少ない夜を
逃せません。
その天体の画像をお見せする前に、ポタ赤で撮った写真から。
この晩は、D5200に135mmの単焦点レンズ(フルサイズの202mmの画角に
相当)を付けっぱなしでした。
まず、光害の影響の少ない北の空で何か面白い対象は無いかと、iPadのSkySafariの画面を見ていると、この春に何度か
撮影したM51と前回撮影したM101が1枚の写真に入るような気がしてきました。
目印は、北斗七星の柄杓の柄の端にあるAlkaidで、それを挟むように2つの銀河があります。Alkaidを視野の中央に入れて、
ISOを上げて短いSSでテスト・ショットをすると、横構図なら2つの銀河が入りそうでした。
ISO400、F3.5で、120sと240sをそれぞれ6枚ずつ撮って合成しました。
等倍で2つの銀河を切り出すと次の画像になります。まぁ何とか銀河らしくは見えます。
1時をまわった頃にさそり座が見えてきたので、次にレンズをアンタレスに向けます。前に180mmのレンズを付けたA6300で2つの球状星団を撮りましたが、今回は赤外フィルタを改造したD5200を使ってアンタレスの周辺の星雲を撮ってみました。
露出設定は前の写真と同じです。
この辺りはこれからしばらく見られますので、色のついたガスがよく写るD810Aで撮ってみたいと思います。
アンタレスに続いて天の川も昇ってきましたので、その中の赤い星雲を狙います。
市内の街明かりの影響を受ける方角なので、露光時間を少し増やして、ISO400、F3.5で120sを7枚、240sを8枚撮りました。
画像処理で少し無理をしているので、あまり綺麗な仕上がりではありませんが、2つの赤い星雲が見えます。
上がM16(わし星雲)、下がM17(オメガ星雲)という、それぞれ太陽系から7000光年、5000光年の距離にある散光星雲です。どちらも活発に星が生み出されている領域で、NASAから拡大した画像が発表されています。
時計も2時半を指す頃には、南東の空にはくちょう座が昇ってきました。
前のブログで夏の大三角を撮ったのもこの時間帯でした。ポタ赤のD5200を、このはくちょう座にある比較的大きな赤い星雲、北アメリカ星雲に向けます。
この天体は少し暗いので、ISO800、F4で、240sを4枚(5枚撮りましたが1枚はボツ)、360sを6枚撮りました。ただ、最初の方で三脚に触れて極軸がずれてしまったので、等倍では星が流れています。
こうしてみると天の川の中になるので、星の数が尋常ではないですね。
この星雲を撮っている時の「ボツ写真」が次の画像です。偶々流星が通過したので、画像の合成には使いませんでした。狙って撮れるものではないので、全くの偶然です。
これから夏が終わる頃まで、はくちょう座周辺の赤い星雲を撮る機会はありますので、ちゃんとした画像はまた後日ということで。
さて、赤道儀に載せたRC鏡筒では、前に撮った時にはフォーカスが甘かったM63銀河を撮りました。M51やM101と同じ銀河群に属していて、太陽系から2700万光年離れています。
「ひまわり銀河」とも呼ばれ、私たちの天の川銀河とほぼ同じ大きさの渦巻銀河です。
望遠鏡が暗いので、ISO1600、試写の360sの1枚に、420sを8枚を撮って合成しました。
フォーカスは前回よりはマシですが、霞の影響で星が滲んでしまっています。今シーズンはもうチャンスはないかもしれませんが、課題として残しておきます。
M63は22:30から23:45頃まで撮っていました。この夜の本命が南中(北天にあるので北中?)するのを待って、12:20頃から導入をし、試写します。
その天体とは、これまで狙って撮ったものでは最も遠い天体で「かみのけ座銀河団」です。この銀河団までの平均距離は3.2億光年と言われています。
1億光年(30メガパーセク)以上の天体については、いわゆる「ハッブルの法則」が成立ち、天体は観測者からの距離に比例した速度で遠ざかっています。このことと宇宙空間の一様性を合わせると、空間が膨張しているということに導かれます。
近い天体は、天体同士の重力による固有の運動が目立っていますが、これだけ遠いと宇宙の膨張の効果が支配的になってきます。そうなると「距離が1億光年」という主張の意味が怪しくなってきます。1億年の間にも空間は膨張しますので、その距離はいつ測った距離なのか?
天文学者や宇宙物理学者は、距離の定義を曖昧にしないために、天体までの距離としての定義を明確なものを幾つか用意しています。実際には、この「距離」を用いるよりも、天体の光の波長が伸びる割合である「赤方偏移」を用いることにしています。
それですと曖昧さはないのですが、一般の人々に分かりやすいように「〇〇光年」という距離の単位を使います。
脱線してしまいました。
この3億光年という途方もない距離に、多数の銀河が集まって銀河団を形成しています。以前紹介した「マルカリアン・チェーン」を含むおとめ座銀河団も含めて、銀河団の観測は最新の宇宙論では重要な役割を果たしています。
今やスパコンを使って銀河形成のシミュレーションが行われていて、その結果がこれらの銀河団を正しく再現できるかが宇宙を説明する理論の成否を決めています。例えばダークマターが必要であることは、超新星や背景放射の揺らぎの観測から明らかになっていますが、銀河形成のシミュレーションからもその必要性が示されます。
焦点距離が1600mmという望遠鏡を購入した目的の1つが、この銀河団を自分で撮影することで、この夜に撮ることができました。
ISO1600で480sを10枚(合計80分)撮って合成しました。霞のために白っぽい画像でしたが、何とかそれらしく仕上げてみました。
拡大してみると星のような小さな天体も銀河であることがわかります。焦点距離1600mmが広角レンズに思えます。
画像処理ソフトの機能を使ってカタログ名を入れてみました。
この銀河団の主要なメンバーは楕円銀河で、この写真の中央にある2つの銀河、NGC4874とNGC4889は超巨大楕円銀河と言われています。左のほうにあるNGC4921は、この銀河団では少数派の渦巻銀河の1つです。
NGC4889内には、観測された中では最大級のブラックホールがあることが知られています。その質量は、太陽質量の約200億倍と推定されています。これも途方もない数字です。
銀河や銀河団の撮影はこれで終えて、赤道儀の望遠鏡を450mmの屈折鏡に載せ替えます。
天の川が立ってきたので、上にあげたM16などよりも高度の低いところにある派手な星雲を導入します。去年初めて撮った2つの星雲を1つの画像に入れるように構図を調整します。
ISO800で、180sと360sを5枚ずつ撮って合成しました。
下の大きな赤い星雲がM8(干潟星雲)、上にある青と赤の色をまとったのがM20(三裂星雲)です。どちらも5200光年の距離にあります。M20は二階建て構造をしており、上の青い部分は散光星雲の中でも恒星に照らされて光っている反射星雲、下の部分は電離した水素原子が出す光により赤くなっています。
この赤い部分を拡大すると裂け目が見えるので「三裂星雲」と呼ばれています。(実際には4つに裂けているように見えます。)
この星雲の最後の写真のタイムスタンプが4:04となっていました。
最後に、天の川が昇ってきたところで撮ったA45とのツーショットを。
この夜は、1枚に1時間以上かけた対象も含めて、多くの天体を撮ることができました。
今は満腹状態ですが、また新月が近くなると出動したくなるのでしょうね。次回は梅雨入り前で、夏の星雲を撮ってみたいと思います。