
今は新月期に入り、月が昇るのが遅く暗いので、天体観望には適した時期ですが、
天候が優れず、曇り空をみてはがっかりする夜が続いています。
そんな中、2つ続けてブラックホールに関するニュースが新聞等で報道されました。
「ブラックホール(以下、BH)」というと、SFのお話かと思われるかもしれませんが、
その存在は理論的に予言されていて(後述)、観測で幾つも「見つかって」います。
BHは、その強い重力のために光でさえも出てくることの出来ない領域のことを指して
いて、光を出す恒星とは違い直接見えるわけではありません。どうやって「見つけたか」
は、今回の2つのニュースと関連していますので、まず、そのお話をしておきます。
以前、
このブログでお話したように超新星爆発の後に、非常に重たい芯が残るケースがあります。
前回のブログで載せたかに星雲(M1)は、あの星雲の中心部に中性子星があって電磁波パルスを放出しています。
中性子星より重い場合には、光が脱出できない領域(その境界を、シュバルツシルト面とか事象の地平面 event horizon と
呼びます)が生じてBHになります。
BHは、その巨大な質量が生じる重力のために何でも吸い込むのですが、アインシュタインの一般相対論の効果を考えると、
ちょっと奇妙なことが起こります。
相対論は「重力が強いと時間の進み方が遅くなる」という現象を予言します。例えば宇宙船に乗ってBHに落ち込む場合、
自由落下する宇宙船に乗っている人は船内では無重力状態で自分の時計の進み方に異常を感じることなくそのままBHに
落ち込んで(圧死して)しまいます。
一方、その様子を遠くから見ている人は、宇宙船の中の時計の進み方がBHに近づくほどに遅くなっていき、BHの表面近くで
殆ど止まってしまうように見えます。当然、宇宙船もBHに突入することなく、表面近くで永久に止まっているように見えます。
宇宙船内の人と遠方の人の2人が見る現象は、一見矛盾しているように思えますが、相対論はつじつまの合う説明も与えてくれます。(詳細は省略します。)
BHに落ち込む宇宙船ではなく、電子や陽子といった荷電粒子を考えましょう。遠方から見ている観測者は、これらの粒子が加速されてBHに落ち込んでいき、その表面付近で急ブレーキをかけて止まるように見えます。
この時、加速された粒子が持っていた運動エネルギーが電磁波となって放出されます。特にエネルギーの高いものはX線になります。健康診断で使われるX線発生装置は、これと同じ原理で、数万ボルトで加速した電子を(融点の高いタングステンで出来た)電極に衝突させて急減速させX線を発生させています。
これまで「発見された」BHは、恒星と二連星を形成している場合で、その恒星から流れ込む電離したプラズマ(電子、陽子、イオン)から発生するX線を観測しています。連星は、その重心を中心として回転(公転)していますので、X線を出す灯台のように見えます。
相棒の恒星の大きさや光スペクトルから恒星の質量を見積もり、この公転周期から見えない相棒の質量がわかり、BH程度である場合に「BHの候補」と呼ばれます。
このようにしてX線を放出する連星は幾つも見つかっていて、さそり座やはくちょう座にもあります。さそり座X-1はBHほど重くなく中性子星と考えられていますが、はくちょう座X-1の方はBHの候補です。
タイトル画像は、夏に撮ったはくちょう座の中心付近の写真です。北アメリカ星雲の側にある最も明るい星がDeneb、次に明るいのが十字の形をしたはくちょう座の中心にあるSadrで、X-1は、Sadrを挟んでDenebと丁度反対辺りに(この画像の左上端辺り)にあります。
要約しますと、BHそのものは見えないが、BHの表面近くから放出されるもの(電磁波)はあり、それが観測されている、ということです。
本題に戻りまして、まずは昨日のニュースからです。
ブラックホールの「げっぷ」観測
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35239895
「げっぷ」というと喉を通った物が出てくる印象ですが、上述のように、飲み込む手前でパルス状のX線を観測したという記事です。このX線の出方が新しかったので、BHの生成過程に関する新しい知見ではないかと言われています。
そのX線の源が、このブログで何度か画像を上げてきた「子持ち銀河」(M51)の伴銀河の方にありました。先月の上げた画像の使い回しですが、pixel等倍に拡大して天体名を入れてみました。
太陽系から約2500万光年の距離にあり、この2つの銀河を合わせてメシエカタログではM51と呼びます。今回のX線源は小さい方のNGC5195にあります。
もう1つの記事は次のものです。
ブラックホール撮影に挑戦
http://www.asahi.com/articles/ASJ124S98J12PLBJ001.html
こちらは天の川銀河中心部にあるBHの近くから放出される電磁波を高解像度で捉えるプロジェクトを、日本を含めたグローバルな電波望遠鏡ネットワークで実現するものです。既にテストは始まっていて、来年から実際の撮影をするそうです。
BHというのは、1916年にアインシュタインが発表した一般相対論の根幹をなすアインシュタイン方程式の1つの解です。
この方程式は、数学の分類では「非線形2階偏微分方程式」と言われるもので、名前を聞いただけでも難しそうなように、実際に解くのは容易ではありません。
落体の運動方程式の解が、与える条件によって様々な運動(自由落下、放物運動など)を説明できるように、アインシュタイン方程式も与える条件で様々な解を出します。1917年にシュバルツシルトが、中心に質量があり球対称で時間に依存しない解を求めました。その解に、事象の地平面が存在していたことから、これが最初のBHを表す解となりました。
その後、球対称という条件がなくても、一般的に地平面の存在が示されています。また、質量(=エネルギー)がどこかに集中しているのではなくて、空間に一様に分布する場合にフリードマンが解いて、空間が膨張する解を得ています。これが現在の宇宙論の基礎になっています。
また、重力そのものが弱い場合には方程式が簡単になり、電磁波と同様の重力波の方程式になります。重力波はまだ検出された例がなく、最初の検出を目指して日本を始めとして重力波望遠鏡の建設が進んでいます。
カメラが捉える綺麗な星々も見ていて楽しいですが、見えない星にも宇宙の神秘を感じます。
Posted at 2016/01/07 10:24:32 | |
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