(あらすじ)
主人公がXLRで日本一周中に自転車で伊豆一周することになった中学時代の同級生同士3人21歳の話です。(今日、京急油壷マリンバークが閉鎖になると聞きました。フラッシュバックしたあの日のことを小説仕立てで残しておこうと思いました)
本編は既に北海道に入っていますが、あえて伊豆まで戻って回想します。
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今日も一日走りっぱなしで汗びっしょりである。
いつものように野宿の準備の時間である。今日は風呂にも入りたいので、
1.水
2.広場
3.風呂近
4.スーパー至近
5.酒自販機至近
あたりを条件に地図を漁った。
どうやらこの辺りだと京急油壺マリンパークってのの駐車場が使えるならよさそうだ。ちょっと早めに駐車場にはいって、様子をうかがおう。
「ヤマ、どんな感じだ?いけそうか」
まあ水族館の駐車場に野営するってのは、都会なら考えられないし、お前ダレ?と守衛さんに突っ込まれるのは必至な訳だが、そういうのに耐えられそうか、すみっこなら許してもらえそうかとかいう、ユルユルな感覚で聞くカメである。
「わかんねえ、でも酒飲んでもう動けないので朝まですみませんって言えば、許してもらえるような気がする」
そりゃそうだろ。ちゅーか、いつも通りじゃねえか。こないだもそんなこと言って、目が覚めたらラジオ体操の小学生に取り囲まれていて、二度と校庭で野宿すんのやめようなという申し合わせをした気がする。
まあいいや、ぐだぐだ考えても仕方ねえ、途中にいい感じの銭湯もあったし、本日の野営地はここにすることにしよう、高らかに俺は宣言した。
そうと決まれば、まずはテント設営である。
とはいえ、毎日のことなので、手順も完全に確立済み、ものの数分で設営終了。まずは重い荷物をテントの中に全部ぶち込んで性善説を信じて、テントのチャックを閉め、銭湯に出発である。
夏の昼間に山道を自転車で駆ける二人もたいがいだが、ヘルメットをかぶって二人の荷物プラス自分の荷物も含め3人分の荷物を積んで走るライダーも結構汗だくなのである。
そんな汗だくの若者には銭湯はこたえられない贅沢なのだ。
「うぐゎー生き返る~」
もちろん3人とも銭湯グッズはもっているのだが、熊本から持ってきた俺の「健康タオル」が限界を迎えていた。ナイロン製のチクチクする泡立ちのよいアレである。
「もうそんなボロボロの無理でしょ、買い替えた方がいいよ」
当たり前のことをいうヤマに多少イラっとしつつ、いま気が付いたのに買い替えるとか...と思ったら番台の脇で売っている。
300円...なんかもっと安くて同じようなのがある気もするが、これも思い出になるかと思い、なしくずし的に購入した。
新しいものはいい!泡立ちがちがう!と感激しつつ快適に入浴を終えた。
そのあと買い出し班と居残り飯炊き班(というか一人)に別れた。
俺とカメは買い出し班、ヤマが飯盒でご飯を炊く係である。
「先に言っとくけど、今日は俺は魚肉ソーセージは食わないから!」
なぜそんなにヤマが魚肉ソーセージを嫌うのかがわからない。あんなに合理的で常温で保存できる美味い食べ物はないのに...そりゃ野宿なら毎日でてくるにきまってる。わかってねえな、ヤマ。
「俺、刺身くいたい!ピカピカの白身!あとウニ!」
カメはカメで一日の食費上限とかいう概念がない。一日1500円以内に収めようとしている食べ物=栄養摂取原と考えているオレとは価値観が合わない。
酒を減らすか、刺身を餃子にするかどっちがいいんだと詰め寄ったが、まったく引く気配をみせず、結局、地魚らしいアジ(青魚じゃん...)とちょびっとだけウニを買った。もちろんそれだけだと腹持ちしないので、ぶたこまと野菜ミックス的なパック入りの端切れ野菜の安いのを買って、野菜炒めで増量することでカメとは意見が一致した。
ビールの自販機はマリンバークの入り口付近にあるのは確認していたが、観光地価格だったので、スーパーで9本買っておいた。一人三本換算だが多分足りないだろう...。
戻るとヤマが酒を待っていた。
「おっせーんだよ、もうすぐ米が出来上がるじゃねえか、ビール来るまで水分も取らず椎名誠レベルで耐えていたオレの身にもなれ!」
しらん、と一喝し、つまみを広げ始める。
留守番ヤマはアジの刺身があることで、多少溜飲が下がったらしく、おとなしく3人で乾杯して宴会タイムへと突入した。
「かんぱーい!」
グダグダと話しながら飯盒はひっくり返して蒸らしタイム、すかさず折り畳み式フライパンを取り出して野菜炒めを作り始める俺。
肉ははさみで適当に切り落としつつ、塩コショウを振って下味をつけていく。
いつも思うのだが、塩コショウと醤油というのは悪魔的な調味料ではないのか。もはやこの二つがあれば、すべての料理がおいしくなると思う。
もちろん他にもあった方がいいんだろうと思うが、バイクで野宿旅をしていれば、自ずと限界の低い積載量に対して荷物は厳選されていく。そんな中、どうしても必要な調味料は?と問われれば、即答でこの二つを挙げるだろう、生涯変わることなくである。
「そういえば、お前彼女とはどうなったんだよ」
広島の彼女とは中学の同級生であるから、彼らとも知り合い、いや彼らとは小学校が一緒なので、実は俺より彼女のことを知っているのは彼らと言ってもいい。さらに面倒くさいことにカメは彼女のことが好きだと、我々には公言していた。
「てゆーか、お前が付き合うことになるとか、さがるわー、マジでさがるわー、ほんとカンベンして欲しい」
酔いも任せて勢いづいているカメである。
つか、おまえ彼女いるじゃん、かんけーねえじゃん。
こうなってくると、ついこないだ何となくいい感じになってきた女の子とダメっぽくなったヤマは面白くない。話題転換である。
「その話、まだ続くの?それよりこないだ観た新世紀エヴァンゲリオンっつーアニメが凄くてさあ、アレ?お前らまだ観てないの?マジで観た方がいいよ。ガンダムとかカリオストロとかジブリとか、今までいいとか言ってたの超越してるから。ホント観た方がいい」
なんだそのエヴァとかいうの、と思ってよくよく聞いたら、例のダイコンフィルム、巨神兵の庵野が監督したアニメらしい。Outとファンロードから遠ざかり一般人に戻って久しいオレには懐かしい名前であった。
気が付くとあっという間に3本のビールを飲み尽くし、じゃんけんで負けたやつが自販機でビールを3本買ってくるというルールになっていた。23時には自販機でビールが買えなくなるので、そこまでに何本飲めるか的な変な雰囲気になりつつある。さすが酔っ払いである。
「そろそろお前がじゃんけんめけるべきだぁ~ろ、お前がいちばんカネもってんじゃねえかぁよ」
金を持っているからおごれというのはもはや恐喝であるが、酔っ払いにそんな理性的なセリフは通用しない。
なだめすかしつつ、夜は更け、油壷マリンパークには全く入場せず、駐車場とその脇に設置されていたビールの自販機ばかりの思い出であった。
明日も頑張って走ろう!
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落ちも何もない、ただの日記ですが、エヴァの記述の時代背景以外はほぼ事実の記述です。
30年以上前のことを今日のニュースでふわっと全部思い出しました。夏休み中だったはずですが、平日だったからかその日もほとんどクルマは停まっていませんでした。
もう二度と行くこともないと思いますが、無くなると聞くとちょっと寂しいですね...
Posted at 2021/05/14 23:13:44 | |
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野宿日本一周 | 日記