2021年
「新型ローグ(ビニールシート車)」から改題
キャシュカイ+3列シート=ローグ
ローグ+ビニールシート=エクストレイル
日産が3代目エクストレイルを発売した。
エクストレイルはCMFという新しい開発手法のトップバッターとして
世に送り出された記念すべき一台である。
●エクストレイルの歴史
まず、エクストレイルの歴史を簡単に復習しておきたい。
2000年に発売された初代エクストレイル(T30型)は、
「4人が快適で楽しい、200万円の使える四駆」をテーマに開発された。
エクストリームスポーツを愛する人ががんがん使い倒す相棒、といったイメージで
汚れに強い室内、機能的な装備・収納類、
横置きE/Gながら本格的なオフロード性能、
など、道具感にこだわった個性的なSUVとして誕生した。
価格も実用に耐えうるエントリーグレードグレードながら
200万円ポッキリでコンセプトどおりとなった。
世界でも好評を博し、モデルライフを通じて根強い人気を博した。
特筆すべき装備は、
・防水シート
・泥汚れを掃除しやすい樹脂内装
・車が汚れていても乗降時に足を汚さない下見切りドア
・車内が広く使えるポップアップステアリングコラム
・軽衝突時に復元する樹脂Frフェンダー
・温冷機能付きドリンクホルダー(ただし、缶しか入らない)
などなど、「使い倒す」ためのアイデアが満載だった。
2007年には初めてのフルモデルチェンジ(T31)。
根強い人気があったことから完全なるキープコンセプトで登場。
「アウトドアスポーツを最大限満喫するためのタフ・ギア」がテーマ。
走破性を高めつつも、特徴である使い倒せるキャラクターを継承。
荷室を広くしたり、収納に便利な引き出しを設けるなど、
これもアイデアにあふれたクルマとなった。
スタート価格はSの4WDで215万円。税込価格であったから、
税抜き204万円と値上げ幅は少ない。
6MTモデルもラインナップされ、MTファンの私も注目していた。
2008年にはクリーンディーゼルを搭載したGTグレードが追加され、
CX-5で花開いたクリーンディーゼルという選択肢に先鞭をつけたモデルとなった。
●エクストレイル成功とシティSUVの流行
日産の開発陣は初代、2代目ともに日本の若者をターゲットにして、
見事に彼らの欲しい車を作り出すことに成功した。
価格が安かったことに加え、商品を見て何に使うための車なのか、
パッと見て分かる、部分が成功した理由であると考えられる。
T31型が発売以降、世界的にはシティSUVがもてはやされた。
SUVのような居住性とプロポーションを持ちながら、更に乗用車ライクな
内外装を与えることで、従来のハッチバックからの乗換えを誘った。
日産はエクストレイルベースでより都会的な
キャシュカイというコンパクトSUVを2007年に発売している。
エクストレイルよりはコンパクトで走破性はそれほど売りにしていない。
アルメーラの後継車種という扱いで欧州のみならず、日本でも販売された。
この作戦は後のジュークにつながり、
日産はコンパクトクロスオーバーSUVの第一人者となった。
北米でもムラーノの下級グレード的扱いで2007年にローグを発売した。
つまり、日産のC-DセグメントのSUVラインナップは
日本メインのエクストレイル、欧州メインのキャシュカイ、
北米面のローグという三本柱になった。
SUVというボディタイプはますます市民権を得ることとなり、
強力なライバルがどんどん出現することとなる。
わが国でも販売台数No.1を誇ってきたエクストレイルも例えばフォレスターや
CX-5と言った新しいライバルに販売を脅かされるようになった。
一方、かつてのパイオニアたるRAV4は国内販売を見限り輸出専用に特化。
同じくCR-Vも国内販売はするものの、北米が主戦場になった。
アウトランダーも日本よりも新興国であるロシアを向いた企画に変わり、
それぞれが、土臭さを消して行った。
かつては非日常をイメージさせる土臭さは
オールドファッションだと言われるようになった。
今や、欧州系のCX-5、未だに悪路系のフォレスター、セダン派のハリアーという
実に個性的なライバルが2リッターSUVクラスにはひしめいている。
そんな中、日産はCMFという新しい設計手法をエクストレイルで実践し、世に問うた。
●CMFは積み木設計
今までCMFという単語を連発してきた。
CMFとは(common module family:コモン・モジュール・ファミリー)という。
直訳すると、共通の構成要素を持ったファミリーということだ。
日産が公表してる図のように、車両を構成する部品をいくつかの
ブロックにわけ、これらを組み合わせて一台のモデルを作り上げようというものだ。
従来のプラットフォーム戦略では、
例えばサニーとパルサーを共通のプラットフォームを使って開発することはできる。
しかし、素のサニーからGTI-Rの様なスポーツモデル、
或いはラシーンのようなゆるSUVを作るには、
たくさんの専用部品を新規に起こしてやる必要があり、効率的な開発にならない。
例えばサニーベースで重量の重いミニバンを作ろうとしたとき、
プラットフォーム違いによって一クラス上の部品を流用できない、
という非効率の壁にぶち当たるわけだ。
CMFのように構成部品をいくつかのパートに分け、
ブロックを組み合わせるように車両を開発すれば、効率的な開発ができる。
そのブロック自体も汎用性を持たせた上で守備範囲が決められているから、
必要以上の性能・質量を持たせる必要が無く仕様を適正化できる。
従来よりも流用設計を進めるため、
まとめ買いによって購買コスト自体も下がると言うわけだ。
この考え方を日産はC、Dセグメントで導入し、
エクストレイルはトップバッターとなった。
●広がる新設計コンセプト
日産がCMFを提唱する前、VWがMQBプラットフォームこそが
超巨大プラットフォームのはしりであった。
アクセルペダル~前車軸までの位置関係を完全に統一する。
こうすることで空調、パワートレーン、ドライブトレーン、Frサスペンション、操舵システムという
車のコストの実に60%を占める部分を流用設計にする事が出来る。
一方でデザインに影響するFrオーバーハングやホイールベースは自由に変えてよい。
お金がかかる部分を共通にしただけではなく、高い性能を与えたこともあり、
近年のVW車の完成度は目を見張るものがある。VWゴルフやポロはその恩恵を受けている。
更に、トヨタもTNGAという新設計コンセプトを提唱している。
その詳細は明らかにされていないが、同様に部品共用化を図るようだ。
日産のCMF、VWのMQB、トヨタのTNGAなど、従来のプラットフォーム共通化より
一歩進んだ設計の考え方はこれからもどんどん出てくるものと思われる。
こうした共通化部品を使うメリットは、
部品購入コストの圧縮や設計工数の圧縮が挙げられる。
こうして浮かせた分のコストを日々厳しくなる安全対策や
魅力的な車にするための原資にすることを各社ともに挙げている。
しかし、共通化による「取り分」を本当に商品、或いはユーザーに適正に
還元しているのかどうかについては出てくる商品を我々消費者が丁寧に検証するほか無い。
●欧州と北米に飲み込まれた日本向け商品
積み木設計で作られたエクストレイル。
簡単に表現するなら、
キャシュカイ+3列シート=ローグ
ローグ+ビニールシート=エクストレイル
である。
エクストレイルの写真を見たあとで
欧州にて一足先にフルモデルチェンジされた
キャシュカイを見て欲しい。
写真を見ると驚いてしまいそうになる。
Frマスクはフードやヘッドランプの形状が
エクストレイルと異なるがテイストは良く似ている。
内装もMT車であることを除いてエクストレイルと全く共通になっている。
最大の違いはRrセクションで日産のデザイントレンドに沿った
キュッとした凝縮感のあるスタイリングでまとめられている。
一方、北米向けのローグはキャシュカイに対してRrを延長。
ライバルのRAV4やCR-V、CX-5やエスケープに対抗しうる荷室長を確保している。
また、Rrフロアパン延長の恩恵で
3列シートの設定があることもキャシュカイと大きく違う点だ。
しかし、ローグの前席よりも前の空間はキャシュカイと全く同じ設計だ。
(衝突形態が異なることから骨格系の内部は異なる可能性がある)
一方、エクストレイルは完全に見た目はローグと変わらない。
旧ハリアーそっくりのリアビューもローグ譲り。
防水ビニールシートと防水ラゲッジがせめてものアイデンティティなのだろう。
「使い倒し派」には不要な3列シートもローグのお下がりをあてがわれている。
ローグの情報を集めれば集めるほど、
エクストレイルはローグの1バリエーションに過ぎない事が良く分かる。
エクストレイルにクロスシートをつけて
エンジンを2.5Lにすればローグに大変身というわけだ。
ローグに防水インテリアを奢ってやれば十分に
エクストレイルの代わりを果たせると日産は判断したのだろう。
実際にエクストレイルのユーザーも100%旧来のエクストレイルの
装備・機能を知り尽くして使い倒していたわけではなかっただろう。
だから、ローグのエンジンを2Lにして内装だけ防水にすれば、
あとは事足りると判断することは容易に想像できる。
しかし、ローグ+ビニールシートのエクストレイルを見る限り、
エクストレイルを選ばなくてはならない理由が
全く無くなってしまったように思えてならない。
●ネット記事から拾った日産の考え・・・
ネット記事がソースなのだが、日産の開発者のコメントを抜粋した。
「雪の中を走るようなタフ・ギアのイメージで、日本のみウォーター・プルーフ仕様となっている。」
「日本でのエクストレイルが持っているイメージと、それ以外とでは全く違う。
そのくらい日本は特別な市場だ」
「日本以外ではエクストレイルががらりと変わるのはウェルカムだった」
と、日本市場を無視して北米市場、中国市場を最優先することを正当化するような
寂しいコメントばかりであった。
もちろん日本でもエクストレイルのネームバリューを生かして販売するが、
あくまでもグローバルカーのローグの小変更版を販売するつもりだったのだろう。
●乗り味もあいまい
20Xのエマージェンシーブレーキパッケージ(4WD)に試乗した。
乗り込んですぐ感じたのはずいぶんと「下山」してしまったインテリア。
ソフトパッドのインパネアッパー。カーボン柄のオーナメントが付き、
空調吹き出し口にはシルバー塗装の縁取りが入る。
先代のキャシュカイやエクストレイルと比べれば
ずいぶんと質感アップを感じるが
ライバルも同水準にあるため、優位性は無い。
エンジンを始動して走り出す。
2000ccもあるのに、まるでリッターカーのような加速フィールが気になる。
加速時にCVTがぶわっと回転数をあげ、加速感に乏しく、
アクセルを緩めると低回転で延々と走り続けようとする。
近年、トヨタですら改めようとしているというのに・・・・。
さらに、乗り心地もバタバタする感じで、何だか興ざめしてしまう。
NVも綿を詰めまくっている(?)ハリアーに乗った後ではどうにも騒がしく感じる。
本当はスキー場などで試して見たかったがそれはかなわなかった。
ラゲッジを見ても、先代にあった引き出しの様な「WOW」もない。
本当にローグの防水インテリアバージョンでしかないのか!
●先代ハリアーに似たリアビューをなぜ放置した?
最大の謎が先代ハリアーそっくりのリアビュー。
参考のために画像を並べて見たが、どうだろうか。

カースタイリングの専門化がハリアーを知らないとは言わないだろう。
旧モデルだから良いと思ったのかは謎だが、
隣国のコピー商品じゃないのだからもっと考えるべき。
キャシュカイなんかは日産らしい良いデザインなのに・・・。
●どんどん高くなるプライス設定
さて、カタログを片手に商談に入った。
グレードは4駆の20Xのエマージェンシーブレーキパッケージを選択。
税抜き価格は240.7万円(5%課税で252.7万円)。
オートライト、アルミホイール、プッシュ式エンジンスターター、
オートエアコン、シートヒーターなど一通りの装備が揃う上級グレードで、
ソナーを利用して追突を防ぐ流行の「ぶつからない機能」が選べる。
ただし、アダプティブクルーズコントロールはつかない。
7.4万円で「ぶつからない機能」が突くことはお買い得といえるが、
アダプティブクルコンは欲しかった・・・。
さて、一般消費者の気持ちで見積もりを作るので
カーナビをつけようと思ったが、おどろいた。
純正用品のナビにはバックカメラが無く、これを後付しようとすると、
MOPのカーナビと変わらない値段になってしまう・・・・。
MOPカーナビだと、アラウンドビューモニター、インテリジェントパーキングアシスト、
ふらつき警報、BSW(車線変更時の障害物検知)、クルーズコントロールとETCが
抱き合わせでついてくるが、31.8万円の投資となる。
更に、安全装備が気になる私としてはサイドエアバッグと
カーテンシールドエアバッグを注文(7.35万円)。
そしてSUVだからということでフォグランプを選択しようと思った。
用品カタログを見て驚いた。なんとフツーのハロゲンフォグランプが4万円。
LEDフォグランプに至っては6.5万円もするのだ!これには驚いた。
すると営業マンはすかさず
「MOPのLEDヘッドランプを選べばフォグがセットで着いてきます」と言って来た!
確認するとLEDヘッドランプは確かにフォグがセットで装着され、価格は7.35万円。
フォグだけ4万円支払うのと比べると、割安に感じるが、さすがにあくどいと感じた。
しかし、夜の山道で補助ランプとしてフォグを使いたいときもあるので、
価格設定に疑問を持ちつつLEDヘッドランプも注文した。
この結果、車両本体価格は299万円に跳ね上がった。
更に、新型エクストレイルにはお勧めパッケージオプションで
「ベーシックセレクション」という抱き合わせ用品が存在する。
これが、
1.デュアルカーペット
2.セキュリティ&セーフティパックプレミアム
3.プラスチックバイザー
4.マッドガード
5.ドアミラー自動格納装置
6.セーフティイルミネーション
という内容でしめて「14.5万円」!!!!
2と5と6(併せて7.4万円)は要らんよね・・・。
さすがに騙される奴がいるのだろうかという気持ちになるが、
営業マンは当たり前な顔をして見積もりに組み込んでくるので
若い人が一人で買いに行くと餌食になってしまう可能性大・・・・・。
見積もり総額は345.2万円と相成った。
いかがだろうか。2000ccクラスのSUVの値段とは思えない・・・・。
ちなみに、先回試乗したハリアーの見積もりを
4WDにして計算しなおすと369万円。
24.5万円差とは思えないほどエクストレイルは高くなってしまう。
つまり、見た目の価格の安さで目を引いて実際に乗れるように仕様を作っていくと
あれよあれよという間に高くなってしまう価格設定なのだ。
日産がまずいのは、これがあからさま過ぎる点だ。
そりゃベア満額通りますよね・・・・。
やるならもう少し巧妙にやって欲しいのに私のような素人が見ても
「なんかこの価格設定はおかしいぞ」と思うようなものにすべきじゃない。
エクストレイルをローグのビニールシート版にしておいて、
更にこのような仕打ちは無いよな、と熱狂的ファンでもない私ですら思う。
日産の副社長は「ポジショニングを維持しながら
この値段でそういうこと(装備の充実)ができたのはCMFのおかげだ」と
語っているが、もう少し販売戦略というか価格設定を考えたほうが良いのではないか?
商品性もそんなに高くない水準レベルの車なのに、ちょっとオプションをつけただけで
どーんと跳ね上がるのはいかがなものか。
個人的には全くCMFで商品性が上がったとは感じられなかった。
そうなると、ただの共用化によるコストカットに過ぎない。
●超合理化の風潮の中でいかにエクストレイルを残すか?
個人的にがっかりしてしまったので、
エクストレイルには厳しいことを書いた。
私はエクストレイルという車が本当に好きだったのだ。
しかし、新型はエクストレイルというよりもビニールシートのローグだ。
ただ、カタログを見ていて気付いたのだが、最廉価グレードの20Sは4WDのみの設定で
税抜き価格が214.2万円で先代の価格を維持している。
装備はマニュアルエアコンにはなるが、日産のせめてもの誠意を感じた。
だから、エクストレイルを買うなら最廉価の20S一択だ!
(エマージェンシーブレーキは本当は欲しいけど)
儲けは少ないけど、このグレードが一番エクストレイルらしいじゃないか!
たぶん、今の日産の中で日本向けのエクストレイルを
残すことが困難を極めたのだろうなと思うと少し寂しく思う。
これでもきっとエクストレイルを残したい関係者は精一杯戦った結果なのだろう。
過度にグローバル化した自動車業界は大変だ・・・・。
日本はガラパゴス化したうま味の無い市場かもしれないが、
せっかく日本発で発想した商品もグローバル化の波に飲まれてしまうのはとてももったいなく思う。