
前回の話で、言いたかった事をもう少し、補足します。
(話の進行上、パターングラフを再掲載しておきます)
※いくらいい加減なイメージ図だといっても、いい加減すぎるだろう、というご指摘を頂いたので、若干らしく修正しました。
本題のエンジン性能曲線の個性についてですが、実は、この話はMTとATの話に繋がっているのです。運転の楽さ、を求めてAパターンを目指し、仕事量の効率を求めてパターンDのような有効面積を増やす努力が進められています。つまり、パワー優先の効率を求めるとDのような特性になって行き、楽で省エネというとAの輸送車のような特性になって行きます。ここで、馬力の話は回転数ですから、どれだけ回すかという機械的な制約が大きくなり、トルクに着目しても、絶対的な運動性能=最高速度や0-400加速などの指標はパワーで決まりますから語れなくなります。そしてこのパターングラフから見えるように右肩上がりのパワーカーブはいずれもそれほど差は無く(前回コメントいただいたように基本は回転数に比例するから当たり前ですが)、むしろトルクの出方こそが「エンジンの性格」を担っていると言えるからです。
では今回は、実在のエンジン性能曲線を見ながら進めましょう。
図1
最初の図1は、前回ご紹介したグラフではパターンBの、トルクピークとパワーピークが近いエンジンですね。
最高出力回転数を見ると僅か5700rpm当たりの平凡なエンジンですね。ですがこれは高回転型エンジンなんです。
なぜなら、まず体感すると、上に回すほど気持ちいい、回りたがる特性を持っています。出だしのトルクからピークでおよそ1.4倍近いトルクの山を持っています。そしてこのエンジンが走りで使えるのは4000~6000回転の2千回転の間だけです。だけどとっても気持ちいい。なるほど、こんなレッドゾーンの低いエンジンが「高回転型」と評価されるわけが、乗ってわかりました。つまり、絶対的な回転数を表現した言葉ではなく、上に行くほど美味しいか、下はいいけど上はつまらない低回転型か、と言うことなんですね。オートバイは基本高回転まで回りますが、FZR400RRは上が気持ちよかったけど、GSXR750の88はそうではなかったのは、まさに線形な理論パワーと一致しない「味」の話です。(Rの88は僅か2年でボアストローク変更しましたw)
図2

次の図2は、典型的なパターンAのグラフですね。これはお気づきでしょうから、種明かしすると、話題のスカイ-D2.2エンジンです。疲れにくい長距離ランナーな特性を持っています。ガソリンと違いますし、過給エンジンですから随分違いますね。但し、このグラフは反日左翼の経済グラフの様な(笑)、不当ピッチグラフになっており、その辺りを
もげ.さんが分析されていますので参考に。 それにしてもディーゼルとしては画期的に上が回る(ワイドレンジな)ディーゼルエンジン特性です。
スカイアクティブについては古いですが
【マツダ SKY-ACTIVE編 その1~3】で触れてますので良ければどぞ。
図3
次の図3は、やんちゃなパターンCですね。これは昨年話題の記号性を持った復活コラボマシンですね、実に「らしい」味付けがなされていますねwww。
図4
そして、次の図4は、どうでしょうか?。タッチさんのNSXのグラフともちょっと似たくせが有りますね。これはちょっとお金の掛ったエンジンだとわかります。パターンDに近いBでしょうかね?。この図は当方のBLEに搭載してあるEZ30R型です。V-TECよりももっと低い4000回転前後で、ハイリフトカムに切り替わる特性で、トルクは、回し始めから約1.25倍の山が出来ています。全体にのびやかで回して気持ち良いだろうことが推測出来ます。馬力が
PS=(トルクkg・m×回転数rpm)/716
であることから、最大トルクが高回転側に有ると言うことは、絶対的な馬力の盛り上がりが大きいと言うことに他ならず、つまり上でのパワー感が半端ないとw。そしてこう言った特性は、高回転でも吸排気抵抗が増えない、あるいは慣性過給がうまく使われている、、詰め込んだ混合気が燃焼ムラ無く綺麗に燃える、ために爆発圧力が垂れない結果で有ります。
図5

次の図5は、パターンAとDの中間ですかね。つまり疲れない効率の高いエンジンと言えます。さすがSKY-G2.5のカーブです。通常と燃焼が違うことが予感されます。効率よく速くても、実際運転している人にはこのパターンDは余り感動が無いんですよねw。
図6

そして最後の図6。これぞ私が望んで止まない素晴らしいエンジン!。典型的なパターンBでありながら、面積でみるとパターンDに近く、しかも燃費曲線を見ると、幅広いレンジで優秀な燃焼をしている事が読み取れます。NAでありながら、周り始めとピークトルクで図1同様に1.4倍近い盛り上がりがありながら、その幅(面積)がたっぷりあります。じゃ高効率の眠いエンジンかと言えば、5000から6500の1500回転間にトルクとパワーカーブのピークtoピークがあり、痛快なエンジンであることが分かります。わかってしまった方もいるかと思いますが、これは有名な73カレラRSの性能曲線です。そして図1がノーマル2.7のエンジンです。図1も十分痛快でしたが、図6は涎もんですね。どうしてこんな優秀なカーブになったのか、これは謎です。7年後の3.0RSでさえ、これを越えられませんでした。きっと燃焼室ボリュームとカム、メカポンの特性がたまたまうまくブレンドしたんでしょうね。
こんなカーブのエンジンを乗せてくれたら、迷わずMTで買いたいと思いますw。
ついでに、毛色の違うのを2つ。
図7

図8

これは、図7がレガシィのDITエンジン。そして図8がポルシェ3.0ターボです。現代版ターボがどれだけ高効率か良くわかりますね。そしてここまでお付き合い戴いた読者の方には、乗って面白いのがどちらかなのか、も解って頂いたかと思います。(MTでねw)
ここで、伏線を張っていたMTとの関係ですが、パワーは回転数にほぼ等しく支配されているように、アクセルで何ぼ回すか、で有りますから、競争や、加速、最高速度、といった車を到達させる状態への「運転」をすることになります。ところが私たちが普段気持ちよくシフトを行っているタイミングは、実はこのトルクカーブの機微を感じとって変速していることになっているなぁ、と言うことなんです。それはつまり「燃焼」の良好な得意領域を探って変速しており、その感触を楽しんでいると言えないでしょうか?。なので、MTエンジンはエンジンの素性がもろに出ます。一方ATはトルコンマッチングに加えて効率の良い変速をプログラムされているし、点火時期や噴射マップまで、駆動系込みでトータルセッティングされています。なので、トルクはミッションが覆い隠して(とくにCVTは)エンジンの表情が分かりにくくなっていると考えます。
ここでも、速度を制御するATと、エンジンの味(トルク特性=燃焼)を味わうMTと言う違いがあったのですねぇ。
そうすると、MT車で日常からスポーツドライビングまでを楽しみたいとなると、どんなトルク特性が面白いのか、そして古いキャブレター車というのは、そう言った特性が素の表情で出てましたから、面白かったんだな、ということも有るのです。残念ながら今見渡すと、そう言ったエンジンが少ない事もわかって来るのではないでしょうか。今回は大雑把な4パターンの違いを元に、エンジン性能曲線からも大体こんな特性かなぁ、と類推することが出来ると言う紹介でした。
レスポンスや音、振動、と言った重要な感性を掻き立てる部分はわかりませんが、ご紹介したような目で性能曲線を見て、御試乗されるとエンジンがまた一歩、深く読み取れるのではないでしょか。
最後に、前回質問の有った、トルク変動と燃焼状態についてですが、ストイキ前提で、、、と言うのは無意味です。

吸った混合気の混合比率は噴射量とエアフローセンサで得られても、かき混ぜた燃焼室内の偏在と火炎伝播状態は生き物ですから。実験データから添付図のような等燃費等高線とか、等燃費曲線とか言われるもので調べますが、これは燃焼の代用特性として見る事が出来ます。つまりトルクの元である軸平均有効圧というのは、吸気量と燃焼状態によって作られ、意外と燃焼は変動しているということです。ベンチで実際にデータを取ると中々なめらかな安定したものではないことが分かります。
より詳しくは、内燃機関の燃焼を扱ったサイトも多くありますので、調べてみてください。
エンジンは系列化で排気量バリエーションを作りますが、制作側の都合では、ボアアップが簡単です。ですが、性能が読めるのはストロークアップです。なぜか?。それはボアが変わると燃焼が全く異なる事が良くあるからです。ですから未知のストロークアップのエンジンはその母体を知っていれば読めますが、ボアの異なるエンジンは乗ってみるしか有りません。時には名機が、時には駄作が生まれます。これは燃焼室内の混合気流が変わり、火炎伝播も変わるのに、バルブ挟み角や燃焼室形状を合わせこむ事が難しいことに因ります。
エンジンを見るときに、機械的に決まる物はそれはそれで、いいんですが、「エンジンの味」は燃焼で決まる=トルク特性を作るのは、
①ボア×ストローク
②バルブ挟み角
③ピストンヘッドと燃焼室
を興味深く見る、と言ったのは、そういう意味です。エンジンは精密機械で、物理法則の積み上げです。ですが、肝心の部分が「燃焼」という化け学の世界で、生き物です。そこが私を引き付けている魅力なんだと思っています。
※図2の種明かしは、BRZ/86のグラフでした
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チューニング独り言 | クルマ
Posted at
2013/02/23 11:14:09