2012年12月12日
AWDについての分類 (ひとくちにAWDと言っても多様なものです)
ハイスピードAWDは神業のドライバーが制御しますので、第2のハンドル(アクセル)によって、どのタイヤをより多くスリップさせるか、あるいはグリップさせるか、を右足で引き出します。
一方、モビリティAWDですが、これは古いタイプの4WDと思われがちですが、もっとも高いスタビリティと脱出駆動性に優れた方式です。車は直進状態で5m進むには、全てのタイヤが同じ直径として、同じ回転数進む時、ヨーモーメントは発生しないはずです。しかも1輪がスリップした場合でも、このタイプは路面のグリップに関係なく同じ回転数で前後プロペラシャフトが回ります。但し、左右デフだけはLSDが無い場合、空転した反対側の駆動力はフリクション分を残して失われます。
時々刻々変化する各タイヤのスリップ率に関係なく、同じ回転で回ろうとする機構のため、車は真っすぐ走ろうとします。そしてお分かりのように、故にハンドルを切って曲がろうとすると、前軸と後軸の回転差が生じ、タイトコーナブレーキングと言われるガクガクが発生して、スムーズに旋回できません。
この中間に有るのが、スバルのAWDです。それは生い立ちからしてFFの超重ステ、&ドアンダーのレオーネを皮切りに、これをベースとした確か、東北電力向けの送電線点検車(未舗装林道と最低地上高200mm必須)としてのワゴンが誕生したはずです(ちょっと記憶はテキトー)。
水平対向縦置き(横には置けないだけ)のFF車、ゆえにフロントオーバハングが大きく、フロントヘビー。それが持って生まれた「シンメトリカルAWDのDNAです」(私は当時珍しかった前輪駆動のスバルFF1000をいじって遊ぶ機会が有りました。当時等速ジョイントは貴重で高度な部品でした)
さて、これをベースに4WD化したけれど、当初はパートタイム4WDで、いわばモビリティAWDの仲間です、まジープと言ってもいいでしょう(笑)。しかし、そのモビリティの半端なさがコアなスバリストを育てて行きました。一件とっつあんライトバン、ところがジープに負けない走破性。
しかし、普段の街乗りはやはり曲がりにくかった!(FF状態でも)。
それから、クアトロの登場があり、ファミリアの登場があり、センターデフ式フルタイムAWDの世界が登場します。スバルは初代レガシィでこれにターボパワーを組み合わせて例の10万キロ200km/h走行の派手なデビューをしました。
つまり、スバルはあらゆる路面で、直進性だけはピカイチだけど「曲がんねー!」という本性に挑み、ひたすら曲がるようにして来た技術の積み重ねです。
一方911は、スピンしまくるリアオーバステア(アクセル抜くとスピン、雨でリアが滑るとスピン)ため、ひたすらドアンダーに調整し(初期にはフロントにウエイトを入れたりして)、ひたすらスピンから免れようとした技術の積み重ねです。
このように、両社は対極の素性に苦しみながらも、それを克服するために簡単にその「コア」を捨てず、執念で育ててきた点が共通点です。ゆえに、他社では感じられない濃厚な「何か」が残ったのだと思います。
そして、さまざまなセンターデフ制御を経て、今日スバルには3種類のAWD駆動方式が有りますが、高速AWDのアクティブトルク制御中心のタイプと、スリップによるパッシブ制御の両タイプがあります。それと世の中にはこれとはまったく異なるスタンバイAWDとしても、いくつかのAWDが有ります。
近年のAWDはこのスタンバイ式が量的には多いかも知れませんが、これはAWDの持つ可能性のごく1部にだけスポットを当てたものです。
スタンバイAWDは、コスト、重量、燃費と優れますが、私から見ると、肝心の「有ってよかった!」と仕事をする機会はほとんどないと言っていいでしょう。その中でも、割り切って使えるものに、e-4WDがあります。FF車の後軸にモータを付けて、発進から30km/hまで、後輪もアシストするもので、いわばフロントが滑ったら、後ろからおっちゃんが押してくれるようなもので、30km/hになったらもう、おっちゃんは息切れしていません(笑)。
このシステムは、前輪のスリップ検知から後輪のアシストのレスポンスが抜群なことで、実際低ミュー路での発進と脱出、という役割に絞ったものであり、AWDと呼ぶには抵抗が有りますが、スタンバイAWDとしてはもっともマシなものかもしれません。
タッチさんがタイムリーに紹介してくれたマツダ技報(http://www.mazda.co.jp/philosophy/gihou/pdf/2012_No035.pdf)
の記事を読むと、「・・・4WDシステムのエネルギロス総和と定義する。そして,この総和を最小化することが4WD制御の狙いである。 中略・・・ このエネルギロス総和を最小化すると,4WD走破性能を向上させ,自ずと燃費など環境性能は最大化されていることになる。」
と言っていることから、マツダのAWD思想はいわば、低ミュー路などでの低燃費(スリップロスの最小化)を狙いとしてることが分かります。総輪のスリップを最小化(高効率化)すれば、結果として車の姿勢も安定しているはず、、と)。
ゆえに軽量コンパクトなスタンバイ式を選んだのでしょう。CX-5のカタログにもメカの解説は無く、マツダとしてはSUVの形をしたCX-5では逆に余り触れたくなかったのかもしれません・・・。
そうであればAWDの広い世界の一角に光を当てたに過ぎません。つまり、前回の最後に述べた 哲学が必要 と書いた所以です。
押してくれる人はスリップ率の大きい走行をしている状態で、AWDに切り替わった時、メーカの制御技術にもよるでしょうが、負荷が掛って初めてトルクは伝わるので、タイヤがたわんで伝達トルクを伝えることが出来る状態では、AWDになりません。設定値以上に滑って、初めてアシスト的に作動します。「ほら、役立つじゃん」というのはメーカの口車で、それは雪道で大きなRのカーブで30%のスリップ率で後輪前輪が微視的に流れつつ、軌道はアンダーになって来たところで、後輪が後押しし、フロントのスリップを消すので、再びリアのトルクは失われて行きます、、、、を交互に繰り返すのです。
ロシアの動画で、指摘されてるようです(ロシア語わかりませんが(笑))
http://www.youtube.com/watch?v=gdmWU9p1Nyg
スタンバイ状態からAWDにスイッチした「AWD」は実は、時間軸で詳細に見ると、FFとRRを交互に繰り返すだけで、けして常に4輪が同じ回転(これ大事!)をする状態にはならないのです。マツダが目を付けたようにスリップ率が30%以下程度と限定された濡れた路面程度?であれば、仕事はしてくれるでしょう(応答と同期制御の出来るEVならホントの低ミュー路でも制御可能でしょうが)。
次いでにスバルのAWDも見ていただくと、その違いが分かると思います。
フォレスターもスリップしますが、回転差を見てください。それでAWDとひとくくりにしてもそこに潜む世界は全く違うものです。スバルの連中はそれを知っている。そしてポルシェもまた知っているのです。次回を最後にまとめたいですが、粘弾性体とμの関係は極めてアナログな感性の世界??
http://www.youtube.com/watch?v=gKnxkr4jhEM
けっしてスバルのプロパガンダではないですよ(生死にかかわる彼の地では、「脱出性」に非常、にこだわるようです。)
というわけで、スタンバイAWDは、モビリティAWDとしては不十分であり、スタビリティAWDとしてもほとんど期待できないと考えています(それは直結AWDとの相対的な恩恵差で見てですが、、)。別に、マツダのAWDがダメと言うことではありません。それは哲学の違いであり、それに合わせたエンジニアリングをしたと言うだけの事です。それで十分、というニーズであれば両者はハッピーなのですから。
(つづく)
Posted at 2012/12/12 22:55:22 | |
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2012年12月12日
その1で、ざっくりとスバルの現状を薄く総括して見ましたが、今度はスバルの中核技術のAWDについて、ちょっと考察したいと思います。
AWDを語る場合、私は3つの切り口が有ると考えています。
第1の分類は「用途からみた特性」です。
WRCに代表される高速高運動性とでも言えばいいのか、清二いわく「ハイパワーターボ+4WDにあらずんば車に有らず、峠のキングはランエボよ」というカテゴリーの車です。このカテゴリーの核は、いかにハイパワーを路面に伝え高いベクトル変化を獲得するか、に有ります。これをひとまず「①ハイスピードAWD」と呼びます。
次は路面状況の変化に寄らず、常に安定した姿勢を維持し、タイヤのグリップをいかに保つか、日常生活における車の挙動でハンドルで指示したヨー以外を出さない車です。これを「②ハイスタビリティAWD」と呼びます。(メーカのプロパガンダで、いかにも高速で鋭い、曲がる!をアピールしますが、AWDの本質は「真っすぐ走れる」です。ハイパワーな車が真っすぐ走れるためにAWD化したというのが真実だろうと思います。ですが、「民衆には真っすぐ走る」よりも「良く曲がる」のほうが受けが良いのでしょう。
最後は本格的なクロスカントリーの凹凸低ミュー路での機動性確保を主眼にした、いわば軍用車両のようなカテゴリーです。これを「③モビリティAWD」としておきます。
第2の分類は「構造からみた特性」です。
メカニズムで見たAWDには
①センターデフ制御型AWD
②前後軸クラッチ連結型AWD(パートタイム型:FF型やFR型ベースの切換え式)
③前後軸電子制御連結型AWD(スタンバイAWD)
に大くくりされる。これに重要な、左右デフの制限あるいは制御がセットになって、初めてAWDの性能が生きるようになります。机上の理論でなく、実際はこのメカニズムによってきまるので、これで語るのも有りですね、これが第2の見方。
そして第3の分類は「挙動から見た特性」(これ重要)
①ブレーキスリップの挙動(ABS制御)
②アクセルスリップの挙動(トラクション制御)
③ヨー変化(重心とヨーモーメント)
と言った、車の挙動を通しての見方。
AWDを語る時、いずれもこれらのどれかの視点で比較されたり、分析されているように思います。どの要素も互いに連結された話なのですが、これらの層別を頭に置いた上で、お読みいただくとわかりやすいかも知れません(笑)。
さて、アウディークワトロの登場で幕開けした、ハイスピードAWDは、戦闘マシンとしてとにかく4つのタイヤの摩擦円を常に個別最大に使えるように運転し、制御されることが前提です。具体的には荷重を掛けたタイヤに駆動力を求めるのか、コーナリングフォースを求めるのか、を総合的に最大化させる運転になります。得られるご褒美は最短の走行タイムです。
次がスバルの本質である、ハイスタビリティAWDですが、その前に、、、、
ポールフレールさんのポルシェ本に、水平対向12気筒のモンスター、917の話が出て来ます。栄光のルマンでマックイーンが乗ったやつですね。
この時代、ハイパワー車はどれも真っすぐ走らないのですが、結局テストドライバーが最も運転しやすかったのはリアデフを持たない直結車だったと言っています、わかりますか?。私も怪しいショップのデモ車で900kgに400psのFR車乗りましたが、リアは溶接デフロックでしたが、これが飛ばしてさえいれば、チョー乗りやすかった。帰ってきて駐車するのがえらい大変だったけどwww。
そういうわけで「駆動力のトルク配分をする」ということはどういうことか、ちょっと考えてみてください。
もうひとつ違う例ですが、FFの車両でハイパワーな奴は、ハンドル取られるので注意が必要ですね。これにはドライブシャフトの不等長から来るもの、サスペンションのスクワット(トラクション抜け)から来るもの、左右デフの作用によるもの、等が有ります。けれどもFFなので基本重心より前を引っ張る駆動故、スピンモードには入りにくい(タックイン作用で巻き込みスピンする場合はありますが)基本特性が有ります。
さて、トルク配分が後ろ寄りで、50:50でなく30:70とか、うたわれますし、私のB4では45:55~60:40だったかな?まで連続可変制御とか、GT-Rでは0:100~50:50までとか?、ま、色々あります。
ですが、バッサリ切ると、アクセルオン側で制御するアクティブ駆動輪分配制御か、路面とのスリップ検知によるパッシブ駆動輪分配制御のいずれを主体としているか、に分かれます。
要は、駆動力配分なんて、タイヤがスリップするまでわかんねぇし、タイヤの許容グリップも荷重変化で大きく時々刻々変化するってことです。なので、トルクをたくさん使えない低ミュー状態では、①前に進ませることと、②左右輪の推力変化で車にヨー変化を起こさせないこと ③前後軸の回転差をどうするか、この3点のバランスをどうするか、という哲学が必要です。
(つづく)
Posted at 2012/12/12 00:59:27 | |
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