
スバルはトランスミッションのCVT化を進めていますが(トルコンATをやめた)、その理由について、余り理解が進んでいるとは思えません。昔のラバーバンドを思い浮かべるCVTという言葉自体が、ドライブが好きなスバルユーザを初め、多くの車好きに敬遠されている為でしょう。(私自身もスバルの車づくりからはCVTって一番似合わないでしょうと思っていた一人ですし。)
ところが、当のスバルユーザはフォレスターやリリースの始まったレヴォーグを通じていち早くスバルのCVTが、昔の概念とは違ってステップAT以上のなめらかな良い変速機だと知っています。もちろんアクセルペダルの動きとエンジン回転数が比例しない(車速はペダルについてくるが)という違和感は有りますが、これについてはレヴォーグ以降ペダルの踏込量(Iモードなら30%、Sモードなら20%)以上の踏込量でステップ変速となり、ロックアップしたままの変速でトルコンAT以上にダイレクトな変速感が得られるように変更しています。(CVTの連続可変のメリットを消す奇異な技術を承知で、その上で変速ショックは演出のためにソフトで作り込んでいるようです。)
ところで、この【SUBARU SPIRIT】ムック本だけど、結構興味深いネタが読めます。
立ち読みして評価して見ては(^_^;)。私は買ってしまいましたが。
お手盛り本とも言えそうですが、スバルの場合は案外本音が出てるので、この本は結構興味深いです。それぞれの開発パートの14人の実務者の声が乗っています。企画、デザインを除く設計と実験部隊のそれぞれが5人づつと対等なウエイトになっているところがスバルらしい。そこには「こうしたくて、ああした」という狙いが吐露されています。もちろんそう思って作り込んだとしても、結果的に「ああ、本当にそうだね」と称賛に変わるにはオーナの生の声が出てくるこれからでしょう。けれどCVTのセッティングには低μ路でのエンブレに言及が有り、「わかってるねぇ」とオタクなレベルでにんまりします。
本題に戻りますが、スバルが日本においてCVTの先駆者であり、その長所短所を良く知っているということがCVTを見捨てなかった理由だと思う一方で、積極的にATをこれ一本に絞った決断はアイサイトの成功に有ったと思っています。
スバルの根幹にある「走りを極めれば安全になる」を体現する技術のキーパーツが
①AWD技術
②VDC技術(AWD特性を生かした)
③アイサイトによる運転補助
と言えるでしょう。この③の技術はまだ発展途上ですが、その可能性は②を飲み込んでスバル車の核となる可能性が高い技術です。
今、世界中が大きく動いている自動車技術の一つは基礎体力となる環境技術「エコ&クリーン」です。これにハードウエア技術の大半のリソースを注いでいます。一方で車の差別化となる魅力について、スバルが世界に示したアイサイト「ぶつからない技術」はヒタヒタと衝撃を与えました。このような場合、他社は騒がないのが大事です(笑)、騒ぐと消費者に他社との差別化技術だとわかってしまいますからね。そこで世界的にネジまきが始まって、ともかくもカタログ上は「ぶつからない車」は横並び化しつつある、、と印象付けることが出来た?かな。
しかし、メルセデスなど特に高速道路の移動頻度の高い国では、「自動運転」の利便性と安全性の両立に気が付きました。外的条件の変化が少なく、走行条件が定義できる環境ならば、かなりの部分まで自動運転化技術は出そろいつつあります。スバルのアイサイトは安全予防技術として、「ぶつからない」最後の砦的な機能を最大の売りとして認知されました。けれどもオーナが日常的に恩恵にあずかる場面は、渋滞と長距離クルーズでの追従クルコンでしょう。
これに居眠り、よそ見などのレーンキープアシストが加わって、安全安心を大きくサポートしてくれます。当然、スバルの中でもどちらが先か、わかりませんがアイサイトのもつポテンシャルに気が付いて、「自動運転技術」の骨格を成す可能性が見えてきたのでしょう。案外アイサイトを体験してその事実に気が付いたのはメルセデス立ったのかも知れません。
これは飛び出さない、スピンしないといったビークルダイナミクスコントロールの安全性向上と実は結びついて、車両の自動運転=車の限界を知った上での「制限下でのドライブ」というコントロールされた安全を生み出せるからです。故意にぶつけるような割り込みや幅寄せをされた場合でも、驚いたドライバーがめくら滅法に急ハンドルを切ってより悲惨な結果を生むよりも、まずは急ブレーキで前荷重を高め、障害物が無ければそちらにハンドルを切って回避するか、ふさがれていればブレーキ頼みで衝突吸収ボディに頼る、、といった自動制御の方が被害最少と出来るかも知れません。限られた制約条件が成立する道路であればこれは高い可能性があります。
将来、この方向に車の差別化が向かうことは間違いないと思います。その時開発リソースを考えると小さなスバルには普通は荷が重すぎる技術です。ところが①②の他をリードする技術が有って、しかもたまたまかも知れませんが、ステレオカメラに特化した認知技術が有るおかげで、スバルは高速道路での追従クルーズ技術では最先端にいます。今度のVer3がカラー化したこともその先を睨んでのことでしょう。
話が長くなりましたが、この中でクルーズ制御、自動運転に最も適した変速機を考えると、なるほどCVTに行き着くのです。燃費効率のためのCVTと考えられていますが、エンジンの燃費小比率等高線の目玉の範囲を外さない為にエンジン回転数を変速機側で連続可変することで、負荷変動を吸収します。人間がアクセルというひとつの手段で車の速度の上下を制御する時には、そのアクセルワークと連動しないCVTは違和感を覚えますが、自動運転になってしまえば、MT運転からAT運転に変わることでドライバーがタコメータを見なくなったように、追従クルーズではもはや、何も見ないのです。何も見ない自分で何もしないから違和感も起きません。あるのはへたくそなG変化が起きないか、と言う点だけです。
アイサイトは前車との車間距離を測りつつ、その変化率が急変するブレーキランプの認知もカラー化で取り込みました。これによってある程度自車と相手の車間距離のマージン内でなめらかなG範囲を制御できるようになりました。そしてこれを行うのがエンジン回転数ではなく、CVTの変速比なのです。もちろんそれが坂道の登降負荷、安全な車間距離から得られる減速度によって、統合的に制御されるわけですが、最大の低燃費を維持しつつ加減速Gをなめらかにしつつ、安全に車を進める・・・・。
なめらかな運転の得意なCVT。渋滞のストップ&ゴーが苦手なDCT。高級車が軒並み多段トルコンATに移行しつつあるのはなぜか?。信頼性、低燃費、快適性の上に「自動運転」が有ります。自動運転時の統合制御手段として、変速比がコンテニュアスであることは、制御側から見れば、実に有り難いことで予測マップの積み上げが可能です。ステップ化で段数分のマップを読むのではなく、一つのパラメータとして連接可能ですし、「谷」や「穴」が空かずに済みます。逆に言えば、ATを多段化しないと、穴がふさがらないのです。
マニュアルミッションの6速化で出来た6速とは、昔で言うオーバードライブ領域です。つまり低燃費巡航ギアと言うことです。同じことがATでも起こっていて、8速ATでは6速以上がオーバドライブです。このように巡航時に以下に低回転で低燃費クルーズさせるかと言う所にダウンサイジングターボの1500回転あたりから最大トルクを生むような設定は連動しています。
高速道路で追従クルーズを100km/h行うと、レヴォーグやS4では、1.6Lが約2000回転、2.0Lなら約1800回転と言ったところでしょうか。すなわち、ターボがいつでもブーストできる領域の下限辺りになっています。ここなら坂になって背圧がタービンを加速させ、変速比固定のままブースト上昇分で乗り切るか、若干変速比を落として回転を上げる事でクリアするでしょう。トルク抜けせずに登坂途上でも変速できるCVTの強みでも有ります。
一方、80kmまで前車が減速した場合、エンブレだけの緩やかな減速ならCVTの変速比を上げて回転を吸収するか、エンジンを絞り、再加速で110kmまで上げる場合には、車間を保ちつつ、変速比を下げてブーストを上げて、回転数ミニマムのままで追従しようとするでしょう。もちろん低燃費のために。これがステップATなら同じことをしようとすると2回ほど変速するか、なめらかさを優先して変速せずにエンジン回転のみで対応するでしょう。
人間が制御するなら後者が自然で違和感が有りません。しかし自動運転なら前車の方が低燃費でなめらかで何の違和感もないはずです(ほんとかw!、出来映えは知らない(^_^;))。アイサイトなら勾配や雨天など外的環境も踏まえた上でのある程度の予測制御も可能ですから、なめらかに大きなGを出さないようにするほど、CVTとの相性は良くなるはずです。
と言うわけで、自動運転と低燃費運転を考えると人間以上にきめ細かく統合制御できるCVTはアイサイトの申し子ともいえるわけです。アイサイトは衝突軽減機能が売りなわけですが、Ver3以降、自動運転に向けて後方、側面監視を考えています。メルセデス同様に交通の流れの中で、相対制御を行わせます。これが周りの車全部が互いに認知し合えば、画期的に安全になります。
スバルのCVTはこのように、アイサイトの情報に従って車速を制御しようとした場合、極めて相性がいいのです。一方で「ドライバーが」動きを制御したい場合には、ステップ変速の固定ATになります。そして今のところ1.6Lであれば、Sモード時でのアクセルワークではロックアップが外れることは無い様でしたが、明確にはその辺は不明です。2Lモデルもレヴォーグからハード的にも相当な変更がされているようですから、フォレスターのレベルからはさらに向上していると思われます。(ステップ変速時のショックはわざと作り出しているようですからね。ヒューマンインターフェースとして)
以前にMTとATの運転に対する人間の思考回路が変わることを書きましたが、アイサイトの追従クルーズやレーンキープアシストは、アクセルとブレーキ操作を無くし、ハンドル操作も(いずれ)無くすと言う、「自動車を運転する=ハンドルで向きを、アクセルとブレーキで速度を調整」という入力手段を奪います。この時ドライバーは目的地に安全に車が行っているか、の監視役、いわば船の艦長みたいな感じでしょうか。 だとするとさらに周囲環境を各種センサーで教えてくれたり、他のクルマとコミュニケーション信号をやり取りしたりと、より安全に対する思考に、頭を振り向けられるかもしれませんね。
Posted at 2014/10/04 13:44:24 | |
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