
8月になってしまいましたが、7月の星撮りのまとめです。
例年の梅雨明け直後は天気が良い日が多いのですが、今年はハッキリしない
天気が続いています。
日中晴れて気温が上がっても、夕方から曇ってくるなど、星撮りが出来ない
日々でした。月でさえも満足に撮影できず、満月を撮り損ねて、次に月の
姿が見えたのは26日でした。
その夜も低空に薄雲があって望遠鏡を出す気になれず、70-200mmに2倍
テレコンを付けてZ7で手持ち撮影したのがタイトル画像です。
少し赤みがかっているのはその薄雲のせいです。
7月8月は濃い夏の天の川が見られる時期で、この時期に間に合うように
去年購入したニコンのZ 6IIを天体改造に出していました。
イメージセンサー前面にある赤外カットフィルタを、カットが弱いフィルタに
置き換える改造です。今回はハヤタカメラというカメラ修理を行う会社に
依頼しました。他には天文ショップなどでも受け付けています。この改造だと
センサークリーニングが有効ですが、別種の改造では無効になる場合もあります。
今回、ここに依頼したのは、改造後もカスタマイズしたカラーバランスを選択すれば、通常の撮影もある程度は
できると聞いたからでした。使った感じだとD810A程度で、やはり赤が強く出ますが現像で調整できる範囲です。
さて、本題の天体撮影ですが、長時間晴れ間が続くことがなく、12, 13, 19日の3晩で少しずつ撮り貯めました。
対象ははくちょう座の「クレセント(三日月)星雲」です。
太陽系からは5000光年の距離にあって、2つの恒星風が衝突して衝撃波が発生し複雑な模様を浮かび上がらせています。
2年前の8月に改造したD810にIDASのNB1フィルタを使って、焦点距離900mmの屈折鏡で撮影していました。
NB1というフィルタは赤いHα域でバンド幅が20nm、青いHβと青緑のOIIIを含むバンドが32nmという、
セミナローバンド・フィルタです。上の画像のように全体的に赤く、明るい星にハロが見られます。このメーカーの
フィルタは輝星にハロが出やすいので、別のフィルタで、バンド幅が狭いもので録り直そうと思っていました。
今回は焦点距離780mmで、フルサイズ冷却CMOSカメラにOptolongのL-eXtremeを使いました。
このフィルタはHαとOIIIのそれぞれでバンド幅が7nmというデュアル・ナローバンドフィルタです。
狙いは星雲を覆うOIIIの青緑色の光を撮ることでしたが、目的が達成できました。
恒星は水素を原料とする核融合がエネルギー源ですが、時間が経つと炭素や酸素が作られます。恒星風に含まれる
酸素の光を捉えようというのが狙いでした。
クレセント星雲の後は満月の24日向けて月が明るくなるので、晴れたとしても天の川のような星野写真は諦めて
やや北にある星雲をZ 6IIの初陣に選びました。はくちょう座の北アメリカ星雲とペリカン星雲です。
カメラと鏡筒のドローチューブの接続には下の写真のようなアダプタを用います。
左がカメラ側(Zマウント)、右はM54オスネジが付いていて、タカハシのカメラマウント・アダプタを外して
こちらをねじ込みます。
分割しているテーパー接続から鏡筒側をカメラレンズ用のアダプタに取り替えることもできます。
下の写真はニコンFマウント用のアダプタを取り付けたところ。
カメラレンズ用アダプタとM54アダプタのどちらも、テーパー部の内側にM52ネジが切ってあり、M52フィルタや
M52->M48アダプタを介してM48フィルタを取り付けられます。下の写真は今回使用したQBP-II (Quad Band Pass-II)
を取り付けています。
自宅の敷地内に三脚をセットして小型赤道儀(EM-11)を載せ、焦点距離450mmの屈折鏡に上記のフィルタを仕込んだ
アダプタを介してZ 6IIを取り付けます。近くのデネブでフォーカスを合わせて、ISOを上げて構図を決め、
USB-PDモバイルバッテリで給電しながら、2時間40分ほど放置しておきます。
ISO1600、SS=240sを40枚撮影し、画像処理をすると下のようになります。
去年も似たような構図でNB1フィルタを使って撮っていました。機材は同じで、カメラはD810改です。
こちらの方がバンド幅が狭ので星像は小さくて良いのですが、明るい星の周りにハロが見えます。
D810(A)などのレフ機ではミラーボックスの影による不自然な周辺減光がありましたが、Z 6IIでは全く無くて
フラット補正は不要で画像処理も楽でした。
そして7月最後は、26、27、28日の3晩かけて1つの天体を撮影しました。
クレセント星雲と同じはくちょう座の「網状星雲」です。
毎年1度は撮っていて、中々満足できる写真になりません。この星雲は超新星爆発の残骸で、元々星を作っていた
水素や酸素などの残骸が秒速100kmで広がっている様子です。
前回は上の北アメリカ星雲と同じ鏡筒で広く全体を撮影しましたが、もう少し寄った構図にしようと今回は
焦点距離780mmの屈折鏡に0.75倍レデューサを入れて585mmで撮影しました。
SS=360sで毎晩70枚ほど撮影しましたが、雲がかかって使えるのはその半分以下で、102枚を合成しました。
上のクレセント星雲と同じデュアル・ナローバンド・フィルタを使用しています。
天体撮影の合間に去年の写真を再処理していたのですが、その中に、上の写真の左(東)側がありました。
焦点距離2000mmに0.75倍レデューサを使い、フィルタは上の画像と同じものです。
こちらの方がフィラメントの細かな構造が見えます。
秒速100kmなので現地はトンデモない勢いでガスが移動していますが、それを1500光年離れて見ているので
ほとんど止まって見えます。1年の移動距離を角度にすると、2 x 10^{-7}rad しかなく、この写真を撮った
カメラのイメージセンサーの上を0.1ピクセル分しか移動しません。10年経って、ようやく一画素文だけ動きます。
宇宙の彼方で起こっている劇的な現象も、遠くで眺めてみると静かに見えるという例ですね。
これから10日ほどが新月期ですので、望遠鏡でなくカメラレンズで天の川を広く撮ってみたいと思います。
天気次第ですが、それと流星群も。