メーカー/モデル名 | 日産 / サクラ X (2022年) |
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乗車人数 | 2人 |
使用目的 | その他 |
乗車形式 | 試乗 |
おすすめ度 |
3
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満足している点 |
1.補助金込みならガソリン車と競合できる価格帯 2.BEV感を盛り上げる内外装 3.防眩ミラー、ADJベルトアンカー標準装備 |
不満な点 |
1.運転操作系レイアウトがちぐはぐ 2.シートの座り心地が悪い 3.充電ケーブルが別売りでせこい |
総評 |
●軽のゲームチェンジャー「サクラ」 2022年5月、日産は以前から存在を仄めかしてきたBEV軽自動車「サクラ」を発売した。補助金を最大限に活用すれば130万円台(自治体による)で購入できるEVとなり、ガソリンE/Gを積む軽自動車と競合しうる存在として大きな注目を受けた。発売からたった3週間でBEVとしては異例の11000台を超える受注があるヒット作となっており納期はどんどん延びているらしい。 傘下の三菱自動車との合弁企業NMKVで生産されており、三菱ブランドではekクロスEVとして販売されているが、今から13年以上前の2009年、三菱自動車はRrエンジンの革新的デザインのiをベースにi-MiEVを市販した経験がある。サクラ周辺のBEV車のスペックを比較すると下記の通り。 サクラとi-MiEVのバッテリー容量や航続距離に意外と差が無いのが面白い点である。ある意味でi-MiEVの市場実績を参考にサクラのバッテリー容量を決めた可能性もある。 (特定の人たちの利益のために)電動化が叫ばれる中、BEVはバッテリーの高性能化・大容量化を推し進めており、例えば日産リーフは2009年の初代は200kmから2022年最新型では450kmへ。アメリカのテスラモデル3は689kmというカタログスペックだけならガソリン車に引けを取らない性能を有するに至っている。一方で、電池の大型化はコスト増に直結するためにBEVはまだまだ高い。だからこそガソリン車並みの航続距離を持つBEVは富裕層向けの商品とする他に生きる道がない。 BEVに社運をかけている日産/三菱連合は軽自動車枠に収まるBEVを開発した。軽自動車は自身の通勤や家族の送迎、日々のお買い物など生活圏で機動力を発揮する為に長い航続距離が普通車ほどは求められないという特徴がある。航続距離がネックのBEVのネガが目立たないのがセカンドカー需要を満たす軽自動車というわけだ。20kWhのLiイオン電池を床下に吊り下げてリーフe-4WDのRrモーターをFrに積んで前輪を駆動する。 電池の搭載説明用の絵を見るとFrフロア下から後席座面下付近までみっちりバッテリーが搭載されていることが分かる。一方で幅方向は随分と余裕を残しているようにも見える。ここにバッテリーが置ければ航続距離をもっと稼げたのになとBEV素人の私は考えてしまった。しかし、バッテリーが大きいと言うことは満充電までの時間がかかり、車両自体も重くなり、コストが跳ね上がってしまうから過ぎたるは及ばざるがごとし、という感覚が必要らしい。 最近の日産らしく、欲しいと思わせる商品としてブラッシュアップにも余念が無い。三菱はekクロスEVとして、あくまでもekクロスの新バリエーションとしてBEVを追加したが、サクラはデイズをベースにしたと感じさせながらもオリジナリティーのある内外装を与えた。すなわち、アリアをはじめとする日産電動車ラインナップとの血縁を最大限感じさせている。 走らせると動力性能の突出した力強さを感じるものの操縦性や乗り心地の面で軽の範疇に留まっている点は物足りない。パッケージの稚拙さはベースの悪さを引き継いでしまったので単純にサクラの悪さではないが、パッと見た時の期待値からの落差は決して小さくない。 ただ、近距離BEVコミューターとして考えれば軽自動車と同等の使い勝手を持ちながら、例えばトヨタ車体のコムスやトヨタC_Pod+、少し旧いがスズキツイン、ダイハツミゼットIIのようなモデルと比較しても遙かに自動車らしい点はサクラの美点であると言えるだろう。 都市内コミュータだからと、大胆に機能を制限することで低価格化・小型化を図る事は好事家からの支持が高くても一般大衆から見ると不安要素にしかならないことが多々ある。 無理に専用設計部分を増やさずに既存の軽ハイトワゴンのコンポーネントを活用して短距離専門BEVを作る作戦は非常に有効で現実的だと私は思った。 ただし、サクラで初めてBEVに触れる人が多いと予想されるのに充電ケーブルが別売りなのはいかがなものか。しかもその価格が5.5万円なんて馬鹿げている。スマホを買った時に充電ケーブルが着いているのは当たり前だと思うが。BEV既納客にはレスオプションで還元すれば良いだけの事なのに非常に意地が悪い。 ●まとめ 軽BEVであるサクラは補助金込みなら従来型軽自動車と競合できる価格帯になり、航続距離以外の面では従来型の軽自動車を凌駕する実力を持っている。商品としてのアピール力も高く、特にデザイン性はBEVの持つ先進感を際立たせている。 2010年に一般販売された初めての本格的軽BEVである三菱i-MiEVは398万円であったが、2022年のサクラXは239.9万円と158万円も安価な価格設定になった。しかも安全装備は充実させ、BEVらしい期待感のある内外装が与えられているのだから大いなる進化である。一方でモーターの出力や航続距離はi-MiEVと然程変わっていない点は面白い。 試乗時に航続距離は試乗時には100km弱を示していたが、A/CをガンガンにかけつつBEVの強烈な加速をアピールし続けている試乗車で有ることを差し引いても本当に心許ない航続距離であると感じてしまう。勿論、我が国の軽自動車が一日に走る距離を調査し尽くした結果である事は知っているがクルマで長距離運転を楽しみたい私には全く許容できない。しかし、私が試乗して感じたサクラの幾つかの不満点は航続距離を考えれば取るに足らないものばかりであり、サクラの場合、航続距離に目を瞑れる人ならネガがネガにならず、オーナーを満足させるだろう。 日産車らしく、数々の割高なセットオプションも用意されていて45万円弱のプロパイロットも健在だが、ユーザーはサクラとの付き合い方を心得ているようで販売の中心はXグレードにナビもETCもつけないのだそうだ。私もサクラを検討している友人がいればXグレードを推す。しかし、あくまでもセカンドカーとして使える場合のみである。 家族を乗せてサクラで県外の実家に帰りたい、せっかく買うならプロパイロットも欲しいなぁといって割高な上級グレードを買っても、例えば我が家だと確実に一回は急速充電機のお世話になるためにピットストップを余儀なくされる。もちろん急速充電の定額プランに加入すれば充電回数の制限はあるが、エネルギー補給の遅さは弱点なので、やはり習慣的な自宅充電(8Hr)で行ける範囲で使用してデメリットを最小化したいところだ。 日産はサクラにはセカンドカー需要でBEVを普及させ地盤をならす使命の他にも、ガソリンスタンドの廃業でガソリンが入手しづらくなった過疎地の足としての新しい顧客獲得の可能性がある。 まだ補助金頼みの現状はi-MiEVの頃から変わっていないし、欠点もハッキリしているがメリットもかなり分かり易くなってきた。日産にとっては重要なモデルだが、競合他社にとっても売れ行きに注目せざるを得ないだろう。 |
デザイン |
4
フロントマスクは3連プロジェクターLEDによる切れ長のヘッドライトの間をハイテク感のあるアクリルカバーで多い、ヘッドライトの下にはシグネチャーランプが鋭く輝いている。 サイドは水平基調のベルトラインが後端で勢いよく跳ね上がり元気さを見せ、バンパー下部からホイールアーチ、サイドシルは2トーンの別色で塗られてデザイン的バランスを取った。更にグレードに応じてAピラーからルーフに続くデカールも貼られており、かつてデザインで商品革命を起こした日産を思い出させてくれる。 ホイールは14インチの鉄ホイールとアルミホイールに加え、最上級には15インチアルミの設定もある。面白いのは水引デザインを採用し、直線のパターンでハイテクイメージを演出している点だ。 私には70年代後半から80年代前半の通称テクノホイールの再来のように見える。ご丁寧に一般に販売するつもりがない廉価仕様の14インチホイールキャップもリーフ上級仕様風の直線パターンで合わせている。 リアビューは横一文字のロングタイプのRrコンビネーションランプやワイパーアームが最小限になるバックドアガラス貫通型Rrワイパーなどデザインのためにたっぷりとコストが割かれている点は、サクラにとっては大切なことだ。 ドアを開けると内装デザインの素晴らしさに息をのんだ。サクラの内装は軽の常識を塗り替えるクラスレスなものだ。まずインパネの全面にネイビーのファブリックが巻かれており、合皮やウレタン系と異なる優しい風合いが楽しめる。助手席側は断面が抉られて広々感を演出している。運転席に座るとアリアを思わせる2本スポークの専用ステアリング(試乗車はウレタン製)、その奥には軽自動車としては7インチのフル液晶メーターに9インチディスプレイオーディオが連なるいつもの日産流の表示系の下にはカッパー色の水平大型オーナメントが、室内のワイド感を強調し、軽自動車故のカップルディスタンスの狭さを視覚的にカバーする。 センタークラスターには上級車から流用された電制シフト、タッチパネルによる空調パネルが先進感を後押ししている。ドアトリムも軽自動車の世界から逸脱したような力の入れようで、異例とも言えるベルトライン正面まで全面ファブリック巻きとし、断面もデイズとは異なってかなり寸法的に叩いている。インパネとの連続感も申し分なく私は内装のデザイン性だけなら軽自動車ベスト3に入ると感じた。 初代プリウスが何故成功したか。それは従来の車と全く違う内外装で商品の新しさを訴えることが出来たからだ。三菱のスッと馴染むバリエーション追加作戦も有効だが、日産の新商品としてのインパクトで広く認知して貰うやり方はもっと有効だ。 ショールームでサクラと対面し、窓越しにインテリアを確認しただけでサクラが気に入る人は少なくないだろう。下手をすればノートe-Powerよりショールームアピール力が高いのではないか。 |
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走行性能 |
3
期待を持って試乗させていただいたのだが、運転席に座った瞬間にガッカリさせられることになる。 勿論、ハイトワゴンだけに頭上空間はたっぷりあるし、ドアトリムの視覚的広さも素晴らしい。しかし、シートが非常に残念で座っただけで体圧が一カ所に集中する感覚を覚えるのだ。このコシのない小振りなシートは悪い意味で「軽自動車」らしい。後席に座ってみてもシートの印象は変わらず、見た目の良さから期待しすぎてはいけないと警告されたかの様だ。後席に場合、特にフロアが高く平板なシートから足の太ももは簡単に離れてしまう。バッテリーを積む為の嵩上げと思いきやベースモデルと同じらしい。掃出しフロアゆえ足の運びは楽だが、ハイトワゴンでありながらここまで着座姿勢が乱れることは残念だ。 試乗させて貰うためドラポジを取ったところ、ペダルレイアウトが中央寄りで身体がよじれるような違和感を覚えた。直前までドラポジ改善に力を入れてたホンダN-WGNに乗っていたから顕著にその差を感じてしまう。せっかく防眩ミラーとアジャスタブルシートベルトアンカーが標準装備されているのに何とも勿体ない話である。この辺りは基本的にクラスレスな雰囲気を売りにしたサクラの中でも特に悪い意味で「軽だな」と感じてしまう部分である。 電源ボタンを押してREADY表示が出たら電制シフトボタンを押しながら後方に引くとDレンジに入り、左I/Pロアに位置するEPBボタンを押すとPKBが解除されて音もなく走り出す。 47kW(64ps)、195Nmという軽自動車の常識を越えた動力性能は確かに踏み込むとググッと決して軽くはないサクラを引っ張ってくれる。高速道路では最高出力が効いてくるから軽自動車の域は超えないと言われているが、市街地の信号ダッシュなら十分優越感に浸れるだろう。 トルクウェイトレシオは1070kg/195Nm=5.48kg/Nm。参考までデイズは860kg/100Nm=8.6kg/Nm、スカイラインGTは1700kg/400Nm=4.25kg/Nm だからサクラの俊足ぶりは一目瞭然だ。(出力は軽と変わらないので頭打ちは早く訪れる) 店舗の周辺を一周しただけだが、その動力性能は一切の不満を感じさせず、炎天下にA/Cをフルに使用しても動力性能への影響はない点はガソリン車では味わえない魅力であろう。一方でシャシー性能が驚きの低重心かつ剛性感かと問われると正直に白状すると軽自動車の域を超えているとは到底思えなかった。これはシートやパッケージ的いびつさも影響はしていると思われる。しかし、そもそも航続距離が200kmにも満たないBEVであるから、そこまでの自動車としてのマトモさが与えられなくとも馬脚を現すシーンは限定的だろう。 e-Pedal Stepを試した。これは従来のワンペダルドライブに対してクリープ機能を搭載したものだが、どうしても私は慣れない。アクセルを踏んで加速し、リラックスしたいなと思って足の筋肉を緩めたくとも、完全に緩めると0.2Gで減速してしまう。巡航するためにアクセルを定常で踏むが、ちょっと力が抜けたり、路面の凹凸で足が動かされるとギクシャクと減速と加速をするのは果たして扱いやすいのだろうか。踏み替えの頻度が減るというデータもあるようだが、普段からじわっと操作する人にはかえってストレスがたまるので、ボタン操作時のみ使用できる機能で心底良かったと思っている。アクセルオフで減速後、停止はしないのでどうせブレーキを踏むのである。 サクラに乗ってみると市街地走行に強くフォーカスした設定になっているように感じる。速度は出さない前提で動力性能が力強い他はベースとなった軽自動車の実力と同程度の印象しか感じられなかった。しかし、サクラで高速道路をツーリングすることは航続距離の関係からあまりお薦めしたくない。その意味で生活圏内で使うセカンドカー的立ち位置に徹した味付けはまさに狙い通りと感じた。 |
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