ダイヤモンド・パワー半導体は何が凄いのか

先月、佐賀大理工学部の嘉数誠教授らのチームがこれまでで最高出力になる人工ダイヤモンド・パワー半導体の試作に成功したと発表しニュースになりました。

ダイヤモンドを半導体に使うのは現在主流のシリコン半導体よりも圧倒的なパフォーマンスになると理論値は知られていましたが様々な課題があり実用化に向けた研究がなされてきました。

パワー半導体と言うのは電力の制御を行う半導体で、今回の試作品の１．５倍サイズで３０万軒分の電力制御が可能になるとされています。

今回は嘉数教授と世界最大になるダイヤモンドウェハを作成したアダマンド並木のブレークスルーがあり実現したものだそうです。

まずダイヤモンドウェハを作成したアダマンド並木は、従来４ミリ角サイズが最大だったものを１インチサイズで作成する技術を開発しました。
（アダマンド並木は世界で初めて極小バイブレーションモーターの実用化をした会社で微細加工や研磨技術を持っています）

シリコン半導体ウェハを製造するためにはタネになる半導体を融解したシリコン原材料に漬けて厳密な温度と速度管理で引き上げることによって原料棒を成長させるもので、日本はこの技術でトップレベルでした。

人工ダイヤモンドの場合は、炭素を含むガスを高温で結晶化させて製造されたと思われますが(高温高圧法ではないと思われる)、半導体ウェハにするため今回はこのタネをダイヤモンドで造ると大きくならないためサファイアの下地の上にダイヤモンドを成長させたそうです。

ただし、冷却の過程でそれぞれの熱収縮速度の違いから歪みが生じて割れてしまうため、サファイアの下地表面に微細なダイヤモンドニードルを形成して熱収縮を吸収するようにして成功したそうです。

一方、佐賀大学では、新たな動作原理を発明しています。
これまでのダイヤモンド半導体は低電力の物しか造れず、また劣化が早いものでした。
嘉数教授らは、劣化の原因が積層幕の成分中のＨとＯが反応してＨ２Ｏが出来てしまう事を突き止め、この対策としてダイヤモンド層と積層構造を8nm絶縁膜で離したところH2Oの劣化が抑えられ、また高電力にも対応できたという事だそうです。

パワー半導体は新幹線に用いられているSiC（シリコンカーバイド）や高性能充電器などに用いられているGaN（窒化ガリウム）などがありますが、ダイヤモンド半導体の出力はシリコン比で５万倍、SiN比で１００倍、GaN比でも１３倍の高出力が期待され、発熱も少ない事から次世代パワー半導体の主軸として６G基地局やＥＶなどに用いられることが期待されています。

現在、パワー半導体のシェアはドイツのInfineonなど海外勢が上位を占める事から嘉数教授はこの技術で日本のパワー半導体シェアを伸ばせれば、と企業にアプローチしているところだそうです。



こういう最先端研究と言うのは既に総力戦、つまり莫大な研究開発資金力がものを言う世界になってしまったと思っていましたが、まだこういう独創的なアイデアで勝負できるのだな、と改めて驚いています。

しかし、中国は研究論文数で世界トップに躍り出ており、これまでは質の高いものは少なかったのですがＡＩなど一部分野での論文引用数では既にアメリカを抜いて世界一となるなど、アメリカと中国の二強に日本やドイツが付いていくことが出来ないくらい差が広がりつつあります。

こいういう地道な研究が脚光を浴びると言うのは研究者らも励みになるでしょうし、今後の発展にもつながる出来事ではないでしょうか。