4月22日、アメリカのバイデン大統領がロシアに侵攻されているウクライナに追加武器援助を表明し、その内訳にまだよく知られていないフェニックスゴーストというドローンが含まれている事から、その話題で持ちきりですが72門になる榴弾砲がM777であると言う事が少々意外に感じられました。
アメリカは陸軍と海兵隊にM198とM777という榴弾砲の二種類を配備しています。
数字からも分かるようにM198は湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争にも投入された標準的な牽引式榴弾砲ですがM777は性能を向上させつつ軽量化した新型榴弾砲になります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/M777_155mm%E6%A6%B4%E5%BC%BE%E7%A0%B2
自衛隊が装備しているFH70のような自走用のエンジンは搭載されていませんが、軽量なため多くのヘリコプターで吊り下げて輸送する事が出来るようになっておりアメリカ軍はM198を全てM777と入れ替える予定でいました。
しかし山岳地帯のアフガニスタンなどでの取り回しからこちらを優先して配備されていたのでどの程度更新されたかの資料はなかなか見つかりませんでした。
それを率先してウクライナに出すと言う事で、実際にウクライナで運用される場合のメリットを優先した結果だろうと思います。
尚、同種の砲を戦車に積んだ自走榴弾砲はウクライナ側の攻撃力が相対的に高くなるため防御用の枠を超えると見做されてアメリカやNATO諸国からの武器支援は消極的な物になっています。
またこの榴弾砲はGPS精密誘導の”エクスカリバー”という特殊な砲弾を使うと30キロ以上先の建物のどの部屋を狙うか、と言う程の精度がある大砲になりますが、これはアメリカ、カナダ、オーストラリアなど限られた国にしか配備されていません。
(ウクライナではロシア軍も同種の精密誘導弾を使用していると見られますが、クリミア侵攻制裁による近代化の遅れから数は極めて少ないようです)
※追記:カナダが「エクスカリバー」砲弾を提供する予定。
戦闘での損害は多くがこの榴弾砲によってもたらされ(60~70%)現代においてもその有用性は変わらないようです。
特にウクライナのような平原では有効とされているようでウクライナ軍は小型民生ドローンなどと組み合わせて待機しているロシア軍を発見しては砲撃で撃破しています。
で、このM777はどこから来るのだろうと言う問題があります。
10日以内で展開できると言っている事からアメリカ本国からではありません。
アメリカ軍は、これまでの戦訓から紛争はハートランド(中国。ロシア)とその周辺のリムランドの国々の「不安定の孤」で起きる為、アメリカ本国から遠く離れた紛争地帯に素早く軍を展開する必要があると認識していました。
https://rekishinosekai.hatenablog.com/entry/2020/12/17/082640
具体的には紛争が想定される近隣友好国に予め予備の武器と弾薬を備蓄しておき、有事の際は兵員だけを航空機で送り込み即応させるというもので各レベルに応じた規模の集積地を要しています。
また、固定の集積地では狙われる事や紛争地域の拡大に対応する形で同様の装備を専用の輸送船に積み込んでおき、常に回遊させる海上事前集積船隊というもの要していました。
かつてはヨーロッパ、アジア、中東にそれぞれ一部隊を展開していましたがオバマ政権での軍備再編でヨーロッパ正面の脅威は低下しており、ロシアを懐柔する思惑もありヨーロッパ向けのMPSRON-1は廃止されていました。
従って、今回ウクライナに提供するM777はタイミング的に間に合うのはドイツやポーランドの事前集積地からの取り崩しではないかと思いますが、この「ヨーロピアン・アクティビティ・セット」についてM198がM777に更新されているかという情報については見つける事が出来ませんでした。
ちなみに「ヨーロピアン・アクティビティ・セット」は
M1A2主力戦車 陸軍、約90両・海兵隊、約30両
M2ブラッドレー歩兵戦闘車 陸軍、約140両
榴弾砲 陸軍、パラディン自走榴弾砲約20両・海兵隊牽引式榴弾砲約30門
兵員輸送車 約140両
などとなっている事から海兵隊用セットであろうと思われます。
ここら辺はアメリカ議会の承認した予算案やアメリカ大統領の承認予算を精査すると見えて来る部分かと思います。
(アメリカは議会が予算承認した後、大統領が裁量で予算の内容を書き換える事がある)
このような大規模な「予備」まで予め世界に展開できているのはアメリカ軍だけであり、世界最強と言われている所以であると思います。
参考文献
軍事とロジスティクス 江畑謙介(日経BP出版)
現代ミリタリー・ロジスティクス入門 井上孝司(潮書房光人社)
2000 年代以降の在欧米軍再編の動向―ロシアによるクリミア併合後の態勢強化を中心に―
https://t.co/kE38kSbMWd
Full list of US & European weapons and military equipment delivered to Ukraine
https://www.armyrecognition.com/ukraine_-_russia_invasion_conflict_war/full_list_of_us_european_weapons_and_military_equipment_delivered_to_ukraine.html
Posted at 2022/04/23 16:44:28 | |
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