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2022年07月02日

現代ロシアの軍事戦略 小泉悠

現代ロシアの軍事戦略 小泉悠 ロシアによるウクライナ侵攻にはどのような背景があったのか知りたくて取り寄せた一冊。

著者の小泉悠氏はロシア軍事研究の第一線に身を置き、国内外安全保障コミュニティーでの活躍に留まらずSNSでも「丸の内OL(27) 」などという渾名で情報を発信しています。(今日時点では「夜」と名乗る)

本書が執筆されたのは2020年から2021年に掛けてであり、今回のウクライナ侵攻より前ではあるものの、かえってその方が余計な億色が含まれない貴重な資料となっているかもしれません。

一方で、軍事をテーマとして扱う以上、登場する兵器や軍略、或いは地政学的、歴史的背景についての知識がないと読み進めるのが困難というのがAmazonのレビュー欄からも伺われます。

もっとも、専門家が読み込む軍事専門書の類は情報の量も質も本書の比ではないというのは著者もあとがきで記しているとおりでしょう。

ロシアはソビエト連邦時代から「思想の国」として知られていますが、その多くはベールに包まれており、なんとなく怖い共産圏の全体主義国家、という認識かと思います。

第二次安倍政権において安倍元首相がプーチン大統領と交友を深め、北方領土問題やエネルギー開発協力などで成果があるのではないかと、自分も期待した一人ですが、結果はロシアからの「ゼロ回答」どころか、日本が外国の基地(要するに在日米軍)を撤去するように求められる結果で終わりました。

この事から、プーチン大統領のような絶対的地位を手にしていても、その時々の感情で取引できるような相手ではない事がうかがい知れました。

それは「戦勝国ロシア」が退くに退けない一線があるからのように思われましたが、本書を読み進めるにつれ、もっと根深い、絶対に克服する事が出来ない問題が根底にあり、それは今回のウクライナ侵攻のような対外戦争にも通じるものであるのではないかと思います。

まずロシアはソビエト時代から、西側自由民主主義陣営との終わらない闘争「永続戦争」の最中であると仮定しています。

ここで言う「戦争」とは実弾が飛び交っている訳ではない「平和」な間も、常に西側との諜報活動、情報合戦などの競争は続けられているという認識です。

所謂「ハイブリッド戦争」中国の言う「超限戦」であり、その場は戦場以外、戦争中以外にも及ぶと言う思想です。

ここから類推するに、ロシアにとっての「和平交渉」は次の攻勢までの時間稼ぎでしかなく、ロシアに利するものでないないなら一顧だにする必要すらないと言う事です。
これは「人道」を基調とする自由主義陣営にはなかなか理解しがたい部分であり、自国の戦闘部隊が壊滅しても構わない、など到底受け入れられるものではありませんがロシアはそれを容認できるという事です。

もっとも、昨今のロシアにおいても権力支持基盤が弛緩してきており、無限に出血を強いても国民が反発しない、と言う事は無く反政府運動を弾圧したところで解決しないという認識から「汎スラブ」とは区別される「共和国」の兵士を最前線に送り、それをプーチンに忠誠を違うチェチェン軍閥のカディロフの私兵「カディロフツィ」が督戦する(降伏や逃亡しようとしたら射殺する)事で戦線を維持し、無茶な突撃でウクライナ側を圧迫し続けるような戦い方をしているようです。

そしてこれを正当化するのは以前にも紹介した「ルースキー・ミール」と言うロシアはモンゴル帝国、ナチスドイツ、そして現代ではアメリカやNATOといった「西側」から圧迫され侵略に抗わなくてはならないという世界観であり、これがロシア国内におけるプーチン支持、ソビエト回帰運動になっており、プーチン大統領個人を懐柔しようが暗殺しようが事態はなんら変えられないであろうと見られるようになってきています。

ロシアはどのような軍略をもっているのか、ロシアと国境問題を抱える日本としても他人事でありません。

かつてソ連邦を盟主とするワルシャワ条約機構とNATOが対峙している時は最大動員兵力1345万人と8万輌近い戦闘車両、1万機の作戦機が欧州に雪崩れ込み、これを西側が食い止める事は困難と見做されました。

そこでアメリカなどを中心に「エアランドバトル構想」という空陸一体の戦闘教義を策定し、軍のハイテク化を推し進めました。

劣勢に立たされたNATOの防戦には西ドイツ領内で主力のソビエト機甲師団を核攻撃すると言うプランも含まれていました。

しかしソ連邦崩壊によりワルシャワ条約機構が廃止され、ロシア軍が弱体化すると、今度はロシアが劣勢を挽回するための核使用を真面目に検討し始めます。

この動きはロシアの軍事演習に「戦術核使用のための軍事訓練」が盛り込まれるようになったとロシアの軍事演習を観察して来た著者は述べています。

ロシアの軍事ドクトリン(戦闘教義)は「セルジュコフ改革」というアナトーリー・セルジュコフ国防相の主導で行われた軍改革で見直されたと思われてきました。

これはアメリカが中東でテロとの闘いを強いられ、それまでの国家間戦争を想定した部隊では不利あると言う認識から組織改革したように、ロシアもまた国内分離独立派などとの戦いが出来るように「コンパクト化」を目指した軍再編でした。
しかしこの「軍縮」に反発する軍や軍事産業の陰謀によってセルジュコフのスキャンダルが暴かれ失脚しさせられ、またそれまでの低強度紛争の想定から武装グループの背後で糸を引く国家をけん制、行動変容させるためには「核による恫喝」が有効であると見做されるようになりました。

実際2010年代に行われた軍事演習ではポーランドやノルウェーへの核使用や、ロンドンを恫喝するための核ミサイル発射なども選択肢として含まれているようでプーチン大統領が核の使用をチラつかせたのは単なるブラフではなく、実際に使用する想定で居る事がうかがい知れます。

一方で、戦場を支配するのはハイテク兵器ではなく、やはり軍隊であるという認識が持たれているようです。

これはアメリカ軍が爆弾やミサイルを精密誘導に完全に置き換えているのに対し、ロシアはまだ旧来の無誘導爆弾を大量にバラまく事を前提としているようです。

2014年のクリミア侵攻への制裁でウクライナを含む西側からの部品調達が滞った事による更新の遅れもありますが、仮想敵を陸続きで接近しているロシアではどのみち「人道に配慮した戦争」が出来ないであろうと言う想定をしているようです。

クリミア侵攻では、ロシア軍は「お手本」のような見事な軍の展開をしました。
偽の通行許可を得て大量の軍装備と兵員を短時間に海路、鉄路で送り込み、瞬く間にウクライナ治安部隊を武装解除させ放送局やネット回線を掌握し、「選挙」によってロシア併合を宣言させ無血開城をさせてしまいます。

これは半島という反撃のチョークポイントが限定される地形効果も寄与していますし、政変の最中で対応が後手に回ったウクライナの失態とも言えます。

一方でほぼ立て続けに起こった「ドンバス紛争」ではこれとは真逆の混乱を来たしました。
これはアテにしていた地元の軍閥がロシアの指示に従わず、勝手なふるまいをした事やウクライナ即応部隊が奮闘した事などが原因となっていたようですが、そこでも「ロシア系住民の解放」というナラティブを浸透させる事には一定の効果をもたらしたようで今般のウクライナ侵攻でも地味にこのプロパガンダが効果を発揮し、「でもウクライナも悪いんでしょう?」という言説を広める事になりました。

つまりロシアにとってはクリミア併合もドンバス紛争も今回のウクライナ侵攻と繋がっており、もし今回の侵攻がとん挫する形になったとしても、また何年後かに再び進行して来る事を意味しており、一見してロシア軍の杜撰な戦闘や方向転換も、想定されるエスカレーションの一部でロシア的には政治敗北にはならないようです。

またシリア内戦介入では病院や学校を狙って空爆して市民に相当な被害が出ていますが、これもウクライナ侵攻で繰り返される病院や学校、マンションや商業施設への攻撃と同じ狙いがあるでしょう。

西側的価値観で見ればそんな事をしたら反発が強まって占領政策に影響が出るだろう、と思う所ですがロシアはそこを過小に見積もる、或いは当初から考慮していないようです。

というのも都市機能の破壊が目的化しており、これは相手国が復興に時間も資金もリソースを割くと言う政策や破壊されて放棄された都市にロシア系住民を移民させて新しい都市で上書きしてしまえばいい、という考えがあるのではないかと思われます。

そうとでも考えなければソ連邦を構成した「兄弟」に対してのあまりにも苛烈な攻撃の説明が付きません。或いは西側に歩み寄るとどうなるかの「見せしめ」、もしくは懲罰なのかもしれませんが我々の理解の及ぶところではないようです。

国境問題を抱える日本に対しての戦略はどうなっているのか。

これはもう北方領土を恒久化する法案や北方領土開発を日本以外の国と行うなど妥協の余地がないばかりか、中露艦隊が日本列島を周回したり爆撃機の共同演習をしたりとこちらも予断を許さない状況になっています。

しかし、著者は極東軍事演習「ヴォストーク」は定期的な演習の域を出ず、その規模などはかなり水増しされていると分析しています。

根拠としては極東の鉄道の運航制限などの観察によるようです。

ヴォストーク2018には中国人民解放軍も参加しましたが、その協力関係はあくまで演習場の中だけだったともしています。

ロシアにとっては戦略的パートナーシップは保ちつつも日米をけん制するのはあくまで中国であるという事なのかもしれません。


基本的にはロシアの価値観は常に理解しがたい部分を抱えており、何か分かった気になって「政治的妥結」だの「交渉にはお土産が必要」というのはあまりに恥ずかしいと言わざるを得ない、というのが本書を読んでの感想となります。
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Posted at 2022/07/02 13:07:19

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