
今、まことしやかに言われている「陰謀論」といわれるものの多くはロシア発と言われています。
その中でも「ディープステート」という影の政府が世界を牛耳っていて戦争などを起こして大儲けしている、というものがあります。
ディープステート、影の政府は元々はアメリカの公式な政府の裏で表に出ない政府があって、それがアメリカを支配しているという陰謀論で、軍産複合体とかネオコンとかと絡める事で信ぴょう性を持たせようとしていましたが、いつの間にか世界を支配していると言う話になっているようです。
そして近年はディープステート(悪)と戦うトランプ大統領やロシアのプーチン大統領が「光の軍団」を率いて世界各地で掃討作戦を行っており、ウクライナ侵攻もその一環である、などと真顔で言っている人も増えてきました。
これらはロシアの主張を取り込み、都合よく改変されていったものなので語る人によってニュアンスが違っているので信ぴょう性はありません。
しかし国際金融資本、つまりユダヤマネーの存在を匂わせている部分が共通しています。
本書は繰り返される「ユダヤ陰謀論」が醸成された背景を歴史的事実をベースに紐解います。
まず、世の陰謀論者は歴史の中で何度も重要な役割を果たす「ユダヤ人」の存在に着目します。これがそれっぽい信ぴょう性を持たせているのですが、本当にユダヤ人は世界を裏で支配しているのでしょうか?
ユダヤ人の歴史は迫害と追放の上に成り立っています。それは時に神話と結びついてユダヤ教だけでなくキリスト教やイスラム教にも影を落としています。
周辺の強大な国家に幾度も翻弄されたユダヤ人は国を追われ1800年間世界各地に離散していました。
後にキリスト教やイスラム教の勢力下で宗教的に禁忌されていた職業で働く中に「金貸し」がありました。
金貸しをするユダヤ人の中に成功して富を築く者が現れますが、彼らの資金力を目当てにする王や為政者が庇護したりして権力と結びつくようになります。
こういった事もあって、歴史の中で何度もユダヤ人が影に日向に登場する事になります。
ユダヤ人、と書きましたが定義としては「ユダヤ教を信仰する人」と言う事になります。
地中海付近に居たヘブライ人だけでなく、ヨーロッパ地方に広まったユダヤ教のアシュケナジムの白人系ユダヤ人などの存在も話を混乱させます。
彼らは暫くはキリスト教などと共存していた時期もありましたが、やがてキリスト教でレコンキスタ(再征服)の動きが広まるにつて異教徒であるユダヤ人も「キリスト教徒の子供を生け贄にしている」「子供の生き血を飲んでいる」などの噂が広められ迫害の対象になりました。
(これはディープステイトが子供を誘拐し、その脳髄から若返りの薬成分を抽出している、各国要人やセレブがこの薬に依存しており禁断症状でアザが出来るというおぞましい陰謀論の元ネタとも思えます)
その為、迫害を逃れてユダヤ教を庇護するオランダなどにユダヤ人が集まりますが、そこではキリスト教に改宗しないでユダヤ教を厳格に守る生活をしいて独自のコミュニティを形成していたため、次第にユダヤ人とキリスト教(カトリック)の衝突が起きないようにユダヤ人が住む場所を隔離地区「ゲットー」に限定したりしました。
こういった事がユダヤ人に対する憎悪を正当化してしまったようです。
ユダヤ人迫害というとナチスドイツのホロコーストが有名ですが、東欧や北欧、西欧でもユダヤ人は迫害を受け続けました。
キリスト教プロテスタントのシオニズムはユダヤ教に理解を示したものではなく、あくまでキリスト教の聖書に書いてあるという理由でユダヤ人に「約束の地」を与えるべきと言うものでした。
そしてヨーロッパを追われるようにアメリカ大陸に渡ったユダヤ人はまた宗教的な差別を受けますが、独自のネットワークと金融を武器に、ニューヨーク(オランダ領時代のニューアムステルダム)などで成功し独立戦争や南北戦争に関わっていきます。
アメリカ建国の理念は商業主義の欧州と決別して「偉大な農業国」を目指すものでしたが、商業を打ち立てて欧州に対抗するべきという勢力に、商業的に成功していたユダヤ人が加わり後のアメリカを形作っていきます。
1903年頃、「シオン議定書」という反ユダヤの本が出版されました。
内容に根拠はありませんでしたが、それまで欧州での反ユダヤ思想もあり、各国語版が出版されロシア革命や第一次世界大戦後の世界各国に広まりました。
後にこの本は1864年に発行されていた「マキャベリとモンテスキューの地獄での対話」という創作本で当時のナポレオン三世を批判した部分を「ユダヤ人」の仕業と書き換えた偽書であると「ファクトチェック」されましたが、勤勉な労働者しか評価しなかった自動車王ヘンリー・フォードが反ユダヤ批判を展開する根拠とした他、後のナチスドイツのヒトラーやゲッペルスにも反ユダヤ思想では影響を与えたと言われています。
ナチスドイツのホロコーストを受け、イスラエルが建国されましたが第二次大戦後には東欧などで共産主義が広まり、その中で妬まれ阻害されていたユダヤ人への迫害が再燃しポーランド、ウクライナ、チェコスロバキアなどの東欧から黒海周辺のコーカサス諸国などでユダヤ人が迫害(ポグロム)を受けます。
これらの国では迫害や追放、移民政策などでユダヤ人の人口は第二次大戦前の数%にまで激減した所も珍しくないようです。
このような運目を辿ったユダヤ人が悲願である約束の地「イスラエル」に集結しましたが、元々そこに住んでいたパレスチナ人と対立し、イスラエルに反発したアラブ諸国が幾度もイスラエルと戦争をします。
この為、アラブ諸国を支援していたソビエトも積極的に「ユダヤ陰謀説」を展開します。
基本的にはこういった古代からの宗教対立や民族問題を背景に、時の権力である宗教やイデオロギーが率先してユダヤ人を悪者に仕立て上げ、それまで共存していたような地域でも激しいユダヤ人への憎悪感情が醸成されていきました。
従って現代で仕掛けられている様々なプロパガンダもユダヤ陰謀説が下地になっており親和性が高い物になっています。
今は反米、反民主主義として政府批判などと結びつきユダヤ人が影の世界政府で世界中で戦争を起こしていると強く信じられるようになってしまいました。
歴史的にユダヤとの関りが薄く特別な憎悪感情が無かったはずの日本においても、逆にこう言った歴史的経緯を知らないがゆえに歴史の重要局面で何度も登場するユダヤ人に不信感を抱くようになったというのが著者の主張のようです。
これらはインターネット番組でシリーズ展開されたものを元に再構成されたもので陰謀論本としてもよく纏められていますが、ライトな感覚の装丁からは想像できない程の歴史を下敷きにした読み物としてもとても面白い本でした。
今の世界でウクライナ侵攻に対し「ロシアを追い詰めたアメリカの責任」という部分ばかりを強調し、侵略を禁止している国際法の話がすっ飛んでしまう人が居るのはこういった不信感を醸成した社会現象なのかもと考えさせられるものがあります。
また、イスラエルが頑なにウクライナ支援に乗り出さない背景も、こういった歴史が関与していると思うと世界を少し違った角度から見られるようになるのではないかと思います。
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2022/12/28 21:00:25