
何処かのお勧め候補に出て来たのでタイトル買いした本。
「世界システム論」など巨視的な社会哲学者の文庫再販本という事で興味はあったのですが、読み始めるとこれが詰まらない。
海外の翻訳本にありがちな翻訳者の認識不足やニュアンスのズレというフラストレーションでもない、頭の固い教え下手な教授の講義に出ているようなそんな退屈さなのです。
例えば「このような例は歴史上何度も繰り返されて来た」といったようにしてほったらかし。
え?その具体例は?と置いてきぼりにされます。ひょっとしたら知的レベルが高くて「あぁ〇〇〇文明と△△国家のことか」と分かる位だと楽しく読み進める事ができるのかもしれませんが、その入眠効果はすさまじく2ページ目くらいまでには眠気に襲われ5ページ読むのも苦痛で一日10ページずつくらいしか読み進める事が出来ませんでした。
読みたい本も溜まってるし困ったな、と思っていたのですが、どうしてこんなに詰まらないのか読みながら考えるうちに、著者の主張に同意できない事が多々ある事に気が付きました。
今風に言えば
「それってアナタの感想ですよね?」
「エビデンス示してもらっていいですか?」
といったところ。ひょっとしたらジェネレーションギャップと言うか掛かれたのが37年前なので時代に合わなくなっているのかもしれません。
このまま積ん読するのもシャクなので「それはおかしい」といちいち反発しながら読むと20~40ページくらいは読めるようになりました。
資本主義は資本蓄積の効率化のために一見して労働者階級というヒエラルキーを固定化したように見えても、実はその階級は様々な構成の集団が入れ替わる流動性を確保するものであると定義しています。
また、資産階級にすれば賃金を低く抑えられる家内制手工業のような旧来の生産性の低い市場での売買などの「商品化」に留める方が「賃金」を低く抑える事が出来るが、都市に集まった労働者階級が階層化を求めた事で賃金体系が確立されて生産性が向上し、あらゆるものが「商品化」されるにつれ賃金上昇を招いた、これが資本主義の始まりであるとしています。
「人種差別」もこのヒエラルキーの固定化を自ら求めたもので、伝統だとか民族というものもに頼る団結はロクな物ではない、と断じています。
一見すると誤魔化されそうですが、技術の進歩、つまり作業や経済の効率化という視点が欠落しているように感じました。
つまり100年前の石炭を焚いていた頃に比べれば現代ははるかに高度な産品を生産し、生活の質も大きく向上しているハズです。
ところが著者はこのような恩恵にあずかっているのは人口の15%程度でそれ以外の85%の人々は搾取構造の底辺におり、格差は拡大する一方で、資本主義は限界を迎えているという事です。
しかし、これも人口爆発とそれを支える技術についての観点が足りないと思います。
例えば、現代の世界人口70億人を養っているのは化学肥料や農薬などによる穀物収穫量の増加があります。
これは空気中の窒素固定を実現したハーバー・ボッシュ法などの革命的な技術の社会実装によってかつては不可能だったよりもはるかに多くの人口を養っています。
また草原のマサイ族も各自が携帯電話を駆使して、かつては一日掛かりだったような隣人とのコミュニケーションを数分で成し遂げ情報の距離的な制約を無くした点も技術、つまり資本蓄積の恩恵と言えるはずです。
この「つまらん」という感想はこのような理想主義一辺倒から来るのだろうと思います。
ただし、面白い記述もありました。
我々は資本主義vs共産主義といったような対立構図の中で生きてきました。
しかし著者は共産主義というのも資本主義に内包されるものであり、本質は同じであると見做しています。
このため封建制度をブルジョワ革命が終わらせたように資本主義を無産階級のプロレタリアート革命で終わらせる事は出来ないとしています。
たしかに共産主義革命、あるいは社会主義革命を成し遂げた国は革命政権はそれまでの権力機構に取って代わっただけでそれ以前より良くなっているのか疑問であり21世紀までに多くの共産主義国、社会主義国が何らかの形で資本主義体制に取り込まれています。
また世界同時革命が起きない理由についても、革命家という特権階級は自分で物を考えないでいるルサンチマンを抱えた不満層しか取り込めないため、権力構造の劣化も是正されないと見ているようです。
ここら辺については常々自分が考えて来た事を論理的に裏付けているような気がします。
そして終焉を迎えつつある資本主義の次に来るものがどういう政治体制になるかは想像もつかない、としている部分も問題があると感じます。
著者は三つの将来像を描いています。
一つは集団が資本主義と言う世界ルールを無視する強権国家の台頭。
もう一つは軍事大国の台頭。
そしてボートピープルに代表される移民、棄民の時代。
この本が著された時は北半球の先進国と南半球におおい後進国の対立である「南北問題」がクローズアップされていた時代であり、正確に現代を予見することは難しい、というか誰も想像しえない時代に突入しているでしょう。
著者が示した三つの将来像は、それぞれ現在に当てはめると、世界ルールに従わない国はアメリカの弱体化などによってロシアなどの傍若無人な振る舞いに見る事が出来ます。
また、軍事大国としては大国に成長した中国がアメリカに対抗する野心を露にして周辺地域を不安定化させています。
移民の問題は筆者が欧州、北米、日本がその舞台になる兆しがあるとしていました。
確かに欧州やアメリカは不法移民の流入とそれを拡大したい左派勢力の対応に苦しんでいますし単一民族と言われる日本も実は世界第4位の移民受け入れ大国になっています。
しかし、資本主義の終焉や新しい世界システムの兆しは感じる事がありません。
それは資本主義が常に変質して自らを改良する人類が構築した最先端のシステムであるからなのかもしれません。
Posted at 2022/08/18 20:46:02 | |
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