日本の自動車メーカーからSiCパワー半導体などEVの基幹となる技術者が中国企業などに転職しているというニュースを目にしました。
例によって好待遇を条件に引き抜きが横行している様子です。
結局、技術を伝授したら用済みと見做されて退職させられるのは半導体産業など他の業種でも繰り返されてきた光景ですが、どうも日本の自動車メーカー内ではEVは花形ではなく、これらの開発に携わっていると冷遇の憂き目にあっているという事も一因となっているようです。
EVへのパラダイムシフトが起きた場合、国内メーカーに踏みとどまっていれば持て囃される時代が来るかもしれないのですが、それを待ってはいられないという人も多い様子。
エネルギーの貯蔵方法としては化石燃料は優れており、またその観点からは電気社会というよりも水素社会こそ目指すべきではないかとも思いますが、変化するエネルギー問題もありEVへのシフトが起きるのか将来を的確に見通せる人は誰も居ないにも関わらず前のめり気味でTeslaが高く評価されている事は周知の事実です。
実社会への貢献度でいえば既存の大メーカーの方が大きいにもかかわらず生産台数がトヨタの1/8ほどのTeslaの時価総額はトヨタの3倍にもなっています。
これは投機で過熱気味に資金が集まっているマネーゲームの側面も否めませんが、株式を長期保有している株主が多い事も事実でしょう。
配当金利回りが0%のTeslaの株を保有し続けるという事は、その可能性を信じているという人が多いという事になります。
Teslaは配当金を出さない分、設備投資しており巨大工場にギガプレスという大型鋳造機で80程のパーツを3つ程度にしてしまうなど製造工程でも変革をもたらしつつあります。
しかしこれは事故の際、交換部品が高額になる、或いは修理が不能で廃車になる可能性が高まる事になります。
またサスペンションのジョイント部分が割れて走行不能になる事例が世界各地で報告されており、また緊急時にドアを開けるボタンが車内に隠されているなど安全性に対する配慮に疑問を感じますし、重大事案でなくても塗装の不具合やパーツの合わせがズレが大きいなど既存の自動車メーカーに対してモノ作りの面では今一つ及ばない印象です。
塗装はともかく、走行に関わらるパーツの破損などはあってはならない不具合ですがTeslaのような企業は市場に出て判明した不具合は後でアップデートすればよいと考えているようです。
またCEOのイーロン・マスク氏は型破りな言動で企業価値に変動を与える程のインパクトを持っています。
従来のビジネスから嫌煙されがちなこの企業はどこに魅力があるのでしょうか。
コンシューマーレポートというユーザー評価を取りまとめた2021年のランキングではTeslaのモデル3がユーザー満足度で1位、モデルSが3位となっています。
この差はどこから来るかと言えば、ユーザーエクスペリエンスによる満足感であろうと思われます。
日本のユーザーならモーターの出力はどれくらいで航続距離はどれくらいになるのか、あとは駐車場に入る都合で寸法が重視されますが、Tesla車のオーナーはそういう事は気にしないでしょう。
EV特有のトルクフルな加速感などはよく言われるところですが「使い勝手」を評価する声は異口同音といった感じです。
Tesla車はインパネの機能がダッシュボード中央のタッチパネルと連携したスマホで殆ど賄っており操作が可能です。
これが「走る情報端末」などと揶揄される由縁でもありますが、戸惑いから慣れてしまうとこれが便利でそれ以前の車には戻れない、というユーザーの声も聞きます。
確かに日本車を始め、従来の自動車メーカーは機能拡張する度に画面やボタンを増やして来ました。
物理的なボタンやダイヤルは走行中に手探りでも操作できるものですが中には一生使わない操作ボタンもあるでしょう。
Tesla車ではアップデートで使用されていない機能が削除されたり、また機能が拡張されるなど、それこそスマホ感覚になるようです。
駐車中はスマホと連携して防犯カメラ代わりになったり、ガジェット好きには新しいオモチャともいえる物を提供しており、これがユーザー満足度に繋がっているのでしょう。
サイバートラックでは、同じくマスク氏がCEOを務めるスペースX社の低軌道通信衛星コンステレーション「スターリンク」が利用できるオプションを用意するとの事。
「スターリンク」は従来の静止衛星軌道よりも低い軌道に数千から将来的には数万基の小型通信衛星を投入する事で全地球での低遅延の通信を提供しており、ウクライナ防衛戦争でも前線の兵士に通信網を提供しており、「自由主義の象徴」とまで言われるほど場所を選ばない通信を可能にしている通信サービスです。
もっともこれらの機能はなにもEVでなくても実現は可能ですが、モビリティーとしてではなく新しいユーザーエクスペリエンスを提供するプラットフォームとしての価値は「部分改良が得意」と言われる日本メーカーは真似できない部分かもしれません。
EVが普及し社会的に貢献するには日本では市場の熟成を待つ必要があり、使われていないEVを蓄電池にして電力の安定化を図るV2Hなども普及には時間がかかるでしょう。
一方でTeslaは「ソーラールーフ」や「パワーウォール」といったライフスタイルの提案も行っています。
日本では充電インフラの整備も遅れている事からEVへのシフトは欧米や中国よりも時間がかかると見られますが、そこには成熟した自動車産業を要しているという事が最も大きな「参入障壁」となるのかもしれません。
欧州やアメリカの一部の州ではHVも販売禁止となるのがあと8年後に迫ってきています。
日本が世界に通用する「モノ作り立国」から凋落しないためには何をすべきで何をすべきでないのか選択に残された時間はあまり残されていません。
Posted at 2022/08/26 17:13:55 | |
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