2022年09月17日
9月5日頃から始まったウクライナ軍の反撃により、同国に攻め込んでいたロシア軍は潰走し、奪われていた領土の多くを奪還しています。
戦車や大砲といった数の面ではウクライナ軍を抑え込んでいたように見えたロシア軍は、しかし反撃を受けると非常にもろかったようです。
これには多くの要因がありますが、何よりもまず徹底抗戦するというウクライナの人々の不屈の精神があったればこその反撃でした。
占領された地域の人でさえも、ウクライナ側の反撃を待ち望んでいたでしょう。
そして西側の支援、特にアメリカの提供する武器や弾薬はもとより、様々なレベルの情報が戦況を覆す事を可能にしました。
多くは衛星写真の画像解析や電子偵察機などからもたらされるロシア軍の状況分析などにより、効果的な作戦立案を可能にしたのでしょう。
恐らくキーウには米英の「軍事顧問団」が常駐し、ウクライナ軍の作戦立案にアドバイスをしているものと思われます。
従ってロシア軍が対峙しているのは東側の旧式装備のウクライナ軍ではなく、アメリカ軍の指揮するアメリカ式の装備で戦うウクライナ軍とでもいうべき状況変化がありました。
当初は南部にて攻撃を開始したウクライナ軍でしたが翌6日には東部にて大規模な反抗作戦を実施し、ハルキウ州の大部分や東部ドネツク州の要衝を次々解放させていきます。
中には一日に50キロ程進撃した部隊もあったようです。
対イラク戦争時にアメリカ軍の機甲師団が砂漠を突っ切り一日に100キロも進撃した例はありましたが現代戦では30キロ進めれば快進撃と言われます。
これはウクライナ軍が殆ど抵抗らしい抵抗を受けなかった事を意味します。
実際、戦場の様子をSNSで語っていた兵士はロシア軍の大量の武器や弾薬が放置され、逃げるロシア軍と並んで進んでいると伝えている例もありました。
通常は占領地に防御陣地を幾重にも張り巡らせ、どこかが突破されてもその先の防御陣地で食い止めるのですが、そういった陣地構築をしていたり頑強に抵抗する事もあまりありませんでした。
南部が陽動作戦だったと分かったロシア軍はただちに東部に戦力を振り向けますが、それよりもウクライナ軍の進撃速度が上回ったため、占領地の多くを手放し、後方に「配置転換」するしかありませんでした。
このあまりの脆さに当初は自分もウクライナ軍を引き入れる罠ではないかと数日はヒヤヒヤしていたのですが、どうも単にロシア軍が弱いというだけだったようです。
その事を裏付けるロシア側からの分析を見つけました。
まずロシア軍は単一の軍隊として機能しておらず、組織的な反撃が出来なかったとしています。
ウクライナに攻め込んでいるロシア軍は兵員不足の為、正規のロシア軍(契約兵)の他に国境警備部隊、民間軍事会社ワグネルグループ、チェチェンの武装勢力「カディロフツィ」などの混成で成り立っています。
それぞれ言語が違っていたり、またそれぞれの組織の目的が違っており、各々がそれぞれの判断で行動しているため、そこを突かれてひとたまりもなかったようです。
ワグネルグループは軍しか持っていない攻撃機まで持っているため、実質的にロシア軍の超法規的な任務を遂行するための一部門と見られますが、これまでの兵員不足のため、刑務所の囚人を募集する事が許されいました。
その多くが短期間の訓練を受けたのみで戦場で任務にあたっていたようです。
ロシア軍も人員不足の為、黒海艦隊の水兵が戦車の操縦訓練を受けさせられて投入されているという話もあります。
ドローンによる空撮で、道路を走っているロシア軍の戦車が道を外れて横転したり、曲がり切れずに木に激突する動画が拡散されていますが、その背景にはこういった練度の低さというのもあるようです。
カディロフツィも金や快楽的な暴力を原動力にしているため、守勢では使い物にならないというのは以前から言われていました。
部隊を指揮する士官も慢性的に不足しているとの事です。
分析ではこういった指揮系統の問題や、予備として長期保管されている予備兵力が故障し放棄されているなど、装備の問題もあったようです。
急募された兵士は装備も満足に与えられず、迷彩服にスニーカーといった程度だったり、長期保管のためかボロボロに劣化した装備が与えられています。
夜間暗視ゴーグルのような装備など望むべくもなく、その作戦遂行能力そのものが格段に低い事が伺われます。
また補給についても、現地のニーズに合わないと思われる物資がそっくり残されています。
軍隊への補給、「兵站」についてはどの軍隊でも問題になりますが、アメリカ軍はコンテナ無線タグで管理しており、世界中のどこからの要請にも答えられる体制を構築しており、アメリカ軍の世界展開を支えています。
ロシア軍にはそのような管理システムは無く、慢性的に物資不足であったと推測される上、9月の反撃までにアメリカが供与したHIMARSによる精密誘導ピンポイント攻撃でかなりの後方の物資集積所が破壊されていました。
このように非常に拙い用兵という状況は開戦以来抱えていた問題が全く改善されていなかったばかりか200日に及ぶ戦中においての損耗によりかなり弱体化していた様子が伺われます。
ウクライナ兵のように命がけで祖国を守るという気概は侵略側のロシア兵には無いでしょうから、現在の状況が続けばいずれロシア軍がウクライナから撤退する日が訪れるかもしれません。
既に東欧において、ロシアの弱体化を見て取ったかのように地域紛争がいくつも再燃し、地域が不安定化しています。
またトルコもこの機を逃さない立ち回りをするでしょう。
中国もロシアとは距離を取り始めていると言います。
インドのモディ首相が上海協力機構首脳会議後にプーチン大統領と会談した中で「戦争のときではない」と窘められ、目を逸らしたそうですが、数少ない友好国からのアドバイスをどのように受け止めたでしょうか。
ロシアは西側へ禁輸した天然ガスや石油をこれらの国に売って貿易黒字が拡大したと言いますが、その石油掘削設備や石油精製装置は西側のものであり、自国ではベアリングも満足に造れず鉄道事故が増加しているなど、すでに制裁の影響が出始めており、いずれは経済も戦争遂行能力も壊滅するのは避けられない流れです。
今年の冬が厳冬になれば戦火のウクライナだけではなく、ロシアも欧州各国もエネルギー事情のひっ迫が懸念されるだけに、早期の停戦合意が望まれるところであり、ウクライナ軍の快進撃がロシア首脳部の判断を変えて欲しいものです。
Posted at 2022/09/17 17:21:12 | |
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