空自機へのレーダー照射「事案」で中国政府は事実と異なると思われる発表、勘違いするミスリードを繰り返しています。
一国の政府が臆面もなく嘘をつくのかと信じられない気持ちになりますが、前時代的なマインドを続けているのが中国やロシア、それに与する権威主義国家という事を改めて示しました。
自由民主主義国家では権力への権威付けは国民の信頼によるので政府が事実を隠蔽して都合が悪い事柄を発表しなかっら、後にそれが発覚した場合、権威は失墜し、執政が続けられないダメージとなる事から、事実に対する透明性とそれを裏打ちする法的根拠が常に求められます。
一方の権威主義は体制を維持するのには何らかの「理由」が求められます。
古くは王権神授説で国王が宗教を守護者とした事や近現代ではイデオロギー、そしてロシアのウクライナ侵攻で改めて認識された歴史的なナラティブなどを統治正当性の根拠としています。
しかしこれは統治者が変われば容易に変容しうるものである上に自国民や諸外国を納得させるのは非常に困難な建付けともいえ、だからこそ権威主義は国家指導者を絶対神聖視せざるを得ないのです。
それぞれの国家体制について良し悪しを語ってもどうにもなりませんが少なくとも日本とは価値観が全く異なるという事を全ての議論の前提とする必要があります。
例えば中国で起きた天安門事件。
胡耀邦死去の追悼集会から天安門広場などに民主化や政治腐敗撲滅を求める学生らが集まり大規模なデモが起こりましたが、中国政府はこれを武力弾圧しました。
人民解放軍の攻撃で死亡した人の数は今でも定かではありませんが北京病院の記録などから少なくとも数千人規模の死者が出ていたようですが、中国政府は軍や警察側の犠牲者を合わせて319人としています。
鄧小平は
「20万人くらい犠牲になっても構わない。民主主義がもたらされれば内乱になり中国全土で何億人もが難民になる」と言ったとされます。
これがもとになってか、今日中国国内では六四天安門事件は「内乱を防ぐためには仕方なかった」という評価になっているようです。
軍隊が自国民を攻撃するなど全く許されない行為だと思われますが、これが中国の長いものには巻かれる事が利得といった本質をよく現しています。
ジャーナリストの池上彰氏は後に事件を解説する番組で
「天安門広場ではデモの学生は一人も死ななかったということが後に分かりました」と言ったことでイデオロギーを優先したジャーナリズムの信頼を失墜させました。
(番組では広場以外での犠牲者について触れていますが、中国政府擁護で被害を矮小化するミスリードをしたと言われても仕方ない仕草)
中国政府のこういった姿勢は文化大革命で繰り返された
「革命無罪」(革命のためなら何をやっても罪ではない)、
「造反有理」(既成秩序への反抗は常に正当)のスローガンにも表れています。
「目的の為なら手段は正当化される」という革命精神はマキャベリの展開した
『君主論』で触れられ、トロツキーがこれを輸入し
「マルクス主義の観点から見れば、目的が手段を正当化するという原則は完全に正当である」としてボリシェヴィキが暴力装置として実践しました。
毛沢東は文化大革命でこれを人類史上最大規模で用いたため、それ以降の中国はこの「呪縛」から逃れることが出来なくなったとも言えます。
中国人に時よりみられる法律を守らない事を何とも思わない、自分の利益だけを最大化しようとする行動原理は歴史的な系譜とともに、こういった体制の注入してきた思想で補強されてきたと考えられます。
それは国情の違いですから自国民の弾圧でも何でも周囲に影響しないなら好きにしたらいいとも言えますが、最近の中国の膨張政策は周囲の国と軋轢を深め緊張をもたらしています。
長期的には中国の為にもならないと思われるこの姿勢を、しかし日本国内で擁護する人達が高市首相国会答弁以降はっきり可視化されました。
中には
「華夷秩序」(文明の中心に中華王朝があり辺境は未開の蛮族の穢れた地とするかつての中華思想)を持ち出して中国の台湾武力統一を正当化しようという呆れた者も居ました。
21世紀に古代のローカルルールを持ち出し国際法も解しない者が「知の巨人」「リベラルの良心」のように言われている事に飽きれた人も多かったと思います。
こういった人物が同じ口で「日本はアメリカの属国」などと言っているのだから呆れます。つまり公正で正しい判断をしているのではなく自分の価値観こそが正しい、そのための屁理屈を繰り出しているのでしょう。
彼らが口にする「一つの中国」論や「琉球独立」論など根拠薄弱の一顧だにしてはならない類のものだと分かります。
然るに戦後の国際秩序を鑑みない(あるいは都合の良い時だけ利用する)姿勢は中国政府の署名していないサンフランシスコ平和条約は無効とている姿勢と酷似しています。
(因みにサンフランシスコ平和条約が無効となった場合、日本が台湾を放棄した事も無効になるため台湾は日本の統治下状態になりますが)
仮にアメリカ一強を良く思わず多極化世界を望むことを理解するとしても、その根拠が適当なこじ付け以外に無いことを露呈しています。
過去の最大版図を根拠に持ち出すなら、世界を席巻したイギリスは?イタリアは古代ローマ帝国領土を要求して良いのか?日本は大日本帝国の最大勢力圏?
たちどころに世界各地が戦乱が巻き起こります。
従って世界秩序を維持する以外の力の信奉を許してはいけないという日本の立場が正しいものであり、台湾武力統一は日本の存続危機事態という認識が理屈の上でも正しい理解であると言えます。
しかし中国の仕掛ける認知戦で「日本は中国の一つの中国を承認した」などの誤った理解(多くは歴史経緯の不勉強で中国の声が大きい事からの勘違いでしょうが)が一部で依然としてまかり通っています。
デマは真実の10~20倍拡散力が強いのでいくら訂正してもキリがないのですが、少なくとも日本政府には一層の正しい情報発信が求められます。
そして今回の中国の認知戦は台湾有事の予行演習として機能し、実際に起こった時に日本の世論がどう分断されるか、利用できるアセット(言論人や政党、メディア)のリストアップが行われているとみるべきで、そういう意味では既に台湾有事は始まっているのかもしれません。
戦後の日本が経済大国として発展してきた過程では約束を違えず、誠実に履行する努力を積み重ねてきた先人の努力のたまものであり、民主主義プロセスに不満があろうとも、その「貯金」の上に今の日本がある事を忘れてはならないのだろうと思います。
Posted at 2025/12/13 13:10:27 | |
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