今日、あるYahoo!ニュースが話題になっていました。
「プーチン支持」の陰謀論で物議をかもす元駐ウクライナ大使、南丹市観光大使に就任~広報課に直撃取材~
https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyatsunehira/20220520-00296832
馬淵元大使は以前から、世界を裏で牛耳る「ディープステート(DS)」という集団が全ての混乱を仕掛けているという陰謀論界隈では知られていた人物で、今回のロシアのウクライナ侵攻もプーチンはアメリカやNATOという「ディープステート」から仕掛けた戦争により正義の戦いを強いられている、西側のニュースしか伝えられずロシアの言い分が無視され、人々は本当の真実を知らないという「陰謀論」で問題視されていました。
陰謀論と言うのは「世界中で大きな戦乱を起こしているのはユダヤ」といった、それこそ昔からよくあるもので、時代により「軍産複合体」だとか「ネオコン」だとか形を変えて何度も何度も焼き直しされてきました。
中には悪の爬虫類型宇宙人がユダヤ人を使ってアメリカを建国し、世界を牛耳っている。その証拠は大物政治家やVIPの多くが爬虫類型宇宙人が人間の姿に変身したものだ、といった「ビデオ」なども拡散されてきました。
さしずめ馬淵元大使の「プーチンvsディープステート」はその2022年版といったところでしょうか。
先日、岸田首相が「グレートリセット」という言葉を使った所、「そら来た!」「やっぱりワクチンを使った人類削減計画は真実だった!」と色めき立ちました。
もちろん日本は思想信条の自由が認められているのですから、世界を裏で牛耳る悪の組織があると信じる事も自由でしょう。
しかし馬淵元大使に「そのディープステートというのは具体的に誰が居るんですか?」と聞いた所、激高して答えなかったそうです。
それでも中には貯金全額を降ろして来たる「デクラス(世界秩序のリセット)」に供え悪に対処できる「銀」を買ったという人も居ました。
またコロナウィルスは人類全員にワクチンを打つ口実の為に撒かれ、ワクチンを打たれた人は死ぬといった「反ワクチン陰謀論」の活動家がワクチン接種会場に突入して医師に詰め寄って接種を中断させたり、ワクチン保管用の冷蔵庫の電源を抜く事を予告したりといった「実害」が出るようになりました。
この団体によると差し向けられる警官は爬虫類型宇宙人なので「松脂ワックス」で撃退できる、と大真面目に警官にワックスを嗅がせようとさえしました。
こうなると思想信条の自由の枠を超えています。
以前、
なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのかというエントリーでは、IQが高い、いわゆる「賢い人」が時に不合理な判断をする背景について考察した本を紹介しましたが、今回は社会心理学の観点から「なぜ人は陰謀論にハマるのか」を考察してみたいと思います。
情報を正しく選択するための認知バイアス事典
キーワードは「認知バイアス」、つまり人々の認識プロセスに多くのトラップが仕掛けられている事を解説した本となります。
具体的な内容は書籍の方をあたっていただくとして、人間の知覚や認識は生物学的な理由や社会的な要件からして絶対ではなく、多くの「錯覚」が潜んでおり、陰謀論者や詐欺師はこの「認知バイアス」を巧みに使いこなし、言説を信じ込ませる事に成功している事が分かります。
本当は多くの選択肢があるのに、あえて一面だけを「真実」として語る手法、誤った推論を連続させる事で望む結論に導く手法、三段論法に誤った推論を混ぜる事で違和感を感じさせない手法、保守的に内向するように危機を煽る手法、自己防衛心理を突いて他者(被害者)に責任を転嫁する心理。
それらを駆使する能力はトレーニングで体得したものというよりは天性の才能に近いかもしれません。
また陰謀論を語っている本人も「人々を惑わせて儲けよう」と言う場合と「人々の為に「真実」を語らないといけない」といった自己暗示によって、多少脚色して「無実の罪人」をでっち上げてもそれは正しいと言う自己正当化などの心理が作用しているのかもしれません。
受け手が陰謀論を信じてしまう仕掛けは幾らでもありますが、まず受け手の素養として「情報弱者」であると言う事が大きいようです。
良い情報、悪い情報、多くの情報を集め、それぞれを評価判断できる人は陰謀論者が語る話に論理の飛躍や矛盾を感じ取る事が出来るでしょう。
しかし情報弱者は聞かされた話をまず鵜呑みにし、同じ情報を信じる仲間のコミュニティに身を置くとその所属する「エコー・チェンバー効果」が心地よく感じる事を「正しさ」と錯覚し、世間から嘲笑されれば「真実を知っているのは自分だけだ」という思いを強め。陰謀論のおかしさを看破する者を自分のコミュニティを攻撃する「悪人」と錯覚する事で益々「やはり陰謀論は正しいのだ」と信念を深めるスパイラルに陥っていきます。
こうなってしまった人には科学的、或いは歴史的に検証されてきた正しい情報を提示したり、陰謀論の矛盾を指摘しても全く響かなくなります。
カルト宗教にハマった人を「解脱」させるのに教祖や教義がいかに胡散臭いかを指摘してもかえって内向きになって聞く耳を持たなくなるのと同じで自己暗示に掛かった状態と言えるでしょう。
こういう人達は自分自身の状況を正しく見られないばかりか、周囲の人間も正しく評価する事が出来なくなっているとされます。
こんな厄介な事には関わらないに越したことはありませんが、日本では他国よりも「ロシアは正しい」「アメリカが元凶」などと信じる人の割合が高い事が指摘されています。
背景には中露による「反米プロパガンダ」の浸透もあると思いますが、良く言えば「純真」なのですが情報格差や情報を扱うリテラシーに長けた人が少ないと言う事もあるのかもしれません。
これに対処するには社会が正しい情報を共有する事と、各自が多くの情報を正しく評価できるように訓練する必要があります。
普通の人々は生活者でもあり多忙なため、語っている人の背後関係などを調べたりする事もありませんが、まず誰かの言説に接した時「この人はどういった意図で説得しようとしているのか」を疑ってかかるくらいが丁度なのかもしれません。
人心を惑わす人は周囲に驚くほど多く存在しているのですから。
Posted at 2022/05/20 19:23:03 | |
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