
山波はCICの画像を見つめていた。
「距離20キロ、目標、敵艦尾三番主砲、セット完了!」
「よし!」
司令部からの発射命令はまだなかった。しかし、正体を確認せよと言うならば、極力危険を排除しなければならない。艦長として全乗組員の生命を守るということも使命だからだ。
「左舷SSD1号発射!」
みょうこう船体部中央にある三連装の筒のひとつからハープーンミサイル誘導弾が遂に発射された。
「しっかりと誘導して目標を捉えろよー」
山波が担当士官に声をかけた。
その間にもみょうこうは、正体不明戦艦の背後に近付きつつ、その距離を縮めていた。
「ハープーン、目標到着まで5秒、4、3、2、1、着弾!」
艦橋で双眼鏡をのぞいていた副長が着弾の閃光を確認、しばらくして爆発音が到達した。
「奴の様子はどうだ?」山波はレーダー手に聞いた。
「特に変化なし。速度も落ちてません。」
「なんて奴だ。ハープーンでは破壊できないということか。とにかく、はりぼて艦ではないということだな。暗視カメラ、ビデオをブリッジにセット、奴にぐんと近づくぞ。ハープーン第2射、3射準備しておけ。」
山波はブリッジに足を向けた。しかし、分家作戦参謀補が突っ立ったままだったので声をかけた。
「なにぼ~っと突っ立てるんだ、一緒にブリッジへあがれ。」
「はぁ・・・ぼちぼち味噌汁を作り始めなあかんと思いまして・・・」
「味噌汁より、今はお前の脳みその方が必要なんだ、早く来い!」
ブリッジに上がると副長が双眼鏡をのぞいていた。
「どうだ?」
「もうすぐ距離10キロまで接近します。夜が明け始めるまであと1時間。しかし、霧が少し出てきました。」
「よーし、もうすぐ確認できるぞ。カメラを回しておけよ。」
その時だった、砲撃音がした。
「なに!?」シューという風を切る音とともに砲弾が飛んできて、みょうこうの周囲に水柱があがった。
「これは・・・ここまで飛ばせるのは主砲しかありません。三番主砲は健在です。」
分家の声に山波は思わず唸った。
「それに・・・かなり正確に砲弾を発射してきます。これはちょっと・・・」
「ちょっとなんだ?」
「当時の大和の主砲はここまで正確ではありません。性能が上がっています。」
「ということは、あいつは大和であっても大和ではないということだな!?」
当時世界最強を誇った46センチ砲。40キロ先まで飛ばせるとしても、お互いに動く船と船とでは命中させることは極めて難しく、100発撃って1発当たればまぐれというものであった。正確に撃破できるとしたら5キロ圏内の船に対してであった。つまり日露戦争当時のような艦対艦の時代ならともかく、航空機が主流になったこの時代、実際には大和の主砲は無用の長物に近かったのである。しかし、日本人として戦艦大和は誇りある戦艦であり、その主砲は我々にとっての威信でもあった。
砲撃音が響いた。
「また来ます!」 みょうこうの1キロ圏内に水柱が上がった!
「艦長大変です!奴がエンジンを止めました!距離が急速接近してます!」
「くそ、こっちが高速で追尾しているのを逆手にとって、待ち構える作戦を取りやがった!」
その時霧の向こうに大きな黒い物体が浮かび上がってきた。
「これでは真後ろについていてもやられるだけだ!奴からできるだけ離れる。とり舵いっぱい!最大船速!5インチ砲奴の艦橋を狙え!21番、22番CIWS配置に着け!」
「ハープーン2番、3番も奴の艦橋めがけて発射しろ!」
山波は次から次へと号令を出した。
みょうこうは急速旋回で大きく傾いた。
「見えた・・・でかい・・・」
その分家のつぶやきに山波は振り返った。
巨大な黒い物体が霧の中から正体を現した。
「なんという・・・」
山波たちは声にならなかった。
その時だった。5インチ砲の連続発射音と違う重い砲撃音がしたのは。
シューっという風を切る音がみょうこうを襲った。
(つづく)
Posted at 2012/02/29 23:08:00 | |
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