「US-2救難飛行艇」 「救命ボート」
絹三曹が乗ったUS-2救難飛行艇は、夕闇迫る太平洋上を懸命に探していた。幸いながら天候は安定、波も穏やかだった。しかし、日没まであと30分を切っていた。
「この辺りのはずだ。よく探せ。」
平井機長が檄を飛ばす。
「機長、救命ボートらしきものを発見!」
「よし、距離を測定、合図を送れ。もう時間がないぞ。」
一方救命ボートの乗員たちにも飛行機の爆音が聞こえてきた。
「来た!飛行艇だ。救難煙幕を発射だ。」
副操縦士が手際よく準備を進めた。機長の容体もあまりよくはなかった。
綾瀬はようやく目覚めようとしていた。
分家はこれで助かったと思った。そして、綾瀬を決死の思いで助けた自分をかっこよく思った。
しかし、陽は水平線にかかろうとしていた。
US-2は、すーっとほとんど音もなく着水した。
絹三曹は側面のドアを開け待機した。機体はゆっくりと救命ボートに近づいて行った。
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「よし、行け!」
合図とともに絹ともう一人の隊員が海に飛び込み、ボートを確保、飛行艇へと誘導した。
「さ、急げ!」
まず、機長が機内に運ばれ、次に綾瀬、分家、そしてヘリの副操縦士と乗員が次々と機内に担ぎ入れられた。そして最後に絹三曹が上がってきた。
「全員救助!」
「よし、すぐに離陸だ!」
US-2飛行艇は、ほんの数分で遭難者を救出すると、すぐに離陸した。
絹三曹が救助者を見て驚いた。
「綾瀬じゃないか!? 大丈夫か?」
その声にようやく綾瀬は目が覚めたようだった。
「絹君・・・ 絹君が助けてくれたのね・・・」と綾瀬はつぶやいた。
びっくりしたのは分家だった。
「いや、あの、違うってば、綾瀬ちゃんを助けたのは俺だって」と、分家は口にしたかったが、ついに言葉に出なかった。
「重要人物って、綾瀬のことだったのか。もう心配ない、大丈夫だ。」
「ありがとう、絹君。」
分家は「ありがとうって、おい、云う人物が違うだろう。」とも思ったが、それも口にすることは出来なかった。分家は自分自身にぼやきながら、夕闇を眺めていた。
「潜水艦U911」
「大佐、アトミックダウン準備完了です。しかし、ここで浮上すると背後からつけてくるアメリカの原潜ケンタッキーに狙われるかもしれません。」
カタターが心配そうにデコスキー大佐を見つめた。
「では、サブマリンチャフで目くらましして時間を稼げ。急がないとカールヴィンソンの核が爆発するぞ。アトミックダウンさえ起動させれば、ケンタッキーも身動きできなくなる。」
「了解。サブマリンチャフ発射。急速浮上開始。」
U911から大量のアルミ箔が水中にばらまかれた。
カタターが潜望鏡で海上周辺を見渡した。
「異状なし!浮上!」
「浮上!」
「発信塔あげー!」
「大佐、準備完了です!」
「よし、アトミックダウン発信開始だ。」
「アメリカ海軍原子力潜水艦ケンタッキー」![](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/004/959/496/2b45341244.jpg)
「艦長!無数の浮遊物体のため、ソナー機能ダウンです!」
「よし、これを敵対行為とみなす。モリソン副長、戦闘配置だ。全魚雷装填開始!」
ピアソン艦長は、まず戦闘態勢を取らせた。
「いいか、これまでの航跡をたどってコンピューターで奴の現在地を割り出すんだ。」
「了解、計算します。」
![](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/004/959/497/0b78e957f3.jpg)
(ソナー)
「全魚雷発射準備完了!」
「艦長、奴はおそらく、近辺に浮上しています。間もなくこの浮遊物体の中から抜け出せます。そしたらすぐに奴を捕まえることが出来ます。」
「上出来だ。さぁ、いよいよ実戦だぞ。」
「浮遊物体地帯脱出! いました!奴は浮上しています!」
「発射管室、魚雷、1番、2番、3番、自動ロックしろ。合図を待って発射だ。」
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(魚雷発射室)
その時だった。ケンタッキーの速度が急に落ち、ランプが非常灯に切り替わった。
「なんだ、一体どうした!?」
指令室の中は混乱した。突然何が起こったのか分からなかったのだ。
「ああああ、艦長、大変です!原子炉が突然、まるで凍りついたかのように停止しました!」
モリソン副長の言葉をピアソンは信じられなかった。
「何をバカな。そんなことがあるわけがない。」
「艦長、艦の動力は全て原子炉から得ています。このままではこの艦はなす総べなく沈没してしまいます!」
モリソンのその言葉に、ピアソン艦長は絶句してしまった。
「潜水艦U911」
「大佐、ケンタッキーの動きが停止しました。」
「カールヴィンソンの方はどうだ?」
「まだ明確ではありませんが、核反応が徐々に低下しているようです。」
「そうか。少し距離があると効果が遅くなるか。」
「しかし、核爆発は抑えられそうです。」
デコスキーとサトキー博士が会話を交わした。
「博士、やはりEMPを早く完成させないといけないな。照射用と防御用の作成を急いでくれ。」
「わかりました。その分、無人潜水艦のコントロールシステムの調整が遅くなりますが。」
「それは助手のメタバン君にやらせたまえ。」
「大佐、アトミックダウンのみならず、EMPシステムが完成すれば、我々の世界征服も目前ですね。」
そのカタター中佐の言葉に、デコスキーは静かに頷いたのだった。
EMPシステム、それはアメリカやロシアが指向性エネルギーシステムと呼び、密かに作成中のあらたなる驚異の兵器であった。
(つづく)
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Posted at 2012/09/19 22:35:51 | |
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