![「幻のU911」第二話 -◎◎ー 「幻のU911」第二話 -◎◎ー](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/blog/000/025/939/019/25939019/p1m.jpg?ct=dcd3ea599a1e)
早朝から訓練海域に向けて出港していった護衛艦群の中で、夕刻迫る時間に北吸桟橋に残っていたのは多用途支援艦の「ひうち」と、対岸のユニバーサル造船の岸壁に停泊していたDD-126「はまゆき」だけとなっていた。
その「はまゆき」も離岸し始めた。
山波はその「はまゆき」の姿をじっと見ていた。
艦橋に上がってきた分家はその山波に声をかけた。
「随分しげしげと眺めておられますが、何か思い出でもおありですか?」
「あ~、ありありだ。はまゆきの最後の艦長北村一佐は俺の大先輩でな、北村艦長には随分しごかれたもんだ。だから今の俺がある。はまゆきには副長で乗艦したこともあるしな。」
「そうなんですか。しかし、はまゆきは除籍になったばかりでは・・・」
「そうだ廃艦だよ。それとともに北村艦長も艦を降りて退役するつもりだったんだが、今回の大規模演習で模擬正体不明艦の役で借り出されたらしい。既に弾薬類は全ておろされているから、砲はあっても艦ではなく、ただの船だがな。」
「ようするに、動き回って逃げ回って標的にされる役目ですか?」
「そういうことだ。北村艦長は操艦技術に長けているから、はまゆきのような老朽艦でも自在に操るだろうからな。まぁ、標的と云えば、こっちが本来の任務艦だがな。」
「かんちょう~離岸準備できました~」
護衛艦ではなかったようなのんびりとした声が甲板から聞こえてきた。
「よし、タラップを上げろ、もやいを解け。早くしないとこいつは15ノットしか出ないのだから、「はまゆき」にもどんどん置いていかれるぞ。」
その時だった。「ひうち」の前に車が急停車し、そこから女性士官が下りてきた。
「離岸待って下さい!私も乗艦します!」
山波はもとより、「ひうち」の乗組員はタラップを駆け上がってくる若い女性士官を、ぽか~んと眺めていた。
「綾瀬三等海尉、山波艦長の副官として乗艦します!」
甲板から艦橋の山波を見上げて綾瀬は敬礼した。
「はぁ~?」
山波はあっけにとられていた。防衛大学出の士官がなにゆえこの船に?と思ったのだ。
綾瀬三尉はすぐにブリッジに上がってきて再び山波に向かって敬礼した。
「綾瀬三等海尉であります。司令部より、山波艦長の副官として動くように命令されて着任しました!」
山波はあごをなでながらしばらく考え込んだ。
「あ、そうか・・・俺の監視役できたんだな。まぁ、おれは仮出所みたいなもんだからな~ まぁ、こんな小さな艦だし、ぶっぱなすミサイルも砲もないから退屈するかもしれんけど、よろしく頼むわ・・」
山波は軽く敬礼を返した。
「あ、私も本当は「あたご」に乗艦する予定で楽しみにしておりました。イージス艦初の女性士官としてであります。しかし、正直この艦に配属されて残念であります。」
分家は、なにを生意気言ってるんだと思いながら、その制服からつんと飛び出た胸に視線が釘付けになっていた。
「まぁまぁ、そうカリカリせんでも。この船にだって立派な役目があるんだ。よろしく頼むよ。」
山波は、綾瀬の肩をぽんと叩いて、出港を乗組員に命じた。
既に陽は落ち、夕闇が舞鶴港を包んでいた。
多用途支援艦「ひうち」は、舞鶴湾から離れ、訓練海域を目指していたが、鈍足の「ひうち」は、「はまゆき」にも距離をあけられていた。
少しばかり仮眠をしていた山波が再びブリッジに上がった時には、海域は濃い霧に覆われていた。
「ん? 俺の代わりに指揮をすると言っていた綾瀬副官はどうした?」
「はぁ・・ どうも船酔いされたらしく部屋で休んでおられます。」
当直の三曹が答えた。
「そうか。でかい船ではないからな。まぁ、寝ていてもらったほうがこっちも気が楽だがな。それにしても、この霧・・ あの時と同じ匂いがする・・」
山波の表情が険しくなった。
「艦長、前方の「はまゆき」を再びレーダーが捉え始めました。」
「なんだ? 離されていくばかりだと思ったのに。何故「はまゆき」はスピードを落としたのか?エンジントラブルか? 北村艦長と話をしてみるか。」
山波が通信システムの前に移動したときである。
「こちら、「はまゆき」、正体不明の潜水艦の攻撃を受けている!至急応援を要請する!」
山波やブリッジの要員に緊張感が走った。
「なんだって? 「はまゆき」は砲があっても砲弾の一つも載ってない、ただの船だぞ!」
山波は不安に掻き立てられながら、すぐに指示を出した。
「全速前進だ!」
その時、暗闇の霧の向こうに閃光が走った。
「なんだ、今のは!」
そして、爆発音が霧を引き裂いて「ひうち」に到達した。
「まさか・・・」
「か、艦長、「はまゆき」が、レーダーから消えました・・・」
山波の背筋が凍った。
「なんてことだ、総員戦闘配置!全速で「はまゆき」が消えた地点を目指せ!」
「ひうち」は暗闇の霧の中を全速力で、「はまゆき」が消えた地点に向かったのだった。
写真は、多用途支援艦「ひうち」
(つづく)
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Posted at 2012/03/30 21:27:31 | |
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