漁船マル吉丸のマル吉船長は、護衛艦「はまゆき」の乗組員を救助するために甲板上にいた。その時突然マル吉丸の前に巨大な黒い潜水艦が浮上してきたのだった。
驚いたマル吉船長は、足を滑らせ海に転落したのだった。
マル吉船長が気がついたとき、魚雷で破壊されたバラクーダの半分になった船体にしがみついて漂流していたのだった。
マル吉船長はなんとかその船体の上まであがって辺りを見渡した。
まだうっすらと霧が残り四方に船影らしきものは見えなかった。
「あちゃ~、おらが船は船長を放り出してどこへ行っちまったんや~? 第5はらちゃん丸もおらんやないか~ ってことは、俺はひとり、漂流しとるんかい?」
マル吉船長の想像通り、大海原にひとりぼっちで漂流しているのであった。
幸いに「はまゆき」に積んであったと思われるペットボトルのお茶を拾い上げ、水分補給はなんとかなりそうだった。
「お~い、誰かおらんか~!」マル吉船長は叫んでみたが誰も答えるものはいなかった。
カモメすら飛んでいないのである。
「まいったな~ このまま流されて北朝鮮にでもたどり着いたらどないするねん・・・」
マル吉船長が絶望にくれそうになったとき、一隻の小型貨物船が近づいてくるのが見えた。
「おお、これで助かる!」
マル吉船長は、貨物船に向かって手を挙げ叫んだ。
貨物船には「KIHA55」と書かれていた。
その甲板上ではうどんパーティが開かれており、船長の柄門が船員の木波やダニエル・チョッパに特製うどんをふるまっており、マル吉船長の存在に気づかぬまま通り過ぎて行ってしまった。
「なんか、うどんのだしのいい匂いが・・・ ええい!なんでわしに気付かんのや!」
マル吉船長は再び途方に暮れ、ふさぎこんでしまった。
数時間後、今度は巨大な船がマル吉船長めがけて近づいてきた。
「ななななんだ、このでかいのは!?」
その軍艦色の船首には425という数字が書かれていた。
そのあまりにもでかい船体にマル吉船長は思わず亀のように首をすっ込めてしまった。
海上自衛隊最大規模の大きさを誇る輸送艦「ましゅう」だったのだ。
どうも、マル吉船長は大きいのが怖いらしく、でかいのが来ると怖気づいてしまうようだった。
「ましゅう」もマル吉船長に気付かずに通り過ぎて行ってしまった。
再びマル吉船長は途方に暮れてしまった。
ペットボトルのお茶も底を尽きかけていた。マル吉船長は尿意を感じた。
「こんなに途方に暮れた状況でもおしっこはしたくなる・・・まあ、海のど真ん中、立ちションしても誰が見ているわけでもなく・・」
マル吉船長はバラクーダの破片の上に立ち、放尿を始めた。
その時、急にうねりがバラクーダを襲い、マル吉船長は海中へ放り出されてしまった。
「ああ、もうだめだ!」とマル吉船長が海中で思った時、突然体が一気に水中から持ち上げられ、海上に飛び出した。
マル吉船長のベルトにアンテナのようなものが突き刺さり、マル吉船長ごと一気に海上へ押し上げたのだ。
「わわわわ!なんだなんだ!?」
浮かび上がってきたのは、カーキ色をした巨大な潜水艦だった。
マル吉船長は、偶然にも浮上してきた潜水艦のセイルの上に張り出している柱状のアンテナにベルトが引っ掛かり、そのまま引っかかったまま宙ぶらりんになっていたのだった。
マル吉船長は驚きのあまり声も出ず、目を白黒していた。
すると、セイルのハッチが開き、中から重厚な士官帽と制服を着た乗員がまず出てきた。その制服は、まるで旧ドイツ軍の軍服に似ていたのである。
その士官らしき乗組員は頭上でマル吉船長が引っ掛かっているのに気付かず、ハッチの中に声をかけた。
そして次の男がセイルに上がってきた。その男はまさしく最高指揮官と云った感じの身なりであった。
そして彼らは、辺りを見回しながらドイツ語で会話を交わした。
マル吉船長はその最高指揮官の顔を見て驚いた。
「鼻の下のあの独特の髭、まさか・・・」
マル吉は見つかるまいと必死に宙ぶらりんのまま堪えた。
部下の士官が手を前に出し「ハイル、ヒトラー!」と叫ぶと、そのヒトラーと呼ばれた男は、ハッチの中に消え、続いて部下もおり、ハッチは閉められた。
「あああ、漂流しすぎてついに俺は幻覚まで見るようになったか・・・」
ふと甲板をみるとそこにはかぎ十字「卍」のマークが書かれているではないか。
「いったい、この潜水艦は何なんだ?俺は第二次大戦にタイムスリップでもしたのか?」
マル吉船長の頭はパニック状態だった。
すると潜水艦は潜行を始めた。
「ええええ!?俺、引っかかったままだって、潜行したら溺れるって!!」
しかし、無情にも潜水艦は一気に潜行をはじめ、マル吉船長は海中へと引きずり込まれたのだった。
海上保安庁の巡視艇「ほだか」の甲板上でマル吉船長は乗組員たちに懸命の救命措置を取られていた。
「だめです、息が戻りません!」
「もう一度試せ!」
乗組員が胸を強く押すと、マル吉船長はのどから魚を吐き出し、息を吹き返した。
「なんだ、魚が詰まっていたのか。」
海上保安庁の乗員たちは、息が戻ったマル吉船長に安どした。
「こ、ここはどこ?」
「海上保安庁の巡視船「ほだか」ですよ。」
「え?せ、潜水艦は? ヒトラーが乗っていた潜水艦は?・・」
マル吉船長のその言葉に、乗員たちは顔を見合わせ、きょとんとしていた。
後ろの方で誰かがつぶやいた。
「長い漂流で頭がおかしくなったらしい。せっかく助けてやったけど、こりゃ、病院行きだな。それになんで○×○×○×な姿なんだ?」
巨大なUボートの中で、鼻の下に髭を蓄えたその男は部下たちに檄を飛ばした。
「デコスキーは確かにここに来ていた。奴に追いつくのは時間の問題だ。裏切り者のデコスキーを血祭りに上げ、わがドイツ帝国を復興させるのだ!」
その司令船のUボートの後に、50隻以上のUボートたちが続いていた・・・
舞鶴港に戻った山波は、解任を覚悟していた。
しかし、そこで待っていた司令は、応急修理が終わった「みょうこう」で出撃せよというものだったのだ。
いよいよ本当の闘いがこれから始まろうとしていたのだ。
「分家二等海士シリーズ番外編・マル吉船長漂流記」おわり
ちなみに、なななななんと!現在上映中の「バトルシップ」
ななななななんと、浅野忠信指揮する艦は「みょうこう」ではありませんか!!
これは、ほんま、偶然でありますわ~!
かなり、びっくり! 明日、見にいこ~
(写真は何故か手元にある「バトルシップ」のパンフレットより)
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