
自然物理学者の春野熊男は、娘と妻を抱きよせながら、枯木ばかりの山を眺め表情を強張らせていた。かつて青々と繁り鮮やかな花々が咲き、小鳥が囀り、動物たちが駆け回っていた大地は、今は灰色の世界に変わっていた。
春野の元に佐藤と田部、牧、松、丸吉の家族がやってきた。
「春野教授、もうすぐ最終のシャトルが迎えに来るそうです。いよいよこの星ともお別れですね・・・」田部が寂しそうにつぶやいた。
愛すべきわが星の変わり果てた姿とそしてこの故郷の星を去らなければならない現実に、彼らは悔しさと悲しさと不安とで一杯の顔で景色を眺めていた。
「まだ、型田さんと出戸さんが来ませんね。何してるんでしょう?もうすぐシャトルがくるというのに・・・」
レグザ星系3号星である惑星テラは崩壊の時を迎えていた。
かつては緑と水の溢れる星だった。しかし、このテラ星のいくつもの人々の紛争という歴史の中で、大国はいつのまにか2万発もの核ミサイルを保有することとなり、さらに科学の発展は自然破壊を増長し、人々が危機を感じた時には既に遅く、異常な気候変動が大地を裂き、制御システムを失ったいくつかの核ミサイルが発射され、惑星テラは一気に崩壊へと向かっていったのだった。多くの者が命を失う中で、まだ惑星テラには10億の人々が生き残っていた。しかし、彼らには死を待つしか残されていなかったのだ。
3年前、初めてワープ航法を開発したテラは、まだ脱出用の宇宙船を作るまでに至ってはいなかった。しかし、ワープ航法に成功したことをきっかけにこの星にヴァルカン星人が訪れ、惑星連邦への加入を勧め、テラは惑星連邦の仲間入りをした。その直後に、星の崩壊が始まったのだった。
ここに惑星連邦始まって以来の、テラ星住民の移住計画が実施されることとなったのだった。
「こちらUSSらすかる艦長、明日香。収容作業を終了した。只今よりテラの軌道から離れます。」
「エンタープライズF、ラフォージ艦長です。了解しました。」
艦長の隣に座っている陣頭指揮を執るジェインウェイ提督が立ち上がった。
「10億もの人を移住させるなんてほんと大変。でももうすぐ終わりね。」
「提督、最後の救援艦が到着しました。」
「誰の艦?」
「あ、あの~艦番号がないのですが、バークレイ艦長が指揮しています。これ、博物館で見たコンシュチュレーション級ですね・・」ラフォージは驚いていた。
「救援艦の数が足りなくて、バークレイ中佐が廃棄場から拾ってきた艦なのよ。さすがバークレイね、あんな幌馬車みたいな船をまた使えるようにしたんですから。」
「えと、提督お久しぶりです。バークレイです。廃艦で浮いていた1701Aをなんとか飛べるようにしてやってきました。間に合ってよかったです。」
「助かるわ。星の崩壊が早まってるの。もうあと少しなんだけど、もうどの艦も満杯で。」
「了解しました。ワープも2まで、転送器も使えませんが、なんとかシャトルで救出作業を行います。」
「提督、ライカー提督から通信が入っています。」
スクリーンにライカーが現れた。
「ジェインウェイ提督、連絡が遅くなった。ピカード提督の葬儀に出ていたもので。進捗状況はいかがかな。」
「ピカード提督は本当に残念です。テラの住民は9割方救出しましたが、まだ終わってはいません。崩壊も早まっていますし。」
「了解した。万が一に備えて、オブライエン大佐が高速救援艦を準備してくれているが、新たなボーグの動きがブラビア星域であるようで、我々も警戒しなければならない。そちらのことはよろしく頼む。」
型田と出戸は、涙ながらに最後のラーメンをすすっていた。
「移住する星ではラーオフできるんでしょうか?」
「移住する星が、コリン星ならいいが・・・」
惑星テラでは核物質のメトルダウンが続き、星の核に向かって核物質が下降、星自体の爆発につながる危険な状態へと近づきつつあったのだった。
はたして、星の崩壊までに惑星連邦は全員の救出を果たせるのだろうか。
(つづく)
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2010/11/01 22:00:13