
「ひうち」が突っ込んだ無人潜水艦は霧が晴れるとともにまるで泡のごとく海の中に消え去った。
そして艦首を大破した「ひうち」の前に突然巨大な潜水艦が静かに浮上してきたのだった。
山波、分家、綾瀬は艦橋の外の監視所で目の前に現れた驚愕の光景にあっけにとられていた。
「なんだこいつは・・・これが敵の正体か」山波はしげしげと巨艦を眺めた。
「艦長、U911と書かれています。まさかこれは・・・」と分家。
「そうです。この潜水艦こそが私たちが追い求めていたものです。」綾瀬がつぶやいた。
「なんだって?」
山波と分家が綾瀬を見つめた。
その時だった。巨大潜水艦のセイルに二人の男が現れて、山波たちを見つめていた。
「あ、まさか!あの男はデコスキー大佐!」
分家が思わず声を上げた。
セイルに上がったデコスキーとサトキーは山波たちをしっかりと見つめていた。
「あの艦長、敵にしておくのはもったいない存在だな。」
デコスキーが髭をなでながらつぶやいたとき、艦内からカタター中佐が呼びかけてきた。
「総督、通常型潜水艦が一隻接近してきます。潜行したほうがよいかと。」
「よかろう。ではそうするとしよう。」
デコスキーは山波に向かって敬礼をしながら睨みをきかすと、セイルから姿を消した。
山波は敬礼をしてきたデコスキーに対し敬礼を返さなかった。
「あれが、デコスキーならもう100歳のはずだが、そうは見えなかったぞ。」
山波は潜行を始めた巨大潜水艦を見つめながら分家に向かってつぶやいた。
「そうですよね・・・」
謎は綾瀬が知っていると、山波と分家は同時に思い、綾瀬を見つめた。
綾瀬はその二人から目をそらし、炎上しているバラクーダの方を見つめた。
「絹君、どうしたのかしら・・・ まさか・・・」
海面に絹三曹らしき姿はなかった。
「漁船の第5はらちゃん丸の船長から連絡です。洋上に浮いていた絹三曹を救出したとのことです。それから、マル吉丸の船長が潜水艦の出現に驚いて船から転落し、行方不明とのことです。」
「そうか、絹三曹は無事だったか。綾瀬副官、安心したところで真実を語ってもらおうかな。」山波は綾瀬をぐっと睨んだ。
「ソナーにも捉えられず、スクリュー音もしないが、あいつは間違いなくU911だな。やっとみつけたぞ。」
海上自衛隊最新型潜水艦SS501「そうりゅう」の速水艦長は、多くの最新型モニターを見つめながら部下に命令した。
「いいか、奴は反響することのない構造でソナーには捉えにくいが、あいつが動くとその部分だけ水流に変化があるはずだ。その変化する部分が奴のいるところだ。しっかりと水流の動きを追尾しろよ。それと音響測定艦「ひびき」が採取した水流推進音を確認してくれ。なんせ、スクリューのない潜水艦は初めてだからな。」
速水は額から流れ出る汗をぬぐった。
「どうだ?艦種はわかったか?」
デコスキーは探知係に聞いた。
「はい、このスクリュー音は海上自衛隊の「そうりゅう」です。」
「そいつは、大和の時にも攻撃してきた奴だな。これだけ探知が難しい当艦を追ってくるとはなかなか不敵な奴だ。しかし、A作戦を実行するまでは、あいつと一戦を交える暇などないな。カタター中佐、サブマリンチャフを発射して「そうりゅう」をまくんだ。」
「了解しました。」
U911から2個のロケットが水中に発射され、そのロケットから一斉にアルミ箔が飛散して水中に漂った。
「艦長!水流にもソナーにも乱れが!なにかばらまかれたようで探査機能が全く役に立ちません!」
「なんだと!いかん急速機関停止!」速水は聴音機のボリュームを上げさせた。
「なにか無数の物が水中を漂い、こすれているような音だな。くそ、これではただでさえ捕捉しにくいのに、探知のしようがないな。まんまと逃げられたか・・・」
速水はこぶしを艦長席にたたきつけた。
「総督、「そうりゅう」は追ってこなくなりました。」
「よし、それでは再び東シナ海へ向かえ。目標はアメリカ原子力空母「カールヴィンソン」だ。A作戦の決行。続いてB作戦、真珠湾沿岸にいる空母「ニミッツ」だな。」
「総督、フィラデルフィアシステムの準備は完了しております。例えアメリカ第7艦隊であっても撃破出来ます。」
「そうだな。どんなに近代装備の軍艦であっても、盲点がある。そこをついてやる。」
「日本の連合艦隊、並びにアメリカの太平洋艦隊、ともに準備完了です。」
「では、ショーの幕開けと行くかな。」
デコスキーは不気味な笑みを浮かべると、司令席にゆっくりと座り込んだのだった。
一方、艦首側に前傾した「ひうち」の艦長室で、山波と分家と綾瀬が向かい合っていた。
「みなさんは、フィラデルフィアエクスペリメントってご存知ですか?」
綾瀬がマジ顔で二人を見つめた。
「話には聞いたことがあるが、全くのでたらめ、単なる都市伝説じゃないか。そんな話なら時間の無駄だぞ。」
綾瀬はむっとした顔をして山波を睨みつけた。
その顔にさすがの山波もたじろいだ。
話は1943年、アメリカ海軍が駆逐艦エルドリッジを使った極秘実験に飛ぶのであった。
(つづく)
映画「Battleship」を見に行こう!
写真は、海上自衛隊フォトギャラリーより
ー◎◎ー
ブログ一覧 | 日記
Posted at
2012/04/13 22:58:15