今年3月に「
エンジンの振動とバランスの話し」というネタを書いて以来、7回目となるエンジンネタです。

実はこの「易しいエンジンの話し」というブログカテゴリーのシリーズって、意外にも結構色々な方が読んでくれています。日常の出来事を書いたブログと違って、月日が経っても常に安定して読まれているようで、長らくPV4位だった「
フィットって本当にi-VTEC?」が今ではなんと2位。本格的なエンジンネタとしては初めて書いた「
ストリームのアトキンソンサクル」が13位。今年の1月に書いた「
リーンバーンエンジン」が18位。そして今年3月に書いたばかりの「
エンジンの振動とバランスの話し」に至っては、これらのエンジンネタをゴボウ抜きして8位。これまで550程度書いてきたブログでこれらマニアックなエンジンネタがトップ20にこぞって入っているというのは単なる偶然じゃない気がしています。書いた者としてはありがたいなぁと感謝の気持ちでいっぱいです。
さて、以前書いた「
リーンバーンエンジン」や「
吸気量とポンピングロス」というブログ中にも書いているのですが、燃焼の話しにおいて外せない技術として
EGRというものがあります。当時、EGRについてはまた分かりやすく説明します!と書いておきながら長らく放置しておりましたが、今回これを分かりやすく書いてみたいと思います。
眠たいこの時間にこんな長くて面倒臭いブログ…。読むのが大変だと思います。興味のある方のみで結構ですので、どうか暇になって思い出した時にでも読んでみてください。もちろんコメント不要ですので…。
EGRとは“Exhaust Gas Recirculation(エキゾースト・ガス・リサイクレイション)”の略。排気ガス再循環装置と呼ばれるものです。名前から想像つくかもしれませんが、シリンダー内で爆発燃焼した排ガスの一部を再度燃焼室にぶち込んで再利用させる装置です。
ええ?!!
そりゃまずいんじゃないの?!!
…そう思いますよね。私もこの装置を知った時はそう思いました。

そのEGRですが、しかけはこのようになっています。
排ガスが戻されるのはスロットルと吸気バルブの間。エンジンの負荷に応じて、排ガスの循環量をEGRコントロールバルブで流量調整しています。以前は負圧ソレノイド方式が主流でしたが、最近はもうステッピングモーター等を使った電動式が主流だと思います。当然、後者の方が高応答で高精度な制御が行えます。
EGR採用の目的は主に二つあります。
一つは、リーンバーン系のエンジンにおける窒素酸化物(NOx)の量を減らすこと。
エンジンの燃焼過程においての窒素酸化物発生のメカニズムは前述の「
リーンバーンエンジン」というブログで詳しく書いていますが、簡単におさらいを。
エンジンは混合気を燃焼して動いていますよね。混合気とはガソリンと空気を霧状にミックスさせたもの。これをピストンでシリンダー内に吸わせて、10倍程度圧縮させてプラグ着火。爆発してピストンをズドンと押し下げた勢いでクランクを回すわけですね。
この爆発自体はガソリンが空気によって燃やされて起こるわけです。いや、もっと正確に書けばガソリンが空気中の酸素によって燃やされています。でも実は空気というのは酸素よりも窒素の方が多く、約70%程度を占めています。ですのでこの窒素も酸素によって燃やされてしまい、高温にさらされた窒素は酸化して窒素酸化物(NOx)として排出されてしまいます。

リーンバーンエンジンというのは通常のエンジンよりもガソリン少な目、空気多めで動いています。ですので燃やされる窒素の量も多い。排出された窒素酸化物を何とか触媒で処理したいところですが、悪いことに通常の使われている三元触媒というのはあくまでも理論空燃費(質量比でガソリン1:空気14.7)で燃焼された排ガスでないと効果がないんですね。NOx吸着フィルターというものもあるのですが、それとて知れた性能。あとは出来る限り窒素の燃焼そのものを抑える必要があったのです。
そこで今回のEGRです。
混合気と一緒にある程度の排ガスを入れてやるんですね。排ガスという事でもちろん再度燃えることはない。それに排ガスを吸い込んだ分だけフレッシュな空気の取り込み量も減る。そうなれば窒素酸化物が減りますよね。
でも冒頭で書いたように、燃焼室に排ガスをぶち込むというのは普通に考えて「大丈夫かよ?!」となります。事実、普通の燃焼状態だとまずい事が起こります。ですので排ガスを循環利用する場合はある程度条件が必要です。
リーンバーンエンジンの燃焼というのは以前も書きましたが基本的に成層燃焼です。成層燃焼とは、プラグ周りにだけ理論空燃比の燃えやすいガスを集め、下半分は燃えない空気にしておく、つまり空気の層を形成させて燃焼させる方式です。対する一般的な燃焼は均質燃焼。ごちゃまぜで燃焼する方法です。
因みにGoogleで「成層燃焼」と検索すると、まるで直噴エンジンだけの技術みたいに書かれたサイトばかりがでていますが、そんなことはありません。ポート噴射式のリーンバーンも混合気の成層化は行なわれていますし、そうでなければまともな希薄燃焼など行なえません。
で、シリンダー内の下の層にある燃えにくい空気の部分が高温にさらされて窒素酸化物になるということで、ここを排ガスに置き換えるわけです。こうすることで排ガスが混入してもプラグ着火の邪魔をせず安定した燃焼を行なえるというわけです。“ある条件”というのがこの成層燃焼なのですが、これが行なえるのはあくまでも軽い負荷の時ですね。アイドリングや強い加速時など不安定な燃焼状態の時には成層燃焼が行なわれないので、EGRも行なわれません。
窒素酸化物が減るメカニズムは理解できたでしょうか。
さて、リーンバーンの事を書いておきながら実は今やリーンバーンエンジンというものは日本で発売されていません。やはり厳しい排ガス規制や実用燃費面で生き残れなかったんですね。ですが、近年ストイキオ燃焼エンジンにおいても実はEGRが導入されているんです。三元触媒で綺麗に排ガスを処理されるストイキオ燃焼エンジンなのにEGR…。
なぜか。
ここからが二つ目の理由です。
以前書いた「
吸気量とポンピングロス」というブログで、ポンピングロスについての話しをしました。
注射器の先っぽを少しずつ塞いでいくと、ニードルキャップを引っ張るのが疲れてきますよね。もちろんニードルキャップを上下させる速さも塞いだ分だけ落ちてしまう。これがスロットルとピストン速度(エンジン回転)の関係です。
そしてニードルキャップを引っ張って空気を吸い込む時の抵抗が大きくて必要以上の力が要る…。
いわゆるポンピングロスですね。
EGRの無いエンジンというのは、狭いスロットル弁の隙間を通過する空気(最終的には混合気)をピストンが一生懸命吸い込みます。

例えば容積100のシリンダーであれば、ピストンが下がることで狭いスロットルバルブの隙間から100の混合気を吸い込みます。ただし、吸気抵抗が大きいためピストンはスローペースで下がることになりますが、最終的には100の混合気を吸い込みます。そして吸い込んだ100混合気をギュ~~っと圧縮し、ドンッ!と爆発燃焼しピストンを押し下げます。その勢いでクランクが速く回ろうとするのですが、次の吸気工程でまた狭いスロットルの隙間の混合気を吸うことになり、またスローペースになる・・。
スロットルを絞っているせいでエンジン回転数が抑制されてしまうわけですね。つまりポンピングロスが大きい状態といえます。

今度はスロットル全開。
100という混合気をピストンが吸い込むのは先ほど同じですが、スロットルが大きく開いているので吸い込み抵抗が少なく、爆発燃焼した勢いをそのまま吸気工程まで殺さずに混合気を吸い込むことができます。つまりピストンが素早く下がっていくのでクランク回転が速くなり、クランクの慣性力もどんどん増し、エンジン回転数が上がっていきます。
ポンピングロスが非常に少ない状態ですよね。

では、再びスロットルが閉じ気味の低回転状態の話。ただし、今度はスロットルの後ろ側にEGR用の吸気口を設けたとします。そして、ここから排ガスではなくちゃんと燃える混合気を入れた例えとします。
この場合もピストンは100の混合気を吸いたがりますが、仮にEGR用の吸気口から20の混合気を吸うことができたとしたらスロットルからは80ほど吸えばよいことになりますよね。最終的にピストンが100の混合気を吸うことには変わりがないのですが、100全てをスロットルから吸う最初の例えよりも吸い込み抵抗が少なくて済むことが分かりますよね。
そうすると、最初のEGR穴が無い例えとどう違ってくるかというと、爆発燃焼した勢いを抑制する吸気抵抗が弱まるため、最初の例えの時よりもピストンが早く往復することができるようになります。つまりエンジン回転数が少し高めになります。ポンピングロスが減ったためですね。

では最後に、先ほどのEGRの穴から混合気ではなく本来の状態である排ガスを入れたとします。
100の空気を吸うピストンはEGRの穴から20の排ガスを吸い、残りの混合気80はスロットルから吸い込みます。合計でちゃんと100になりますね。因みにスロットルの開度は100の時よりも当然更に狭くなっています。
これを圧縮して爆発させるとどうなるかというと、爆発燃焼する混合気は80しかないので燃料もそれに見合った量しか必要がなく、結果的に爆発力が100の時よりも弱くなります。そうなるとエンジン回転数が下がってしまうと思いがちですが、実は吸気抵抗をうけにくいEGRから20吸い込んでいるため軽くピストンが動けるようになり、80の燃焼爆力しかないにも関わらず100の燃焼爆発と変わらない回転数を稼ぐことができるわけです。当然ですが、それは燃料消費が少ないということでもあります。
ちょっと難しいですか?
では、もう少し分かりやすくするために得意の注射器で例えて説明しますね。
多分これなら理解できると思いますので…。
これを読まれているあなたが注射器でピストン運動させるとします。
注射器の先っぽに内径10mmのホースを繋ぎます。この状態でニードルキャップを上下させるわけですが、仮にあなたが100という力で上下させた場合、1秒間に1回のペースが限界だったとします。100という力はピストンの爆発力、上下させるペースはエンジン回転にあたります。これがEGRなしの状態。
では、ホースのどこか途中に直径5mmの穴をあけたとします。途中の穴はEGRの混入部にあたります。もし先ほどの100という力のままでニードルキャップを上下させると、先ほどのペースよりも早くなってしまいます。だって空気の取入口が1.5倍の面積になって吸い込む抵抗が減るわけすから。でもそれではいけません。あくまでも1秒間に1回のペースを守ってください。だってそのペースがエンジン回転になるわけですから。
だったら、ホース先端を少し塞げば元のペースに戻れるじゃん!となりますよね。確かにその通りです。
ところが!
追加であけた穴から入ってきたものは臭くて汚いウ●チだったとします。あ、下品ですが、ウ●チは排ガスにあたります。で、ニードルキャップを上下するあなたは気持ち悪くてガックリ。やる気半減でパワーダウン。ペースが落ちてしまいます。エンジンでいえば回転が下がってしまいますね。
結果的には、やる気をなくしてパワーダウンしながらも吸い込みが軽くなったもんで最初と同じペースが守られる…。「ウ●チが気持ち悪いから力が出ませんでした…」と下手な言い訳をしながら、実は力を抜きながらウ●チを入れられる前と同じペースで上下できている。実に低燃費です…。
かなり強引な例えですが、いかがです?
というか、この例え話、いらないんじゃね??(汗)
ポンピングロス低減とEGRの関係とは、そういう感じです。
簡単にまとめると、
排ガスを混入するのでパワーダウンする → 本来ならよりスロットルを開いて回転を維持すべきところだが、排ガスが途中から取り入れられるためスロットル部の吸気量が減っており、スロットルを開かなくても"流量あたりの開度”でみれば開いた事と同じになっている → 確かに爆発は弱いが吸い込み抵抗が少ないのでエンジン回転は維持できる → 少ない爆発力で同じ仕事を(同じ回転数を維持)しているということは燃費が良い
ということです。

もちろん、このEGRが働く条件は先ほど書いたように、ある程度の成層燃焼が行なわれていないといけません。特に大量にEGRを導入させる場合は間違いなくこの成層燃焼が不可欠です。
ホンダはもう随分前からEGRを採用しています。これは可変バルタイによってスワールやタンブルを使い分けて成層燃焼を可能にしているからです。EGRを嫌っていたトヨタもプリウスなどで採用し始めましたし、どれだけ大量に排ガスを混合できるかが技術の差となってくると思います。
もう一つ、EGRは熱い排ガスを吸気系に戻すということで、吸気温度がEGR無しよりも上がります。この作用によって噴霧されたガソリンが気化されやすくなり、燃焼しやすい混合気になります。
反面、この高温が原因でバルブしゅう動部の円滑油がカーボンやスラッジになる確率も高く、これを嫌って循環用排ガスを冷却するEGRクーラーを取り入れている車もあります。
排ガスを冷やして混合気と混ぜるということは、燃焼室の温度が下がってより空気の充填率が上がりますし、燃焼温度そのものも下がるので窒素酸化物も減るでしょう。しかし、燃料の気化という面では不利であり、また比熱という面でも燃費で不利かと思われます。このあたりはメーカーの技術によって色々と改善が図られているのではと思っています。
今回も長い内容でしたがいかがでしたでしょうか。
このブログも長期的に読まれて誰かの役に立つ内容であることを願っています。
ありがとうございました。