自分で言うのもなんですが、結構人気シリーズだったりする“易しいエンジンの話し”。
8回目となる今回のネタはブローバイガスです。
実は今回
調子に乗りすぎまして、以前にも増して文が長くなったので二部に分けました。前編となる今回が
「ブローバイガスの発生メカニズム」、後編を
「ブローバイガスの流れ」として書いてみます。いつも申しておりますが、本当に興味のある方のみ読んでいただければ結構ですので…。
ブローバイガスについてはご存知の方が多いかと思いますが、ブローバイガスとは一般的に言われているのが
「シリンダー内からクランクケース内へ吹き抜けてしまった未燃焼ガス」のことです。つまり生ガスだと言われています。ですが、細かいことをいえば本当は生ガスだけじゃない。若干の排ガスも混じっているんですね。ですから、ブローバイガスとは本来「排ガスを含んだ生ガス」と考えるのが本当だと思います。
さて
「そのガスがクランクケースに入ると、どうまずいの?」
という疑問がまず湧きますよね。
クランクケース内はオイルだらけ。生ガスはいわばガソリン。そして爆発燃焼直後の排ガスはまだ触媒で浄化されていない酸化成分の強いガス。この3つがクランクケース内でミックスされると、オイルがガソリンで希釈されてしまったり、浄化されていない高温のガスによってオイルの酸化劣化を著しく早めます。ですからこのガスはクランクケースから早く抜いてやらねばなりません。現代のエンジンではそれを行なっています。この抜き方の話は次回の「ブローバイガスの流れ」で書くことにして、まずはなぜこのガスが発生し、どうしてクランクケースへ吹き込むのかをということを書いてみます。
普通に考えて生ガスが吹き抜けると聞くと、完全燃焼していないガスが吹き抜けているのかと考えますよね。もちろん燃調の悪いエンジンであればそういうこともあるでしょう。しかし、完全燃焼しているコンディションの良いエンジンでも実は生ガスの吹き抜け現象は起こっています。もちろんその発生頻度は古い車の方が多い傾向にはあるのですが…。
では、この吹き抜けのメカニズムを分かりやすく…。

エンジンはシリンダー内で燃焼爆発を行なうために混合気を10倍以上で圧縮していますよね。
この圧縮においてとにもかくにも重要なのが気密性です。

気密性の鍵を握るパーツといえば、ご存知ピストンリングです。通常コンプレッションリングであるトップリングとセカンドリングの2枚をセットして気密を保っています。
形状は画像の様に薄いプレートが円形状に巻かれたもので、通常真円よりも少し開いた状態になっています。これを真円であるピストンの溝にセットしてシリンダーへ挿入すると、リングは張力で常に開こうとしてシリンダー壁へ密着します。ま、このへんは書くまでもないかもしれませんね。
で、真円形状にセットされた状態でリング端面同士がぴったりくっつくようになれば気密性が保たれるわけですが、当然金属にも熱膨張がおこりますから、熱を持って膨張しても決してリング端面同士が突くようなことがあってはならない。ですから、リング端面は基本的には僅かながらクリアランスが残されています。
もう気付かれましたよね?
そう、まずはここから吹き抜けが起こります。特に冷え切ったエンジンだとメタルクリアランスが大きく、濃度も高めのガスが吹き抜けます。
吹き抜けが起こる理由はまだあります。
それは、ピストンリングがリング溝の中でどう動いているかを考えた時、なるほどと思うはずです。

通常ピストンリングとリング溝にはクリアランスが設けてあります。僅かですが、リング溝の中でリングは上下しているのです。
この溝の中で、リングがどの段階でどの位置にいるかという事はもちろん詳しくは知りませんが、シリンダー内圧とピストン速度、ピストンの上下方向性などの相関関係によってリングはピストンの動きに沿って溝内で上下しているのです。

例えば、ピストンが上死点に向かっている時はリングがピストンに引きずられて上がり、更にはシリンダー内の圧力が徐々に高まるので、リングは常に押し下げられていると言われています。もちろん爆発燃焼直後もその膨張圧力によってリングは下に押さえつけられています。

逆にピストンが下がってくるとシリンダー内圧が低くなってリングへの圧力も下がり、ピストン慣性力やピストンがリングを引きずって下がることもあって、下死点に近づくにつれリングは上面に引っ付きやすい状態になると思われます。

じゃぁ、肝心の吹き抜けはどの段階で起こってるの?ってことなんですが、常にピストンリングがリング溝の上下面どちらかに密着していれば吹き抜けはないわけですが、溝の中で上下しているということは溝の中で宙に浮いている状態がどこかで必ずあるわけでして、この瞬間に吹き抜けが起こっていると思われます。
ここの部分の話しをもう少し詳しく書いてみますね。
そもそもこの“吹き抜け現象”というのは、シリンダーの内圧がクランクケースの内圧よりも高いことによって起こるわけです。

クランクケースの内圧については実は私もよく知りません。ですので推測で書きますが、各シリンダーが上下することによってもちろん圧力変化が起こっている事は確かだと思います。というか、開放になっているブロック下部をメインに圧力が移動している…。何気筒であれ、どこかのシリンダーが上死点であればどこかが下死点である。クランクケース内の容積はトータルでみれば変わらないので、決してシリンダーのような激しい内圧変化を起こしているわけではない…、と私は思っています。
対して、シリンダー内は当然圧力変化が激しい。特に上死点到達時の圧力はMAXで、その後の爆発膨張工程で更に圧力は増します。この時、シリンダー内とクランクケース内の圧力差は最も大きくなり、シリンダーからクランクケースへ吹き抜けを起こしやすい環境ができあがっています。
「大丈夫!
上死点ではピストンの圧縮によってシリンダー内の圧力は相当高くなってるから、ピストンリングは押し下げられて気密が保たれているはずでしょ?!」
そう思われた方、しっかりこの話についてきておられますね。
ところが、ここからが面白いんです。
エンジンを高回転まで回したとします。当然ピストン速度が猛烈に上がり、目にも留まらぬ速さでそれが上下往復するのですから、リングの上下慣性力がシリンダー圧に勝ってしまい、上死点付近であるにも関わらずリングが溝の中で宙に浮いた状態になりやすくなるんですね。いわゆるフラッタリング現象というものですが、スラッジが固着して重たくなったリングだと更に慣性力が大きくなってしまいますし、リングが磨耗してくるとリング端面の隙間が大きくなってそこに入り込んだガスがリングを宙に浮かせてしまったりで、常に溝の中で暴れてしまう状態になってしまいます。
こうなると、気密性が重要な上死点でも吹き抜けが起こってくるのは必至で、実際この段階でもっとも大きな吹き抜けを起こしていると言われています。
尚、冒頭で書きましたが、ブローバイガスの主成分は生ガスです。なぜ生ガスかというと、この漏れというのはシリンダー内の混合気層の下の方が圧力によって押し出されて抜けていきます。爆発前はもちろん生ガスですが、爆発直後でも末端まで燃え広がる直前に圧によって押し出されるのは下層の生ガスなんです。
しかし、前回
「EGRというもの」で説明した通り、EGRを導入した車の場合パーシャルスロットル領域ではシリンダー内下層には排ガスが存在します。必ずしも生ガスばかりが漏れるわけじゃないんですね。
という事で、ブローバイガスがクランクケースへ吹き込まれるまでの発生メカニズムはここまでですが、いかがでしたでしょうか。
エンジンが冷えきった状態(金属クリアランスの大きい状態)で回転を上げると吹き抜けが多くなることも分かりますし、もちろんターボ車だとNA以上の圧力がかかるので吹き抜けも半端じゃない。エンジンオイルの交換を怠るとピストンリングにスラッジとして付着してリングに大きな慣性力を持たせる…。もちろん高級なエンジンオイルであってもブローバイガスによって確実にオイルは酸化劣化をおこしているので、交換サイクルを長めにしてよいとは言えない。
厄介なガスですね…。
次回はクランクケースへ吹き抜けたこのガスの退治方法です。
というかもう書いてます…。