今回はブローバイガスネタの後編である「ブローバイガスの流れ」です。
前回、ブローバイガスがどのように発生し、どうやってクランクケースに吹き込んでくるのかを書きましたが、今回はクランクケースへ入ってきたガスの流れ、抜き方について書いてみます。
後編は少々長いです。コメント不要ですので…。
クランクケース内は通常密閉されています。細かいことを言えばガス抜きの経路があるので完全密閉とはいえないのですが、ざっくり言えば密閉です。で、この中に生ガスや排ガスが溜まると良いわけがないというのは前回のネタで書きました。
密閉されたケースに徐々に押し込まれる高温のガス…。まずケース内の圧力が心配です。そして生ガスの成分はガソリン。クランクケース内はオイルがジャバジャバ。オイルが希釈されて円滑性能劣化が心配です。排ガスも触媒で浄化されていない酸化成分の多いガス。オイルの酸化が起こり、オイル性能劣化だけでなくメタル腐食を引き起こします。いずれにしても早いとこ抜いてしまいたい。
じゃぁ、どっかに穴あけて抜くか、
排気ガスにでも混ぜて捨てちゃえば?!
なんて単純に考えてしまいますが、前述の通りブローバイガスは生ガスや浄化されていないガスなので環境には非常に悪い。そこで、もう一度シリンダーに吸わせて再利用(再燃焼)するよう義務付けられています。
なるほど~!
それはグッドアイデア!
…じゃぁないんですねぇ、これが。
実はこのガス、オイルだらけのクランクケース内に充満するため、オイルミストを含んだガスになってしまうんです。もちろん、そのオイルの量は微々たるものですが、「塵も積もればなんとやら」じゃありませんが、吸気経路などに堆積すると厄介なことになります。
因みに、ブローバイガスは単純にクランクケースに漏れてきたガスを指す場合もありますが、このオイルを含んだガスを指す場合の方が多いのではないかと思います。
では、ここからブローバイガスの流れについてです。
ブローバイガスは軽いため、クランクケースの上層部に溜まると言われています。つまりエンジンヘッド部。なので、ヘッド部からこのガスを抜いて吸気経路に戻してやるんですね。

私のアコードだとこれ。
単純にホースでつながれていて、エアクリ付近のサクションパイプ(エアーフローチューブ)へ戻されているのが分かります。
因みにこのホース、ホンダのパーツリストではブリーザーチューブという名称で載っています。
で、エンジンヘッドとサクションパイプをブリーザーチューブでつないで、ケース内の生ガスを抜くわけですが、こんな単純な発想でガスを抜くことができる理由は、「差圧」というものを利用しているからです。
エンジンはピストンが下がることによって外気を吸って動いています。その吸気の経路は細いダクト形状。吸い込み抵抗が発生するダクト内は常に大気圧よりも低い状態になります。つまり負圧です。
ブローバイガスが溜まるクランクケース内の圧力よりも吸気経路の方が負圧になる、この圧力差を利用してケース内のガスを自然と吸気ダクトに吸わせているわけです。気象現象でいえば高気圧から低気圧に向かって自然に風が流れ込む状態ですね。

絵で書くとこのようになります。
ここで一つ気が付きません?いつまでたってもサクションパイプ(吸気)側がクランクケース内のガスを吸い続けてくれるのか?って。そう、そんなはずがありません。あくまでも原理として差圧を利用しているので、サクションパイプ側の負圧以上の仕事はできないわけです。つまり、一定以上のガスを抜き取ったら今度はエンジンヘッド側に空気が入ってくることもある…。もしかしたらケース内にガスが溜まってきても吸気側の負圧が足りなくて抜けが悪いかもしれない…。
1本のブリーザーチューブ内で生ガスと空気が往復しているとなると、あまり効率が良いとは思えませんよね。
そこで、少しでも効率よくガス抜きを行なうために、大概のエンジンはガス抜き経路をもう1本追加して、合計2本の経路で行なっています。
2本の経路を設けるとなぜ効率的にガス抜きができるの?
と思いますよね?

経路と流れはこのようになっています。
後の説明で分かりやすくするために、クランクケース内を①、スロットル手前のサクションパイプを②、スロットル後のインマニを③とし、二つの経路をそれぞれAとBとします。
経路Aは前述のサクションパイプ②に戻す経路で、管内の流れは双方向。ガスを抜くパイプでもあり外気をクランクケース内へ流し込むパイプでもあります。
もう1本の経路Bは、逆流防止のPCVバルブ付きである経路。クランクケース①→インマニ経路③にだけ流れ、インマニ経路③→クランクケース内①へは流れない一方通行経路です。一般的に経路Aよりも細く、スロットルよりも後ろ側になるインテークマニホールドへの戻しとなっています。
因みにPCVとはポジティブ・クランクケース・ベンチレーションの略。「積極的にクランクケースの換気を行なう」という意味です。この意味は後に分かると思います。又、PCVバルブは単に逆流を防止するだけではなく、吸気側の負圧量によってガス流量の調節もできる優れものです。
さて、実際の運転状態でのブローバイガスの流れです。
まずはスロットル全開の場合どうなるか。
スロットル全開時というのは概ね中高回転で回っているはず。特にターボだとシリンダーに混合気が吸い込まれるというより押し込まれている。当然空気に見合った大量のガソリンが混合される。そうなると吹き抜ける生ガスも増えます。メタルクリアランスの大きい始動直後にブン回せば尚更ですね。

この場合、基本的にはこのように流れます。
スロットル弁が開くことによって②と③はほぼ同じ圧力になります。もし①にガスが溜まっていれば差圧によって負圧である経路A,Bからガスが吸い取られます。もちろん必要以上に吸い取る力などはありません。

では逆にスロットル全閉。
スロットルを閉じるという事は②に対して③の方が大きな負圧になる(真空に近くなる)ということです。経路に栓をされた管からピストンが無理矢理シューーーーっと空気を吸おうとするのですから、そりゃ③は真空に近くなるわけです。
そうすると、①に溜まっていたガスが経路Bを通って③に抜けていきます。もし①のガスが抜けてくれば大気圧に近い②のフレッシュな空気が経路Aから入り込んできて、そのまま経路Bを通って圧の低い③へ抜けていきます。そう、クランクケース内を換気している状態ですね。PCVのある経路Bを設けたことによって可能になったベンチレーション効果です。
スロットルを閉じる状態というのは通常エンブレの時でしょうか。つまり基本的には燃料カットが働いている場合が多いので、生ガスもケース内に吹き込んでこない。仮に燃焼が始まっても①の換気はスムーズに行なわれる状態にあります。スロットルオフは生ガスを抜くという面で一番良い状態と言えると思います。

パーシャルスロットルの場合もスロットルオフと似た状態でしょう。
ただし、
以前書いたようにパーシャル時はEGRが大量に導入される成層燃焼状態にあるので、排ガス混じりのブロバイを換気していると思われます。
お~!こりゃPCVのおかげで万々歳じゃ!!
と思いたいところですが、そうじゃないんですねぇ。
このガス、冒頭で書いた通りオイルミストを含んだガスでしたよね?
そのオイル混じりのガスが吸気経路に戻ってくる厄介な話…。いよいよこの話しも終盤です。

加速時などスロットルを開くと流速の速くなったサクションパイプ②が経路Aからブローバイガスを吸い取る事は先ほど書きました。でもサクションパイプの先にはスロットル。そう、オイル混じりのガスがスロットルを直撃してしまいます。
以前、お友達の
katotchさんがスロットルバルブの掃除をされて「スロットル弁の表よりも裏の方が汚れていた」と仰っていた事がありました。これは、スロットル弁の裏側が負圧になり、オイルの付着が表よりも激しくなったためだと思われます。ワゴンやミニバンなどの垂直に立ったリヤウィンドウが汚れやすいのと同じ現象です。負圧になった面というのは汚れが吸い寄せられていきますもんね。
ではPCVのある経路Bはどうか。エンブレやパーシャル時などではこちらを通るのでスロットルを汚さずそのまま吸気ラインに戻されます。
スロットルを汚さないっつ~たって、
結局シリンダーはオイル吸ってるじゃん…。
そうなんです。そもそもこのブローバイガス還元システムの一番の目的は、クランクケースに漏れてきた生ガスを抜いてやって再燃焼させること。多少のオイルの燃焼は目を潰れってことなんですね。
ところでこの二つの経路のうちの経路Bについてですが、実は経路根元にあるPCVバルブの取付位置がエンジンによって違うんです。

これは会社の後輩君が乗っているCL1(トルネオユーロR)の赤ヘッドH22A。この頃のホンダエンジンは今とは逆の左回転クランクなので、インマニがキャビン側になりエアクリは左側設置。よってサクションパイプは左前からキャビン側へと走っています。
で、この写真のように、ヘッドからサクションパイプへつながっている
経路A(水色矢印)と、ヘッドからインマニへつながっている
経路B(赤矢印)が分かると思います。

このタイプは私が乗っていたCF4トルネオのF20Bも同じで、パーツリストにも同様に記載されています。

ところが、私のアコード用K24Aは、エンジンブロックのウォーターパッセージ部(オルターネータ上のウォーターポンプ付近)という、なんとも低く馴染まない位置にPCVバルブを設けてインマニへと戻してあります。
おいおい…、オイルジャバジャバ掻き回してるこんな低い位置じゃまずいんじゃないの?
と非常に心配になりました。
調べてみるとどうやらK型エンジンはオイル分を取り除くブリーザーチャンバーが付いており、それがブロックと一体型になっている事が分かりました。そりゃこんな位置から抜こうとすればそういう物がないと大変なことになりますもんね。特にK型はクランクの2倍の回転数で回る二次バランスシャフトが底部にあるので、それこそオイル攪拌は半端じゃないと思います。
少し驚いたのが、このブロック下部から抜き取る方式はB型エンジンにも採用されていたことです。B16A・B18Cなど、あのR軍団もこの方式なんです。K型と違うのは、B型のブリーザーチャンバーが別体であること。別体であっても、もちろん掻き分けられたオイルはクランクケースへ戻され、ガスだけがPCVを通過してインマニへ戻される…。
いずれにしても、PCVのある経路Bは運転状況からして恐らく経路Aよりも頻繁にブローバイガスが流れているように思えます。なのにこの位置から抜くって、完全にブリ-ザーチャンバー頼みなので、正直恐いです…。
ということで、推測混じりの話しではありましたがブローバイガスの流れの話はいかがだったでしょうか。運転してて
「あ、今ガスが排出されてるかな?」とか
「今、めっちゃオイル吸い込んでそう…」とか、想像しながらアクセル操作をするようになるんじゃないでしょうか。
前々回話したEGRもそうですが、アクセル操作によって内燃機関がどんな状況にあるかを頭に描きながら運転ができる…、これって意外と楽しいものです。
最後までおつきあいくださいましてありがとうございました。