「易しいエンジンの話」カテゴリーもついに10回目。今回のお題は「V6エンジンの燃焼メカニズムと振動バランスの話」です。以前書いた
「エンジンの振動とバランスの話」の続編みたいなものです。
半年前から少しずつ書いたという…(汗)
あっ!
今、
「またこんな難しくて長ったらしい話を書きやがって…」
って思いましたよね?!
…すみません。もちろん重々承知でございます。ですから、毎回書いておりますが
今回もコメントは不要です!!
こういった内容は興味のない方にとっては苦痛以外何物でもないですからね…。
あくまでも素人の書いた参考書程度に捉えてもらって構いません。
ただ冒頭で紹介した
「エンジンの振動とバランスの話」というブログ、自分で言うのもなんですが沢山の方から読まれているようなんです。

PV順位は昨年12月に8位だったのが更に上がってなんと4位!。1年半前に書いた、しかもこんなマニアックなネタが毎日定期的に10~20近く読まれているのには本当にビックリです。それだけに嘘は書けないなぁと思っているのですが、私の知識はかなり昔のものなので、もしかしたら間違っているものもあるかもしれません。その時は逆に教えてくださると幸いです。
リーンバーンエンジンネタも18位から11位にアップ!
フィットって本当にi-VTEC?は相変わらず2位!
さて、V6の説明の前に基本的な振動の話しがよく分からないという方のために、以前書いた内容をもう少し分かりやすく説明しておきます。知っておられる方や前回の説明を覚えておられる方はV6の説明まですっ飛ばしてやってください(笑)。興味の無い方は本当にここで引き返された方がいいと思います(笑)。
エンジン振動というものは、ケース内部の色々な振動が重なり合って生じます。燃焼爆発によるトルク変動振動、クランクの回転揺れ、クランクの捻りによる慣性偶力振動、ピストンの上下振動等など…。
(トルク変動振動)
シリンダー数に比例するこの振動は、エンジン振動の中でも最も人間が感じやすい振動です。
乗用車の4ストロークエンジンというのは、一つのシリンダーだけで見た時にクランク2回転で一度爆発燃焼します。つまり回転角度720度に一度爆発する。シリンダー数が増えるほど720度の中で小刻みに爆発するので、爆発によるトルク変動振動は体感しにくくなります。
◆単気筒 : 720度に一度爆発=クランク1回転につき0.5回爆発(0.5次)
◆2気筒 : 360度に一度爆発=クランク1回転につき1回爆発(1次)
◆3気筒 : 240度に一度爆発=クランク1回転につき1.5回爆発(1.5次)
◆4気筒 : 180度に一度爆発=クランク1回転につき2回爆発(2次)
◆5気筒 : 144度に一度爆発=クランク1回転につき2.5回爆発(2.5次)
◆6気筒 : 120度に一度爆発=クランク1回転につき3回爆発(3次)
エンジンは爆発燃焼を起こしてピストンを押し下げますが、この爆発力が正のエネルギーとして働くのは一つのシリンダーだけで見た場合爆発した上死点からクランクが半回転する下死点までの180度だけ。残りの1.5回転(540度)は吸い込み抵抗や圧縮抵抗と闘いながら惰性で回らなければなりません。つまり、多気筒で考えた場合180度間隔よりも狭いリズムで連続的に爆発させれば、正のトルクを連続的出せるので滑らかに回せるということですね。そうなると5気筒(144度間隔)と6気筒(120度間隔)が有利なのが分かります。4気筒よりも小さいエンジンはフライホイールの力を借りないと綺麗に回せないことになります。
(クランクの回転揺れとピストンの縦振動)
クランクはその名の通り、クランク形状のシャフトです。このシャフト両端を固定して回転させると外側へ放り投げるような力の成分が発生するのは分かりますよね。この成分をキャンセルするには反対側に同じ質量分のおもりを設けてやればよい。そこでクランクピンの反対側にカウンターウェイトというおもりを設けています。

しかし、よく考えてみればクランクシャフトの回転成分だけキャンセルできてもそれにつながるピストンやコンロッドの垂直水平方向のトルク成分が残ります。そこでこれらをキャンセルするために更にカウンターウェイトを重たくします。

例えば単気筒で説明すると、クランクの慣性トルクAをバランスさせるカウンターウェイトA’を設け、更にピストンの垂直方向に発するトルク成分Bをもキャンセルできる重さB’を増やすとします。つまりカウンターウェイトはA’+B’。そうするとカウンターウェイトが横向きになった時にB’分だけオーバーバランスとなります。つまりエンジンが横揺れしてしまいます。

では垂直成分Bの半分の重さとなるB’/2をA’に増してみます。当然このままだと垂直成分Bは半分しかキャンセルできず、逆に水平成分はB’/2ほど追加されてしまいます。

そこで、B’/2の重さのバランスウェイトをもう一つ別に設け、クランクと逆回転させます。そうすると垂直成分はふたつのB’/2によって(つまり合計でB’)キャンセルされ、水平成分も相殺されます。実際にはピストン速度が上下で異なる事やコンロッドの左右振りがあるので完全にはキャンセルできませんが、かなりの偏った成分を軽減できます。
これがピストン1往復の振動をキャンセルさせる1次バランサーの考え方です。

360度クランクの2気筒も基本的には単気筒と同じ成分になるので1次バランスシャフトが必要になりますが、3気筒以上のクランクの場合クランク軸360度に対して均等角度で捻りが割り振られるので、回転成分だけでいえばカウンターウェイトがなくてもバランスされますが、ピストンの垂直成分が残ってしまうために、やはりカウンターウェイトが設けられています。そうなるとまたクランクが水平向きになった時にオーバーバランスになりそうですが、カウンターウェイトも360度の中で均等に割り振られているおかげでバランスされます。もちろん実際はシリンダー数によって特有の振動が残るので完全にバランスされるということはありませんけど。
(クランクの捻りによる慣性偶力振動)
クランクシャフトはシリンダー数によって捻る数と捻る角度が決められています。そしてその違いによってシャフト長手方向に一種の捻りが生じ、そこにモーメントが発生する場合があります。

4ストの2気筒だと360度クランクなので絵のように2つのクランクが同じ動きになるよう捻られています。これを回すと物を放り投げるような力が発生しますが、実は先ほど書いたカウンターウェイトによってある程度バランスさせることができます。
※ただし、バランスシャフトがないと先ほど書いたように上下か左右のどちらかがバランスされない。
クランクとカウンターウェイト、そしてピストンの動きの関係ががとても分かりやすい動画を見つけたので、埋め込ませてもらいました。
(2気筒の動画)

これが3気筒だと240度間隔の燃焼なので、240度間隔で3つ並べると120度の均等捻りになります。シャフト端面から見るとベンツマーク。これを回転させると前述のように回転振動も垂直水平振動もほとんど打ち消されるので問題ないように思えます。ところがシャフトの前後間でモーメントが生じ、すりこぎ運動というものが発生してしまいます。
実はこのすりこぎ運動について随分前にメッセージで質問を受けたことがあるので、今回この部分をもう少し分かりやすく書こうと思います。

軸というのは一直線の棒であれば軸線を中心に綺麗に回転します。ところが右の絵のように軸の両端付近に違う方向へ捻りを加えて回すと綺麗に回りません。つまり軸が回転しながら軸の両端部も円弧を描きはじめます。コマの回転を想像してもらえばいいかな…。軸が回転しながら軸の上下端がゆっくり円弧を描き始めるアレです。このすりこぎ運動(歳差運動)によってクランク軸周りに発生する力を慣性偶力といいます。
3気筒のクランクシャフトは3つの捻りが120度均等間隔で独立しています。その独立したクランクにはそれぞれカウンターウェイトが付いており、そのクランクを回転させると一見扇風機の3枚羽根のようにバランスされて綺麗に回転するように思えます。
しかし、クランクは扇風機の羽根と違って奥行方向に捻りが並んでおり、しかも3気筒の場合3つがそれぞれ独立した角度で並んでいるため1発ずつ物を放り投げるような力が働き、1番シリンダーと3番シリンダーで放り投げる時間差が生まれます。そうなるとシャフト前後で円弧を描くすりこぎ運動が起こってしまい、2番シリンダー付近を中心にエンジン前後がドラバタとコマのように回転揺れを起こしてしまうわけです。
この振動をキャンセルするためにクランクとは逆回転させる「一次慣性偶力バランスシャフト」というものが存在しますが、国産の3気筒に搭載された実例を私は知りません。多分ないんじゃないかと…。ただし、多くの3気筒はクランクシャフト両端部のカウンターウェイトに慣性偶力を軽減させる役目を負わせているように思えます。別体でバランスシャフトを設けるよりもカウンターウェイトによってトータルでバランスさせるほうがコストも低くなりますからね。

3気筒エンジンは横から見るとピストンの左右アンバランスな動きによってシーソーのように左右がドタバタ揺れてしまいそうなのが分かると思います。ですから両端のカウンターウェイトによってエンジンをトータルでバランスさせるわけですね。
因みに3気筒の中ではかなり静かで滑らかな事で有名なホンダライフ(先代以降)の3気筒エンジンは、贅沢にもクランクシャフトはフルバランス式です。3気筒のクランクは120度の立体配置であるため、製造コストを考慮して大概が2番シリンダーのカウンターウェイトが省かれています。しかしライフはツイスト鍛造法というコストのかかる製造法を用いてフルバランス式にしています。やはりコストをかけたなりに滑らかなんですね。

4気筒だと平面形状の180度クランクです。
4気筒のクランクシャフトは1番シリンダーと4番シリンダーが同じ動きをするよう捻られ、又2番と3番が同じ動きをするように決められています。これが重要なことなんです。
すりこぎ運動による慣性偶力振動を防ぐにはクランク前後を鏡面形状にすればよい。つまり1番と4番のクランク捻りを同じ方向に向け、2番と3番を同じ方向に向ける。それによってシャフト前後で物を放り投げるタイミングに時間差を生じさせないわけです。
そうなるとシリンダー数は偶数が良いわけです。

エンジン両端でシーソー現象が起こらないことがわかりますよね。
因みに偶力の説明とは話が逸れますが、こういった偶力を考慮した前後鏡面のクランク形状を採用するとなると、燃焼順序も自ずと決まってくる事が分かると思います。
例えば燃焼を1番からスタートさせた場合、次に上死点にやってくるのは2番か3番。その次が4番・・・。となると、4気筒の場合は1-3-4-2、又は1-2-4-3のどちらかになりますよね。決して1-2-3-4などと都合よく順番に燃焼する事はありません。

ホンダがかつて採用していた5気筒。
144度の燃焼間隔を5つ並べると72度の均等捻り。軸端面から見ると☆型です。各シリンダーが独立したクランク角を持つ奇数シリンダーということで、3気筒同様にクラクシャフト前後間ですりこぎ運動が発生してしまいます。

初期のホンダ5気筒は偶力をキャンセルさせるバランスシャフトを別体で設けていましたが、2.5Lモデルやアスコット・ラファーガあたりから廃止されました。おそらくこれもカウンターウェイトによってある程度キャンセルさせているのだと思われます。

直列6気筒。今や国産には存在しないエンジンです。
120度の燃焼間隔を6つ並べたクランクは軸端面から見ると3気筒と同じベンツマークになります。しかし6気筒は偶数シリンダーですからシャフトセンターを境に対称形状にできます。これによってシャフト前後間のすりこぎ運動を防げますね。
(ピストンの上下振動)
上下振動については先ほど有る程度書きました。基本的にはバランスされていますが、それでも完全ではありません。その理由の一つに次のような現象があります。

クランクが最上点にあるときはピストンは上死点で、最下点にあるときは下死点なのは当然ですが、クランクが横向きのとき、実はピストンは中間点にいるわけではありません。僅かですが半分よりも下にいます。これはクランクはストロークの半分まで下げながらコンロッドが斜めに下がるからです。
それによってピストン速度は下半分よりも上半分の方が速くなってしまい、縦振動として残存してしまいます。
これら縦振動はもちろん気筒数によって大きさや振幅数(次数)が変わってきます。
◆単気筒 : クランク1回転で1回振幅(一次振動)
◆2気筒 : クランク1回転で1回振幅(一次振動)
◆3気筒 : クランク1回転で3回振幅(三次振動)
◆4気筒 : クランク1回転で2回振幅(二次振動)
◆5気筒 : クランク1回転で5回振幅(五次振動)
◆6気筒 : クランク1回転で3回振幅(三次振動)
縦振動というのは結局クランク1回転の間に何度ピストンが往復するかという事ですから、クランク360度に対する捻り数と同じことになります。
こう見ると、6個のピストンが3組で動く6気筒よりも、5個のピストンが全て独立で動く5気筒の方が小刻みに振動するため振動を感じにくいという事になります。分かりやすいのがまたしてもこの動画です。
(5気筒の動画)
動画後半にクランク軸端面から見たピストンの動きがありますが、5気筒はクランク1回転で5個のピストンが上死点を突いています。結構早いリズムですよね。
ところが6気筒だと…
(6気筒の動画)
同じく動画後半に注目。
6個もピストンがありながら上死点を突くリズムは5気筒よりもスローリズムです。これは72度の独立クランクでピストンがバラバラに動くか、120度の前後対象クランクで2個3組のピストンが動くかの違いにあります。完全バランスエンジンと呼ばれる直6も、実はこの縦振動については5気筒に負けているんですね。
もちろん同じ事が3気筒と4気筒の比較にも言え、120度クランクの3気筒の方が180度クランクの4気筒よりも小刻みに縦振動を起こしているといえます。
(3気筒の動画)
(4気筒の動画)
ところで4気筒の縦振動は次数でいえば二次ですから結構大きめなわけですが、その振動数値は跳びぬけて悪いのをご存知でしょうか。3気筒や5気筒、6気筒などは、あるピストンが上死点にいる時、他のピストンは動いている途中です。ところが4気筒は平面形状の180度クランクであるため、2個1組のピストンが上死点で止まっている時もう1組ピストンは下死点で止まっています。つまり動きが「無」になる瞬間があり、振動がはっきりと表れてしまうんですね。

そこでこの二次振動を軽減するためバランスシャフトを搭載しているエンジンがあります。
縦振動のキャンセルの考え方は先ほど単気筒を例に説明したのと同じです。つまり残存する垂直慣性成分の半分を打ち消すバランスシャフトを1本設け、このバランスシャフトのせいで生じる水平成分を打ち消すためにもう1本同じバランスシャフトを設けて逆回転させる。ただし、2次振動はクランク1回転につき2回起こるので、バランスシャフトはクランクの2倍で回してやらねばなりません。
先ほど単気筒の例えで説明した縦振動はクランク1回転につき振動も1回ということで1次振動でした。ですのでクランクのカウンターウェイト+バランスシャフトで解決できますが、2次振動はクランクの2倍の回転数で打ち消すため別体のバランスシャフトで対応しなければ不可能というわけです。
なぜ4気筒の二次バランスシャフトが2本必要でなぜ倍速させるのか、又それぞれをなぜ逆回転させなければならないのかが理解できたでしょうか。
ここまでが、以前説明した内容をもう少し詳しく整理した内容です。
さて、これらを踏まえやっとV6エンジンの話です。

V6というのは、何といっても直列6気筒よりも短くできるのが最大のメリットです。1列に6個並ぶシリンダーをV字状に左右3個ずつの2列に分けて、それぞれのシリンダー間をギュッと詰める…。もちろんコンロッドとクランクピンのジョイント部は重ねるわけにはいきませんから、エンジンを真上から見たら千鳥状に並べてコンロッドとクランクピンの取り付けスペース6個分を設けるわけです。これで、ざっと4気筒並の長さで6気筒ができあがる事になります。
(V6の動画)
百聞は一見にしかず…。
V6のクランク構造ですが、大前提としてVバンクを挟んで向かい合ったピストンは同じクランクピンを共有します。例えば手前左のピストンを1番とし向かい合う右手前のピストンを2番とすると、1・2番が同じクランクピンを共有します。動画をみても共有していますよね。

直6のクランクは120度クランクですから軸端面から見るとベンツマークでしたよね?上死点は真上1列に並んでいて、クランクが120度回転するたびに2個のピストンが1組で上死点を突きます。クランク軸の慣性偶力を考慮して、必ず1番6番を同相にし、2番5番を同相、そして3番4番を同相にする、つまりクランクセンターを境に対象形状にしています。

じゃぁV6はどうかというと、V6と言えども6気筒ですから120度の等間隔爆発には変わりはありません。
120度の等間隔燃焼を行なう直6のクランクはベンツマーク。これをひっくり返してY字にしてV6を考えると、6気筒の120度燃焼間隔に対するVバンク角は120度がピッタリ合うことが分かります。
実際の燃焼状態はこうなります。
左1番と右2番のピストンを一つのクランクピンに共用させ、左3番と右4番を共有、そして左5番と右6番を共有させるわけですが、左1番が上死点の燃焼状態にある時は右4番が上死点の排気完了状態にあることが分かります。
このクランクを、6気筒の燃焼間隔である120度ほど回転させると次に燃焼が起こるのは右2番。この時左バンクは5番が上死点の排気完了状態にあります。左右バンクで必ず1つずつのピストンが同じ動きをしながら、120度の回転ごとに左1→右2→左3→右4→左5→右6という順番で燃焼していくわけですね。

クランク端面から見た回転の流れを書くとこんな感じです。
左バンクのピストン番号を赤色、右バンクのピストン番号を黄色で書き、燃焼(爆発)しているピストン番号を◎で囲むと、1-2-3-4-5-6という順番で燃焼し、しかも左右バンクが交互に燃焼していることが分かります。
このように、Vバンク120度のV6エンジンというのはクランクピンを共有することで3気筒のようなクランクでよいことになります。しかしながら、120度のV6なんてエンジンが幅広になりすぎて実用的じゃありません。
そこで、V6では一番メジャーなバンク角60度の話です。

もし先ほどの3気筒のような120度クランクをVバンク60度に無理矢理使用してしまうとどうなるか分かるでしょうか。
図の様に、1-2-3-4-5-6という順に燃焼させるとすると、60度-180度-60度-180度-60度という不等間隔燃焼を行なってしまいまう事がわかります。これでは爆発トルク変動が不規則で滑らかに回りません。
では60度Vで120度の等間隔燃焼を行なうにはどうすればよいかというと、燃焼間隔120度からバンク角を引いた60度のオフセットクランクにする必要があります。

こういう感じ。軸端面から見ると*形状です。
V6のクランクピンオフセットの考え方は、図のように360度を3等分した赤色を左バンク3気筒分とし、そこからオフセット分だけグリ~っと反時計回りに捻った黄色を右バンク用とし合体させればOKです。だからV6は3気筒を抱合わせたようなエンジンと言われるんですね。
それぞれ1・2番、3・4番、5・6番のクランクピンを共用していたのをやめて、グリ~っと反時計周りに60度ほどずらして独立したクランクピンを持たせてるわけですね。要は60度の等間隔捻りと同じ状態を作るわけですが、直6のようにクランクアームを12本(2×6)も持たせると全長が直6と同じになってしまうため、実際はこの絵のような状態ではなくあくまでもクランクピンの部分をずらすという考えで構成されています。

しかし位相を60度もずらすとなると段つきピンとはいかなくなります。そこで、このようにウェブという板を挟み別物のクランクピンを60度ずらして設けています。

燃焼の流れはこのように。
燃焼順序は、左1→右2→左3→右4→左5→右6。120度の等間隔燃焼で左右交互に燃焼していますよね。
(60度V6の動画)
60度Vの動画はこちら。

Vバンク角が90度のV6も過去にはありました。ホンダのレジェンド(初代~3代目)やインスパイア(2代目)&セイバー(初代)、そしてNSXに搭載されたC型エンジンです。

※画像拝借…
90度Vの場合も60度Vと同じで、クランクピンをオフセットしてやらないと等間隔燃焼ができません。90度Vの場合は120-90=30度のオフセットクランクです。
この画像ではクランクアームと書かれていますが、ここが一般的にはウェブと呼ばれるものです。

先ほどと同じ様に赤色の線を左バンク用とすると、そこから反時計周りに30度ずらした黄色い線が右バンク用です。

この30度オフセックランクを120度回転させるごとに、左1→右2→左3→右4→左5→右6というふうに120度の等間隔燃焼で左右交互に燃焼していますよね。
ここまでがV6の燃焼メカニズム。いよいよこの話も終盤。V6の振動についてです。
V6は6気筒ですから直6同様に120度という狭い等間隔燃焼を行ないます。ですから燃焼トルク変動による振動も直6と同じで非常に滑らかです。
ただし縦振動はV6の場合左右バンク方向にそれぞれ斜めへ発生し、その性質は直3と似ています。しかし二次振動を発生する直4よりは随分と小さいのは言うまでもありません。
むしろV6で厄介なのは慣性振動です。

60度、90度、120度、それぞれのVバンク角に共通して言えることですが、エンジンを上から見てピストンが千鳥に配列されるV6のクランクシャフトというのは、前後対象形状にできません。上死点が二手に分かれて1番が左バンクなら6番は右バンク。だから絶対にクランクの前後が対称形状になるはずがありません。
これは何を意味するかというと、軸周りに慣性偶力振動が発生するということですよね。すりこぎ運動が起こる3気筒や5気筒と同じ状態です。
面白いことにV6の場合はその振動成分がバンク角によって少し異なります。

120度Vというのはクランクの捻りが360度の中で3等分されています。つまり120度の等間隔捻りです。
60度Vというのもクランクの捻りが360度の中で3等分されていますが、60度のオフセットクランクですから、結果的に360度の中で6等分した60度等間隔捻りと同じ事になります。
ところが90度Vというのは、クランクの捻りが120度の等間隔捻りに30度のオフセット捻りが加わりますから、6つの捻りが全て等間隔にはなりません。
60度V、90度V、120度Vのクランクをそれぞれ回転させると一次慣性偶力が発生するのはどれも同じですが、120度Vと60度Vはクランク360度の中で等間隔に捻られているので物を放り投げようとするリズムが一定になります。ですから、これらの振動は3気筒のところでも書いたように両端のカウンターウェイトのチューニングによってまとめてキャンセル(軽減)できます。
ところが90度Vは90度→30度→90度→30度…というパターン化したリズムながら不等間隔で物を放り投げる力が発生し、独特の偶力振動波が起こります。こうなるとカウンターウェイトだけではキャンセルできず別体のバランスシャフに頼る必要がでてきます。

国内唯一の90度Vを採用したホンダのC型エンジンが、やはりこのバランスシャフを途中から採用していましたね。
乗車用のV型エンジンは6気筒以上のマルチシリンダーなので燃焼間隔が狭くトルク変動も少ないといえます。ですから振動としてはあまり不快には感じないレベルなのですが、高級車のエンジンとして搭載されるが故に小さな振動も消さなければならないのが現状です。その振動の一つに偶力振動があり、特に偶力振動のようなローリング振動はアイドル付近の低い回転域で表れるので(縦振動のような慣性振動は逆に回転数が高いほど増える)、メーカーもこの振動に対してはおろそかにできないでしょう。
また最近では、エンジン全体で発生する偶力振動を、各ピストンをバランスさせるカウンターウェイトによってキャンセルさせるわけですから、よく考えてみたら個々のピストンのバランスは崩れているはずです。しかし近年のV6は個々のカウンターウェイトの大きさはバラバラで、どれだけエンジンをトータルでバランスさせるかが主流になっているのかもしれません。
V6の燃焼メカニズムと振動バランスの話、いかがでしたでしょうか。メチャ長でしたがV6の話は面倒なので…。もしかしたら理解不能な説明だったかもしれませんね。
前半の復習が長かったともいえますが…。
今回の話も多くの方から読まれるものであれば嬉しいです。