以前もぼやきましたが、会社での図面書きが追い込まれていて肩こりが治まりません。帰宅後も夕飯食べてすぐに風呂入ってニュース見てPC開くもすぐに撃沈…。みんカラに辿り着かない日々ですが、それも来週で一区切りつきそうです。
さて、久ししぶりのエンジンネタです。例のごとく、興味のない方にはスルーネタですね…。
ついに「フィットって本当にi-VTEC?」というエンジンネタがPV1位になってました!
ホンダ車好きの方であれば
「そうそう!」と納得してもらえると思いますが、同じエンジンでありながらMT車とAT車で馬力に差をつけるといったことがよくあります。また、A車とB車でも差がつけられているとか。

例えば私が以前乗っていたDA6インテグラXSi。
B16Aを積んだこの車は、私が買ったMTは160psでありながらATは150psでした。

更にもう一つ、例えば私が乗っていたBB4プレリュードSi-VTEC。200psを搾り出すH22Aを積んでいましたが、遅れてデビューしたCD6アコードSiRでは同じエンジンでありながら190psでした。
このようにトランスミッションの違いや車種の違いによって馬力を下げているという事が意外と多いんです。
なぜこのようなことをするのかというと、いずれも狙いは「実用トルク(低速トルク)を太らせて乗りやすくしたい」からです。具体的に書けば、どうしてもMTよりもギヤリングがワイドになるAT車は当然低中回転域を使用することが多く、そこからの加速もワイドなギヤリングによってかったるい加速をする…。だから実用トルクをMT車よりも太らせて緩慢な加速感を少しでも改善させるわけです。
プレリュードとアコードの差についてはこれとは若干意味合いが違うのですが、いずれにしても実用域で乗りやすいエンジン、クセのない自然なフィーリングに仕立てるために最高出力を下げています。
エンジンにそれほど興味のない方はこう思いますよね。
そもそも、なんで低速トルクを太らせると馬力が下がるねん?!!
傾向として何となく分かる気がする。でも実はよく分かっているわけではない。意外とそういう方が多いかもと思い、今回このことをネタにして少し噛み砕いて書いてみようと思います。

これはDC2インテRのエンジン性能です。

そしてこちらがその性能曲線です。
そもそもカタログに書かれている馬力というのはピークパワー。200ps/8000rpmというカタログスペックであれば、8000rpmまで回さなければ200psは得られないわけです。もし200psを6000rpmで発生することができたら、馬力性能曲線の勾配がきつくなりもっと加速の良いエンジンになると言えます。ですが、残念なことにそんな夢みたいなことはNAでは無理でして、結局馬力を搾り出すためには回転数を上げて馬力を得るしかない。それが馬力なんです。
となれば、ピークパワーを上げるためには結局高回転化が必要となり、ストレスなくスムーズに吸排気を行って高回転まで沢山の燃焼を行う必要があります。そのためには出来る限り吸排気抵抗が少ない方がいい。具体的に言えば、エアクリはスカスカでインテークも太くて短いほうがいい。吸排気バルブ口径はもちろん大きくしたいし、エキマニだって太いほうがいい。最終的にはマフラーだって太いほうが抜けがいいわけです。人間でいえば、100m走を全力で走ったあとは呼吸リズムが速いため、大きな口をあけて沢山の空気を吸わないといけない。口を閉じて鼻で息をししょうもんなら空気不足で苦しくてたまりませんよね。
では一方で実用トルクの話です。

エンジンの燃焼というのは高回転であれ低回転であれ、シリンダーの中にきちんと排気量分(容量分)の混合気を吸い込んで、これを素早く、しかも完全に燃焼しなければなりません。そしてこれらの事をきっちり行ってエンジンクランクをグイッと回そうとする回転力がトルクです。エンジンの力感と言っていいと思います。机上では発揮している状態のトルクにその時のエンジン回転数を掛けて716で割れば、その時点での馬力が出ますが、あくまでも易しいエンジンの話というのが大前提なのでここでは難しい数式などは割愛。とにかく一つ一つの燃焼をきっちり行えて初めて本来のトルクを得ることができます。
では、このトルクというものをもう少し分かりやすく。
トルクというのは先ほど書いたように回転させる力ですよね。例えばロングストロークエンジンはトルクが太くなると言われています。同じ爆発力でありながらストロークが長いとクランクが大きく振り回され、そこに大きな慣性力が発生するからですね。しかし、よく考えてみたら大きく振り回すクランクというのは回転数が速くできない。大きなトルクを生み出す慣性力というのは高回転エンジンには邪魔になってくるんです。
縄跳びで例えれば、長い紐で二重飛びをすると、ある程度ゆっくりした回転で飛ぶことができ、しかもゆっくりでありながら縄の回転力は大きな力を持っています。でもある程度以上速く回転させるのは苦手。長い紐による大きな慣性力が邪魔になってきます。
短い紐だと、速い回転で回すことが得意になり、逆に長い紐の時と同じようにゆっくり飛べと言われると紐がたるんで飛ばない。縄が短いために慣性力=トルクがなくなるからです。
このように、太いトルク(大きな慣性力)が必要なのは低回転の時だけであって、実は高回転では大きな慣性力というのは邪魔になってくるんですね。
さて、実用トルクの話に戻ります。
高回転まで綺麗にパワーがついてきているエンジンというのは、それだけ空気(混合気)の流れがスムーズであるという事です。インレットマニホールドでの空気の流れ、シリンダ内での素早い引火性とガス末端まで完全に燃え広がる燃焼速度、シリンダーから排出される排気速度、エキゾーストパイプでの排ガスの流れ。全てがストレスなく次々と行われなけれているから、高回転でもパワー(ピークパワー)がきっちり出ているわけです。
では、このように高回転を得意としたパーツのディメンションのままスローペースで燃焼させるとどうなるか。一見空気の流れがスムーズだと全域で効率の良い燃焼が行なわれる気がするかもしれませんが、実は色々と問題が起こってきます。
ここでまた一つ、先ほどと似た例え話を。
大きく口をあけて空気を勢いよく吸えるだけ吸い口を閉じるとします。恐らく口には大量の空気が入り込んでいるはずです。
では、同じく大きく口をあけて今度はゆっくりと吸えるだけ吸って口を閉じます。最初はよく吸い込めますが、最後は苦しくなって吸えなくなり、なんとなく入り込んだ空気が口から漏れながら口を閉じた感じがしません?
実はエンジンでも似た現象が起こってしまいます。抵抗の少ないインマニからゆっくりと空気を吸い込むと、空気の充填効率が落ちてしまうんですね。それはピストンが直線的な往復運動をしているという事を考えると分かりやすいかもしれません。ピストン速度の一番速いストローク中間点付近では空気を吸い込む力が最大ですが、そこを中心とした前後段階というのは空気を吸い込む力が弱く、空気を吸い終わる下死点ではピストン速度がゼロになりますよね。本来この段階でしっかり空気を吸い込めれば空気(混合気)の充填効率が上がり、それだけ爆発エネルギーが取り出せて低回転でもクランクをグイッと回すトルクが得られるわけです。
じゃぁ、具体的にはどうすりゃいいんだって話ですが、結論から言えば、吸気系や排気系を絞ってやればいいんです。
なんで吸排気系を絞るとシリンダー内の充填効率が上がるんじゃ!!
そういう疑問に至りますよね。
シリンダー容積500ccの中に1秒間で目一杯の空気を吸い込ませるとして、インマニの直径が60mmと30mmとでは30mmの方が2倍の流速になるのはわかりますよね。まず一つ、この空気の流速が重要です。
そしてもう一つ、空気というのは目に見えないものではありますが、実は質量を持つ流体であるということを頭に描くと分かりやすいかもしれません。平たく言うと粘性のある流体。

少し径を絞ったインマニから粘性のあるこの空気を吸い込むと、ピストンの動きから少し遅れて空気が入りこんでくるのが想像できるでしょうか。一気にシュッと入り込むんじゃなくてシュルルル~~て感じで。シリンダーへの吸い込む力がなくなる下死点付近になってようやく空気が流れ込んでくる様子が。インマニを絞ったおかげで粘性のある空気がより遅れて動き、下死点付近での充填効率をあげているのです。そして流速の速い空気(混合気)はそのままシリンダー内で渦(スワール)となって混合気がミキシングされ燃焼が促進されます。そうなればガス末端まで完全に燃焼されやすくなります。
そして今度は排気系の絞りです。
排気系を太くすると低速トルクが痩せ、絞ると低速トルクが太るといのはよく聞く話ですよね。
そのメカニズムはこうです。
爆発燃焼した排ガスがピストンによって細めの配管に押し出されます。ここだけ考えれば単に抜けの悪い状態なわけですが、排気が終わりに近づく上死点付近になると、吸気バルブも同時に開きます。バルブオーバーラップというやつで、排気バルブと吸気バルブの両方ともが開いているタイミングがあるんですね。これは空気という粘性のある流体が遅れて流れるため、バルブの開閉タイミングを少し早めに開けたり遅めに閉じたりすることによります。
排気管に押し出された排ガスはその管の細さ故流速が速く、一旦流れ始めると勢いが増して排ガスの流れに慣性力がつきます。そうすると、排気終了間近でありながらその慣性力によって同時に開いていた吸気バルブからの空気をも引っ張ろうとするわけです。引っ張られ始めたインマニ側の空気は、直後に閉じられた排気バルブのせいで行き場を失うかと思いきや今度はピストンが下がり始めるので吸気の慣性力を殺すことなく入り始める…。ピストン速度が遅い上死点付近でのシリンダー内への充填効率が通常よりも上がり、そのまままたピストン速度の遅くなる下死点付近に向かっても吸気側の細い経路のおかげで吸気の慣性力によってしっかりと最後までシュルル~~と入ってくる。
これが排気を絞ることによる低速トルクアップのメカニズムです。
因みに、「排気系を絞ることによって空気がシリンダー内に留まる。だからシリンダー内の充填率があがるんです」 という意見を目にしたことがありますが、これは間違いです。排気系を絞ってシリンダー内に何かしらの影響を与えるということは排気バルブが開いている時に限られる。排気バルブが開く時というのは排ガスを出すこの瞬間だけです。その瞬間シリンダー内にあるのは当然排出待ちの排ガスです。これをシリンダー内にできるだけ留めるだなんて、百害あって一利無しなのは誰でも分かると思います。
そして冒頭で書いた通り、トルクというのはそもそもシリンダー内により多くの混合気が取り込み、それを完全燃焼することによって得られる回転力です。そしてシリンダー内できちんとした燃焼を行なわねばならないことは高回転であろうが低回転であろうが同じです。重要なのは空気流速の遅くなる低回転でいかにシリンダー内に混合気を充填させるか。これに尽きます。排気側の絞りはピストン上死点域における吸気効率をあげるための手法であることがこれでわかると思います。
既にこの時点で答えが出ていますが、低回転域ではこの細い吸排気系によってメリットとなるものの、高回転になると単に吸気も排気も糞詰まり状態になり、逆にデメリットが出てきます。要するに大量の空気を素早く吸い込み、そして燃焼して、素早く排出することが苦手になってきます。当然充填率が落ちた状態で高回転まで回せば、トルクに回転数をかけて算出される馬力も下がるわけですね。
この排気系を絞って実用トルクを太らせるとう方法は最もポピュラーな方法で、先のDA6インテグラのAT車やCD6アコードでとられた方法もこれになります。吸気系を絞ることはエンジン性能そのものに大きな影響を与えますし、排気系を絞る方がデメリットが少ないのです。
さて、実用トルクを太らせるという話ついでに他の方法も参考までに。

吸気系でポピュラーなのが可変吸気ポート。太さと長さの異なる二つの吸気ポートを用意し、低回転では細くて長いポートに空気を通し、高回転では太くて短いポートに(又はその両方に)通すものです。吸込み流速の変化をポートの太さと長さで調整し、全域でシリンダー内の混合気充填率を上げてやるのがこの方法です。
ホンダ車の場合、共鳴過給を促すものとしてレゾネーターもその一つになろうかと思います。
共鳴過給とはなんぞや??
と思われる方も多いかも…。
ここでまた一つ妙な例え話を。
50km/hで走っている車が10台縦に並んで走っているとします。その10台は全て1mのロープで結ばれて走っています。もし先頭の車が急ブレーキをかけると後続車は次々と追突しますよね。追突された先頭の車は数台の後続車の追突によって勢いよく弾き返されまた前に飛び出します。もちろんロープがあるのでまた後続車を引っ張る…。これの繰り返しによって一種の波が発生しますね。
エンジンはピストンが下がって空気を吸い続けて動いているわけですが、吸排気バルブが閉まって燃焼をしているのですから、吸い込もうとする空気というのはスローモーションで見ると実は動いたり止まったりしてシリンダーまで運ばれていることになります。そうすると、粘性のある空気は押し戻されたりまた跳ね返ってきたりと、管内で脈動が起こります。
エンジンの場合シリンダー側からみてポートの先っちょ(分岐部分)は1本にまとめられているわけで、跳ね返る空気の波が分岐部分で緩衝し、増幅なり逆に消えたりします。このことによってシリンダーに空気が吸い込まれにくくなりトルクの谷間が発生してしまうことがあります。レゾネーターは通常この共鳴音を消すのが目的ですが、ホンダはこれをトルクアップに使っているのです。
レゾネーターは一種のチャンバーで、各インマニの波を合成して共鳴作用を起こさせ、跳ね返った空気圧でシリンダーに空気を押しこませるわけです。レゾネーターでトルクアップを行うというのは非常に高度なチューニングが必要となり、取り外したり妙なインマニに変更したりするとトルクカーブがデコボコになったり、大きな谷間ができたりして副作用が出ると思われます。実用トルクを重視する場合は下手に弄らないほうがいいでしょうね。
さて、今回は実用トルクをメインに書いてみましたが、最後に馬力とトルクについてもう少し分かりやすく書いてみます。もちろん理数的な話はしません。
馬力については
こちらに書いていますが、1回の爆発によって得られたエネルギーを何回行って得られたかが馬力です。ですからこのエンジン性能曲線のように回転数が上がれば馬力も上がっています。回転数によって得らる馬力の数値は違いますし、また右肩上がりに上昇しています。そして馬力はピークパワーですから、いくら数値が高くても、その馬力を発生する回転数が高すぎると
ほとんど使えていないということです。
対してトルク。
トルクはあくまでも爆発燃焼してピストンが押し下げられ、それによってクランクを回そうとする力。もちろんそこにクランクの長さや重さからくる遠心力も加担されるので、ある程度のエンジン回転数が味方になってくれて、数値も多少なり右肩上がりになる傾向があります。ですが、低い回転でもシリンダー目一杯に空気を吸い込んで完全に爆発すれば、仕事としてはある程度最大の仕事をしたことになり、常に最大トルクに近い値の力があることになります。そしてクランクがある程度速く回り始めてもピストンの往復慣性力やクランクの回転慣性力が邪魔にならない範囲であればほとんど変わらずクランクを回そうとする力が出せるわけです。だからトルクカーブ曲線は馬力と違って平坦な線なんです。もちろん、かなりの高回転になると同じ爆発力でクランクを回そうにも、クランクの長さが長かったり、ピストン重量が重たかったりなどで、燃焼爆発力だけではどうにもできない問題が絡んできます。要するに最初に書いた縄跳び状態です。縄を速く回したくても縄が長いため遠心力が大きすぎて速く回せない。この遠心力がエンジンでいうクランクを回す力でして、長くて重いクランクは回転惰性も大きく、つまりは大きな回転力をもっている…。しかし速く回せと言われるとこの大きな力(トルク)が邪魔になり、むしろ短くて軽いクランクにしてくれないと回せないよとなるわけです。

因みにこれはH22Aのエンジン性能曲線。左がBB1プレリュード用で200ps/6800rpm、22.3Kgm/5500rpm。右がCD6アコード用で190ps/6800rpm、21.0Kgm/5500rpm。
前述の通り、アコードは排気系を少し絞って馬力を落としていますが、単なるディチューンではなく扱いやすいフラットなトルクカーブになっているのが分かります。プレリュードよりもジェントルなキャラなアコードではハイカムに入ってからの段付き加速感が軽減させています。プレリュード用は意外にも6000rpmからのトルクの落ち込みが大きく、アコードの方がフラットです。しかし、馬力=トルク×エンジン回転数÷716…。少々のトルクの落ち込みがあってもエンジン回転数の値が大きいので馬力は上がり続けますね。
ちょっとしつこいほど書いてしまいましたが、ピークパワーと実用トルクの関係のこの説明、いかがだったでしょうか…。
ということで、またしても長々と書いてしまった「易しいエンジンの話」シリーズ。馬力もトルクも数字を並べなければ意外と面白いものですよね。
また何かネタを思いついたら書いてみます。出来れば短めに…