
ここ数週間、山口は平日に雨が降り休日は晴れという天気が続いています。仕事柄、平日に雨が降っても構わないので、このような天気は私としては助かります。どんよりした雨の休日って休んだ気がしないし、家の用事もはかどりませんからね・・・。

今年も茨城県にあるうちの会社の出資会社へ出向している先輩から送られてきたとうもろこし。いつもは塩ゆでして食べているのですが、今年はレンジでチンして食べたのですが、まぁ甘いのなんの。茹でると甘みまで飛んでしまうなんて知りませんでした・・・。
さて、久しぶりの懐かしみシリーズですが、今回は“バラードスポーツCR-X”でいきたいと思います。

1983年(昭和58年)8月、兄弟車であるワンダーシビックよりも一月ほど先に発売されたのがこのバラードスポーツCR-Xです。
「ホンダらしさ」という言葉をよく聞きますが、エポックメイキング的な意味合いで使われるこの言葉にバラードスポーツCR-Xはピッタリ嵌る車でしたね。私の中ではトールボーイと呼ばれた初代シティもそれにあたります。

キャッチフレーズは“デュエットクルーザー”。ライトウェイトスポーツとはいえ決して激速なスポーツではなく、お洒落な二人乗りのクーペですね。それはCMからもそう感じます。
とはいえ、本当は当時のホンダに激速なエンジンが存在しなかったというところもありますが、狙いとしては私は悪くなかったと感じます。

全長3675×全幅1625×全高1290mm。
当時のライバル車だったトヨタの86レビン&トレノ、日産のパルサーEXAターボ、マツダのファミリアターボと比べると、幅は横一線ですが長さは圧倒的に短く、高さも圧倒的に低い数値でした。全長があまりにも短いため写真などではその低さを感じにくいのですが、実車を目の前にするとプレリュードよりも低いその低さに驚いたものです。
そしてこのスタイル、何よりもシンプルでクリーンな印象を持ちますね。最近の車はどれもAピラーを寝かせすぎて付け根がフェンダーあたりまでくる前身モノフォルムになっていますが、そのせいで三角窓はあるわ、ドアミラーはミニバン風になるわ、視界は最悪・・・。
車のスタイルというのは、こういったあるべき位置にAピラーがあり、全体のバランスを見てデザインすべきである・・、一昔前の車のサイドビューを見るといつもそう感じてしまいます。Aピラーが戦闘機のように寝ていればいるほどかっこいいと思うこと自体、最近のデザイナーが幼稚化しているのだと私は感じます。
もちろんかっこいい車もありますけどね・・

当時の車、それもとりわけホンダが重視して謳っていたのが空気抵抗係数CD値。どれだけスムーズに空気が流れるかという係数ですが、このCR-Xは0.33でした。確か2代目プレリュードは0.29だったと思いますが、この係数だけでは空気抵抗の少なさは判断できず、これに前面投影面積を掛けたものが実質的な空気抵抗と言えるでしょう。ホンダ車の多くはボンネットが低く面構えが小さかったのでこの面積も小さく、実質の空気抵抗も少なかったですね。

この車の外観の特徴といえば、このセミリトラクタブルライトでしょうね。
このCR-Xは控えめでありながら精悍な顔つきであり、バンパー形状も凹凸が多いのに決して古臭いといも感じない。最近の車の悪口ばかり書いて申し訳ないのですが、やたらと自己主張の強いメッキギラギラの最新の車の顔と比べるとこっちのほうが遥かに賢そうに見えます・・・。

スペシャルティーカーには欠かせないサッシレスのドア。長い目で見ると雨漏り等気密性で少し心配ですが、何よりもかっこいいですよね。

この車の革新的なテクノロシジーは色々とあって細かくカタログに記されていますが、中でもボディ全体の40%に新素材を使ったことは驚きでした。

イラストで緑色に塗られた前後バンパーには、高耐衝撃・超耐候性を持つ変形ポリプロピレンが使われた“H.P.BLEND”と呼ばれるものでした。
そして黄色い部分には“H.P.ALLOY”と呼ばれるABS樹脂にポリカーボネイトやポリマーアロイを加えた新素材が使われていました。新車発表会場ではこの素材が使われたフェンダーを床に置き足で踏みつけるという演出があったとか・・。その後の復元力に皆が驚いたという記事もありました。

ホンダは初代プレリュードで日本初の電動ガラスサンルーフを出しましたが、こちらのアウタースライドサンルーフは世界初。当時、閉まった状態のこの車の天井を見たら、デタッチャブル方式としか思えないものだったでしょうね。
このアウタースライド式はのちにトゥデイや4型プレリュード、DC2インテグラ、ストリームなど多くの車に採用されましたね。

そしてラム圧を利用したこちら“ルーフベンチレーション”もバラードスポーツCR-Xならではの装備(オプション仕様)。ラム圧を利用したベンチレーションは昔のホンダ車であれば多くの車が採用していましたが、空気の流れがスムーズな車だけに大きな効果をあげようと思えばその取り入れ口も重要になってきます。
天井にパカッと飛び出すこの取り入れ口も、CR-Xだからこそ採用できたのは容易に想像できますね。一応2段階の風の風力調整ができますが、当然走っていればの話です(笑)。

内装は至ってシンプル。
ステアリングは高さ360×幅370mmのオーバル形状。
サンルーフを装着すれば、デジタルメーターとインパネセンターにあるエレクトロニックナビゲーターが標準になります。
ホンダ初のデパネは初代シティターボだった気がしますが、私は若い頃うちの会社の岡山支店に出張した時にこの支店の方が乗られていたシティターボを1週間借りて足にしていました。トヨタのデジパネが大好きだった私はアンバーのデジパネに「う~~ん・・・」という感じでしたが、タコメーターだけは表示が太くてとても見やすく好きでした。ただ、色はやっぱりトヨタの方が好きでしたね・・・。

後席はワンマイルシートと呼ばれる補助的なシートが採用されていました。まぁもともとが2シーターも同然。余った空間にこんなシートでもあれば非常時には助かります的なものと思えば充分なものと言えます。

荷室の広さは、後席ワンマイルシートを起こした状態で164L、倒せば310L。最新のホンダ車のようにセンタータンクレイアウトでもないしスペアタイヤもありますから、これで文句は言っちゃいけませんね。こういう車は荷室に大きなものを積むことなど想定しちゃいけないのです(笑)。

エンジンは1.5L-PGM-FI仕様のEW型と、1.3L-CAB仕様のEV型の2機種。もちろん売りは前者1.5Lのほうです。
◆1.5L EW型(CVCC)◆
・ボア×ストローク :74×86.5mm
・圧縮比 :8.7
・出力 :110ps/5800rpm
・トルク :13.8Kgm/4500rpm
既に2代目プレリュードが発売されていてそのエンジンが新開発12バルブCVCCエンジンを搭載していたので次期シビックやこのバラードスポーツCR-Xが同様に12バルブエンジンになることは予想つくものでしたが、プレリュードと違って燃料噴射装置はシティターボで初採用されたDジェトロ式のPGM-FIを採用。PGM-FIといえば昔からのホンダファンであれば第二期ホンダF1のテクノロジーであることを思い出すと思います。
副燃焼室を持つCVCCについては
懐かしみシリーズの2代目プレリュードのほうで書いているので割愛。バルブ径は吸気27mmが2本で排気32mmが1本。これに副燃焼室の吸気バルブが1本となります。
エンジンブロックは4連アルミダイキャスト製で、中空ケレン鋳込みによる冷却水通路を設けない完全4連サイアミーズタイプ。整備重量は先代シビックの1.5Lから7Kg減の99Kg。ライバルの4A-Gは鋳鉄ブロックだったこともあり約120Kg程度なのでEWはかなり軽いですね。ただ、のちに登場するZCが102Kg・・・。排気量100cc増しでスイングアームを採用したDOHC16バルブであることを思うと、ZCの軽量化がいかに凄まじいかが分かります。
このEWエンジンですが、私の高校の時の同級生がワンダーシビック25iに乗っていたこともあって運転させてもらいましたが、EWはエンジン音がとても綺麗なんですよね。ガラガラとかガーガーいわない。綺麗な澄んだ音で、これぞホンダミュージックという感じでした。
因みに110馬力というそれほどハイパワーでもないエンジンを積んだ1.5iの最高速度は180Km/hオーバー。ライバルのターボ勢を抑え、4A-Gを搭載したAE86レビン・トレノとほぼ同じでした。空力の良さも相当効いているのでしょうね。

足回りはスポルテックサスと呼ばれる独特のもの。これもバラードスポーツCR-Xやのちの登場するワンダーシビックの特徴の一つでしたね。

こちらはフロント。
ストラット型であることには変わりがありませんが、コイルスプリングない(笑)。ボンネットを低くするためにコイルスプリングをやめてシャフトの捻じれを利用したトーションバー式を採用しています。コイルプリング自体の重量もかなりありますから、バネ下重量の軽減にもつながっていますね。

そしてリアが面白い。
このクラスは4輪独立懸架とリジットとどちらを採用するか迷うクラスですが、商品イメージとしては間違いなく独立懸架が上。しかし、ホンダはあえてリジットを採用し「これを超える独立懸架がどれだけあるかを問いたい」と自信を見せたといいます。つまり構造よりも要求が先行して開発された足だったわけです。
見ればすぐに分かるかもしれませんが、単なるリジットアクスルではなくかなり独創的。通常の4リンクとか5リンク式ではなく、前後の位置決めとなるトレーリングアームと左右の位置決めとなるパナールロッドを組み合わせたことが最大のポイントでしょう。
そして1.5Lモデルにはスラビライザーが装着されるのですが、一見見当たらない。実はこの構造が実に変わりもので、なんとスタビライザーはアクスルビームに内臓されています。この動きを活字で説明するのはかなり難しいので省きますが、スウェイベアリングを採用したからこそのメカニズムと言えます。

グレード構成は実にシンプルでして、1.3と1.5iの2機種。
外観の違いは見ての通り、上級の1.5iにはツートーンのカラードバンパーを採用しています。ボディカラーは白・青・赤のたった3色で、1.3は下半分が黒で1.5iはシルバー。1.5iにはフロントチンスポイラーが装着されていますね。
ルーフ仕様は、1.5iがルーフベンチレーション仕様とアウタースライドサンルーフ仕様の2択、1.3はノーマルルーフ仕様とアウタースライドサンルーフ仕様の2択です。
タイヤとホイールは1.3が165/70SR13+スチールホイール。1.5iはAT車が165/70SR13+スチールホイール(ホイールキャップ付)。1.5iのMT車は175/70SR13+スチールホイール(ホイールキャップなし)。

そして画像左の185/60R14+アルミホイールは1.5iのオプション。ただし、今じゃ当たり前のメーカーオプションではなくディーラーオプションだったので、タイヤ込みで20万円近く追加で必要でした。

その後ZCエンジンを搭載したSiが登場するわけですが、こちらはこの14インチアルミが標準。車両単体の価格差がほぼ30万円だったので、1.5iにオプションの14インチアルミを履かせれば価格差は10万円まで縮まります。エンジンの差を思えば明らかにSiを買った方がお得と言えますよね。ただし、バラードスポーツCR-Xという洒落たネーミングと車の成り立ち、キャラクターからすれば、果たしてSiの方が絶対良いと言えるかどうかが微妙ですが・・・。
バラードスポーツCR-Xの心臓はEW→ZCと進化し、次のモデルのサイバーCR-XではB16Aも搭載され、完全にハンドリングマシン、峠仕様のような車になりました。そして最後はデルソルという理解されない車になって完全に撃沈・・・。しかし、CR-Xの原点はやはりこのバラードスポーツなんです。決して激速なハンドリングマシンだったわけじゃない。ホンダ自らがこの車の方向性を迷わせ、気が付けば超高回転型B16Aを搭載した電動オープンカーに仕立て、狙いだけは原点回帰させられたという何とも可哀想な車で終焉を迎えたように思います。
現在、しきりにエコが叫ばれておりますが、このバラードスポーツCR-Xは本当に意味でエコな車だったのかもしれませんね。極端な例で書けば、2トンにも迫ろうかというミニバンに高額で重たいハイブリッドシステムを搭載し、そこに700万円とかのお金を払ってしかも独身の方が乗っている・・・。あくまでも極端な例ですしそこは個人の自由なんですが、そんな時代にエコが叫ばれていることにちょっと矛盾を感じてしまうのも事実。軽い2シーターボディに燃費が良くそこそこスポーティなエンジンが載っている・・・。こっちの方がライフスタイルを含めて分かりやすいエコを感じます。でも人間は一度高級な味を覚えるともう元には戻れないのも事実・・・(汗)。
こういうライトウェイトスポーツが再び支持される時代がやってくるといいのですが、さすがにもう無理ですかね・・・。