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2021年12月26日

歴史とはなにか 岡田英弘

クリスマスを境に世間は一気に新年モードに突入しますが、仏教的には元日は一年の煩悩を浄化する日だそうで、そのために寺では「除夜の鐘」を突いていたりするのですが、近年はこの除夜の鐘も騒音苦情の対象で日付が変わった直後の数分だけだったりそもそも鐘を突かないなんとも味気ない年末年始になっています。

という事で少し早いですが一年を振り返ると今年はずいぶん本を読んだなぁ、という印象です。
仕事から定期購読している雑誌や専門書もありますが、それを除けばやはりけっこうな分量の本を買い込み、枕元には後で読み返そうという本の塔が二つほど出来上がりました。

まぁ読書家の人に比べたら読む速度も遅いので月平均にすると二冊くらいかと思いますが、どれも惰性ではなく興味があって手に取った本ばかりなので印象深く手放す気にならず置き場に困っています。
(これまでの本も積みあがっているから大地震が来たら本に埋もれてしまう)

今回のタイトルにした本は、年末年始に読もうと買い込んだ本の一冊で「面白い」と評判でした。

まず「歴史」の定義について書かれていますが、確かに事件を時系列に並べたもの、くらいの認識でしたが、「人間の住む世界を時間と空間の両方の軸に沿って個人が体験できる範囲を超えた尺度で把握し、解釈し、理解し、説明し、叙述する営み」

としています。

この手の本はとかくイデオロギーの押しつけだったりするのですが、どの文明圏においても公平に扱っているように見受けられます。
中国史、モンゴル史、古代日本史を専攻して教えて来た立場から「歴史」を持っていたのは中国文明と地中海文明しかない、とする立場には「日本には脈々と続く皇統という中国よりも古い歴史があるではないか」とハレーションを起こす人も居るとは思いますが、日本の歴史は常に中国に対抗するものとして編まれて来た事を考えると、大きく間違った事は言っていないように思います。

ただ、読み手の知識レベルにも依るので、万人が高校までに読むべき、とは言い切れず、むしろ社会に出てから学び直している人が、点と点の知識だった歴史や世界情勢の根底にある物を理解する一助として面白いのだろうと思います。

今日でこそ歴史を持たない国や民族は少数ですが、それは19世紀に「国家国民」という概念が定着してからで多くが中国の歴史か地中海文明の歴史の影響下にあるとしています。

たとえば歴史を持たない国としてインドを挙げています。
インドの歴史はイギリスの統治下に入った「イギリス領インド帝国」からであり、それ以前は支配を受けていたイスラム文化圏的歴史観しか持たなかった。なんだやっぱり歴史があるじゃないか、となりますがそのイスラム文明圏の歴史も体系だった西洋との衝突で必要に迫られたものであり、イスラム圏では約束が守られなくても「神の御心」に背かないならそれは問題ないとするものであり、日本人だけでなく西洋人からしてもイスラム圏の歴史や文化が理解しにくい一因となっています。

アメリカもそれまでに西洋との歴史を断ち切って現在と未来だけを見つめると言う歴史を持たない奇異な国になりました。
移民にアメリカへの忠誠を誓わせ、それ以前のルーツを捨て去ってアメリカに帰属する事を求める態度というのはそういう事かと思ったりもします。

また中国の歴史は紀元前100年頃に司馬遷によって仕えていた皇帝の正当性を示す目的で著された「史記」が始まりであり、それ以降中国の歴史書は基本的にこのスタイルから外れる事はなく、これが西洋人からすると中国は進歩がないずっと停滞した国とみなされる要因となっているとの事。

しかし中国人からすれば、もし違う事があるとすると、それは天命から逸れる事であり、正当性を失う事とされ忌避されてきました。
この為、中国の正史には変化を示す兆候は記述されないか、著者が断罪されない程度の表現に書き換えられ天帝の支配の及ぶ地域の事しか書かれてきませんでした。
しかし現実には異民族に支配される事もあり、こういったコンプレックスが「中華思想」、つまり皇帝は漢人出身ではないけど、漢人こそが偉大なのだという思想に繋がったとの事で、中国人が100年前の恨みであっても自分達で晴らそうと言うモチベーションとなっていそうです。

地中海文明で最初に歴史書を書いたのは紀元前5世紀のヘロドトスとされ、この認識が現代日本人の「歴史観」にも通じているとの事。
歴史書「ヒストリアイ」はヒストリーの語源ともいわれていますがヒストール(知っている)とヒストレオ(調べて知る)の名詞として「調べて分かった事、調査報告書」となるそうです。
(His storyでhistoryとするのは文学的ではありますが今の時代だとバッシングされそうではあります)
内容的には地中海国家間の攻めたの攻められたの、王が誘拐されただの誑かされただのといった係争ですが要約すると
「世界は変化するものであり変化を語るのが歴史である」
「世界の変化は政治対立、抗争によってもたらされる」
「ヨーロッパはアジアと永遠に対立する二つの勢力だ」
となり、前二つは現代日本人にもすんなり受け入れられるでしょう。

西洋史観を理解する上でキーとなるのが三つ目でヨーロッパ(善)とアジア(悪)が対峙し、なんだかんだあって最終的には善が勝利して神の祝福を受けられる、といったような印象をアジア軽視やアジア文明を理解しようとしない西洋人から感じられる事が度々ありますがそういうことなのかもしれません。

そのヘロドトスの記した勧善懲悪ストーリーはやがてユダヤ教徒の受難やゾロアスター教と溶け合ってキリスト教的価値観として西ヨーロッパにもたらされます。

日本の歴史書は「古事記」が有名ですが、実は「日本書紀」の方が先に編纂されたとしています。
これは韓半島情勢をめぐって対立していた日中間の対抗策として、日本の方が先に天命を受けた天皇が居る、中国の事は最近知ったという態度を貫く為に書かれたものとの事。

この「日中対立」から天皇が日清間で条約を結ぶまで、実質的に日本は政治的には鎖国状態を貫いてきたという事になり、明治になって近代化に迫られた時に、英独仏から招聘された講師と日本の中国に対するカウンターパートとしての歴史観をすり合わせる必要に迫られ数々の造語が作られた事で現代日本人の歴史認識はそれ以前とはすっかり変わってしまったという事です。

この後、話は日本の歴史の成り立ちやマルクス主義的歴史観に及びます。

もっとも個々の事象に関しては議論が分かれる事もあるでしょう。

著者の岡田英弘氏は2017年に逝去されていますが、文明や歴史を独特な視点から紐解いた自分の知っていると思っていた点の知識が次々結びつくようなとても面白い本です。
ブログ一覧 | 日記
Posted at 2021/12/26 20:47:30

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