この10連休、「収容所群島(全6巻)」を読んでいるところです。
1970年にノーベル文学賞を受賞したソルジェニーツイン氏は、旧ソ連の陸軍中尉でした。
砲兵中隊を指揮し、ヒトラーと戦っていた時、郷里の友人に書いた手紙の中で、スターリンの名前は出さず、スターリンを軽く揶揄したことがキッカケとなって逮捕されてしまいます。
つまり、「反党組織を結成した反逆者」だという容疑です。
手紙を受け取った友人も、同時に逮捕されました。
取り調べは拷問の連続だったようで、本の中に詳細に載っていますが、最終的に有罪にできるだけの証拠が集まらなかったため、裁判には掛けられず、「行政措置」として強制収容所送り8年を喰らったのでした。(日本版wikipediaには「裁判を受けた」「判決が8年だった」などと記されていますが、この本に記されている内容は以上の通りです)
8年の刑期を終えたあとも釈放されず、引き続き無期流刑に処されます。
流刑先で、彼が一心に調べて文章として残したかったもの。
それはソ連革命の勃発から現在(つまり1973年)までの間、裁判も経ないで虐殺されてきた無数の被害者たちの怨念に応えることだったのかも知れません。
膨大な事件資料を、よくぞ揃え、研究し尽くしたものだと感心しました。
彼自身は、自分が生きているうちに「収容所群島」が出版されることは決してありえないものと覚悟を決めていたようですが、原稿の清書を手伝っていた70歳の老婆が逮捕され、激しい拷問の末に下書きの隠し場所を自白させられ、自筆原稿は押収。
老婆も、釈放された翌日に自殺するという事件が発生します。
しかしタッチの差で原稿の清書は秘密のルートを経由して西側に発送され、お蔭で今、私はこの血の出るような本を読むことができているわけです。
しかしそれにしても、体制が変わるだけで、人間がどのように処されてしまうのか。
まったく他人ごとではなく、近未来の自分と親友や家族を守るためにも、学んでおくべき知識であるなと感じました。
旧ソ連だけでなく、ドイツ第三帝国や中華人民共和国やクメールルージュ(=カンボジア)や北朝鮮など、全体主義を採用したすべての国で、いったい何が起きていたのか。
もしかすると、今まさに全体主義革命が起きつつある韓国で、このあと何が起きる可能性があるのか。
革命という言葉にシンパシーを感じる傾向の強い団塊世代の皆さんや、共産主義マンセーの方々にこそ、お勧めの一冊(実際には6冊)だと感じました。
習近平のことをプーさんと揶揄しただけでも、わたしも強制労働8年に処されるのかも知れません。
刑期が決まるまでの拷問の嵐に耐えられたなら……の話ですが。
取調中に射殺されなければ、の話でもあるのですが。
ps. ロシアの公式な発表によれば、第二次世界大戦期に旧ソ連の人口は2,660万人も減少したとのことです。(民間の調査では人口減少数が3,000万人を超える可能性も指摘されています。) もちろん戦死した人たちも少なくなかったことでしょうけど、同胞の手によって命を失った者もまた、膨大な数にのぼるはずです。
ps2. 図書館で借りて読んでいるのですが、第5巻まで読破した人はいないみたいで、本を開くとパリパリと音がします。ただ、第5巻で描かれている脱走者たちの脱走活劇(それを著者が書けているのは、失敗して連れ戻された囚人の口から語られたことだからですが)や、著者が(もちろんメモを取れない。反逆に問われるため)、記憶の中に名前やエピソードをどのように刻み込んで行ったのか。
古事記を覚えていた「稗田阿礼」のように、ソルジェニーツインも1万2000件ものエピソードを記憶して出獄したのです。その記憶術を公開する部分など、予想外に興味深く、圧巻の説得力でした。
Posted at 2019/05/02 23:58:25 | |
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