![「日本、遥かなり」門田隆将著 「日本、遥かなり」門田隆将著](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/blog/000/045/678/793/45678793/p1m.jpg?ct=45b770180df5)
第一部は1985年にイラン・イラク戦争中のイランに取り残されることになった日本人脱出と、それに繋がる一世紀前のトルコ使節団遭難事故、第二部は海外の紛争や事件で繰り返される邦人保護を関係者らに取材したノンフィクション作品。
アフガニスタン米軍撤退の混乱で政府救援機が日本人一人しか救出できなかった記憶も新しいところですが日本と言う国が海外邦人を救出する能力のない事が度々露呈しています。
昨今のコロナ禍の国交省による航空便停止要請などもその一例かもしれませんがそんな事を考えさせられる一冊になっています。
本の概略についてはユーチューブ番組で著者の門田隆将氏や解説を書いた北村晴男弁護士らの番組によって承知していましたが、改めて手に取ってみるとその重みが分かります。
日本は敗戦国という負い目から戦後は海外に軍隊を出すことが憚られてきました。
紛争ぼっ発などでは各国はその国に居る自国民を救出する救援機を差し向けるのが当たり前ですが、日本はこれが出来なかった。
この為、海外で活躍する民間人はその国と日本との友好の橋渡し役にも関わらず「自己責任」を求められて、時には命を落とす事にもなってきました。
野党が政争の材料としてこれらを利用し政府や自衛隊を糾弾し縛り付けたいという思惑が大きな原因となっているといえるでしょう。
現に、救援機を差し向けた国と送られた国とが交戦したり戦争になったりすることは、アメリカやイギリスの救出強襲作戦のような特殊ケースを除けば起こっていないのですから危険な任務の救援機を民間人に任せるのではなく自衛官が操縦する事を反対するのは、海外邦人の命など知らぬと宣言するに等しく、同じ口から人命だ人権だと聞こえる度にあきれてしまいます。
本書に話を戻すとイラン・イラク戦争の際、イランのテヘランに家族を伴って赴任していた大使や領事、それに民間の商社や自動車メーカーの駐在員らが激化する戦闘で空路で帰国する手段を失い危険な陸路での脱出を迫られ、イラクのフセイン大統領による48時間後のイラン領空通過航空機の無差別攻撃宣言が出され万事休すと思われた時、トルコ大統領と個人的な交友があった人物らの活躍によってトルコが自国民を差し置て日本人を救出するトルコ航空機を派遣する事がギリギリで決まり、これによって200名以上のテヘラン駐在員やその家族が脱出する事ができたという話で、日本人が多く居住していた地域へ爆撃があり、日本人家族の家の至近にも着弾するなど、緊張と絶望に包まれていく数日間の各自の心境が克明に綴られています。
この事件はなんとなく記憶しています。
現地に赴任している家族をマスコミが引っ張り出して会見させ、本人が言っていない事を書いて後で問題になったやに記憶しています。
トルコが親日国だから近場のよしみで救援機を差し向けたといった程度の認識でしたが、トルコが親日国となるきっかけが学校の教科書で子供たちに教えられているというのはしばらく前に知ったように思います。
それより一世紀前のオスマン帝国(トルコ)使節団を乗せたエルトゥールル号が和歌山県沖で台風に見舞われ遭難、乗組員の多くが落命し、なんとか岸にたどり着いた者を地元の町民が総出で救出、救護に当たり備蓄していた食料や家畜を提供したという逸話が今にも語り継がれており、イランの日本人の窮状を知ったトルコの人たちが日本人に恩返ししたい一心で救援機を差し向けたというところまでは知っている人は知っている話でしょう。
本書で著されて驚いたのは、救援機のスチュワーデスに妊娠中の方がいて、航空会社や家族に知られると辞退させられるとの思いから妊娠の事は伏せたまま救援機でイランに向かったという、そこまでして日本に強い思い入れがあったのかと驚かされました。
またイラン領空でトルコ航空に張り付いてきた戦闘機があったそうですが、これはイランやイラクの戦闘機ではなく、護衛の為に領空侵犯してトルコ領空まで護衛しにきたトルコ空軍機というのだからこれも驚きました。
もしイラク軍機などが接近してきた場合、おそらく両者で交戦が行われ国際問題に発展した可能性もありましたが、トルコ側はそのリスクを冒してでも日本人を安全に送り届ける任務を全うしたという覚悟があったという事です。
残念ながら日本には友好国であってもそこまでする覚悟は無いでしょう。しかしそういう超法規的な決断を下すのが為政者の務めでもあると思います。
しゃくし定規に憲法や法律を守って犠牲が出ても知りません、責任はありません、関係ありませんでは何とも無責任と言わざるを得ません。
現実的には台湾調略に手間取るようならと中国が虎視眈々武力侵攻の構えを見せ、それは口先だけのブラフではなく、米軍と対峙する想定で沿海部方面軍の装備を整えてきている事からも台湾有事が現実になる日が来るかもしれません。
しかしその時、日本は台湾在留邦人や脱出を求める人々を救出する事は出来ないでしょう。
そもそも戦国時代より以前から日本人は海外に出て行っていました。
彼らは向こう見ずなところもありましたが「鎖国」の時代になるまでは現地でそれなりにうまくやって交流していた様子がうかがえます。
制度的な問題、国民世論などもありますが、本書が示したような個人的な交友が一国を動かすという事もありますが、果たして今の日本の外交官や商社マンにそれほどの胆力があるのかと思う事も多々あります。
「国」と言うものを論じる時、拒否反応を示す人も居ますが、国は所属する国民の生命財産権利を守るのが務めであるとここでも何度か書いてきましたが、それが充分に果たせないでいる現状に危機感を覚え、いざという時に助かるためには自分で動かないと、そう感じる一冊でした。
Posted at 2021/12/05 00:56:31 | |
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