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イイね!
2015年07月21日

あり得ないことが、(13)




しばらくすると馬の骨氏からメールが入って来たが、僕はもう一切返信するつもりはなかった。馬の骨氏は僕が、いや馬の骨氏にとっては佐山芳恵なのだろうが、何処にいるのかだの後をつけたのは卑怯だのうだうだと本来自分の責任に帰するべき事柄をあたかも僕のせいであるかのように非難した後でこれには理由があるのだから帰ったら連絡するから話し合おうと結んであった。女とホテルにお忍びで一体何の理由があるんだ。


「問答無用。」

 
これで馬の骨氏との関係が切れたが訳の分からない人間関係に苦しめられていた僕にとってはそのうちのひとつでも整理できたことはこの上もない好都合だった。何度も飛び込んでくるメールに対する僕の回答は“Have Fun.”を以って最後通告とした。

 

部屋に戻るとまた資料をめくりだしたが、自分なりに考えた末に方針を思いついたのでその後の進行は早かった。英語をファッションするコースについては特に問題はなかった。課程の中に楽しそうで気を引くような催し物をちりばめればそれで十分だと思った。問題は真剣に英語を勉強しようとする場合、身につけるべき単語や熟語をどんな基準でどのくらい選定すれば良いかだったが、これは会社に出てからそれぞれその道の専門家にも確認してみようと思った。そうこうしているうちに急に思い立ってドライブ旅行に出た疲れが出たのか眠気を催してきたのでシャワーを浴びるとそのままベッドに入り程なく心地よい眠りへと引き込まれていった。

 

翌朝は少し遅めに起き出して昨日の喫茶室に朝食を取りに下りていったが、馬の骨氏と出会うことはなかった。二人がまだここにいるのかもう出かけた後なのか分からなかったが、僕にとってそれを確かめる必要もなかったのでそのままにしておいた。

 

部屋に戻って身支度を整えるとフロントで支払いを済ませてホテルを後にした。車は夕方には返すことになっていたし、特に見たいところもなかったので東京方向に頭を向けたが、同じ道を通って戻るのは芸がないので富士五湖から中央高速を使って戻ることにした。午前中だったので渋滞もなく中央高速に入り、そのまま東京へと向かった。都内もスムーズで買物をして午後の早い時間に車を戻して自宅に帰ることができた。

 

しかし今回の旅はたまたま思いついて出かけた所でとんでもないことに出くわしてしまった。馬の骨氏とこの先どうにかなるつもりはさらさらないし、余計な関係が切れて負担が軽減されるので僕にとってはまことにありがたいことで馬の骨氏が誰と何処に出かけようとかまわないのだが、やる気でしたことではないにしても同じ男としてなんだか気の毒な気がしないでもなかった。さすがに今日は今のところ何の連絡もないが、女と別れて一人になればまた何だかんだと言ってくるに違いなかった。

 

それにしても今後向こうは不義密通を働いた賊軍でこちらには錦の御旗があるのだから何とでも拒絶できることになる。いずれにしても僕にとっては目出度し目出度しには違いなかった。夕食を済ませてからまた資料に目を通した。そして自分としては本当に英語に取り組むコースと英語を遊ぶコースに明確に区別したカリキュラムを組むことを会社に企画として提案することに決めた。持ち越してきた仕事がひとつの山を越えて久しぶりに何となくさわやかな気分だった。そして大きな声では言えないが、鬱陶しかった馬の骨氏ともすっきりと縁が切れることだし。そして当然かも知れないが、とうとう日曜も馬の骨氏からは何の連絡もなかった。

 

もっともあの見事な現行犯ではどう言い訳をするんだろう。佐山芳恵なら嫉妬の炎を燃やすか涙に濡れるかいずれにしても穏やかには済まないだろうが、僕には全く他人事だった。まあ総務の女性は僕より、いや佐山芳恵よりも若くてまあまあそれなりに可愛いらしいからそれはそれでいいじゃないか。

 

翌日出社するとさっそく企画書の作成に取りかかった。仕事も順調に動き始めるとそれなりに面白いものだった。一応口頭で上司には話をして了解を取り付けておいた。やはり組織では上の了解がないことをしても無駄働きになってしまう。場合によっては会社に損害をかけたとか指示に従わなかったとかそんな理由で叱責や処分の対象にもなる。そうした関係を鬱陶しいと言って嫌いフリーになる者も少なくない。僕もそうした人間の一人だった。しかし今は宮仕えが煩わしいなどと言っていられる場合ではないので仕方がない。

 

夜もかなり遅い時間まで仕事をして企画に一区切りつけてから更衣室に向かった。もうほとんどの社員が帰宅していて会社の中は静まり返っていた。更衣室で着替えをしていると突然ドアが開いた。その音に驚いて振り返ると会計で査定を担当しているその名を女新撰組とか女土方とか言われている女性だった。どうしてそんなあだ名を付けられたかと言えばそれはもうせっかく身を削る思いをして知恵を絞った企画をばっさばっさと切って捨てるからだった。

 

しかしそれはそれで彼女の仕事と割り切れば女としてはなかなかきりりと締まったいい顔をしている女だと思っていたが、佐山芳恵と同い年と言うのにどうしたことか真っ更の独身でゴシップ好きの女たちも浮いた話のひとつも捉えることができないという堅物だった。


「あら、遅いのね。お疲れ様。」

 
僕は一応声をかけておいた。きっとこれからこの女と壮絶な戦いをしなければいけなくなるだろうからせめて顔馴染みになっておけばというつもりだった。ところがどっこい僕がこの女と全く別な壮絶な関係になろうとはこの時は夢想だにしていなかった。

 

一応声をかけたが、その先会話を続けるどころか自分が帰る支度をするのに忙しくてただ単に儀礼的に声をかけただけで女土方から目を離していたところ彼女は僕の方に真っ直ぐに歩み寄って来た。近づいてくる足音にロッカーの場所が違うのにどうしたのかなと振り返ったその時いきなり女土方にしっかりと抱き締められて驚いて体を離そうとしても身動きが取れなくなってしまった。

 

女土方は僕と、いや佐山芳恵と同じくらい大柄な女性だったのでいきなり不意をつかれて抗う間もなかった。もっともこの場合女の方から抱きついてきてくれたのだから中身は正真正銘純血の男の僕にしてみれば鴨が葱だけでなく調味料まで背負って鍋の中に飛び込んで来たくらいの好都合だったはずだが、抱き締められたうえに突然唇を合わせられて、さらにその上いきなり舌を入れられたのにはたまげてしまった。

 

しばらくぶりで女の感触を味わった僕としてはこれから先は女土方なぞ飛んで火にいる夏の虫と思ったのにいきなりの舌攻撃で制御系統が破壊されたロボットのように体中の力が抜けてしまい、だらりと腕を下げたまま女土方のなすがままになり下がっておまけにひざの力まで抜けて体が崩れ落ちそうになるのを辛うじて女土方にすがって立っている有様だった。

 

まことに下品な言い方で恐縮してしまうが、僕はこれまで男として舌にしろ下にしろそれ以外のものにしろ長いこと自分の体の一部を相手の体に入れることに専念してきた生物だった。ところが自分の体に相手の体の一部が入って来てそれが僕の意思にかかわらず自分の体の中をうごめき回ると言う感触には全く免疫がなかったのは予想もしない敗因だった。





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Posted at 2015/07/21 20:14:06

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