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イイね!
2016年07月26日

あり得ないことが、(96)




鮨屋を出るとタクシーを拾って銀座のはずれまで行き、あまり目立たないビルの中にあるエステサロンに足を踏み入れた。僕はこれまでエステなど行ったことがない。そこでどんなことが行われているかもあまり詳しくは知らない。いろいろな方法で顔や体のマッサージやケアをする所くらいの知識しかない。

 
大体男がこの手の場所に恒常的に出入りするのかどうかも分からない。女の体になってからも自分の体を他人の手に委ねたのは女土方を除けば病院で腹を切った時くらいで他には経験がない。

 
女土方はこのエステの常連らしくカウンターにいた女性とずい分親しげに話をしていた。他の二人もメニューを覗き込みながらああだこうだとずい分熱心に自分が受けるエステサービスについて話し合っていた。

 
]僕は受付の先にある時間待ち用のソファに腰を下ろして店内を見回していた。華美に走らずにお客が落ち着けるように配慮したインテリアはなかなかいい趣味でいかにも女土方お気に入りらしかった。


「ねえ、あなたはどうするの。私と一緒のコースで良いのかな。それとも何かお好みのがあるの。」

 
女土方が僕を振り返ったがそんなことを聞かれてもお好みなどあるはずもないので「一緒でいいわ。」と簡単に答えた。ソファでアレルギーだの病気だの、それからこれまでのエステの経験などについて簡単なアンケートを書かされてから順番に個室へ呼ばれた。僕は一番最後だった。


「それではこれに着替えていただいて終ったら声をかけてください。」


若い女性のエステ師が袋に入った紙のトランクスを手渡してそう言った。


「え、裸になるの。」

 
包みを受け取りながら僕が聞き返すと「ええ、その紙の下着に履き替えてください。」と言うと施術師は外に出て行った。どうも全部脱いでこれ一枚になれということらしい。


「手術じゃないから大丈夫よ。安心して任せて。」

 
隣の部屋から女土方の声が聞こえた。別に何をされても良いんだけどいきなり脱げと言うのにちょっと戸惑った。袋を破ると中から不織布のトランクスが出て来たのには懐かしくて涙が出そうになった。これぞ下着の中の下着、僕はトランクスに勇気付けられてさっさと裸になると男の下着の感触を懐かしみながら施術台にうつ伏せになると「お願いします。」と声をかけた。

 
エステシャンは入って来ると「フェイシャルケアとボディケアでよろしいですか。」と聞くので「ボディケアだけでいいわ。顔はパスよ。」と答えてマッサージだけしてもらうことにした。大体フェイシャルケアで若返りとか老化防止とか言うけど厳然としてこの世の中に老化が存在するのだから結局はやってもらう方の自己満足、ひどい言い方をすれば自己欺瞞ということになると僕は思っている。受ける本人の気持ちの問題と言えば確かにそうなんだろうけど。

 
それでもマッサージは確かに気持ちが良い。ハーブ入りの香油とかを体にぬめぬめ塗り付けるのは何だか鉄板焼きの具にされたようでちょっと閉口だが、マッサージ自体はなかなか気持ちが良い。ただ撫でさするようなマッサージではなくもう少し筋肉に食い込むような刺激的なものの方がその場はやったという充実感があって良いかも知れない。

 
マッサージは足から首、肩、背中、腰、腕と進んで乳も揉んでくれるのかと思ったらそれで終わりになってしまった。


「何か運動でもしていらっしゃるんですか。ずい分しっかりした筋肉をしていらっしゃいますね。」


エステシャンがそんなことを聞いた。


『ええ、クレヨン投げを少し。』

 
そんなことを言っても頭がおかしいと思われるだけだろうから「フィットネスを少し。」と答えておいた。女が余り筋肉隆々では具合が悪いかもしれないが、この先何が起こるか分からないから備えは怠りないようにしておかないと泣きを見ることになる。

 
先に施術を終わって待合でお茶を飲みながら女土方やクレヨンを待っていた。毎日継続して続ければどうだか知らないが、たまにこんなことをしたからと言って肌や組織が若返るわけでもなかろう。汚れが落ちて刺激で血色が良くなるから若返ったり元気になったように見えるのかもしれないが、どの道、自己満足の世界だろうと思うが女と言う生き物は男がせつな的な快楽を得ようと奔走するのと同じく、そうして刹那的な安心を手に入れることを生甲斐にしているのかも知れない。

 
しばらくハーブ茶を飲みながらソファに体を沈めて休んでいると女土方やクレヨンも施術を終わって戻って来た。


「このところストレスがひどくて体調が心配だったけど今日は本当にすっきりしたわ。若返って安心したわ。」

 
自分自身が周囲にとってストレスそのものだという認識の全くないクレヨンが伸びをしながらあほなことを言った。「毒を以って毒を制す」と言うが、このクレヨンで営業君を退治出来ないものだろうかと僕は考えている。

 
クレヨンに言わせれば間違いなく毒の一方は僕ということになるんだろう。人と立場が変われば考え方も丸っきり変わってしまうのは世の中の常なのだから仕方のないことには違いないが。

 
全員がマッサージを終わって出て来るといざとなれば何だかんだと躊躇う皆様を叱咤して僕が持っているクレジットカードで支払を済ませた。そしてその場で別れて僕はクレヨンを連れてお屋敷へと引き上げた。



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Posted at 2016/07/26 23:39:15

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