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イイね!
2016年12月13日

あり得ないことが、(121)




帰りの車の中で居眠りをしているクレヨンを横目で見ながらもう一度これからのことを考えてみたがやはりこれといったうまい知恵も結論も思い浮かばなかった。

 
翌日出勤しても状況に特段の変化はなかった。女土方は相変わらず素っ気なく僕とは仕事以外にほとんど口を聞かないので部屋の雰囲気が何となく暗く重かった。テキストエディターのお姉さんなどは「鬱陶しいから早く何とかしなさいよ。」と口を尖らせていたが、早く何とかしろと言われても僕にもそのきっかけさえつかめなかった。

 
女土方とはこんな状況でほとほと困り果てていたが、言葉屋はお気楽に「あっちに行こう、こっちに行こう」とメールで誘いをかけて来た。特段男と酒を飲みたいわけでも飯を食いたいわけでもなかったが、話をするのは面白かったのでクレヨンを盾に三度に一度くらいは付き合ってやっていた。

 
言葉屋は金が余っているのか結構良い店に連れて行ってくれた。しかし、二度、三度と飯を食わせてもらうのも気が引けるので次は僕が払うと言うと、それならばと「せっかくご馳走してくれると言うのなら、ついでにどうしても一度二人で会いたい。」と言って来た。


『何が悲しくてそんなことを言うんだ。男同士二人で飯食っても仕方あるめえ。』

 
僕は言葉屋にそう言ってやりたかったが、向こうから見ればちょっと型落ちにはなっていてもそれなりの女に見えるんだろう。大体年齢なんて相対的なもので自分が二十歳ほどの時には三十を過ぎた女など魑魅魍魎のように思えたが、年を重ねて自分が四十代も後半にかかる頃になると三十過ぎの女など子供っぽく思えてしまい四十を超えたくらいの女に魅力を感じるようになるのだから不思議なものだ。

 
もっとも僕自身は仲間内では比較的年配好みだったので「ババ専」などと言われていた。これは年寄専門と言うほどの意味のようだ。また中には年を取ればとるほど若い女に魅力を感じる者もいた。そんな奴は「ジャリ専」と言っていたが、それでも誰もが許容範囲というほどの中に納まっていて正常範囲を逸脱する者はなかったのは幸だった。

 
まあそんなことはどうでもいいのだけど言葉屋が二人だけで会いたいと言うのはやはりそれなりに思うところがあるからだろう。例えば何か特別な思いを僕に告げたいとか特に僕と肉欲を満たしたいとか。しかし特別な思いを告げられてもそれに答えようもないし、女と肉欲を満たそうという気持ちは大いに理解出来るが、そうだからと言って勝手に相手を僕に決めてもらっても僕の方も困ってしまう。

 
そんなことでのらりくらりとコンニャクのように身をかわしていると「次の金曜に出社するのでその帰りにどうか」と日時まで指定されてしまった。うーん、僕の命運はここに窮まった。受けるべきか受けざるべきか、その決定に呻吟していたかと言うとそれほどでもなかった。あの営業君の時のように怖気を震うようなこともなかったのでちょっと面倒なことを除けば結構気楽なものだった。

 
結構お気楽に構えていると次のメールで時間と場所まであのジャズバーと決められてしまったのでいよいよ外堀も内堀も埋められてしまって遂に本丸決戦という状況になってしまった。のらりくらりもここまで来てしまうともう逃げようもないのでさすがに僕も覚悟を決めて人生初の男とのデートに臨むことに腹を決めた。でもそう言えば法事に呼び出されて見合いをしたこともあったっけ。

 
指定の日、僕はクレヨンに寄り道をしないで必ず真っ直ぐに自宅に帰るように言い聞かせて職場を出た。


「あの人と会うのね。」

 
クレヨンがそう聞くので「そうだ」と答えた後、「どうしても止むを得ない事情があるのだから余計なことだけは言うな」と付け加えた。


「あの人、あなたのことが好きなのよ。あなたは私のことを子供と思っているかもしれないけど私も女だからよく分かるわ。あなたもそれが分かってこんなことをしているんでしょうね。もしもそうでないと面倒なことになるかもね。」

 
いきなりクレヨンに核心を突かれて僕はドキッとしてしまった。こいつも他のことはとにかくこういうところだけは鋭いんだから。


「どうなのかな、そういうこともあるかも知れないわね。本当はね、あなたにも一緒に行って欲しいんだけど今回ばかりはね、約束だから。帰ったら話してあげるから待っていて。」


「分かったわ。待ってるから。あなたに初めて一人前の女として扱ってもらえたわ。嬉しい。」

 
背中にクレヨンの声を聞きながら歩き出そうとしたらいきなりそんなことを言われてまたコケそうになってしまった。


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Posted at 2016/12/13 22:32:34

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