2017年03月17日
あり得ないことが、(134)
クレヨン宅に着くと女土方をベッドに寝かせてから着ているものを脱がしてやった。クレヨンやテキストエディターのお姉さんなら面白半分にみんな引っぺがしてやるんだけど、クレヨンにでも女土方の裸を見せるのははばかられたのでクレヨンにシャツを出させてそれを着せてからブラを外したりスカートを脱がせたりした。
もっとも以前に何度も泊まったので女土方もクレヨンの前で裸体を晒してはいるんだけど。着替えが終わると今度は濡れタオルで女土方の顔を拭いてやった。顔を拭く時、女土方は何だかもそもそ言って顔を背けたりしたが、僕はさっさと拭いてケットをかけて寝かせてやった。
そうして女土方が完全に沈没したのを見届けてから僕はクレヨンにビールを持ってくるように言った。滅多に酒を飲もうなんて気にはならないのだが今日はさすがに少し飲みたくなった。クレヨンは黙って頷くとビールとビーフジャーキーを持って来た。こいつとも何だかんだ言いながらもう長い付き合いなので僕の好みが良く分かっているようだ。
僕はプルトップを引くと缶のまま飲み始めた。以前、ある飲み仲間が『ビールを缶のまま飲むなんて邪道だ。ビールはグラスに注いで泡の白さとビールの琥珀色を愛でながら飲むんだ。』なんて気取ったことを言っていたが、僕は缶のまま飲んで飲み終わった缶を潰すのが好きだった。
僕は何だか消耗し切ったようにソファに体を沈めてビールを飲んでいた。クレヨンは僕の横に座ってビーフジャーキーの袋を切って皿に移していた。この皿の上のジャーキーはその辺のコンビニで売っているような半端なものではないので何となくいただくのが申し訳ないように思うが、この家が注文して業者が持って来るんだから食ってやらないと申し訳ないだろう。
そんなことを思いながら皿の上のジャーキーを取って口に放り込むとクレヨンが「美味しいか」と聞いた。僕はただ「良いものね、美味しいわよ」と答えると、いきなりクレヨンが抱きついて来たので危うくビールの缶を落としそうになった。
「私だってあなたのことを考えて一生懸命いろいろやってあげているのにあなたはちっとも私の方を見てくれない。あなたは私をバカにしているけど私はあなたが思っているほどバカでもなければ子供でもないわ。私だって大人の女なんだから少しくらい私の方も見てよ。男とか女とか関係ないわ。あなたが好きなのよ、そのくらい気がついてくれてもいいじゃない。」
僕にしがみついて泣きじゃくるクレヨンに僕はまた腰が抜けるほど驚いてビールの缶を持ったままただただ唖然として固まってしまった。
「私のことも見てよ。私にも優しくしてよ。」
クレヨンは僕にしがみついたまま泣きじゃくっていた。そしてほんの数メートルのところに女土方が眠っていた。一体、こいつ等はどうなっているんだ。僕は手に持ったビールの缶をそっと手を伸ばしてテーブルに置いた。そしてその手でクレヨンを抱いてやった。
「どうしたの。あなたはビアンじゃないでしょう。相手が違うでしょう。」
今ここで騒がれても困るので出来るだけ優しく言ってやったが、クレヨンは首を振るばかりだった。やっぱりこいつの首はあのビアンバーでへし折っておけばよかった。
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Posted at
2017/03/17 18:00:21
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