2017年12月13日
佐山芳恵再び、・・(^。^)y-.。o○(9)
「私も一緒に行く。」
サルが腕にしがみついた。しょうがない奴だ。
「すぐに出るから早くするのよ。そうじゃないと置いて行くからね。」
サルは駆けるように部屋に戻るとパジャマの上に上着を羽織って戻って来た。ぐずぐずしていると本当に置いて行かれると思ったのだろう。
「あんたねえ、下も何か着たらどうなの。」
こいつのあまりのいい加減さに一言言いたくなったが、本人は意に介さないようだった。
「だって車で迎えに行くだけでしょう。どこかによるわけでもないし、車に乗っていれば良いんだから。」
僕たちに割り当てられたお買い物用高級国産車に乗り込むと会社へと向かった。夜の都内は閑散として車は訳もなく会社の前に到着してしまった。
「ぼおっと乗っていないで電話で呼んでよ、彼女を。」
僕は呆けたように視点の定まらない眼を外に向けて座っているクレヨンの頭を小突いてやった。クレヨンは慌てて電話を取り出すと女土方に電話を入れた。
「すぐに降りて来るって。」
クレヨンは僕を振り返ると底が抜けたような笑顔でそう言った。そして程なく女土方が会社から出て来た。
「夜遅くに悪かったわね、わざわざ迎えに来てもらって。」
女土方は後部座席に納まると寛いだ柔らかな表情を見せた。
「ところで例の電話は大丈夫だったの、振り込め詐欺とか言っていたけど。」
女土方は一旦座席に沈めた体を乗り出すようにして聞いて来た。
「そうなの、驚いてしまったの。だってお父さんが事業に失敗して逮捕されるって言うから。」
クレヨンは女土方の方を、身を乗り出すように振り返って話し始めた。
「私、どうしようかと思って、色々考えちゃったわ。お金をどうして用意しようかと。」
このサルは5万円も用意出来ないくせに生意気にどうやって5百万円を手当てするつもりだったのだろうか。何とも気の毒なのは日本の経済を支えるメガバンクの頭取として世界を股にかけて飛び回っている金融王だろう。何しろ娘に5百万で警察に逮捕されてしまう程度にしか認識されていないのだから。
「あんたのお父さんは本当に気の毒よねえ、こんな娘を一生懸命育てて気にかけて。その娘は自分の父親をその辺のブローカー程度にしか理解していないんだから。」
ルームミラーに含み笑いを堪えるような女土方の顔が見えた。
「でもねえ、いきなりそんな電話がかかってくれば驚くわよねえ。借金だの逮捕されるだのっていきなり言われれば。」
女土方はクレヨンを庇っているのだろうが、ちょっと冷静に考えてみれば訳もなく理解できることだろう。
緊急事態が発生した時はまず深呼吸でもしてから出来るだけ客観的な事実を確認して状況を把握したら次はそれを分析して最悪の事態を想定したら、それを防止するために次に何をすれば良いかを考えるのが危機管理の常道だろう。
「ちょっと考えれば分かるでしょう。5百万くらいのお金がなくてメガバンクの頭取が逮捕されるかどうかくらい。そのくらい私だって何とかなるわ。あのねえ、もう少し冷静に状況を分析して次に何をすれば良いか考えることくらい出来るでしょう。大体あんたのお父さんは今外国に行ってるんでしょう。どうして日本でゴタになるのよ。お父さんから連絡先も聞いているでしょう。秘書担当に連絡くらいしなさいよ。最もそんな連絡をしたら秘書担当も呆れるだけかも知れないけど、パニック起こすよりは気が利いているかもね。」
「そういう時に冷静になって考えたり行動するのは難しいわよね。芳恵なら出来るかも知れないけど私も慌ててしまうかも。身近な人がトラブルに遭ったなんていきなり言われたら。でも芳恵が慌てるなんてことがあるのかな。何時も恐ろしいくらいに冷静な人なんだから。」
女土方は僕がターミネーターか何かのようにそう言うが僕だって驚愕してひっくり返りそうになるくらい慌てたことがある。
それは何を隠そう目が醒めたら今のこの体になっていた時だ。あの時ばかりは脳味噌が瞬間冷凍されて粉々に砕けたのではないかと思うくらい驚いた。そしてその思考停止の状態で元祖佐山芳恵の秘密の愛人、「馬の骨氏」の登場だから心臓まで砕け散りそうになった。
今でもあの時良くぞ何とか切り抜けたものだと我ながら感心してしまう。あれは人生史上最悪の窮地と言っても良いだろう。
そしてその次は『慌てることがあるのか』などと澄ましている女土方に更衣室で急襲された時だろう。あの時は同じ驚愕でも脳味噌がとろけて流れ出しそうな気持ちだった。
ブログ一覧 |
小説3 | 日記
Posted at
2017/12/13 17:02:43
今、あなたにおすすめ