2018年02月09日
佐山芳恵再び、・・(^。^)y-.。o○(27)
何となくあわただしい一日が終わって仕事を片付け始めるとお気楽クレヨンがどこかに遊びに行きたいなどとろくでもないことを言い始めた。そういう時は必ず話に割って入るテキストエディターのお姉さんはどうしたわけか黙って下を向いたままこっちを見ようともしなかった。そして小さな声で「お先」と言うと逃げるように職場を出て行った。彼女が話に入ってくれることを期待していたクレヨンは呆気にとられたように黙って小走りに走って行くテキストエディターのお姉さんの後姿を見送っていた。
「あの子、どうしたの。何だかずいぶん落ち込んでいるみたいね。」
僕が独り言のようにそう言うと女土方が黙ってうなずいた。
「また彼に振られちゃったのかな」
クレヨンが気楽な調子でそう言ったが、これまでの失恋とはちょっと様子が異なっていたのがちょっと引っかかった。でも他人の私生活に首を突っ込むのは僕の意とするところではないのでそれ以上の詮索は控えることにして帰宅の途に就いた。クレヨンは寄り道できないことが残念だったようだが、女土方に促されて諦めたようだった。自宅に帰るとまた豪華なダイニングで豪華な食器に盛り付けられたカキフライ定食を食べてその日を終えた。多分かなりの値段のカキなんだろう。味はなかなかよかったが。
翌日、僕の方の話題はもうかなり静まってきていたが、テキストエディターのお姉さんの沈み方はさらにひどくなっていた。ため息をついたり、はたまた目に涙を浮かべたり、もうそれは尋常ではなく仕事などそっちのけで沈没していた。こうなると放っておくわけにもいかず昼休みに女土方と話して帰りにでも連れ出して事情を聴いてみることにした。テキストエディターのお姉さんは午後も仕事などそっちのけで天を仰いでいた。こうなると何とも言いようもなくなってくるが、女土方は目くばせするし、仕方がないので彼女がトイレに席を立ったのを追いかけて行ってトイレで捕まえた。
「ちょっとあなた、どうしたのよ。こまったことがあるのなら話して。できることはしてあげるから。一人で悩んでいても解決できないこともあるでしょう。」
僕がそう言うとテキストエディターのお姉さんは僕をじっと見つめた。そして次の瞬間、その両の目から堰を切られて流れ出した水のようにどっという風情で涙が流れ出した。彼女はそのまま個室に走り込むと声を上げて泣き出した。これには僕もちょっと参ってしまった。何だか僕が彼女をいじめているみたいじゃないか。女はこの手を良く使う。以前女土方も宴会の席でこの手を使ったことがある。その時僕は女だったから追いかけようと思えば、それも出来たが、男にとってこの戦法を使われると手も足も出ずに白旗を上げざるを得なくなるのだ。彼女の泣き声はトイレの中に響き渡るほど大きな声だった。僕はもうあっさりと諦めてトイレから出たが、彼女の声は廊下まで響き渡っていて人が部屋から出てこっちを見ていた。どうもやばくなってきたので僕は部屋に取って返すと女土方に助けを求めた。
「そう、じゃあ、どうしようもないわね。そっとしておきましょう。」
女土方はこんな時の女の気持ちが分かっているようであっけらかんとした風情でそう言った。同じ女同士、こんな時の女の気持ちはよく分かるようだ。なんだ、そんなことなら初めから女土方に任せればよかった。しばらく響いていた泣き声が止むと女土方は席を立って出て行った。そしてしばらくするとテキストエディターのお姉さんの肩を抱きながら部屋に戻って来た。テキストエディターのお姉さんは自分の席についても手で顔を覆って肩を震わせていた。女土方は彼女の耳元で何かを囁くと背中をそっと撫でてやって彼女のそばを離れた。そこに北の政所様が顔を出した。泣き声が聞こえたのか廊下の騒がしさをいぶかったのだろう。
「どうしたの、何かあったの。」
けげんな表情の北の政所様にまたも女土方が立ち上がって小声で何か囁いた。
「あら、なんだ、そうなの。じゃあ、お願いしますね。」
北の政所様も女土方の説明であっさりと引き下がった。男の僕には何が何だかちんぷんかんぷんだが、この辺りの事情は女ならすぐに納得できるような理由があるのかもしれない。しばらくすると女土方がテキストエディターのお姉さんの背中を抱くようにして部屋を出て行った。どこかで何があったのか話を聞くのだろう。こういうことは本物の女に任せておいた方がいいと僕はあまり関わらないことにした。
「ねえ、何があったの。彼女、どうしたの。」
こういうことには目ざとく興味を示すクレヨンが僕に聞いたが、僕もさっぱり事情が分からないので放っておくことにした。
「ねえ、どうしたの。何があったのよ。」
なおも食い下がってくるクレヨンだったが、僕にも何とも答えようがなかった。
「知らないわ。あれだけ泣くんだからそれなりのことがあったんでしょうけど、私は何も聞いていないわ。」
「相当に複雑な事情があるみたいね。子供ができちゃって捨てられたとか。エディのお姉さん、恋多き女だから。」
このサルは最近生意気に他人のことをあれこれ言うが、ついこの間まで自分も手当たり次第だったろう。よくもそんな偉そうな口が聞けたものだ。
「主任が対応しているんだからあんたはそんなこと気を回さなくてもいいの。よけいなことを考えないでとっとと仕事を片付けなさいよ。」
「そんなこと言っても心配なのよ。困っているなら何かしてあげたいの。」
その考えは殊勝かも知れないが、このサルの場合、『バカの考え、休むに似たり。』ということわざに極めて近いからこの際休んでいた方がまだマシなのかも知れない。
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小説3 | 日記
Posted at
2018/02/09 16:41:59
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