寄港しても上陸できず
「情報収集」と「海賊対処」という二足のワラジを履いて中東で活動中の海上自衛隊。新型コロナウイルスの感染拡大により、派遣されている護衛艦とP3C哨戒機の乗員たちは、十分な医療体制も整わない環境下で感染の危機にさらされている。護衛艦の乗員は感染を避けるため寄港中も上陸できず、艦内に缶詰となり、ストレスフルな状態。P3C哨戒機は交代時期を迎えたものの、やはり感染拡大を警戒して交代要員は日本に留め置かれ、その分、先行した隊員の派遣期間は延びるのが確実だ。それでも河野太郎防衛相は14日の会見で「現時点では、このままP3Cを入れ替えて海賊対処行動を続けていく方針であります」と明言した。だが、ソマリア沖で海賊に乗っ取られた船舶は2017年の3隻を除けば、2014年から2019年までゼロが並ぶ。海賊被害が激減する中でも即中断といかないのは、米国が主導する対イランのための有志連合への協力を含めて、日本政府ならではの「御家の事情」があるようだ。
イランでも感染拡大しているのに…
海賊対処のための中東派遣は2009年3月から始まり、海上自衛隊の護衛艦は、アラビア半島とアフリカ大陸に挟まれたアデン湾を航行する船舶の護衛を開始。現在、護衛艦「はるさめ」が派遣されている。同年6月にはP3C哨戒機2機を派遣、アフリカのジブチに自衛隊として初めて置いた事実上の海外基地を拠点にして、アデン湾上空からの警戒監視を続けている。これとは別に、米国とイランの対立による中東情勢の悪化から、安倍晋三政権は2019年12月、日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集を行うため、自衛隊の中東派遣を閣議決定した。今年1月にはP3C哨戒機2機、2月には護衛艦「たかなみ」が中東へ派遣された。P3C哨戒機は「海賊対処」と「情報収集」という二つの任務を一度の飛行で同時にこなしている。3月の1ヵ月間に海賊対処で確認した商船は約2100隻、情報収集で確認した船舶は約2400隻だった。情報収集の方が300隻多いのは、海賊対処で確認するのは商船と海賊船に限られるのに対し、情報収集では軍艦や漁船まで含まれるからだ。
順調だった中東での活動が一変したのは、当地でも新型コロナの感染が拡大した3月になってからだ。もっとも被害が大きいイランでは7万人以上が感染し、4000人以上が死亡した。2018年5月、米国を含む6ヵ国とイランとの核合意から一方的に離脱した米国は、イランへの経済制裁を強め、今もその手を緩めていない。イランは医療物資の不足から感染拡大を防ぐ手だてがなく、統制不能の状態に陥っている。こうした情勢の変化にもかかわらず、対イラン軍事作戦を実施する米国主導の有志連合は何事もなかったかのように活動を続けている。3月30日、有志連合司令部が置かれた中東バーレーンの米中央海軍司令部は「有志連合に新型コロナの罹患者はいない。すべてのメンバーの健康と安全を促進するため安全対策を実践している。私たちの任務に変わりはない」と発表し、任務続行を強調した。有志連合は2019年11月、米国、英国、豪州、バーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルバニアの7ヵ国が参加して結成された。米国は60ヵ国以上に参加を呼びかけたが、参加したのはわずか6ヵ国。今年3月からリトアニアが加わった。
日本は「抜けるに抜けられない」
具体的な活動内容は、(1)大型の海軍艦艇がホルムズ海峡の西側・東側の監視を実施し、ペルシャ湾内外で活動する、(2)小型の海軍艦艇は主要な運航帯をパトロールし、ペルシャ湾内で活動する、(3)航空機は上空から船舶航行の流れを監視する、と盛りだくさんだ。ところが、有志連合に艦艇や航空機を差し出したのは英国と豪州の2ヵ国に過ぎない。現在、活動しているのは英国と豪州の駆逐艦やフリゲート艦の合計3隻だけ。哨戒機は豪州が差し出した1機のみである。米国や他の参加国は、具体的なアセット派遣を表明していない。これに対し、日本が情報収集のために派遣したのは護衛艦1隻とP3C哨戒機2機である。有志連合と比べ、数の上では見劣りしない。護衛艦「たかなみ」は有志連合の艦艇が不在のオマーン湾で活動することで、有志連合を補完する役割を果たしている。これにより「日本は有志連合に参加していないが、日本が抜けると有志連合に穴が空きかねない」という奇妙な事態を迎えている。米国が中東で引き起こしたアフガニスタン攻撃、イラク戦争を通じて対米支援を貫いてきた日本は、トランプ米大統領の期待を裏切る訳にはいかない立場にあり、派遣続行そのものが目的化しつつある。防衛省は「たかなみ」の寄港先を明らかにしていないが、アラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ港とオマーンのサラーラ港の2ヵ所とみられる。両港とも米国の沿岸警備隊が巡視艇を派遣してテロ攻撃に備えているが、言うまでもなく新型コロナには無力だ。
検査していないのに「全員健康」
UAE、オマーンとも新型コロナの感染が広がっており、3月に寄港した「たかなみ」は燃料や食糧を積み込む数日間、約200人の乗員は上陸せず、艦内に閉じこもった。4ヵ月間におよぶ派遣期間のうち、休暇らしい休暇は寄港中に限られるにもかかわらず、上陸が許されず、しかも艦内は密閉、密集、密接の「3密」状態。乗員に過度なストレスがかからないよう艦内にWi-Fi(無線LAN)を増設し、家族と連絡を取りやすくしたというが、この程度で「平常心を保て」という方が無理だ。3日にあった衆院外務委員会で、防衛省の渡辺孝一政務官は「たかなみ」には「感染者、あるいは疑いのある人は出ていない」と述べたその口で、「PCR検査に必要な装備は搭載されておらず、実施できる体制はない」と驚きの答弁を行った。質問した共産党の穀田恵二氏は「検査もせずに『全員が健康』というのは、科学的根拠がない」と批判した。「たかなみ」と交代する護衛艦は佐世保基地の「きりさめ」で、すでに派遣準備を進めている。河野太郎防衛相は8日の会見で「『きりさめ』にPCR検査キット積み込む計画があるか」と問われ、「入手できるような状況になれば、当然積み込んでいきたい」と述べ、搭載を確約しなかった。一方、ジブチを拠点にしたP3C哨戒機は交代の2機が13日に日本から出発する予定だったが、ジブチでも新型コロナの感染が広がり、出発を見合わせている。河野防衛相は14日の会見で「特にP3Cの交代について、問題があるとは承知しておりません」と述べ、近く、交代の2機を出発させる考えを示した。
艦内に「幽閉」状態
アデン湾で海賊対処のための警戒監視を続ける海上自衛隊のP3C哨戒機2機は、必要とされる活動の8割を占め、残り2割をドイツとスペインの哨戒機が分け合う。有志連合の航空機はアデン湾には進出しておらず、自衛隊のP3C哨戒機が海賊対処、情報収集とも「主役」に位置づけられている。P3C哨戒機による活動の中断なり、撤収なりは海賊対処の役割がほぼ消滅するだけでなく、有志連合の穴埋めとなる情報収集の任務も同時に消えることを意味している。14日の会見で河野防衛相は「ジブチでこれだけ感染が広がると、少しどうなるのかというところもあるかと思いますので、情勢を見ながら様々な判断をしなければならない」と派遣続行の見直しに触れた。しかし、あらためて「撤収はあるのか」と問われると「プランAからプランZまであるが、プランZは撤収ということ。まだ、そういう検討を始めているわけではありません」とあくまで任務を続行させる考えを強調した。ちなみに海賊対処に派遣された護衛艦「はるさめ」は、補給と休息のためにジブチ港に寄港中も「たかなみ」と同様、乗員の上陸は許されず、艦内に幽閉された状態。感染者が出た場合、ジブチにあるフランス軍の病院で診てもらうことになっているという。中東に派遣された自衛隊は休暇らしい休暇も十分になく、医療体制が万全とは到底いえない環境下で、しかも3密の状態で任務続行を求められている。米国が引き起こした中東の混乱の尻拭いに、自衛隊員が命をかける意味があるだろうか。(半田 滋)
意味があるのかと言われればやはり国際社会の中での日本の果たすべき役割と言うものがある。そして派遣されている海自隊員は立派にその役割を果たして評価を受けている。新型jコロナ肺炎の流行と言う予期しない事態に遭遇したが、ここはどうか頑張って任務を続けていただきたい。また防衛省も隊員の心身の健康維持のためにできる手立ては尽くして欲しい。言うのは簡単だが、それでもやっぱり、がんばれ、自衛隊、明日の日本のために、‥(^。^)y-.。o○。
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Posted at
2020/04/18 22:47:29